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第百五十三話 姑息な手を……
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戦う前に受け取った装備を確認しよう。
受け取った弓は一般的な長弓。矢はエンチャント無しで本数は30本。これだけで3人を相手取るのはかなり厳しい。
エンチャントするにも矢を補充するにも時間がかかりますし、無暗にMPを使う訳にもいきません。必要なエンチャントを見極めて早めに準備するのが重要でしょう。
「今エンチャントを付与しても良いんですか?」
「始まってから付与してね」
「分かりました」
まずは時間を稼いでエンチャントして、準備が整ってから攻撃しよう。
「他に必要な物はないかい?」
「何でも要求していいんですか?」
「常識的な範囲であればいいよ」
「トリシューラをお願いします」
「非常識中の非常識だね?」
「言ってみただけです」
数億円の矢を支給してくれるとは思っていません。あったら1撃で終わっちゃうしね。
弓を軽く引いて弓の癖を確認する。いつも使っている弓と近いかな。これならいつも通り戦えそう。
最後に相手の事を良く観察してみる。騎士は分厚そうな鎧を全身に着て、背丈ほどある大剣を持っている。盾は持っていないから、防御は鎧任せみたいだ。
次に戦士。剣は一般的なロングソード。体が大きくないからパワー系ではないみたいですが、決めつけは良くないので油断しないようにしましょう。
魔法使いの人は遠距離から高火力で攻撃してくると思う。多分、防御力は低いと思うから、早々にたおしてしまいたい。
「……よし、方針は決まった」
「もう始めていいかい?」
「はい!」
キャンデさんに僕は笑顔で頷きます。
弓と矢を手に持って僕は3人に向かい合います。優先順位は魔法使い、戦士、騎士。各個撃破を心がけよう。
「両者準備は良い?それじゃ、始め!」
僕は合図と同時にバックステップで距離を取ります。そして、アイテムボックスに弓を仕舞いました。
「へえ?」
横からキャンデさんの不思議そうな声がしましたが、確認している暇はありません。
予想通り、始めに騎士が前に出てきます。まずはこの人を捌かないと。
横薙ぎで繰り出される大剣をしゃがんで回避して、騎士にピッタリくっつきます。大剣みたいなリーチが長い武器は近距離には攻撃しにくい。接近していると、戦士とか魔法使いも攻撃しにくいだろうし、美観稼ぎにはピッタリだ。
纏わりつくには長弓は邪魔だったから、アイテムボックスに仕舞った訳だ。
思惑通り、騎士は大剣を振るうが僕に全く当たらない。戦士や魔法使いも攻撃を躊躇しているみたいだ。この間に矢のエンチャントを進めよう。
「くそ!姑息な手を!」
「3対1なんですよ!真正面から戦ってられません!」
騎士が忌々しそうに呟きますが、僕だって必死だ。これ位は戦略として認めて欲しいです。
とはいえ、このまま時間稼ぎだけしている訳にはいきません。僕は必死に矢へのエンチャントを進めます。
「この!」
「よっと」
戦士の攻撃を回避しながら、矢へのエンチャントを進めます。その間にもう一つの用事を済ませて……よしオッケー。
最低限のエンチャントを作って騎士から距離を取る。
「やっと戦う気になったか」
「お待たせしました」
弓を取り出して矢筒から矢を取り出します。
それを見た戦士がすぐさま僕に向かってきました。弓使いは矢を射る事が出来ないと無力です。矢を射らせないようにする考えなんでしょう。
接近させたくない僕は戦士に向かって矢を放ちます。戦士はその様子を見てニヤリと笑います。
瞬間、僕の矢が軌道を変えて騎士へと向かいました。
「やっぱりありましたか」
ミエルさんも持っている挑発のスキルです。あれを使われると僕の攻撃は全て騎士に向かってしまいます。
騎士は僕の矢を上に弾くと、戦士の後を追うように接近してきました。このままでは騎士がいる限り僕の攻撃は届きません。
「グランドアロー!」
魔法使いからも魔法が飛んできた。何とか回避したけど、このままだとやられてしまう。
「結構厳しいですね」
「降参するんだったら認めても良いぞ?」
「それはお断りします」
ここで降参したら確実に不合格だ。絶対にあきらめる訳にはいかない。
騎士と剣士の斬撃を回避しながら、反撃のタイミングを見計らう。
「……ここだ!」
僕はバックステップをして矢を下に向かって構える。
「何をするか知らないが、させないぜ?」
剣士がロングソードを振り抜くと、無数の斬撃が飛んでくる。スラッシュの上位版であるフルスラッシュだ。MPの消費は激しいけど、一振りで複数の斬撃を飛ばすことが出来る強力なスキルだ。
「チェーンロック!」
更に無数のチェーンロックが僕の体に巻き付いてきます。
「タックル!」
騎士が速度を上げて僕に突っ込んできます。突進に防御力の半分の攻撃力と敏捷性を加えるスキル、タックルです。
全部食らったら良くて気絶、最悪だと死ぬだろう。
「貰った!」
フルスラッシュが僕に殺到し、土埃が辺りに巻き起こる。その土埃の中に騎士も突っ込んでいきます。
「終わったな。あの状況から攻撃を受けた助かる筈がない」
剣士が終わったと思って剣を鞘に仕舞います。瞬間、
「きゃあ!」
剣士の後ろから魔法使いの悲鳴が聞こえてきました。剣士が驚いて振り向くと、腕と胸と足に矢が刺さって倒れている魔法使いと、傍に立っている僕がいました。
「フェルボ!?いつの間に……」
「まだ試験中ですよ!手の内は明かしません!」
そう言って、僕は戦士に矢を放ちます。
僕が何をしたかを説明すると、まず戦士に向かってワープアローを放ち、騎士に弾かせる。次に弾かれた矢をスネッグアローで魔法使いの後ろに刺さるように操作する。最後に背後からクラウドショットで魔法使いを撃ち抜いたという訳。
偶然だけど、土埃が舞ったのもワープを隠せて良かった。
「くそっ!」
放たれた矢を剣で切断し、再び僕に向かってくる。この人の腕であれば普通に撃つだけでは無駄だろう。
僕は矢を上に向かって放つ。すると、戦士の視線が上に向いた。そのうちに僕は戦闘場の周りに矢を放ちまくる。これで少しは戦いやすくなった。
打ち上げられた矢は先端から徐々に裂けていき、8本の矢に増えて戦士に向かって降り注いだ。エンチャントであるクリムゾンクラウドだ。
「うおっ!」
戦士が剣を使って顔を庇う。すると、落下した矢は軌跡を変えて騎士に向かっていった。
騎士は矢を鎧で弾き飛ばすと、戦士に向かって叫んだ。
「カンフェ!大丈夫か!」
「ああ、油断するなよ!こいつ強いぞ!」
戦士が剣を油断なく構える。
そんな戦士に向かって僕は矢を放ちます。しかし、矢は軌道を変えて騎士に向かっていく。
「無駄だ!俺がいる限り矢は全部無効化する!」
「それはどうですかね!」
矢は騎士に当たる瞬間、少しだけ軌道を変えて鎧の脇をかすめた。
「ん?」
騎士が不思議そうな顔をしていると、騎士の鎧から火花が散り始めた。
瞬間、騎士を守っていた鎧が外れ、騎士の体が露わになった。
「な!?」
僕はワープアローで戦士の脇を通すように騎士の近くを狙う。
一瞬で騎士との距離を詰め、無防備な騎士に向かって矢を放つ。
「いてっ!」
矢は騎士のお腹に突き刺さるが、まだ倒れない。
「この程度では倒れん!」
「だったら、もっと攻撃するまでです!」
僕はお腹に刺さっている矢に向かって思いっきりパンチを繰り出します。
「うぐっ!」
さっきよりも深く矢が入り込み、騎士が倒れ込む。
「リュウガ!」
倒れていく騎士を見て剣士が叫ぶ。峰打ちは付与してあるので大丈夫だと思うんですが、心が痛みます。合格が掛かっているので手加減はしませんけどね。
「これで最後です!」
「まだだ!」
剣士がフルスラッシュを繰り出し、僕はクリムゾンクラウドで対抗します。
矢とスラッシュがぶつかり、相殺されていく。打ち合いなら、MPの消耗が少ないエンチャントを使っている僕の方が有利だ。
相手もそれが分かっているのか、フルスラッシュを止めて突っ込んできた。ここで勝負が決まる。気を引き締めて行こう。
「加速!雷装!」
戦士の体が放電し、速度が上がる。ホウリさんと同じ技術だ。
「速度でかく乱してくる気だ。だったら!」
僕は地面に向かって矢を放つ。すると、戦闘場に刺さっている矢から矢へ電撃が走った。ジルと戦った時に使ったライトニングボルトだ。
「ぐわ!」
電撃に捕まった戦士が立ち止まって剣を取り落とす。伝達する矢が多いのと距離が開いているので威力は出ていないけど、相手の動きを止める事は出来る。
「隙あり!」
痺れている戦士に向かって矢を放つ。これで終わってくれればいいんだけど……
「な、嘗めるな!」
戦士は電撃を受けながらも剣を抜いて矢を切り上げる。ライトニングボルトも効果が終わり、戦士は再び剣を構える。
「終わりだ!」
再び剣を構えた戦士の体が電気に包まれていき……
「はあぁぁぁぁ……ぐはっ!」
弾いたはずの矢が剣士の肩に深々と刺さりました。
「な、なんで……」
「アクセラレート、威力を0にして数秒後に威力を戻す技です」
カロンさんとの戦いの時にも使った矢で、無効化したと思わせた後に不意打ちをすることが出来ます。
剣を取り落とした剣士に僕は弓を引き絞りながら言います。
「まだやりますか?」
「……まいった」
戦士が手をあげて降参の意志を示す。
「そこまで!」
キャンデさんが号令をかけてすと、後ろからヒーラーの人達がやってきて、戦士の人達の治療を始めました。大事に至らなさそうで良かったです。
戦士の人達を見ていると、キャンデさんが笑顔で僕の元に歩いて来た事に気が付いた。
「驚いたね。彼ら相手に勝つとは思わなかったよ」
「僕も勝てると思わなかったです」
ダメージは負わなかったとはいえ、一手間違えたら勝てなかった。本当に危ない勝負であっただろう。
「これで合格ですか?」
「まだ遠征の適性試験があるから何ともいえないけど、戦闘の適性はかなり良いと思うよ」
「良かったです」
「遠征は明日からやるから、今日は帰っていいよ」
「分かりました」
疲れましたし、この後に遠征だなんて勘弁してほしいです。今日は言われた通り、大人しく帰りましょう。
「じゃ、お疲れ様」
「お疲れ様です」
こうして試験1日目は無事に終わったのでした。
受け取った弓は一般的な長弓。矢はエンチャント無しで本数は30本。これだけで3人を相手取るのはかなり厳しい。
エンチャントするにも矢を補充するにも時間がかかりますし、無暗にMPを使う訳にもいきません。必要なエンチャントを見極めて早めに準備するのが重要でしょう。
「今エンチャントを付与しても良いんですか?」
「始まってから付与してね」
「分かりました」
まずは時間を稼いでエンチャントして、準備が整ってから攻撃しよう。
「他に必要な物はないかい?」
「何でも要求していいんですか?」
「常識的な範囲であればいいよ」
「トリシューラをお願いします」
「非常識中の非常識だね?」
「言ってみただけです」
数億円の矢を支給してくれるとは思っていません。あったら1撃で終わっちゃうしね。
弓を軽く引いて弓の癖を確認する。いつも使っている弓と近いかな。これならいつも通り戦えそう。
最後に相手の事を良く観察してみる。騎士は分厚そうな鎧を全身に着て、背丈ほどある大剣を持っている。盾は持っていないから、防御は鎧任せみたいだ。
次に戦士。剣は一般的なロングソード。体が大きくないからパワー系ではないみたいですが、決めつけは良くないので油断しないようにしましょう。
魔法使いの人は遠距離から高火力で攻撃してくると思う。多分、防御力は低いと思うから、早々にたおしてしまいたい。
「……よし、方針は決まった」
「もう始めていいかい?」
「はい!」
キャンデさんに僕は笑顔で頷きます。
弓と矢を手に持って僕は3人に向かい合います。優先順位は魔法使い、戦士、騎士。各個撃破を心がけよう。
「両者準備は良い?それじゃ、始め!」
僕は合図と同時にバックステップで距離を取ります。そして、アイテムボックスに弓を仕舞いました。
「へえ?」
横からキャンデさんの不思議そうな声がしましたが、確認している暇はありません。
予想通り、始めに騎士が前に出てきます。まずはこの人を捌かないと。
横薙ぎで繰り出される大剣をしゃがんで回避して、騎士にピッタリくっつきます。大剣みたいなリーチが長い武器は近距離には攻撃しにくい。接近していると、戦士とか魔法使いも攻撃しにくいだろうし、美観稼ぎにはピッタリだ。
纏わりつくには長弓は邪魔だったから、アイテムボックスに仕舞った訳だ。
思惑通り、騎士は大剣を振るうが僕に全く当たらない。戦士や魔法使いも攻撃を躊躇しているみたいだ。この間に矢のエンチャントを進めよう。
「くそ!姑息な手を!」
「3対1なんですよ!真正面から戦ってられません!」
騎士が忌々しそうに呟きますが、僕だって必死だ。これ位は戦略として認めて欲しいです。
とはいえ、このまま時間稼ぎだけしている訳にはいきません。僕は必死に矢へのエンチャントを進めます。
「この!」
「よっと」
戦士の攻撃を回避しながら、矢へのエンチャントを進めます。その間にもう一つの用事を済ませて……よしオッケー。
最低限のエンチャントを作って騎士から距離を取る。
「やっと戦う気になったか」
「お待たせしました」
弓を取り出して矢筒から矢を取り出します。
それを見た戦士がすぐさま僕に向かってきました。弓使いは矢を射る事が出来ないと無力です。矢を射らせないようにする考えなんでしょう。
接近させたくない僕は戦士に向かって矢を放ちます。戦士はその様子を見てニヤリと笑います。
瞬間、僕の矢が軌道を変えて騎士へと向かいました。
「やっぱりありましたか」
ミエルさんも持っている挑発のスキルです。あれを使われると僕の攻撃は全て騎士に向かってしまいます。
騎士は僕の矢を上に弾くと、戦士の後を追うように接近してきました。このままでは騎士がいる限り僕の攻撃は届きません。
「グランドアロー!」
魔法使いからも魔法が飛んできた。何とか回避したけど、このままだとやられてしまう。
「結構厳しいですね」
「降参するんだったら認めても良いぞ?」
「それはお断りします」
ここで降参したら確実に不合格だ。絶対にあきらめる訳にはいかない。
騎士と剣士の斬撃を回避しながら、反撃のタイミングを見計らう。
「……ここだ!」
僕はバックステップをして矢を下に向かって構える。
「何をするか知らないが、させないぜ?」
剣士がロングソードを振り抜くと、無数の斬撃が飛んでくる。スラッシュの上位版であるフルスラッシュだ。MPの消費は激しいけど、一振りで複数の斬撃を飛ばすことが出来る強力なスキルだ。
「チェーンロック!」
更に無数のチェーンロックが僕の体に巻き付いてきます。
「タックル!」
騎士が速度を上げて僕に突っ込んできます。突進に防御力の半分の攻撃力と敏捷性を加えるスキル、タックルです。
全部食らったら良くて気絶、最悪だと死ぬだろう。
「貰った!」
フルスラッシュが僕に殺到し、土埃が辺りに巻き起こる。その土埃の中に騎士も突っ込んでいきます。
「終わったな。あの状況から攻撃を受けた助かる筈がない」
剣士が終わったと思って剣を鞘に仕舞います。瞬間、
「きゃあ!」
剣士の後ろから魔法使いの悲鳴が聞こえてきました。剣士が驚いて振り向くと、腕と胸と足に矢が刺さって倒れている魔法使いと、傍に立っている僕がいました。
「フェルボ!?いつの間に……」
「まだ試験中ですよ!手の内は明かしません!」
そう言って、僕は戦士に矢を放ちます。
僕が何をしたかを説明すると、まず戦士に向かってワープアローを放ち、騎士に弾かせる。次に弾かれた矢をスネッグアローで魔法使いの後ろに刺さるように操作する。最後に背後からクラウドショットで魔法使いを撃ち抜いたという訳。
偶然だけど、土埃が舞ったのもワープを隠せて良かった。
「くそっ!」
放たれた矢を剣で切断し、再び僕に向かってくる。この人の腕であれば普通に撃つだけでは無駄だろう。
僕は矢を上に向かって放つ。すると、戦士の視線が上に向いた。そのうちに僕は戦闘場の周りに矢を放ちまくる。これで少しは戦いやすくなった。
打ち上げられた矢は先端から徐々に裂けていき、8本の矢に増えて戦士に向かって降り注いだ。エンチャントであるクリムゾンクラウドだ。
「うおっ!」
戦士が剣を使って顔を庇う。すると、落下した矢は軌跡を変えて騎士に向かっていった。
騎士は矢を鎧で弾き飛ばすと、戦士に向かって叫んだ。
「カンフェ!大丈夫か!」
「ああ、油断するなよ!こいつ強いぞ!」
戦士が剣を油断なく構える。
そんな戦士に向かって僕は矢を放ちます。しかし、矢は軌道を変えて騎士に向かっていく。
「無駄だ!俺がいる限り矢は全部無効化する!」
「それはどうですかね!」
矢は騎士に当たる瞬間、少しだけ軌道を変えて鎧の脇をかすめた。
「ん?」
騎士が不思議そうな顔をしていると、騎士の鎧から火花が散り始めた。
瞬間、騎士を守っていた鎧が外れ、騎士の体が露わになった。
「な!?」
僕はワープアローで戦士の脇を通すように騎士の近くを狙う。
一瞬で騎士との距離を詰め、無防備な騎士に向かって矢を放つ。
「いてっ!」
矢は騎士のお腹に突き刺さるが、まだ倒れない。
「この程度では倒れん!」
「だったら、もっと攻撃するまでです!」
僕はお腹に刺さっている矢に向かって思いっきりパンチを繰り出します。
「うぐっ!」
さっきよりも深く矢が入り込み、騎士が倒れ込む。
「リュウガ!」
倒れていく騎士を見て剣士が叫ぶ。峰打ちは付与してあるので大丈夫だと思うんですが、心が痛みます。合格が掛かっているので手加減はしませんけどね。
「これで最後です!」
「まだだ!」
剣士がフルスラッシュを繰り出し、僕はクリムゾンクラウドで対抗します。
矢とスラッシュがぶつかり、相殺されていく。打ち合いなら、MPの消耗が少ないエンチャントを使っている僕の方が有利だ。
相手もそれが分かっているのか、フルスラッシュを止めて突っ込んできた。ここで勝負が決まる。気を引き締めて行こう。
「加速!雷装!」
戦士の体が放電し、速度が上がる。ホウリさんと同じ技術だ。
「速度でかく乱してくる気だ。だったら!」
僕は地面に向かって矢を放つ。すると、戦闘場に刺さっている矢から矢へ電撃が走った。ジルと戦った時に使ったライトニングボルトだ。
「ぐわ!」
電撃に捕まった戦士が立ち止まって剣を取り落とす。伝達する矢が多いのと距離が開いているので威力は出ていないけど、相手の動きを止める事は出来る。
「隙あり!」
痺れている戦士に向かって矢を放つ。これで終わってくれればいいんだけど……
「な、嘗めるな!」
戦士は電撃を受けながらも剣を抜いて矢を切り上げる。ライトニングボルトも効果が終わり、戦士は再び剣を構える。
「終わりだ!」
再び剣を構えた戦士の体が電気に包まれていき……
「はあぁぁぁぁ……ぐはっ!」
弾いたはずの矢が剣士の肩に深々と刺さりました。
「な、なんで……」
「アクセラレート、威力を0にして数秒後に威力を戻す技です」
カロンさんとの戦いの時にも使った矢で、無効化したと思わせた後に不意打ちをすることが出来ます。
剣を取り落とした剣士に僕は弓を引き絞りながら言います。
「まだやりますか?」
「……まいった」
戦士が手をあげて降参の意志を示す。
「そこまで!」
キャンデさんが号令をかけてすと、後ろからヒーラーの人達がやってきて、戦士の人達の治療を始めました。大事に至らなさそうで良かったです。
戦士の人達を見ていると、キャンデさんが笑顔で僕の元に歩いて来た事に気が付いた。
「驚いたね。彼ら相手に勝つとは思わなかったよ」
「僕も勝てると思わなかったです」
ダメージは負わなかったとはいえ、一手間違えたら勝てなかった。本当に危ない勝負であっただろう。
「これで合格ですか?」
「まだ遠征の適性試験があるから何ともいえないけど、戦闘の適性はかなり良いと思うよ」
「良かったです」
「遠征は明日からやるから、今日は帰っていいよ」
「分かりました」
疲れましたし、この後に遠征だなんて勘弁してほしいです。今日は言われた通り、大人しく帰りましょう。
「じゃ、お疲れ様」
「お疲れ様です」
こうして試験1日目は無事に終わったのでした。
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