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第七十八話 秘書がやったことです

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───人国 国王───
基本的に人国では国王は血筋によって選ばれる。だからと言って好き勝手していい訳ではなく、貴族や民衆の支持が下がってしまうと処刑されてしまうこともある。人国の歴史に置いて、処刑された国王は数人おり、いずれも暴君であったと伝えられている。また、国王の権力は非常に強く、法律を作成したり、裁判になり判決を自由に下すこともできる。──────Maoupediaより抜粋



☆   ☆   ☆   ☆



『決着ッッ!優勝者はパイナこと、キムラ・ホウリ!』
『……驚きましたわね。まさか、ロット選手に勝ってしまうとは思いませんでしたわ』
『俺は最初からパイナ選手が勝つと思ってたぜ?』
『そんな事も言ってましたわね。あの時は戯言かと思っていましたわ』
『どうだ?少しは見直したか?』
『見直しましたわ。今は道端の石ころよりも大事に思ってます』
『そんなに良く思ってないな?』
『むしろ殺したく思ってますわ。今回は見逃しますけど、次あったときはその命を貰い受けますわ』
『へいへい、楽しみに待ってますよ。それじゃ、大会も終わったし俺たちも退散するか』
『そういえば一つ言い忘れてましたわ』
『なんだ?』
『ママがこっちに向かっていますわ』
『これにて失礼!』
『逃がしませんわよ?』
『離せ!今あいつに会う訳にはいかないんだ!』
『良いじゃない。ロワも含めて家族水入らずで話しましょうよ』
『嫌だ!怒られたくない!』
『子供ですか!観念してママに会いなさい!』
『離せ!はな──』(プツッ)



☆   ☆   ☆   ☆



(うわあああああ!)


 歓声に答えるように手を振りながら俺は出口へと向かう。ここまでは計画通り。問題はこの後だ。


「おめでとう!」
「おめでとうございまーす!」
「ホウリ君ステキ!」


 運営スタッフの祝福に答えながら控室に戻る。ソファーに座りながら控え室に置いてあるMPポーションを飲み干す。かなりギリギリだったな。髪の色を戻すMPすら残っていない。
 MPの回復を待って髪の色を元に戻す。ゆっくりと疲れを取っていると、部屋の扉が開きスターダストのメンバーが入ってきた。


「ホウリ、よくやった!」
「おめでとうございます!」
「カッコよかったよ!ホウリお兄ちゃん!」
「うむ、わしは必ず勝つと思っておったがな」


 皆の祝福におもわず笑みがこぼれる。だが、これで終わりじゃない。まだまだ越えなくてはいけないハードルはいくつもある。


「フラン、これからの手筈は分かっているな?」
「勿論じゃ。任せておけ」
「何かあるんですか?」
「ああ。詳しくはフランから聞いてくれ」
「ともあれ、初めの関門は突破じゃ」
「そういえば、よくロットに勝てたな。しかも小細工抜きの殴り合いで」
「ああ、あれか。俺が小細工抜きで戦うと思うか?」
「何かしたのか?」


 俺は懐から玉を取り出して机の上に置く。ミエルは玉を手に取って眺める。


「これは……試合で使った煙玉か?確かに使っていたが、これがなんだというのだ?」
「この煙玉には疲労を促進させる成分が入っている。まともに吸い込んでしまえば、疲れが溜まっていってまともに戦うことができなくなる」
「はあ、よくそんな手を思いつくな」
「疲れるってどのくらい?」
「1呼吸で通常の3倍は疲労が溜まりやすくなる」
「結構すごいですね。あれ?なんでホウリさんは平気なんですか?」
「これのおかげだ」


 俺は煙玉とは別の玉を取り出す。


「酸素玉ですね。海ではこれを使って魚を捕りましたっけ」
「これを口に含んで息を煙を吸わないようにしてたんだよ。吸い込まなくても多少は影響を受けてしまうが、吸い込むよりはマシだな」
「ロットはそんな煙を吸い込んで数時間戦ったのか。色々と化け物じみているな」
「あとは打撃の瞬間にロットの衣服に爆弾を仕込んでいた。最後の攻撃でも倒しきれない場合は爆弾で追い打ちする予定だった」
「いつものじゃな」
「ぶっちゃけ負けても良かったんだが、全力だしてほしいって希望だったからな。容赦なく行かせてもらった」
「ん?どういう意味です?」
「それは夜に話そう。それよりもやることがあるから今は一人にしてくれないか?」
「わかった。皆、行くぞ」
「え?ちょ、フランさん?」
 

 フランが皆を引き連れて部屋を出ていく。さて、やるか。


☆   ☆   ☆   ☆



 決勝戦が終わって数十分後、闘技場には各領地の領主と国王が集まっていた。領主達は道を作るように2列に並んでおり、道の先には国王が立っている。
 国王は金色に光る王冠をかぶっており、分厚く重そうな服を身に纏っている。顔には長いひげを蓄えており、見ているだけで威厳を感じることができる。


「はっはっは、やっぱり僕の見る目は間違ってなかったね。ホウリはやっぱり只者じゃなかったよ。スタンプ上げといて正解だったね」
「そんな事を言うたら、わしじゃってホウリにスタンプを上げたぞ?」
「私だって上げた。君たちみたいに条件を付けたりせずな」
「僕は1年に1回街に来いって言ってるだけだよ?」
「わしもギャンブルの報酬で渡しただけじゃよ?」
「君たちの上げ方がイレギュラーだと言っているんだ!」


 領主達は隣同士でおしゃべりしながら表彰式を待つ。領主は思えないほど自由な人が多い。むしろこの位じゃないと領主は務まらないかもな。


「これだけお偉いさんが集まるなんてすげえな」
「ああ、こんな光景は闘技大会でしか見られないぜ」
『静粛に!』


 スピーカーから司会の声が流れると騒がしかった会場が一気に静まり返った。ちなみに、司会はトレットじゃないみたいだ。多分、奥さんに捕まったんだろうな。


『これより第256回闘技大会の表彰式に移る。優勝者は入場せよ』


 司会に促されるまま俺は闘技場へと入場する。瞬間、一度は静寂を取り戻した会場が一気に湧き上がる。
 会場中に笑顔を振りまきながら領主達によって作られた道を歩く。


「やあ、ホウリ。またオダリムに来てくれよ」
「1年以内には行ってやるよ」
「おめでとうホウリ、またギャンブルをしようぞ」
「いいぜ。次も負けねえからな?」
「2人が自由すぎてすまないな」
「いつものことなので気にしてないですよ」


 知り合いの領主に挨拶しつつ国王の元へと歩いていく。
 国王の元へとたどり着く俺は膝をついて頭を下げる。すると、歓声を上げていた観客が一気に静まり返った。
 静まり返った会場で国王がマイクを持ってゆっくりと口を開く。


「今回の大会は今までよりも変わった大会であった。1回戦からまともな戦闘が行われず、2回戦の決着も通常では考えられないものであった」


 俺は国王の言葉を黙って聞く。会場中も国王の言葉を固唾をのんで見守っている。


「準決勝では通常では使われない拳銃を使用して戦い、決勝戦では今までとは打って変わって神級スキルの使い手と真っ向から戦った。毎試合が見ていて飽きない試合であったといえよう」


 俺の事を知っている奴は、最後の試合こそ俺らしくない試合だと思うだろうがな。真っ向から戦ってないし。


「お主は決してステータスやスキルが優れている訳ではないだろう。だが、お主が優勝できたのは対戦相手の事を把握し、自分を把握していたからであろう。力なきお主が存分に考え戦う姿は見ている者を勇気づけるであろう」
「ありがたきお言葉です」


 力なきは余計だ。


「ここに256回闘技大会優勝者であるパイナの功績を称えよう」


 国王は懐からメダルを取り出し、頭を下げている俺の首へと掛ける。瞬間、会場中が湧き上がる。


「会場へ今の思いと願いを言うがいい」
「はっ!」


 国王からマイクを受け取り、会場を見渡して話し始める。


「まさか俺が闘技大会へ出場でき、優勝まで出来るとは思ってなかった。一重に協力してくれた皆のおかげだ」


 俺の言葉に会場中がさらに盛り上がる。ここからが勝負だ。


「この国は素晴らしい。俺はいままで色々な街を冒険者として旅してきたが、どの街にもそれぞれの特色があり素晴らしい街ばかりだった。だが……」


 俺はそこで言葉を切り、少し溜めて次の言葉を続ける。


「この会場の中にそんな国を乗っ取ろうとしている奴がいる」


 俺の言葉に会場が、いや、領主達さえザワつき始めた。取り乱していないのは国王くらいか。
 会場がそんな中で、俺は皆に訴え掛けるように話を続ける。


「俺だって信じたくなかった。だが、調べを続けていく中で疑惑は確信に変わっていった」
「そ、その国を乗っ取ろうとしている者とは誰だ」


 俺は領主の中にいる痩せこけた人物へ指を突き付ける。


「あんただ、サンドの領主ローブオ!」


 俺の言葉に全員がローブオへ視線を向ける。ローブオは生気がない目を俺に向け、笑いながら首を振る。


「私が国を乗っ取ろうと?何を馬鹿なことを言っているのですか」
「俺が調べた結果だ」
「どうせ噂が沢山あるからと言った程度でしょう?確かに私の悪い噂はよく聞きますが、それだけであらぬ疑いを掛けるのはどうかと思いますよ?」


 ローブオの言葉に国王もうなずく。


「確かに正式な手続きをせずにローブオを逮捕するのはいくら優勝者の願いとは言え無理だ」
「わかってます。だから俺が願うのはローブオの逮捕じゃないです」


 俺は指は天に向けて高らかに宣言する。


「俺の願いはサンドの領主であるローブオを、国家転覆の容疑で裁判にかけることだ!」
「な!?」


 俺の言葉が予想外だったのか、ローブオの顔に動揺が見える。


「そんな事が許されると思ってるのか!?」
「なぜ許されないんだ?裁判は正当な権利だぜ?」
「国王様!こんな願いは聞き入られるべきではありません」
「ふむ……」


 俺とローブオの言葉に国王は髭をなでながら悩む。


「確かにローブオの言う通り、個人で調査した範囲で確信があると言われても信じる訳にはいかない。何かほかに根拠はないか?」
「そうだ!国王様のいう通りだ!決定的な何かが無い限りそんな事が許されるはずない!」
「ならばこれでどうですか?」


 俺が指をパチンッと鳴らすと、入り口から縛り付けられた男と共に憲兵長であるビスケが表れた。


「お主は?」


 国王の言葉にビスケが敬礼をしながら答える。


「はっ!私は憲兵長を務めています『ビスケ・キンツ』と申します!」
「ふむ、その者は?」
「控室にいたキムラ・ホウリを襲った暗殺者であります!」
「な!?」


 ビスケの言葉に全員が男に視線をむける。


「つい先ほど俺の元へ来た暗殺者です。憲兵と共に調査を行ったところ、ローブオによって依頼された可能性が高いようです。なぜ俺を狙ったのかはこれから調べますが、国家乗っ取りと関係があるのは確かでしょう」
「貴様!?一人で調査したのではないのか!?」
「俺はそんな事一言も言ってないぜ?」


 もしかしたら、意図しない形で伝わってしまって、焦った奴が余計な事を口走ったかもしれない。そういう場合は本当に申し訳ないと思ってるよ。本当、本当。


「で、憲兵のお墨付きがあるわけですがどうですか?これで足りないとおっしゃる場合は憲兵自体が信用できないという事と同義ですが?」
「くっ……」


 悔しそうに唇を噛みしめるローブオ。対する国王はゆっくりとうなずきながら口を開く。


「よかろう、そこまで調べがついているのであれば裁判を開いても良いであろう」
「国王様!どうかお考え直しを!」
「何を慌てている?無実であれば裁判で証明すればよいだけではないか」
「そうですが……」
「決まりましたね。裁判の詳細はこの紙に記載しております」
「うむ、確かに受け取った」


 裁判の詳細が書かれた紙を国王へと渡す。これで正式に裁判が開ける。


「パイナよ、他に言う事はあるか?」
「ないです」
「分かった。では、これにて本大会のすべての日程を終了したことをここに宣言する!」


 会場中がざわついている中、国王が閉会を告げる。
 こうして、異例尽くしの大会は終わった。さあ、第二ラウンドと行こうか。
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