魔王から学ぶ魔王の倒し方

唯野bitter

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第三十三話 ぜーいんちゅーもく

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───ギャンブルの街『ダメル』───
人国で唯一ギャンブルが出来る街である。この街以外では大規模なギャンブルは禁止されている。国に登録されている裏カジノ以外でギャンブルをすると犯罪になるので注意。─────Maoupediaより抜粋








☆   ☆   ☆   ☆






 ダメルの街に向かう道中の朝、俺はロワとノエルを前で、刺し棒と眼鏡の教師姿で立っていた。
 そんな俺の前で遠慮がちにロワが手を上げる。


「あの……、何が始まるんですか?」
「お前らは戦闘に慣れていないからな、朝食が出来るまで戦闘の指南をな」
「なるほど……、ちなみに今回は何を?」
「スキルについてだな。ロワは学校で習ったかもしれないから、ミエル向けの指南になるな」


 スキルに関しては学校で習うことが義務になっている。この世界はスキルが重要な要素になってるし、かなり力入っているらしいな。


「とりあえず、ノエルに質問だ。スキルってなんだ?」
「えーっと、持ってると色々な事が出来るもの」
「大まかな説明だが正解だ。正確には『発動することで様々な効果がでるもの』だ」
「あれ?フランお姉ちゃんは毒耐性があったよね?あれは発動するものじゃないよ?」
「ああいうのは常時発動しているって感じだな」
「ふーん」


 ノートにメモをとるノエル。よしよし、真面目に聞いているな。


「次はスキルの効果についてだ。『強撃』というスキルがあるが、これの効果は分かるか?」
「んーっと、『攻撃力を20上げる』だったっけ?」
「確かにスキルの説明はそうなっているが、それだと50点だ。ロワ、説明してくれ」
「はい、『強撃』は『5秒立つか1kg以上の衝撃を発生させるまで攻撃力を20上げる』です」
「正解だ」
「どういう事?」
「飛んできた物を弾くだけでも効果が無くなるってことだ」
「そんな事、スキルの説明には書いてないよ?」
「ああ、ここがスキルの厄介なところだ」


 不思議そうな顔をするノエルに説明を続ける。
 

「スキルの説明は大まかなんだ。『強撃』みたいなシンプルなスキルでも説明が無い効果がある」
「どうやったら分かるの?」
「ひたすら試していくしか方法はない。だからこそ、レアなスキルの研究は中々進まないんだ」
「でも、大まかな説明だけでいいんじゃないの?大体はその通りなんでしょ?」
「所がそうもいかない。ノエルのスキルに『セイントヒール』があったな?効果はなんだ?」
「『全ての病と異常状態を治しHPを全回復させる』」
「この前、フランが死にかけた時に『セイントヒール』が効かなかったよな?説明通りなら『セイントヒール』だけでフランを助けられたはずだ」


 だが、『セイントヒール』だけでは助けられなかった。つまり、効果が高いスキルではあるが完全に治しきるものではないという事だ。


「それって詐欺なんじゃ?」
「というよりも、あれはミエル特製の毒が強すぎた所が大きい。今まで1000の防御力で防ぎきれていた所に10万の攻撃力を与えるみたいな物だからな」


 本来であれば毒は一瞬で治るものなのだろうが、規格外の毒が出来てしまったんだろう。改めて、ミエルの毒の破壊力に背筋が凍る。


「とにかく、正しくスキルを理解しないといざという時に困る。肝に銘じておくように」
「はーい」
「じゃあ、具体的なスキルの活用方法についてだが……」




☆   ☆   ☆   ☆




 朝食の後、俺たちパーティーはダメルの街へと移動を始めていた。ダメルの街へは森を抜ける道を選んだ。モンスターも多いし道も険しいが、最短のルートでパーティーの経験を積むにはこの道が一番だ。
 順番は最前列から俺、ミエル、ノエル、ロワ、フランで進んでいる。俺やフランが敵を発見し隊形を組むのが戦闘に入る流れになる。


「はぁ……はぁ……」
「大丈夫?ノエルちゃん?」
「だい……じょうぶ……」


 後ろからノエルの荒い息遣いとロワが気遣う声が聞こえてくる。声から判断するに、後少しで限界だな。戦闘が始まるともっと体力を使うし早めに休むべきか────


「全員構えろ。赤ゴブが5体、1分後に接敵だ」


 思考を中断し目の前の敵に意識を向ける。正確には気配と音だけだが、赤ゴブリンが5体いるのは確実だろう。
 赤ゴブリンは普通のゴブリンよりも攻撃力が高く素早い。このメンバーで負けることは無いが無傷で勝つのはまだ厳しい。
 全員が構えたのを確認し俺も新月を構える。そして、指を5本立てて1本ずつ折り曲げてタイミングを伝えて行く。
 草をかき分ける音が大きくなっていき、それに合わせて俺も指を折り曲げて行く。そして、全ての指を折り曲げた後、新月を草むらに振りおろす。


「グギャア!」


 新月が赤ゴブリンの脳天に直撃しうめき声を上げる。すかさず、ミエルが大剣で赤ゴブリンの腹を切り裂き、光の粒にした。
 

「ゴギャアア!」


 仲間をやられて激昂したのか、残り4体が声を上げて襲ってくる。


「ロワ、1体射抜け!フランは1体を足止め!」
「うむ」
「わかりました」


 振りおろされたこん棒を受け流しながら、指示を飛ばす。
 矢が1体の右足を貫き、真っ黒な鎖がもう1体を縛り付ける。


「俺が不意を突く。ミエルは2体を引きつけておいてくれ。」
「了解」


 ノエルが前に出て相手を威圧する。その間に俺はミエルの後ろに身を隠しつつ気配を消しながら、敵の後ろにまわる。ミエルは敵の攻撃を盾ではじきながら後衛を守る。
 フランが動きを止めている敵をロワが敵を射抜く。敵は俺に全く意識を向けていない。


「ゴギャギャア!」
「ゴギャアゴ!」


 仲間が2人やられたのを見て逆上する赤ゴブリン。そんな赤ゴブリンの背後に立ち、新月を水平に構える。


「……ふっ」
「ゴギャ───」


 息を吐くと同時に赤ゴブリンの首を一気に跳ね飛ばす。


「ゴギャ?」


 赤ゴブリンの1人が違和感を覚え隣に目を移すと、首が無い仲間の無残な姿があった。
 突然の事に微動だにしない赤ゴブリンの目に土を投げつけ視界を奪いつつ、赤ゴブリンの攻撃範囲外に退避する。


「ギャギャア!」


 目が見えない中でこん棒を振り回す赤ゴブリンに黒い鎖が絡みつく。フランの『チェーンロック』だ。


「今じゃ!」
「はい!」
「ああ!」


 フランの号令の後に、赤ゴブリンにミエルの横薙ぎとロワの脳天撃ちが炸裂する。赤ゴブリンは声一つ上げることなく光の粒となって消え去った。


「……ふぅ」


 ロワの気の抜けた声が聞こえる。弓を下す気配の後、ロワが力が抜けたように喋り始めた。


「よかった、今回は無傷で……」
「バカ!気を抜くな!」


 ロワの言葉をさえぎってロワの傍の草むらに向かって走り出す。
 目を丸くしているロワの横を通り抜けながら新月を構える。それと同時に銀色オオカミ、『シルバーウルフ』が2体、草むらから飛び出してきた。


「新手だ!構えろ!」
「え?は?」


 不意を突かれたロワが訳が分からず、あたふたとしている。こうなったらロワは当てに出来ないな。
 噛みつこうとしているシルバーウルフを新月で殴り飛ばす。だが、もう1体の噛みつきは捌く事が出来ずに左腕で受け止める事になってしまった。


「グルルルル」
「グッ……」


 骨が噛み砕かれる音と痛みを感じる。こちらも負けじとシルバーウルフの鼻筋へと頭突きと叩きこむ。
 シルバーウルフの噛みつきが緩んだの見逃さずに腕を引き抜く。だが、左腕は使い物にならないし、右腕は振りきっている。次の相手の攻撃を防御する術が───


「セイントヒール!」
「ナイスだ!」


 ノエルの『セイントヒール』で左腕の痛みが瞬時に消える。
 そのまま、左手でポケットからある物を取り出す。


「爆ぜな」


 握った手を噛みつこうとしているシルバーウルフの口の中に突っ込む。その後、派手な爆音と共にシルバーウルフは爆発四散し光の粒となって消えた。
 その後、すぐさま吹っ飛ばしたシルバーウルフを確認すると、ミエルが盾でシルバーウルフを押し殺していた。
 

「……敵影なし」
「こ、こんどこそ大丈夫ですよね?」


 ロワの不安そうな言葉に俺は頷く。
 俺はノエルに左腕を見せながら、安心しきっているロワに話しかける。


「ロワ」
「は、はい!」
「なんで弓を下した?」
「え、えっと……」


 俺の言葉にロワが委縮しながら答える。


「その……、終わったと思って……」
「実際には終わって無かったが?」
「それは……」


 口をつぐんだまま黙りこくるロワ。
 少し意地悪な言葉だったかもしれないな。だが、これは大切なことだ。


「今はピンチノエルが機転を利かせたから何とかなったが、下手したら俺は死んでいた。それは分かるな?」
「……はい」
「だが、お前が準備をしていたらピンチはなかったはずだな?」
「…………はい」


 俺の言葉にロワは更に縮こまる。
 フランが俺を『やり過ぎじゃ』という目で見てきたが、『俺に任せろ』という目配せを返す。


「試合は始まりと終わりが明確にある。だが、魔物との戦闘は倒したとしても、すぐに次の魔物が来るかもしれない。本当の戦闘終了は敵影が無いことを確認するまでだ」
「…………はい」
「自分のミスはパーティーメンバーの命に直結する。肝に銘じておけ」
「……はい」


 目に見えて気落ちしているロワ。無理もない、自分のせいでパーティーメンバーを危険にさらしたんだ。気落ちしないほうが無理だろう。
 そんなロワの肩を叩きながら微笑む。


「ロワ、大事なのは次からの戦闘でどうするかだ。今は存分に落ち込んでも次の戦闘で頑張ればいい」
「は、はい!」
「じゃあ、飯にするか。ミエル、手伝ってくれ」
「あ、ああ」

 
 ミエルを一緒に調理道具と食材を持って森の奥へと向かう。
 あ、そうだ。メニューを皆に聞いておくか。


「皆、何か食べたいものはあるか」
「わしは温かいスープが飲みたい」
「ノエルはハンバーグ!」
「僕はポテトサラダを」
「了解、可能な限り善処する」


 

☆   ☆   ☆   ☆



 
「今から料理講座を始める」
「よろしくおねがいしまーす」
「それじゃあ、早速1つ目の教えだ」
「早くないか?まだ準備段階だぞ?」


 ミエルの言葉の通り、俺たちは調理器具を準備をしていた。
 俺が準備しているのは調理台。4つの脚の高さをそれぞれ調節出来て、ガタガタな足場でも安定させられる優れ物だ。
 ミエルは火を使わずMPで加熱するコンロを用意していた。MPの詰まった魔石をコンロにセットしながらミエルは口を開く。


「で、何を教えてくれるんだ?」
「その壱、1人で料理はするな」
「喧嘩を売っているのか?」
「お前の料理の危険さは散々説明しただろうが!こっちは死にかけたんだぞ!」


 疑いの目でミエルが見てくる。道中でミエルの料理の危うさは説明したんだが、どうにも信じられていないみたいだ。俺に対する信用がマイナスなのもあるが、こいつは本気で料理ベタだと思っていない。まずはそこから正さないとな。


「まあいい、とりあえず飯作るぞ」
「メニューはハンバーグとスープとポテトサラダだったな。材料はあるのか?」
「肉は魔物から、芋はさっき獲った物を使う。運よくポテトサラダに適した芋が見つかったんだ」


 まな板に肉の塊、ボウルを3つ用意して2つにはたっぷりの水を淹れる。


「まずは芋を洗う。1つのボウルで土を落としたら、もう1つの水ですすいでくれ。すすいだらからのボウルに入れておいてくれ」
「分かった」


 芋を洗っているミエルの隣で肉を捌く。捌きながらミエルに質問してみる。


「問題だ。今作っているのはハンバーグだが、ひき肉以外に何を入れる?」
「うーん?」


 首を捻りながらも芋を洗う手は止めないミエル。


「クラーケンの塩辛」
「発想はいいが肉には合わないな」
「オレの実のジャム」
「ハンバーグだって言ってるだろ。甘くしてどうする」
「さっき獲ったキノコ」
「あきらかに毒キノコだろうが!今すぐ捨てろ!」


 不満げな顔で渋々キノコを捨てるミエル。紫色に赤色の斑点のついたキノコなんて食える訳ねぇだろ!


「正解はパン粉、玉ねぎ、スパイス等だ」
「む?レシピにはスパイスなど書いてなかったぞ?」
「レシピ知ってたのかよ」
「私の独創性を持たせようと思ってな」
「独自性で殺されてたまるか……」


 せめて食える物を入れてくれよ……。


「ミエル、次の教えだ」
「なんだ?」
「その弐、食べてもらう人の事を考えろ」
「ん?」


 ピンと来ていない様子のミエルに説明する。


「ミエルはロワに毒を食わせたいか?」
「そんな訳ないだろ。ロワには安全でおいしいものを食べさせたい」
「それを踏まえた上で、さっきのキノコをハンバーグに入れたいか?」
「それは……」


 俺は水を入れた鍋に火を掛ける。沸騰したお湯に芋を投入しながら話を続ける。


「料理には独創性が必要な時もある。だが、ミエルに必要なものは違うだろ?」
「……そうだな」


 肉をひき肉機に投入してミンチにする。合びき肉を使いたかったが、無いものは仕方ない。


「食べてもらう人の安全を考え、その人の好みも考える。大切だろ?」
「そうだな、理解した」


 ミエルは微笑みながら芋の皮を剥く。きっとロワやノエルの事を考えているんだろう。
 よかった、分かってくれたみたい───


「入れるならこっちのキノコだな」
「さっさと捨てろ!」


 案の定、毒キノコだった。




☆   ☆   ☆   ☆




「出来たぞー」
「わーい!」


 船をこいでいたノエルだったが、料理の匂いがした途端飛び起きてきた。


「ポテトサラダ入りハンバーガーと芋のポタージュだ」


 ハンバーガーにはハンバーグとポテトサラダ、レタスをパンで挟んで食べやすくした。ポタージュには獲ってきた香草を加えてアクセントにした。刺激が強い少し強いからノエルのポタージュは香草は少なめに。
 紙の袋に入れたハンバーガーと器に入ったポタージュを全員に配る。配膳後、円状に座って食事を始める。


「それじゃ、いただきます」
「「「「いただきまーす」」」」


 皆が一斉にハンバーガーにかぶりつく。


「んー、おいひー」
「肉も旨いが、ポテトサラダが良い味出しとるのう」
「そいつは良かった」


 皆が美味しそうに食べている中、ミエルだけ顔が強張っていて食が進んでいない。視線の先をたどってみるとモフモフとハンバーガーを食べているロワの姿があった。
 ミエルは時々ハンバーガーを齧りながら何かを言いかけては口をつぐむを繰り返していた。
 分かりやすい奴だな。まだ直接話しかけるのは厳しいか。

「ロワ、ハンバーガー旨いか?」
「はい、とっても美味しいです」


 ロワは真っ白な歯を光らせながら、爽やかな頬笑みを浮かべる。俺は心の中でにやりと笑いながら種明かしをする。


「実はな、そのハンバーガー作ったのはミエルなんだよ」
「え!?そうなんですか!?」


 ロワは目を丸くさせながらミエルを見つめる。


「すごいですよミエルさん!」
「だ、だが、ホウリに手伝ってもらってばかりで……」
「俺はミンチを用意するところまでしかやってない。あとは隣で口を挟んでいただけだ」


 ミエルは案外筋がいいから、正しい知識さえあれば料理は大丈夫だろう。キノコの事はあえて黙っておく。


「このハンバーガー、毎日でも食べたいですよ」
「あ、ありがとう……」


 ロワの言葉に、顔を熟れたトマトのように赤くしながらそっぽを向くミエル。ロワはミエルの態度に首をかしげる。
 ここの空間だけラブコメの波動を感じる気がする。気のせいじゃないな。


「はいはい、飯食いながらでいいから話を聞いてくれ」


 手を叩いて全員の注意を集める。食事の時間は会議の時間でもある。今回の議題はダメルでの行動についてだ。


「ダメルでの行動をもう一度確認する。ダメルでの最終的な目的は裏カジノで金を稼ぐことだ」
「どのくらい稼ぐんじゃ?」
「1週間で3億G」
「何度聞いてもおかしいと思うんじゃが」
「とっくに常識的な手段を使う時間は無いんだよ」


 カロンとの聖戦まで1カ月、闘技大会まで半年とほとんど時間は無い。だから、金集めも物資調達も並行して進めて行かないと。
 指に着いたソースを舐めながら俺は続ける。


「で、話していた通り街に着いてからは2班に分けて行動する」
「わしとホウリとノエルの班、ロワとミエルの班じゃな」
「ああ、そうだ。俺の班はカジノで資金調達、ロワの班は物資と情報の調達が主な役割になっている。いいな?」
「うむ」
「はーい」
「分かりました」
「了解した」
「よし、じゃあ片付け。5分後には出発な」


 打ち合わせを早々に終わらせ、全員で片付けを始める。
 5分後、片付けを終わらせ、ダメルの街へ進行を再開する。その後、運良く魔物との戦闘は避けられ、夕方にはダメルへとたどり着く事が出来た。
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