魔王から学ぶ魔王の倒し方

唯野bitter

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外伝 まーちゃんとみっちゃんのふたり言

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「……みっちゃん、おるか?」
『あれ?今日はまーちゃんだけ?ホウリくんはどうしたの?』
「今日は無理を言って一人にしてもらった」
『ふーん、まあいいけど。そういえば、まーちゃんと二人で話すのはいつぶりだっけ?』
「そうじゃな……、ホウリとディフェンドに行った話をしたとき以来じゃな」
『そういえばそうだったね。それで?何か聞きたいことでもあるのかな?それとも私とお話がしたいだけ?』
「……ホウリについて聞きたい」
『うーん、私に話せることならいいけど』
「では、まずはホウリの体験した旅の話を聞きたい」
『えー、ホウリ君の旅?かなりの時間がかかるよ?』
「要所だけでよい」
『あれね、ぶっちゃけ要所だけ話しても丸3日はかかる』
「あいつはどんだけ濃い経験をしとるんじゃ!?」
『ホウリ君の旅を本にしたら300ページの本にしても50冊はかかるぐらいかな?』
「……わしの理解が及ぶ事ではない気がしてきたぞ」
『本当にね。多分、普通の人の人生の1000倍は濃い経験をしているよね』
「簡単にでも内容を話してくれんか?」
『結構バリエーションが豊かだったよ。最後の一人にならないと終わらないデスゲームを誰も殺さずクリアしたり、ルール覚えたてのチェスでいきなり世界チャンピョン勝ったり、一日で5億用意させられたり、殺人事件の犯人を突き止めたり、ロボットと友達になったり────』
「これ以上は時間がかかりそうじゃからもう良い。で、結局その旅の目的はなんじゃ?」
『目的?わかるけど、ホウリ君のお父さんから口止めされてるから言えないね』
「前から思っておったのじゃが、ホウリの父親とは何者じゃ?みっちゃんに口止め出来るなどタダ者ではないぞ?」
『それはホウリ君から聞いたら?何せ8年は一緒に旅をしてきた訳だしさ』
「ホウリに聞いたら『ゴミクズに聞け』と言っておったぞ?」
『……ホウリ君はさ、私の事どう思っているのかな?』
「大層憎んでおる。呪いの木刀を渡してしまったのがマズかったのう」
『やっぱりかー。まあ、こればっかりは仕方ないよね』
「みっちゃんのミスのせいだと思うがの。そんなことよりホウリの親父のことじゃ。奴は何者じゃ?」
『うーん、それも言えないね』
「……では、ホウリについて知っとることを何でもいいから教えてくれ」
『うーんそうだねー、ホウリ君が旅の結果で得たものとか?』
「ぬ?興味深いのう?是非教えてくれ」
『おっけー。まずね、ホウリ君は旅に出る前から神童だったんだよ』
「勉強ができたのか?それとも運動か?」
「どっちもだよ。勉強もスポーツもできる優等生。それに人望もあるっていう完璧超人みたいな子だったんだよ』
「それはすごいのう」
『あのまま大人になったとしてもオリンピックで金メダル取ったり、色々な発明とかして歴史に名を残していただろうね』
「そんな奴がなぜ過酷な旅に?」
『旅に立つ経緯はホウリ君から直接聞いてね』
「………………前にホウリに聞いたら『お前の過去を話したら話す』と言われた」
「はっはっは!ホウリ君らしいね!で?話したの?」
「……話せるわけ無いじゃろ」
『だよねー。まあ、本人が話したがらない事なら私の口から言う事は出来ないね。で、話を戻すけど、そんな神童が8年間過酷な旅に出た』
「結果は?」
『更に完璧になって帰ってきた』
「それだけでは分からん。具体的にどうなったんじゃ?」
『そうだね……、いくつかあるんだけど、まずは体が丈夫になった』
「丈夫に?筋肉が増えたとかか?」
『それだけじゃない。思考力を上げるために脳の構造自体を変えたし、寿命も倍になった』
「は?寿命が倍に?」
『そ、寿命が倍に。ホウリ君は頑張れば200まで生きることが出来るよ』
「というか、寿命もそうじゃが脳の構造を変えるとはなんじゃ。ヤバイ手術でもしたのか?」
『手術みたいに勝手に終わるなら楽なんだけどね。ここでは方法は伏せるけど、「頭が良くなりたい」程度にしか思ってない人にはオススメしないね。良くて精神崩壊だから。ホウリ君はそうでもしないと生き残れない状況だったから仕方なくやったみたいだけどね』
「……次に行ってくれ」
『はいはい、2つ目は思考力と判断力の向上だね』
「それは脳の構造変化と違うのか?」
『少し違うね。脳の構造変化は普通のコンピューターをスーパーコンピューターに変えたみたいに「器」を変えただけに過ぎないんだよ。頭が悪い人にスーパーコンピューターを渡してもろくな結果にならないしね』
「それで、その結果が思考力と判断力の向上か。1つ目と比べると、それ程ヤバく感じないのう」
『それはどうかな?』
「ひょ?」
『割と呑気してるけど結構ヤバイよ?なにせ、ホウリ君の最大の強みでもあるからね』
「どういうことじゃ?」
『そうだね、一言で言うなら「自分の手足を自分の手足の用に動かせるようになる」が出来ているかな』
「意味がわからん。自分の手足は自由に動かせるぞ?」
『そういう事じゃないんだけどね。例えば、まーちゃんは初めて見たプロ野球選手の投球ホームを寸分違わず真似できる?』
「確か真似っ子スキルがあったのう。それを使えば出来る」
『そう、普通はスキルでも使わないと出来ない。でも、ホウリ君はスキル無しでやってのける』
「なるほど、自分のイメージ通りに体を動かせる訳か。じゃが、その程度ならヤバくはないぞ?何なら真似程度なら他に出来るやつも居るじゃろ」
『そうだね。それだけなら旅立つ前のホウリ君でもできた。でも、今のホウリ君はんだ』
「は?」
『つまりね、ボールを投げるという行為を最適化していくとプロの人のフォームになっていくよね?ホウリ君は「ボールを投げる」という行為の最適解を瞬時に見つけて実行出来るんだ。まあ、下手したらプロの人よりも良いフォームになるかもしれないけど』
「つまり、初めて触る武器でも熟練者並みに扱えると?」
『むしろ、習った「型」しか出来ない熟練者よりも扱えるね』
「なるほどのう、練習の時間が無い分できる事が増える訳か。む?しかし、ホウリは木刀に魔力を纏うのに苦労しておったようじゃが?」
『あれは自分の体じゃなくて道具に纏っていたからだね。自分の拳にはすぐに纏えたでしょ?それに、ホウリ君ならもう木刀にも纏えるんじゃないかな』
「確かにそうじゃな」
『思考力と判断力は情報を集めるのにもこれから何をするかを決める時にも必要になるし、もちろん戦闘の時も必要になってくる。勇者になるのにこれ以上の適任はいないね』
「うむ、そうじゃな……」
『まーちゃん、どうしたの?何か元気が無い用に聞こえるけど?』
「なんでもない」
『ならいいけどね。で、最後なんだけどね、これが一番大切かもしれないね』
「なんじゃ?」
『生き残る意思。彼には死ねない理由があるんだよ。もちろん、理由は言えないけどね』
「ふむ、たしかにのう。生きる意思がなければなんにもならんからのう」
『まあ、こんなところかな』
「ありがとうの、みっちゃん」
『いやいや、私も楽しかったよ。いつかホウリ君から話が聞けるといいね』
「そうなるとよいがな。では、おやすみじゃ」
『おやすみー』



☆  ☆   ☆   ☆



 みっちゃんとの通信を切り、わしは軽く息を吐く。
 ホウリの話を聞いてわしの中にはある考えが湧き上がってきていた。今までの冒険でもそう思ったことがないといえば嘘になる。そんな考えを断ち切るかのようにわしは扉を開け部屋を出る。
 ホウリの部屋に入るためドアノブに手をかけたとき、中からホウリとノエルの楽しそうな声が聞こえてくる。一瞬、扉を開けるのをためらったが意を決して扉を開ける。


「お、ド畜生との話は終わったのか?」
「いい加減その呼び方止めたらどうじゃ?みっちゃん、軽く泣いておったぞ?」
「どれだけの善行をしても俺があいつへの態度を改める事はない」


 トランプをしておったホウリとノエルが顔を上げてわしを見てくる。わしはベッドで座り込みながらハートのエースを握りしめているノエルに話を聞く。


「トランプで遊んでおったのか?」
「えーっとね、『いかさま』っていうのをホウリお兄ちゃんから教わってた」
「とりあえずは『セカンドディール』と『ボトムディール』をな」
「子供に教える事ではないじゃろ。ほれ、そろそろ寝る時間じゃから部屋に帰るぞ」
「はーい」


 フランをベッドから下ろし、手を引きながら部屋に戻ろうとする。じゃが、先程のみっちゃんの言葉が頭の中でグルグルと回り始めた。結果、わしの喉元にまである質問が上がってくる。
 この質問の答えによってはわしは立ち直れんかもしれん。じゃが、分かっておってもわしの口からホウリへの質問が溢れ出した。


「ホウリ、お主の冒険にわしは必要か?」
「急にどうした?」
「良いから答えよ」


 ホウリには色々な事に対処出来る能力がある。どんなことがあってもホウリならなんとかするじゃろう。そんな中でわしの存在意義はあるのか、その考えがわしの頭の中から呪いのように離れん。
 ホウリは眉を潜めた後、トランプを片付けている手を止めてわしを見てきた。


「何言ってんだ?必要に決まっているだろ?」
「じゃが、お主ならわしが居ないでも───」
「そこにいるノエルを」


 わしの言葉を遮りホウリがわしの声を遮る。


「そこにいるノエルを保護すると決めたのはフランが居たからだ」
「わしが?」
「ああ、俺は情報を集めるために色々な場所に行くからな。だが、俺だけだった場合はノエルを連れて歩き回る事もできないし、いざという時に守り通せない。だから、力がある信頼出来るやつが仲間にいる事は非常に重要になってくる」
「…………」
「お前が役に立っていない?とんでもない、お前がいるから色々な人を助けられるし、多少の無茶も効く。今や無くてはならない存在だ」
「………………」
「胸を張れ。ノエルを救えるのはフランが居るからだ。フランが欠けたらノエルを救うことは出来ない」


 そうか、わしはここにいて良いんじゃな。ちゃんとホウリの役に立っておるんじゃな。
 わしはこみ上げてきた感情をホウリに悟られないように顔を背ける。


「……しょうがないのう。そこまで言うならお主と一緒に冒険に付き合ってやっても良いぞ」
「そうしてくれると助かる」


 わしも素直ではないのう。
 ホウリの言葉を聞いたわしはノエルを連れて部屋の扉を開ける。
 

「ホウリ」
「なんだ?」
「その……おやすみじゃ」
「お兄ちゃん、おやすみー」
「ああ、おやすみ」


 その日の夜はいつもよりも寝付きが良かった。
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