上 下
5 / 23
スターチスは突として

3-a.人は違った輝きに惹かれる

しおりを挟む
 1ヵ月の間、それはそれは大変だった。
 エリック様は週3~4のペースでリバランス公爵家に来ていた。公務は大丈夫なのか?やって来る度に言うのが「エーデル嬢は素敵です。」だった。素敵って一体どういうことなんだろう。
「フィール、明日着る服ってどれだっけ?」
「こちらのドレスになります。何か変更がございますか。おそらく今なら間に合うと思います。」
 明日...。そう、明日は王族主催の未成年貴族だけが参加するお茶会がある。王族が未成年参加のお茶会を開く主な理由2つ。
 ①貴族令息、令嬢の顔や交流関係の確認
 ②王族のイメージアップ
 わたしは公爵令嬢であるため参加が義務となっている。正直言って面倒くさい。ゆっくり今後について考えたいのに、優雅にお茶会とは。まぁ、美味しそうなスイーツが食べられると思うと我慢は出来る。それに今回のお茶会でゲームに登場するキャラクターを確認することが出来る。このチャンス、絶対に逃すものか。
「フィールは参加するの?」
「いいえ、わたしはエーデル様の侍女ですので。それに、きっと弟が一家の代表として参加するはずですので。」
 へぇ~。フィールって弟がいたんだ。初耳だった。わたしも侍女になればこういう行事に参加しなくてすむのかな。
 
 ついにお茶会の日が来た。そしてエリック様と約束した日から丁度1ヵ月が経った。早いものだった。エリック様に心惹かれていないと言えば嘘になるけれどもこの気持ちはファンだからというものなのかもしれない。つまり、エリック様に惚れてはいない。婚約もしない、はず。
 馬車から降りた後、手短に受付を済ませて会場に入った。
 本来お兄様と参加する予定だったが、学園で少し問題が起きたため今回は不参加になってしまった。どんな兄だったけ?
 近くにエリック様がいたので挨拶をしておこう。
「本日はお招き頂きありがとうございます、殿下。エーデル・リバランスでございます。」
 やはり貴族の挨拶には馴れない。挨拶は基礎だけれども、こんな挨拶前世ではしてこなかったから本当に出来ているかなど不安になる。
「来ていただきこちらも嬉しいです。」
 後で会いましょう。耳元でそう囁かれた。少しドキドキしてしまった。これがイケボ!攻略対象の1人だけあって一言一言の破壊力と行動のカッコよさがえげつない。この人の婚約者は一体誰になるんだろう?
 近くにいたご令嬢と雑談したり、王宮お抱えパティシエが作った美味しすぎるスイーツを食べて時間を潰していた。時が進むのがとても長く感じる。
 あ、あれって
「アイラス・ジェシー!」
 思わず声を出してしまった。慌てて周りを確認する。幸い周りに人が少なかったお陰で特に誰も気にしていないようだ。よかった。
 ここ声をかけるかかけないか?難しい選択だな~。でも思い立ったら吉日。当たって砕けろ。とにかく声をかけてみよう。
「初めてジェシーさん。エーデル・リバランスと申し上げます。よかったら少しお時間よろしいでしょうか?」
 振り替ええたアイラスの顔は色白いというより青白かった。アイラスは少し考えるそぶりを見せた後、返事をしてくれた。
「リバランス様?はじめまして、アイラス・ジェシとー申します。」
「せっかくですし、わたしとお話ししてくれませんか。」
「いいですが、こんな私でよろしいのでしょうか?私は存在価値の無い人間ですし。」
「そんなことないよ!なんでそんなにかわいいのにそんなこと言っちゃうの?それを言ったらわたしもそうだよ。」
 あ!しまった。言い過ぎたかも。さすがにこれはよくなかった。アイラスってこんな子だったけ?ゲームではもっと強くてはっきりと物事を言っていたような。
「...めて。こんなこと言われたの初めてです。」
 アイラスはぽろぽろと涙を流しながら、しゃがみこんでしまった。
 わたしも慌ててしゃがみ込み、目線を合わせた。
「何か辛いことがあるなら言ってください。あって間もないばかりで信用できないと思いますが。」
「でしたら、私をください。」
「殺して。」どうしてアイラスがそんなこと言うの。ゲームでは婚約者にとにかく執着していた。理由はわからないが、とにかく婚約者が必要だと言っているような感じだった。
 もしかしてこのことがアイラスの発言と関係があるのかな。
 アイラスは急に顔を真っ青にしてごめんなさい、ごめんなさいと謝っている。アイラスが謝ることではないのに。
「ジェシーさん、ここでは言いにくいことがあると思います。ですからわたしの屋敷に来ませんか。そこなら心置きなく話せると思いますから。」
「いいのでしょうか、こんな私が。ご迷惑ではないのですか?」
「そんなことないよ。今決めましょう、いついらっしゃるかについて。」
「リバランス公爵家の邸宅までジェシー侯爵邸うちから約半日くらいだったと思います。」
 そんなもんなんだ。それならこちらも準備があるし、
「3日後とかどうでしょうか。」
 これならこちらもゆっくり準備ができる。
「わかりました。3日後ということでよろしいのでしょうか。私は大丈夫ですが。」
「そんな心配しなくてもいいですよ。ジェシーさんはお友達の家に遊びに行く感覚でいいのですから。」
「友達...。」
 最後にアイラスが言ったことはよく聞こえなかったが、とりあえずこちらで準備できることはいっぱいしておこう。アイラスの未来がかかってるしれないからね。
 最初にあった時よりアイラスは明るい表情をしていた。

 わたしは3日後のことを考えてウキウキしながら馬車のほうに向かった。
 暗黙のルールで会場に1時間以上いれば帰ってもいいことになっている。そういうところは親切だよね。でもなんか忘れている気が...。おいしいスイーツはいっぱい食べたし王宮の庭園がどんなものかこの目で見ることが出来たし、アイラスに会うことも出来た。なんだ気のせいか。
 待機していたフィールに声を掛け、受付に挨拶を済ませて出ようとしたら後ろからある最近聞きまくった声が聞こえた。
「待ってください、エーデル嬢!」
 あっ!忘れていた。そういえば最初にエリックに声を掛けられていたのを忘れていた。怒ってるかも。というか帰る気分でいたのにどうしよう。わたしの頭の中で「危険!危険!」というサイレンが鳴り響いていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

【改稿版】婚約破棄は私から

どくりんご
恋愛
 ある日、婚約者である殿下が妹へ愛を語っている所を目撃したニナ。ここが乙女ゲームの世界であり、自分が悪役令嬢、妹がヒロインだということを知っていたけれど、好きな人が妹に愛を語る所を見ていると流石にショックを受けた。  乙女ゲームである死亡エンドは絶対に嫌だし、殿下から婚約破棄を告げられるのも嫌だ。そんな辛いことは耐えられない!  婚約破棄は私から! ※大幅な修正が入っています。登場人物の立ち位置変更など。 ◆3/20 恋愛ランキング、人気ランキング7位 ◆3/20 HOT6位  短編&拙い私の作品でここまでいけるなんて…!読んでくれた皆さん、感謝感激雨あられです〜!!(´;ω;`)

すべてを思い出したのが、王太子と結婚した後でした

珠宮さくら
恋愛
ペチュニアが、乙女ゲームの世界に転生したと気づいた時には、すべてが終わっていた。 色々と始まらなさ過ぎて、同じ名前の令嬢が騒ぐのを見聞きして、ようやく思い出した時には王太子と結婚した後。 バグったせいか、ヒロインがヒロインらしくなかったせいか。ゲーム通りに何一ついかなかったが、ペチュニアは前世では出来なかったことをこの世界で満喫することになる。 ※全4話。

婚約破棄ですか。ゲームみたいに上手くはいきませんよ?

ゆるり
恋愛
公爵令嬢スカーレットは婚約者を紹介された時に前世を思い出した。そして、この世界が前世での乙女ゲームの世界に似ていることに気付く。シナリオなんて気にせず生きていくことを決めたが、学園にヒロイン気取りの少女が入学してきたことで、スカーレットの運命が変わっていく。全6話予定

悪役令嬢予定でしたが、無言でいたら、ヒロインがいつの間にか居なくなっていました

toyjoy11
恋愛
題名通りの内容。 一応、TSですが、主人公は元から性的思考がありませんので、問題無いと思います。 主人公、リース・マグノイア公爵令嬢は前世から寡黙な人物だった。その為、初っぱなの王子との喧嘩イベントをスルー。たった、それだけしか彼女はしていないのだが、自他共に関連する乙女ゲームや18禁ゲームのフラグがボキボキ折れまくった話。 完結済。ハッピーエンドです。 8/2からは閑話を書けたときに追加します。 ランクインさせて頂き、本当にありがとうございます(*- -)(*_ _)ペコリ お読み頂き本当にありがとうございます(*- -)(*_ _)ペコリ 応援、アドバイス、感想、お気に入り、しおり登録等とても有り難いです。 12/9の9時の投稿で一応完結と致します。 更新、お待たせして申し訳ありません。後は、落ち着いたら投稿します。 ありがとうございました!

光の王太子殿下は愛したい

葵川真衣
恋愛
王太子アドレーには、婚約者がいる。公爵令嬢のクリスティンだ。 わがままな婚約者に、アドレーは元々関心をもっていなかった。 だが、彼女はあるときを境に変わる。 アドレーはそんなクリスティンに惹かれていくのだった。しかし彼女は変わりはじめたときから、よそよそしい。 どうやら、他の少女にアドレーが惹かれると思い込んでいるようである。 目移りなどしないのに。 果たしてアドレーは、乙女ゲームの悪役令嬢に転生している婚約者を、振り向かせることができるのか……!? ラブラブを望む王太子と、未来を恐れる悪役令嬢の攻防のラブ(?)コメディ。 ☆完結しました。ありがとうございました。番外編等、不定期更新です。

記憶を失くした代わりに攻略対象の婚約者だったことを思い出しました

冬野月子
恋愛
ある日目覚めると記憶をなくしていた伯爵令嬢のアレクシア。 家族の事も思い出せず、けれどアレクシアではない別の人物らしき記憶がうっすらと残っている。 過保護な弟と仲が悪かったはずの婚約者に大事にされながら、やがて戻った学園である少女と出会い、ここが前世で遊んでいた「乙女ゲーム」の世界だと思い出し、自分は攻略対象の婚約者でありながらゲームにはほとんど出てこないモブだと知る。 関係のないはずのゲームとの関わり、そして自身への疑問。 記憶と共に隠された真実とは——— ※小説家になろうでも投稿しています。

悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!

たぬきち25番
恋愛
 気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡ ※マルチエンディングです!! コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m 2024.11.14アイク(誰?)ルートをスタートいたしました。 楽しんで頂けると幸いです。

処理中です...