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第九章 大敵の行方
9-6 美味投合、姉弟の清算
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「はぁー美味しい……!」
宿に戻ったテレザがシチューパンを頬張りながら怒り顔を引っ込める。帰り道の間はキュッと引き寄せられていた眉間が緩み、口からあつあつの吐息が漏れた。
ガリガリになるまでしっかり焼けたパンの表面を歯で砕くと、中からよく煮込まれたシチューの旨味があふれ出す。牛肉は恐らく牧場で育てた物だろう。食べなれたジビエよりずっと脂が多く、口の中でとろけるほど柔らかく舌に絡む。
「流石の出来だな」
ジークフリートも椅子に落ち着き、ザクザクと音を立ててトースト生地にかぶりつく。フタを外された香辛料と挽肉の奏でる匂いはテレザにまで届き、彼の賛辞が誇張や世辞でないことを裏付ける。
「石貨十枚分の価値は十分ね~?」
「っ。すまなかったと言っただろう」
「財布忘れるって幻導士としてどうなのよ。ねえ、女の子に奢らせる者さん」
「変なアダ名を付けるな。……急に馴れ馴れしくなったな」
「親しみがわいた、と言ってちょうだい。戦闘生物かと思ってたけど、ちゃんと人間なのね」
テレザから見てこれまでのジークフリートは、異様に強いらしいこと、そして著しく他者への配慮に欠けることしか目に入ってこなかった。が、王都に来てその印象は大きく……ではないが、変わりつつある。
「……そうか。ならそれでこの話は終わりだ」
こんな風にしょうもないミスもするし、面白くない事態には意外と態度に出る。
「で。キーン印のサンド、確かに上等だったが……足りたか?」
切り替わった話題に、テレザは首を振り振り。
「絶品だった。けど、流石にボリュームは物足りないわ」
「まあ、だろうな」
知っていた、という風にジークフリートは頷く。幻素の生成には、幻導士本人の体内にあるエネルギーが必要になる。日常的に大規模な術式を扱う高位の幻導士には大食漢……もとい、健啖家が多い。いかに美味でも、量を軽視はできないのだ。
「宿でもう少し食べて……あ、お風呂屋もいいわね」
「ならそうするといい。俺は」
「俺は、何?」
じーっ。
「──おもりは要るか?」
「エ・ス・コ・ー・ト」
これまでで最も激しく視線がぶつかる。が、財布の分今だけはテレザが優勢。ジークフリートがため息をついて折れる。
「……分かった」
「よしっ」
テレザは得意げに、ジークフリートはやれやれと言わんばかりに鼻を鳴らし、それぞれパンの包み紙を握りつぶす。それを咀嚼音に、紅蓮の舌が瞬く間に紙を平らげた。再び開かれた二人の手の平には、僅かな灰すら残っていない。完全に揃ったその動きに、互いに無言で見つめ合ってしまった。
「そうか。お前も、炎だったか……性格通りだな」
「でしょ。派手で綺麗で」
「すぐに爆ぜるところもな」
テレザの背中から青白い炎が出かかる。だが図星を認めるのも癪だ、堪える。
「ほら、さっさと行くわよ。財布は持った?」
「やかましいぞ」
憎まれ口のおまけつきでテレザがジークフリートを急かし、二人は部屋から出て宿のバーへと降りていった。
時は数日進み、辺境のギルドの酒場にて。森に潜む魔物の残党もあらかた掃除し、一息ついていた昼下がり。シェラ達の元へ王都のテレザから手紙が届いていた。魔竜は帝国に潜んでいるらしいこと、王国と帝国の中間にある鉄血都市で落ち合ってから帝国へ向かうということらしい。一通り読んだシェラは周囲の顔色を窺う。
「う、うーん……と」
「何だよその顔、不満なのか?」
頭上から不思議そうな声が降ってきた。広げられた手紙をシェラの頭越しに覗いていた巨漢、オーガスタスである。
「い、いえ。頼ってもらえるのは嬉しいですけど……私で、大丈夫なのかなって」
「他ならぬテレザが頼ってきたんだ、『お前なら』ってな。こいつもいるんだ、自信持って行ってこいよ」
そう言って彼は、同じように手紙を読んでいた美丈夫――クラレンスに水を向けた。埃っぽい酒場にあってひと際輝きを放つ金髪に筋の通った高い鼻。声に反応し、長いまつ毛の奥に佇む薄茶色の瞳がオーガスタスのいかつい顔を反射する。
「ああ、オーガスタスの言う通りだ」
細面の顎をかきながら、クラレンスはシェラを見つめる。未だ不安げに揺れ動く彼女の視線を、包みこむように。
「できることを、精一杯やればいい。お前にしかできないことがあるから呼ばれるんだ。その力、頼りにさせてもらうぞ」
「は、はいっ!」
決して強い口調ではないが誤魔化しのない言葉に、シェラも思わずいい返事をしてしまった。
「何だよクラレンス、すっかり良い先輩じゃねえか」
「俺は誰かさんと違ってな、スパルタは好きじゃないんだ」
オーガスタスの冷やかしにも、答えは操る風のごとく涼やか。なのだが、思いのほかその風が強く吹き付けてしまった者もいるようで。
「何だ、私がスパルタだとでも言いたいのか?」
クラレンスの姉、カミラの口調が尖る。弟とよく似た端整な顔立ち。だが眉間に寄った皺が、より近寄りがたい印象を抱かせる。
「別に、姉貴を指して言ったわけではないが……肯定してやった方が人は素直に伸びるというのが、過去の経験から得た俺の意見だな」
「ぐ、ぬぬぬっ……!」
クラレンスにしれっとかわされたカミラが頬を紅潮させて唸ったところで、オーガスタスが笑って窘めた。
「やめとけカミラ。こいつの育ちに関しては確かに、お前さんにも非があるだろうさ」
「……えぇい! お前にまでそう言われては、仕方があるまい」
憤懣やるかたない、という体でカミラが反論を下げる。
「が! 私はまだお前を一人前と認めたわけではない!」
弟に対する接し方を改めるとは言っていない。クラレンスの顔に「流石に呆れたぞ」という思いが透ける。
「今更何を言い出すかと思えば……。あんたと並んで、狼王を倒したのをもう忘れたのか?」
「あれは私とお前だけではない、オーガスタスとサイラスの協力あってこそだ。あれだけで貴様を一人前とは認めん」
「何だそれは、勘弁してくれ。おい、あんたの話と違うんだが」
弱ったクラレンスが助け舟を求めたのは、鉄血都市で彼に道を示したオーガスタス。彼の話を信じるなら、彼はもう姉に認められてもいいと思われたのだが。
「まさか、ここまで頑固とは思わなくってな……」
苦笑いを浮かべた彼は、仕方がないとばかりに額を軽く掻いて言った。
「こりゃ腕づくで証明するしかねえな」
「いいだろう、かかってこいクラレンス。貴様がどれほど――」
「いや待て待て待て! 緊急事態だぞ、分かっているのか? こんなことで遊んでいる場合では」
「遊びなものか! 貴様に実力がなければどのみち事態は好転せん。いくらテレザ殿の頼みとはいえ、生半可な者を行かせるわけにはいかん」
いやに乗り気なカミラと兄貴分、明らかに引き気味のクラレンス。
「立ち合ってやれ、クラレンス。こいつがこうなったらテコでも動かねえのは知ってるだろ」
「いや、だから今は……」
「何より、チャンスだ。違うのか?」
「っ」
ニカッと重ねて煽るオーガスタスに、クラレンスは口を開きかけたまま口角を引きつらせる。
確かにクラレンスにとってカミラはずっと憧れ、恨み、焦がれた人物。勝負したいと、打ち負かしてやりたいと何度も思った。それをカミラの方から勝負を申し込んでくれたのだ、断る理由はない。
のだが、「決闘で怪我をしたので救援に行けません」なんてことになったら目も当てられない。その考えがクラレンスを躊躇わせていた。
「大丈夫です、クラレンスさん」
「シェラ?」
「さっき言ってくれたじゃないですか、『頼りにさせてもらう』って。もし怪我したって、私がいます。だから、スッキリしてテレザさん達に会いに行きましょう!」
それまで成り行きを見守っていたシェラが、クラレンスの背を押す。先ほどのクラレンスの言葉に、応えてみせると。
「そうか……」
ならば彼も、シェラを信じて大一番に臨むのがスジというもの。
「ああ、そうだな。ありがとう」
「覚悟は決まったなクラレンス。今さら『やはり止める』とは言わさんが」
「もちろんだ。俺の積み上げた全てを、あんたに見せる」
カミラの念押し。それに呼応するように、クラレンスから漏れ出た風属性幻素が床を撫でた。舞い上がった塵を、こちらも水を迸らせて払い落とし、カミラが立ち上がる。
「場所は、修練所でいいな?」
「周囲が巻き添えにならないなら、どこでも」
酒場から出ていく二人を、オーガスタスとシェラが追う。普段なら他にも野次馬がゾロゾロ出る好カードだが、今はギルドの幻導士総出で街の立て直しの最中。姿を目で追いはしても、ついてくるようなことはしなかった。オーガスタスが二人の後姿を見ながら感慨深げに呟く。
「姉弟水入らずでやり合えるのは、非常事態の今くらいのもんだな……。昔ならともかく、今は強くなっちまったから」
「周囲が放っておいてくれませんよね、おふたりの姉弟喧嘩なんて」
「ああ。話して回ることじゃないから黙ってたが、あの二人はガキの頃からあんな感じでな。どうにも戦以外で呼吸が合わねえ。お互い変に真面目過ぎるのか何なのか……だが、できるときに清算しなきゃいけねえよ」
身内の、あんま誇れる話じゃねえけどな。そう付け加えて頭をかくオーガスタス。
「そう言えば、サイラスさんは……」
手紙を読んだ際には確かに見えていた枯れ木のような立ち姿が、酒場からいつの間にやら消えていた。
「心配すんな。あいつは他人の喧嘩なんざ興味ねえし、俺たちとは別で事態に備えるんだろ。それより今は、見届けようぜ」
ギルド酒場から修練所は目と鼻の先、早足でなくともすぐに着く。支柱に傷も目立つ修練所の門をシェラたちがくぐると、既に因縁の二人が武器を構えて対峙していた。
宿に戻ったテレザがシチューパンを頬張りながら怒り顔を引っ込める。帰り道の間はキュッと引き寄せられていた眉間が緩み、口からあつあつの吐息が漏れた。
ガリガリになるまでしっかり焼けたパンの表面を歯で砕くと、中からよく煮込まれたシチューの旨味があふれ出す。牛肉は恐らく牧場で育てた物だろう。食べなれたジビエよりずっと脂が多く、口の中でとろけるほど柔らかく舌に絡む。
「流石の出来だな」
ジークフリートも椅子に落ち着き、ザクザクと音を立ててトースト生地にかぶりつく。フタを外された香辛料と挽肉の奏でる匂いはテレザにまで届き、彼の賛辞が誇張や世辞でないことを裏付ける。
「石貨十枚分の価値は十分ね~?」
「っ。すまなかったと言っただろう」
「財布忘れるって幻導士としてどうなのよ。ねえ、女の子に奢らせる者さん」
「変なアダ名を付けるな。……急に馴れ馴れしくなったな」
「親しみがわいた、と言ってちょうだい。戦闘生物かと思ってたけど、ちゃんと人間なのね」
テレザから見てこれまでのジークフリートは、異様に強いらしいこと、そして著しく他者への配慮に欠けることしか目に入ってこなかった。が、王都に来てその印象は大きく……ではないが、変わりつつある。
「……そうか。ならそれでこの話は終わりだ」
こんな風にしょうもないミスもするし、面白くない事態には意外と態度に出る。
「で。キーン印のサンド、確かに上等だったが……足りたか?」
切り替わった話題に、テレザは首を振り振り。
「絶品だった。けど、流石にボリュームは物足りないわ」
「まあ、だろうな」
知っていた、という風にジークフリートは頷く。幻素の生成には、幻導士本人の体内にあるエネルギーが必要になる。日常的に大規模な術式を扱う高位の幻導士には大食漢……もとい、健啖家が多い。いかに美味でも、量を軽視はできないのだ。
「宿でもう少し食べて……あ、お風呂屋もいいわね」
「ならそうするといい。俺は」
「俺は、何?」
じーっ。
「──おもりは要るか?」
「エ・ス・コ・ー・ト」
これまでで最も激しく視線がぶつかる。が、財布の分今だけはテレザが優勢。ジークフリートがため息をついて折れる。
「……分かった」
「よしっ」
テレザは得意げに、ジークフリートはやれやれと言わんばかりに鼻を鳴らし、それぞれパンの包み紙を握りつぶす。それを咀嚼音に、紅蓮の舌が瞬く間に紙を平らげた。再び開かれた二人の手の平には、僅かな灰すら残っていない。完全に揃ったその動きに、互いに無言で見つめ合ってしまった。
「そうか。お前も、炎だったか……性格通りだな」
「でしょ。派手で綺麗で」
「すぐに爆ぜるところもな」
テレザの背中から青白い炎が出かかる。だが図星を認めるのも癪だ、堪える。
「ほら、さっさと行くわよ。財布は持った?」
「やかましいぞ」
憎まれ口のおまけつきでテレザがジークフリートを急かし、二人は部屋から出て宿のバーへと降りていった。
時は数日進み、辺境のギルドの酒場にて。森に潜む魔物の残党もあらかた掃除し、一息ついていた昼下がり。シェラ達の元へ王都のテレザから手紙が届いていた。魔竜は帝国に潜んでいるらしいこと、王国と帝国の中間にある鉄血都市で落ち合ってから帝国へ向かうということらしい。一通り読んだシェラは周囲の顔色を窺う。
「う、うーん……と」
「何だよその顔、不満なのか?」
頭上から不思議そうな声が降ってきた。広げられた手紙をシェラの頭越しに覗いていた巨漢、オーガスタスである。
「い、いえ。頼ってもらえるのは嬉しいですけど……私で、大丈夫なのかなって」
「他ならぬテレザが頼ってきたんだ、『お前なら』ってな。こいつもいるんだ、自信持って行ってこいよ」
そう言って彼は、同じように手紙を読んでいた美丈夫――クラレンスに水を向けた。埃っぽい酒場にあってひと際輝きを放つ金髪に筋の通った高い鼻。声に反応し、長いまつ毛の奥に佇む薄茶色の瞳がオーガスタスのいかつい顔を反射する。
「ああ、オーガスタスの言う通りだ」
細面の顎をかきながら、クラレンスはシェラを見つめる。未だ不安げに揺れ動く彼女の視線を、包みこむように。
「できることを、精一杯やればいい。お前にしかできないことがあるから呼ばれるんだ。その力、頼りにさせてもらうぞ」
「は、はいっ!」
決して強い口調ではないが誤魔化しのない言葉に、シェラも思わずいい返事をしてしまった。
「何だよクラレンス、すっかり良い先輩じゃねえか」
「俺は誰かさんと違ってな、スパルタは好きじゃないんだ」
オーガスタスの冷やかしにも、答えは操る風のごとく涼やか。なのだが、思いのほかその風が強く吹き付けてしまった者もいるようで。
「何だ、私がスパルタだとでも言いたいのか?」
クラレンスの姉、カミラの口調が尖る。弟とよく似た端整な顔立ち。だが眉間に寄った皺が、より近寄りがたい印象を抱かせる。
「別に、姉貴を指して言ったわけではないが……肯定してやった方が人は素直に伸びるというのが、過去の経験から得た俺の意見だな」
「ぐ、ぬぬぬっ……!」
クラレンスにしれっとかわされたカミラが頬を紅潮させて唸ったところで、オーガスタスが笑って窘めた。
「やめとけカミラ。こいつの育ちに関しては確かに、お前さんにも非があるだろうさ」
「……えぇい! お前にまでそう言われては、仕方があるまい」
憤懣やるかたない、という体でカミラが反論を下げる。
「が! 私はまだお前を一人前と認めたわけではない!」
弟に対する接し方を改めるとは言っていない。クラレンスの顔に「流石に呆れたぞ」という思いが透ける。
「今更何を言い出すかと思えば……。あんたと並んで、狼王を倒したのをもう忘れたのか?」
「あれは私とお前だけではない、オーガスタスとサイラスの協力あってこそだ。あれだけで貴様を一人前とは認めん」
「何だそれは、勘弁してくれ。おい、あんたの話と違うんだが」
弱ったクラレンスが助け舟を求めたのは、鉄血都市で彼に道を示したオーガスタス。彼の話を信じるなら、彼はもう姉に認められてもいいと思われたのだが。
「まさか、ここまで頑固とは思わなくってな……」
苦笑いを浮かべた彼は、仕方がないとばかりに額を軽く掻いて言った。
「こりゃ腕づくで証明するしかねえな」
「いいだろう、かかってこいクラレンス。貴様がどれほど――」
「いや待て待て待て! 緊急事態だぞ、分かっているのか? こんなことで遊んでいる場合では」
「遊びなものか! 貴様に実力がなければどのみち事態は好転せん。いくらテレザ殿の頼みとはいえ、生半可な者を行かせるわけにはいかん」
いやに乗り気なカミラと兄貴分、明らかに引き気味のクラレンス。
「立ち合ってやれ、クラレンス。こいつがこうなったらテコでも動かねえのは知ってるだろ」
「いや、だから今は……」
「何より、チャンスだ。違うのか?」
「っ」
ニカッと重ねて煽るオーガスタスに、クラレンスは口を開きかけたまま口角を引きつらせる。
確かにクラレンスにとってカミラはずっと憧れ、恨み、焦がれた人物。勝負したいと、打ち負かしてやりたいと何度も思った。それをカミラの方から勝負を申し込んでくれたのだ、断る理由はない。
のだが、「決闘で怪我をしたので救援に行けません」なんてことになったら目も当てられない。その考えがクラレンスを躊躇わせていた。
「大丈夫です、クラレンスさん」
「シェラ?」
「さっき言ってくれたじゃないですか、『頼りにさせてもらう』って。もし怪我したって、私がいます。だから、スッキリしてテレザさん達に会いに行きましょう!」
それまで成り行きを見守っていたシェラが、クラレンスの背を押す。先ほどのクラレンスの言葉に、応えてみせると。
「そうか……」
ならば彼も、シェラを信じて大一番に臨むのがスジというもの。
「ああ、そうだな。ありがとう」
「覚悟は決まったなクラレンス。今さら『やはり止める』とは言わさんが」
「もちろんだ。俺の積み上げた全てを、あんたに見せる」
カミラの念押し。それに呼応するように、クラレンスから漏れ出た風属性幻素が床を撫でた。舞い上がった塵を、こちらも水を迸らせて払い落とし、カミラが立ち上がる。
「場所は、修練所でいいな?」
「周囲が巻き添えにならないなら、どこでも」
酒場から出ていく二人を、オーガスタスとシェラが追う。普段なら他にも野次馬がゾロゾロ出る好カードだが、今はギルドの幻導士総出で街の立て直しの最中。姿を目で追いはしても、ついてくるようなことはしなかった。オーガスタスが二人の後姿を見ながら感慨深げに呟く。
「姉弟水入らずでやり合えるのは、非常事態の今くらいのもんだな……。昔ならともかく、今は強くなっちまったから」
「周囲が放っておいてくれませんよね、おふたりの姉弟喧嘩なんて」
「ああ。話して回ることじゃないから黙ってたが、あの二人はガキの頃からあんな感じでな。どうにも戦以外で呼吸が合わねえ。お互い変に真面目過ぎるのか何なのか……だが、できるときに清算しなきゃいけねえよ」
身内の、あんま誇れる話じゃねえけどな。そう付け加えて頭をかくオーガスタス。
「そう言えば、サイラスさんは……」
手紙を読んだ際には確かに見えていた枯れ木のような立ち姿が、酒場からいつの間にやら消えていた。
「心配すんな。あいつは他人の喧嘩なんざ興味ねえし、俺たちとは別で事態に備えるんだろ。それより今は、見届けようぜ」
ギルド酒場から修練所は目と鼻の先、早足でなくともすぐに着く。支柱に傷も目立つ修練所の門をシェラたちがくぐると、既に因縁の二人が武器を構えて対峙していた。
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