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第一部
Act.18 度し難きもの、それは
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処置室。
キリエのメイン刑術である人体改造処置を受刑者に施すための部屋である。
広さは十五メートル四方ほど。
黒いタイル張りの室内を白い蛍光魔力灯が明るく照らしている。
部屋の中央に処置台。材質は不明だが、奇妙な有機的質感を持った曲線的形状で、頭部、胴体、手足を支える部位がそれぞれ分離し、施術内容や受刑者の体に合わせてフレキシブルに可動する機構になっている。
「じゃ、処置台に移すからね」
移動式拘束架の拘束を解き始めるキリエ。
そのキリエの手際に、黙して身を委ねるムータロ。
瞑目し、声も上げず、非常に落ち着いているようにも見える。
しかしその心中は………
怖い怖い怖い怖痛い怖い怖い怖い怖嫌だ怖い怖い怖い怖痛い怖い怖い怖い怖嫌だ怖い怖い怖い怖痛い怖い怖い怖い怖嫌だ怖い怖い怖い怖痛い怖い怖い怖い怖嫌だ怖い怖い怖い怖痛い怖い怖い怖い怖嫌だ怖い怖い怖い怖痛い怖い怖い怖い怖嫌だ怖い怖い怖い怖痛い怖い怖い怖い怖嫌だ怖い怖い怖い怖痛い怖い怖い怖い怖嫌だ怖い怖い怖い怖痛い怖い怖い怖い怖嫌だ怖い怖い怖い怖痛い怖い怖い怖い怖嫌だ怖い怖い怖い怖痛い怖い怖い怖い怖嫌だ怖い怖い怖い怖痛い怖い怖い怖い怖嫌だ怖い怖い怖い
怖い、怖い、怖い、怖い!
今日の処置がどんな内容かは不明だが、例によって想像を絶する痛苦が待ち受けているはずだ。
だがここで嫌がって暴れたりすれば、”優しく処刑してもらう”という目的が遠のいてしまうだろう。
ここが頑張りどころ、この戦いの峠なのだ。
そんな悲壮な覚悟を以ってしての、この静かな受刑態度である。
「さてと。それじゃ持ち上げるよ。せーの、よっ………ッと」
キリエはムータロの超肥満化した重たい体を女の細腕で抱き上げ、壊れ物を扱うように繊細に、処置台にそろりとセットする。
ムータロは抵抗の様子も見せず、されるがままに従順に、キリエの手に身を委ねている。
セットを終えると、キリエはふぅっと一息つき、今度は処置台への拘束に取り掛かる。
処置台への拘束だが、ムータロが根本からの四肢切断&超肥満化していることもあり、これまでとは違った拘束手法であった。
まず、黒いゴムキャップのようなものをムータロの四肢の切断面にかぶせる。
するとゴムキャップは四肢切断面に強力に吸着する。
その後、ゴムキャップ頂点についている金属リングを処置台の拘束用チェーンに接続する、というものだ。
ちなみにこの黒いゴムキャップのようなもの、名を吸着式保護帯といい、それ自体は医療一般に用いられる創傷保護帯である。
ただし、いまキリエが使用しているものは、吸着部分に海魔クラーケンの吸盤を用いて吸着力と強度を高めるとともに、受刑者の四肢切断面にフィットするようなサイジングを施してある。さらにこれにチェーン接続用金属リングを取り付けることで、処置台への拘束用具として機能するよう改造したものだ。
「ン、これでよし、っと」
拘束作業を終え、キリエが一息ついて、手をパンパンと軽く叩き合わせる。
そして、
「ねぇムータロくん、一つ質問なんだけどさ」
と、切り出す。
ムータロはなんとなく嫌な予感がした。
「どうして今日はそんなにいい子なのかな?」
ドキィ!
「一昨日も昨日もあんなに暴れたでしょう? 今日はどうしちゃったのかな、と思って」
ムータロは考える。
どうする。なんと答える?
これはおそらく返答次第で何かが大きく変わりそうな、クリティカルな質問だ。
直感的にそう思った。
数瞬の思考の後、乾いた喉に唾を飲み込むと、やがてこう答えた。
「”ひょひ”をうけうのが、おえのうんめい、でふ」
「……ふーん、”処置を受けるのが運命”ね。ま、口ではそんなこと言っちゃって、一皮剥けば何を考えているやら。どうせ昨日みたいに、私に一矢報いるチャンスを伺ってるんでしょう?」
意地悪な目つきでキリエが問い返す。
「ほッ、ほんなごど、ないれふ!」
「ほんとかなー…… なんか信じられないなー。嘘だったらわたし、たぶん怒り狂っちゃうよ?」
”嘘だったら怒り狂う”。
そのフレーズは、ムータロの心胆を寒からしめるものがあった。
ムータロは思わず自問する。俺は嘘をついたのか?
いや、俺は嘘をついていない。なぜなら、運命が存在すると仮定するのなら、こうして処置を受けるのも運命ということになるから、先ほどの答えは嘘ではない。そして、”一矢報いるチャンスを伺っていない”というのも本当だから、一皮剥いても何もやましいことなどない!
と、ムータロは自分の発言を心の中で正当化する!
「じゃ、確かめてみよっか?」
唐突なキリエの提案。
「え……? はひかめう、っへ……?」
ムータロは意味がわからずきょとんと答える。
「キミが本当に悪いことを考えていないか、一皮剥いて確かめてあげる❤︎」
不穏な言葉を残し、キリエは処置室の隅に向かった。
一皮剥く、とは一体如何なる意味だろう?
不安に駆られるムータロ。
程なくして、キリエは白いシーツの被せられた金属カートを押して戻ってきた。
ムータロの額にはじっとりと脂汗が浮かぶ。
「さ、これを見て❤︎」
おもむろにシーツを外すと、そこには、シルバーに輝く注射器が数本!
大小の手術刀や鉗子類をはじめとした処置器具!
そして、背中から腹に回すベルト式開創器!
「ほ……ほえわ……?」
「見ての通り、お注射と手術刀と鉗子だよ。それとこっちは、切開箇所を開いて固定しておくための道具」
「あ…ああ、あああ、ほ、ほんな……!」
処置内容をうすうす察したムータロが思わず絶望の嗚咽をあげる!
そしてキリエは、ムータロがいま最も嘘であってほしいと願う言葉を告げた。
「今日は、これを使ってキミのお腹を剥いて見てあげる❤︎」
†
「ちょっと処置台が動くからね…」
そう言ってキリエが何やら操作すると、処置台のムータロの背中の部分が山のように隆起し始める!
「ふぐぅぅぅぅぅぅぅぅっっっ!!!」
ムータロは苦痛の声を上げる。はたから見ればお腹が少し張る程度の反りなのだが、超肥満化した彼にとっては、それだけでも多大な苦痛なのだ。
「ン、苦しいだろうけど我慢して。こうしてあげるとお腹の皮膚が張り詰めるから、私は切開が楽だし、受刑するキミはより鋭敏に痛みを味わえる。聖典に出てくる古代の箴言があるでしょ? ”二兎を追う者は一兎も得ず”ってやつね」
(くぁぁぁぁぁっっっ! それを言うなら”一石二鳥”だろうが! このバカ女がぁぁぁっっ!!!)
ムータロは心の中で激しいツッコミを入れる!
しかし実際の声には出さない!
万が一にもキリエの機嫌を損ねるようなことがあってはならないからだ!
処置台の変形が完了する!
真上から覗き込むキリエの嗜虐的なグレーの冷たい瞳!
怖い。叫び出したい。暴れたい。
だが、それをしてしまったら、”優しく処刑してもらう”という目論見はどうなる?
やはりここが勝負どころだ。耐えろ。耐えるのだ!
ムータロは自分にそう言い聞かせる。
「じゃ、鋭敏剤を打つからね❤︎」
ムータロの口に開口器をセットし、それを操作するキリエ。
ギリギリギリ……!
強制的に口外に伸長されていく舌!
「ングゥーーーーーッッッ!!!」ムータロ悶絶!
「さ、ちくっとするよー❤︎」
左手に構えた注射器を、ゆっくりとムータロの舌に近づけるキリエ!
(く、来る!)
ムータロはきつく目を閉じ、我慢の構え!
プスリ。
「オァァァァァァァァァァァァッッッッッッ!!!!!!!!!!」
ムータロの絶叫が処置室に響き渡る!
顔面の筋肉は痙攣し、脂汗を浮かべて悶絶している!
「もう少し奥まで刺すからね……」
キリエはゆっくりと丁寧な動きで舌の奥に針を進めていく!
「オァァァッッッッ……! ンッ、ンンンンンンッッッッ!!!」
侵入する針の痛みに涙ぐんで悶絶するムータロ!
「相変わらず痛がり屋さんだね。ほら、お鼻でゆっくり呼吸しましょうね……すぅーーーーっ、はぁーーーーっ、すぅーーーーっ……」
優しくなだめるキリエの声。そのリズムに合わせ、ムータロの呼吸が少しずつ静まっていく。
薬液は残酷なほど緩慢に注入されていく。
呼吸を乱さぬよう懸命に耐えるムータロ。
二、三分ほどたち、やっと注射器が抜かれた。
「はい、よく頑張りました❤︎」
優しく微笑んでムータロを褒めるキリエ。
「ハァーーーッ、フゥーーーーッ……」
注射が抜かれたことに安堵し、脂汗を浮かべながら深く呼吸を繰り返すムータロ。
しかし!
「じゃ、ちょっと切れ目を入れていくよー……」
ムータロが息つく暇もなく、キリエは軽い調子でそう言うと、全く躊躇なくムータロの腹に縦にメスを入れる!
プリリッ。
ムータロの張り詰めたポンポコリンの腹の皮は、メスを入れるといともたやすくプリリと切開される!
「ぽぎゃぁぁぁーーーーーーっっっ!!! ぴぎっ! ぴっぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっyrぱうprぷいghqspあdjsふぉいぷgふくぇvjpぶpうぃいvぺうじゃb!!!」
張り詰めた正中線がぱっくり開かれてゆく感触!
その痛苦のおぞましい堪え難さに、ムータロは半狂乱となり聞き取り不能な悲鳴!
「ン、痛いですねー……。頑張りましょうね」
キリエは、泣き叫ぶ患者を落ち着かせる母性的看護婦めいた声音で、ムータロを優しく応援!
そして精密なメスさばきで、無慈悲に切開を続行!
プリリッ
「うぉあーーーーーーーーーーーっっっっ!!!」
プリプリッ
「ひぎぃーーーーーーーーーーーっっっっ!!!」
プリッ、プリッ
「くぁーーーーーーーーーーーーっっっっ!!!」
プリプリプリプリッッッ
「ほんぎゃぁーーーーーーーーーっっっっ!!!」
「ン、綺麗に切れたね❤︎」
切開第一段階完了を告げるキリエの声。
ぱっくりと縦に切開されたムータロの腹。
皮膚と脂肪の層が裂かれ、露出する腹筋。
しかし、傷口からはほとんど血が流れていない。
これは、処置用の手術刀にあらかじめ治癒魔術が込められており、切開と同時に切れた血管を塞いでいるためだ。
「フゥッ、フゥッ、フゥッ、フゥッ………!」
全身に脂汗を浮かべたムータロは、一定の呼吸をを保つことで苦痛を和らげようと懸命!
「さ、次は……」
キリエは、あらかじめムータロの背中の下を通していたベルト式開創器の先端のフックを、彼の腹部切開口の皮膚に引っ掛ける!
「ぷぎゃああああああああっっっっ!!!!」
フックが腹の皮を貫いて引っ張る感触にムータロ悶絶!
「ちょっとずつ開いていくからね❤︎」
キリエが開創器を操作!
するとそれは少しずつ、残酷な緩慢さでムータロの腹部切開口を広げていく!
ミリミリミリッ……
「うゔぅぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっっっ!!!」
キリエはムータロの腹筋を傷つけないよう気をつけながら、開創器の開腹スピードに合わせ繊細なメスさばきで皮下組織と筋肉を剥離していく! そして剥離のたびに少しずつプリプリ剥けていくムータロの腹の皮!
プリッ
「ほぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!! あっ、あっ、あっ、あっ!」
プリプリッ
「んぐぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっっっ!!!! いっ、いっ、いっ、いっ!」
プリッ、プリッ
「むぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっ!!!! うっ、うっ、うっ、うっ!」
なんたる地獄!
†
処置開始から30分ほど。
ムータロの腹部は中心から左右にそれぞれ10センチほど剥かれた状態となっていた。
(ま、こんなものかな❤︎)
初めての切開処置としてはこのくらい、といったところか。
あまりやりすぎるとムータロの精神が壊れるリスクがある。
まだ3日目だ。今日はこの辺りにしておこう。
キリエはそう思い、処置の仕上げにかかる。
「よっ…と」
キリエは柔術でいう上四方の体勢、つまりムータロの顔を跨ぐポジションをとった。
彼女としては全く他意は無く、単に作業的にやりやすいのでこのポジションをとったのだ。
しかしムータロにしてみれば、顔面をスカートにふんわり覆われ、鼻先3センチには黒ショーツの股間!
両側頭部は白く柔らかな絶対領域にむっちりとホールド!
そして、フェロモンこそ放出されていないが、それでもスカート内にほのかに香るあの甘い香り!
(あああ、や、やばいっ! いい匂いすぎる!)
ムクッ…ムクムクッ……
徐々に屹立していく、とある部位!
自分の意思とは無関係に、自らの男性自身が反応してしまう!
できれば精神力で鎮静させたいところだが、今はこの切開処置の痛みを受けきることに精一杯で、そこまで対処できない!
本能とは度し難いものである。
”鋭敏剤を投与の上で、正中線からお腹の皮を剥かれる”。
かような過酷無比超絶苦痛の処置を受けている最中だというのに、それでもムータロの陰茎は、見よ、いまや完全なるフルボッキを遂げているではないか!
「ったく。こんな痛いことをされてる時でも大きくなっちゃうんだもんね。ほんっと、男の子って」
流石に手を止め、少し呆れた声で言うキリエ。
そして、ペニス先端の尿道スリット付近を、軽くデコピン!
ズビシ!
何の気なしにおこなったその行為。しかし次の瞬間、予期せぬ出来事が彼女を襲った。
ドゥッ、ドゥピュゥッッ!!!
なんたることか!
ムータロの下腹部でいきり立つその怒張的器官から、乳白色の液体が勢いよく射出されたのだ!
そしてそれは、あろうことかキリエの顔面に着弾!
腹部切開作業に没頭するあまり、顔を近づけ過ぎていたのが仇となった!
「ゔっ!!!!!」
短い悲鳴をあげて手術刀を床に取り落とし、仰け反るキリエ。
そして顔面を襲った液体の正体を手で確かめる。
白く濁った色合い。
指先で糸を引く粘着性。
そして海魔クラーケンの干物めいた独特の臭い。
こ、これは…!
「こ、これって……い、いやぁーーーーーーーーーーっっっ!!!」
なんたる悲劇!
ムータロの精子がキリエの顔面に射精されたのである!
あまりのおぞましさにキリエは絶叫!
ここだけの話だが、実はムータロはかなりの絶倫であり、平均で日に10回、最低でも3回は自慰行為を行なっていたほどだった。だが、管理局に捕らえられてからはもちろんその種の行為は不可能であったため、結果、溜まりに溜まった白いマグマが先ほどのキリエの何気無いデコピンの刺激で暴発してしまったのである!
「もうっ! なによっこれっ!!! ほんっとしんじらんない!!! う、うあっ、くっさ! くっさ! う、うぇっっっ!!」
処置室に響き渡るキリエの罵声と悲鳴!
「うぇぇぇっっっ! げぇっ、げぇーーーっ!!!」
キリエは処置室隅に小走りすると、処置道具洗浄用シンクで嘔吐!
うぇぇぇぇぇぇぇっっっ……!!!
げぇぇぇぇーーーっっっ……!!!
(あ、ああ…お、おれはなんてことを……!)
キリエの嘔吐音を聞きながら、ムータロは後悔と恐怖の念に激しく苛まれる。
優しく処刑してもらうために頑張るはずが、なぜこうなってしまったのだ?
よりにもよって、顔面への射精である。
この後、何らかの報復をされるであろうことは想像に難くない。
「うぁぁぁぁぁぁ…… お、おゆうひくあはい……おゆうひくあはいぃぃ……!」
あらゆる想像が脳裏に渦巻き、ムータロは半泣きになり、かすれ声で許しを請うた。
自分はこの後、いったいどんな処置をされてしまうのか?
彼がまだ知る由もないその答え。
それは、あまりにも残酷なものとなる運命なのであった。
キリエのメイン刑術である人体改造処置を受刑者に施すための部屋である。
広さは十五メートル四方ほど。
黒いタイル張りの室内を白い蛍光魔力灯が明るく照らしている。
部屋の中央に処置台。材質は不明だが、奇妙な有機的質感を持った曲線的形状で、頭部、胴体、手足を支える部位がそれぞれ分離し、施術内容や受刑者の体に合わせてフレキシブルに可動する機構になっている。
「じゃ、処置台に移すからね」
移動式拘束架の拘束を解き始めるキリエ。
そのキリエの手際に、黙して身を委ねるムータロ。
瞑目し、声も上げず、非常に落ち着いているようにも見える。
しかしその心中は………
怖い怖い怖い怖痛い怖い怖い怖い怖嫌だ怖い怖い怖い怖痛い怖い怖い怖い怖嫌だ怖い怖い怖い怖痛い怖い怖い怖い怖嫌だ怖い怖い怖い怖痛い怖い怖い怖い怖嫌だ怖い怖い怖い怖痛い怖い怖い怖い怖嫌だ怖い怖い怖い怖痛い怖い怖い怖い怖嫌だ怖い怖い怖い怖痛い怖い怖い怖い怖嫌だ怖い怖い怖い怖痛い怖い怖い怖い怖嫌だ怖い怖い怖い怖痛い怖い怖い怖い怖嫌だ怖い怖い怖い怖痛い怖い怖い怖い怖嫌だ怖い怖い怖い怖痛い怖い怖い怖い怖嫌だ怖い怖い怖い怖痛い怖い怖い怖い怖嫌だ怖い怖い怖い
怖い、怖い、怖い、怖い!
今日の処置がどんな内容かは不明だが、例によって想像を絶する痛苦が待ち受けているはずだ。
だがここで嫌がって暴れたりすれば、”優しく処刑してもらう”という目的が遠のいてしまうだろう。
ここが頑張りどころ、この戦いの峠なのだ。
そんな悲壮な覚悟を以ってしての、この静かな受刑態度である。
「さてと。それじゃ持ち上げるよ。せーの、よっ………ッと」
キリエはムータロの超肥満化した重たい体を女の細腕で抱き上げ、壊れ物を扱うように繊細に、処置台にそろりとセットする。
ムータロは抵抗の様子も見せず、されるがままに従順に、キリエの手に身を委ねている。
セットを終えると、キリエはふぅっと一息つき、今度は処置台への拘束に取り掛かる。
処置台への拘束だが、ムータロが根本からの四肢切断&超肥満化していることもあり、これまでとは違った拘束手法であった。
まず、黒いゴムキャップのようなものをムータロの四肢の切断面にかぶせる。
するとゴムキャップは四肢切断面に強力に吸着する。
その後、ゴムキャップ頂点についている金属リングを処置台の拘束用チェーンに接続する、というものだ。
ちなみにこの黒いゴムキャップのようなもの、名を吸着式保護帯といい、それ自体は医療一般に用いられる創傷保護帯である。
ただし、いまキリエが使用しているものは、吸着部分に海魔クラーケンの吸盤を用いて吸着力と強度を高めるとともに、受刑者の四肢切断面にフィットするようなサイジングを施してある。さらにこれにチェーン接続用金属リングを取り付けることで、処置台への拘束用具として機能するよう改造したものだ。
「ン、これでよし、っと」
拘束作業を終え、キリエが一息ついて、手をパンパンと軽く叩き合わせる。
そして、
「ねぇムータロくん、一つ質問なんだけどさ」
と、切り出す。
ムータロはなんとなく嫌な予感がした。
「どうして今日はそんなにいい子なのかな?」
ドキィ!
「一昨日も昨日もあんなに暴れたでしょう? 今日はどうしちゃったのかな、と思って」
ムータロは考える。
どうする。なんと答える?
これはおそらく返答次第で何かが大きく変わりそうな、クリティカルな質問だ。
直感的にそう思った。
数瞬の思考の後、乾いた喉に唾を飲み込むと、やがてこう答えた。
「”ひょひ”をうけうのが、おえのうんめい、でふ」
「……ふーん、”処置を受けるのが運命”ね。ま、口ではそんなこと言っちゃって、一皮剥けば何を考えているやら。どうせ昨日みたいに、私に一矢報いるチャンスを伺ってるんでしょう?」
意地悪な目つきでキリエが問い返す。
「ほッ、ほんなごど、ないれふ!」
「ほんとかなー…… なんか信じられないなー。嘘だったらわたし、たぶん怒り狂っちゃうよ?」
”嘘だったら怒り狂う”。
そのフレーズは、ムータロの心胆を寒からしめるものがあった。
ムータロは思わず自問する。俺は嘘をついたのか?
いや、俺は嘘をついていない。なぜなら、運命が存在すると仮定するのなら、こうして処置を受けるのも運命ということになるから、先ほどの答えは嘘ではない。そして、”一矢報いるチャンスを伺っていない”というのも本当だから、一皮剥いても何もやましいことなどない!
と、ムータロは自分の発言を心の中で正当化する!
「じゃ、確かめてみよっか?」
唐突なキリエの提案。
「え……? はひかめう、っへ……?」
ムータロは意味がわからずきょとんと答える。
「キミが本当に悪いことを考えていないか、一皮剥いて確かめてあげる❤︎」
不穏な言葉を残し、キリエは処置室の隅に向かった。
一皮剥く、とは一体如何なる意味だろう?
不安に駆られるムータロ。
程なくして、キリエは白いシーツの被せられた金属カートを押して戻ってきた。
ムータロの額にはじっとりと脂汗が浮かぶ。
「さ、これを見て❤︎」
おもむろにシーツを外すと、そこには、シルバーに輝く注射器が数本!
大小の手術刀や鉗子類をはじめとした処置器具!
そして、背中から腹に回すベルト式開創器!
「ほ……ほえわ……?」
「見ての通り、お注射と手術刀と鉗子だよ。それとこっちは、切開箇所を開いて固定しておくための道具」
「あ…ああ、あああ、ほ、ほんな……!」
処置内容をうすうす察したムータロが思わず絶望の嗚咽をあげる!
そしてキリエは、ムータロがいま最も嘘であってほしいと願う言葉を告げた。
「今日は、これを使ってキミのお腹を剥いて見てあげる❤︎」
†
「ちょっと処置台が動くからね…」
そう言ってキリエが何やら操作すると、処置台のムータロの背中の部分が山のように隆起し始める!
「ふぐぅぅぅぅぅぅぅぅっっっ!!!」
ムータロは苦痛の声を上げる。はたから見ればお腹が少し張る程度の反りなのだが、超肥満化した彼にとっては、それだけでも多大な苦痛なのだ。
「ン、苦しいだろうけど我慢して。こうしてあげるとお腹の皮膚が張り詰めるから、私は切開が楽だし、受刑するキミはより鋭敏に痛みを味わえる。聖典に出てくる古代の箴言があるでしょ? ”二兎を追う者は一兎も得ず”ってやつね」
(くぁぁぁぁぁっっっ! それを言うなら”一石二鳥”だろうが! このバカ女がぁぁぁっっ!!!)
ムータロは心の中で激しいツッコミを入れる!
しかし実際の声には出さない!
万が一にもキリエの機嫌を損ねるようなことがあってはならないからだ!
処置台の変形が完了する!
真上から覗き込むキリエの嗜虐的なグレーの冷たい瞳!
怖い。叫び出したい。暴れたい。
だが、それをしてしまったら、”優しく処刑してもらう”という目論見はどうなる?
やはりここが勝負どころだ。耐えろ。耐えるのだ!
ムータロは自分にそう言い聞かせる。
「じゃ、鋭敏剤を打つからね❤︎」
ムータロの口に開口器をセットし、それを操作するキリエ。
ギリギリギリ……!
強制的に口外に伸長されていく舌!
「ングゥーーーーーッッッ!!!」ムータロ悶絶!
「さ、ちくっとするよー❤︎」
左手に構えた注射器を、ゆっくりとムータロの舌に近づけるキリエ!
(く、来る!)
ムータロはきつく目を閉じ、我慢の構え!
プスリ。
「オァァァァァァァァァァァァッッッッッッ!!!!!!!!!!」
ムータロの絶叫が処置室に響き渡る!
顔面の筋肉は痙攣し、脂汗を浮かべて悶絶している!
「もう少し奥まで刺すからね……」
キリエはゆっくりと丁寧な動きで舌の奥に針を進めていく!
「オァァァッッッッ……! ンッ、ンンンンンンッッッッ!!!」
侵入する針の痛みに涙ぐんで悶絶するムータロ!
「相変わらず痛がり屋さんだね。ほら、お鼻でゆっくり呼吸しましょうね……すぅーーーーっ、はぁーーーーっ、すぅーーーーっ……」
優しくなだめるキリエの声。そのリズムに合わせ、ムータロの呼吸が少しずつ静まっていく。
薬液は残酷なほど緩慢に注入されていく。
呼吸を乱さぬよう懸命に耐えるムータロ。
二、三分ほどたち、やっと注射器が抜かれた。
「はい、よく頑張りました❤︎」
優しく微笑んでムータロを褒めるキリエ。
「ハァーーーッ、フゥーーーーッ……」
注射が抜かれたことに安堵し、脂汗を浮かべながら深く呼吸を繰り返すムータロ。
しかし!
「じゃ、ちょっと切れ目を入れていくよー……」
ムータロが息つく暇もなく、キリエは軽い調子でそう言うと、全く躊躇なくムータロの腹に縦にメスを入れる!
プリリッ。
ムータロの張り詰めたポンポコリンの腹の皮は、メスを入れるといともたやすくプリリと切開される!
「ぽぎゃぁぁぁーーーーーーっっっ!!! ぴぎっ! ぴっぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっyrぱうprぷいghqspあdjsふぉいぷgふくぇvjpぶpうぃいvぺうじゃb!!!」
張り詰めた正中線がぱっくり開かれてゆく感触!
その痛苦のおぞましい堪え難さに、ムータロは半狂乱となり聞き取り不能な悲鳴!
「ン、痛いですねー……。頑張りましょうね」
キリエは、泣き叫ぶ患者を落ち着かせる母性的看護婦めいた声音で、ムータロを優しく応援!
そして精密なメスさばきで、無慈悲に切開を続行!
プリリッ
「うぉあーーーーーーーーーーーっっっっ!!!」
プリプリッ
「ひぎぃーーーーーーーーーーーっっっっ!!!」
プリッ、プリッ
「くぁーーーーーーーーーーーーっっっっ!!!」
プリプリプリプリッッッ
「ほんぎゃぁーーーーーーーーーっっっっ!!!」
「ン、綺麗に切れたね❤︎」
切開第一段階完了を告げるキリエの声。
ぱっくりと縦に切開されたムータロの腹。
皮膚と脂肪の層が裂かれ、露出する腹筋。
しかし、傷口からはほとんど血が流れていない。
これは、処置用の手術刀にあらかじめ治癒魔術が込められており、切開と同時に切れた血管を塞いでいるためだ。
「フゥッ、フゥッ、フゥッ、フゥッ………!」
全身に脂汗を浮かべたムータロは、一定の呼吸をを保つことで苦痛を和らげようと懸命!
「さ、次は……」
キリエは、あらかじめムータロの背中の下を通していたベルト式開創器の先端のフックを、彼の腹部切開口の皮膚に引っ掛ける!
「ぷぎゃああああああああっっっっ!!!!」
フックが腹の皮を貫いて引っ張る感触にムータロ悶絶!
「ちょっとずつ開いていくからね❤︎」
キリエが開創器を操作!
するとそれは少しずつ、残酷な緩慢さでムータロの腹部切開口を広げていく!
ミリミリミリッ……
「うゔぅぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっっっ!!!」
キリエはムータロの腹筋を傷つけないよう気をつけながら、開創器の開腹スピードに合わせ繊細なメスさばきで皮下組織と筋肉を剥離していく! そして剥離のたびに少しずつプリプリ剥けていくムータロの腹の皮!
プリッ
「ほぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!! あっ、あっ、あっ、あっ!」
プリプリッ
「んぐぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっっっ!!!! いっ、いっ、いっ、いっ!」
プリッ、プリッ
「むぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっ!!!! うっ、うっ、うっ、うっ!」
なんたる地獄!
†
処置開始から30分ほど。
ムータロの腹部は中心から左右にそれぞれ10センチほど剥かれた状態となっていた。
(ま、こんなものかな❤︎)
初めての切開処置としてはこのくらい、といったところか。
あまりやりすぎるとムータロの精神が壊れるリスクがある。
まだ3日目だ。今日はこの辺りにしておこう。
キリエはそう思い、処置の仕上げにかかる。
「よっ…と」
キリエは柔術でいう上四方の体勢、つまりムータロの顔を跨ぐポジションをとった。
彼女としては全く他意は無く、単に作業的にやりやすいのでこのポジションをとったのだ。
しかしムータロにしてみれば、顔面をスカートにふんわり覆われ、鼻先3センチには黒ショーツの股間!
両側頭部は白く柔らかな絶対領域にむっちりとホールド!
そして、フェロモンこそ放出されていないが、それでもスカート内にほのかに香るあの甘い香り!
(あああ、や、やばいっ! いい匂いすぎる!)
ムクッ…ムクムクッ……
徐々に屹立していく、とある部位!
自分の意思とは無関係に、自らの男性自身が反応してしまう!
できれば精神力で鎮静させたいところだが、今はこの切開処置の痛みを受けきることに精一杯で、そこまで対処できない!
本能とは度し難いものである。
”鋭敏剤を投与の上で、正中線からお腹の皮を剥かれる”。
かような過酷無比超絶苦痛の処置を受けている最中だというのに、それでもムータロの陰茎は、見よ、いまや完全なるフルボッキを遂げているではないか!
「ったく。こんな痛いことをされてる時でも大きくなっちゃうんだもんね。ほんっと、男の子って」
流石に手を止め、少し呆れた声で言うキリエ。
そして、ペニス先端の尿道スリット付近を、軽くデコピン!
ズビシ!
何の気なしにおこなったその行為。しかし次の瞬間、予期せぬ出来事が彼女を襲った。
ドゥッ、ドゥピュゥッッ!!!
なんたることか!
ムータロの下腹部でいきり立つその怒張的器官から、乳白色の液体が勢いよく射出されたのだ!
そしてそれは、あろうことかキリエの顔面に着弾!
腹部切開作業に没頭するあまり、顔を近づけ過ぎていたのが仇となった!
「ゔっ!!!!!」
短い悲鳴をあげて手術刀を床に取り落とし、仰け反るキリエ。
そして顔面を襲った液体の正体を手で確かめる。
白く濁った色合い。
指先で糸を引く粘着性。
そして海魔クラーケンの干物めいた独特の臭い。
こ、これは…!
「こ、これって……い、いやぁーーーーーーーーーーっっっ!!!」
なんたる悲劇!
ムータロの精子がキリエの顔面に射精されたのである!
あまりのおぞましさにキリエは絶叫!
ここだけの話だが、実はムータロはかなりの絶倫であり、平均で日に10回、最低でも3回は自慰行為を行なっていたほどだった。だが、管理局に捕らえられてからはもちろんその種の行為は不可能であったため、結果、溜まりに溜まった白いマグマが先ほどのキリエの何気無いデコピンの刺激で暴発してしまったのである!
「もうっ! なによっこれっ!!! ほんっとしんじらんない!!! う、うあっ、くっさ! くっさ! う、うぇっっっ!!」
処置室に響き渡るキリエの罵声と悲鳴!
「うぇぇぇっっっ! げぇっ、げぇーーーっ!!!」
キリエは処置室隅に小走りすると、処置道具洗浄用シンクで嘔吐!
うぇぇぇぇぇぇぇっっっ……!!!
げぇぇぇぇーーーっっっ……!!!
(あ、ああ…お、おれはなんてことを……!)
キリエの嘔吐音を聞きながら、ムータロは後悔と恐怖の念に激しく苛まれる。
優しく処刑してもらうために頑張るはずが、なぜこうなってしまったのだ?
よりにもよって、顔面への射精である。
この後、何らかの報復をされるであろうことは想像に難くない。
「うぁぁぁぁぁぁ…… お、おゆうひくあはい……おゆうひくあはいぃぃ……!」
あらゆる想像が脳裏に渦巻き、ムータロは半泣きになり、かすれ声で許しを請うた。
自分はこの後、いったいどんな処置をされてしまうのか?
彼がまだ知る由もないその答え。
それは、あまりにも残酷なものとなる運命なのであった。
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