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第一部
Act.3 処置室
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(ゴゴゴゴゴ⋯⋯ガシン⋯⋯!)
背後で、十字マーク扉が重い音を立てて閉じた。
十字マーク扉の奥は、五十メートルほどの廊下になっていた。
キリエはムータロの拘束架を引いて奥へと進んでいく。
廊下の突き当たりはT字路になっており、そこを左に曲がった。
曲がった先は五十メートルほどの奥行きがあり、いくつかの金属扉が並んでいた。
そして、その中の一つの前でキリエは足を止めた。
「さ、ここが”処置室”だよ⋯⋯❤︎」
ムータロを見下ろして告げる。
白皙の頬に薄く朱が差し、グレーの瞳には隠しきれない嗜虐の喜びが浮かんでいる。
その様子はどことなく、麻酔をかけた哀れな芋虫を、二度と出られない巣穴に運び込む狩りバチを連想させた。
(いよいよか⋯⋯!)
ムータロの額を冷や汗が滑り落ちる。
唾を飲み込もうとしたが、緊張のあまり乾ききった喉に嫌な痛みが走る。
キリエが金属扉に手をかざすと、中央から割れて左右に開いた。
(プシュゥゥゥゥゥゥ⋯⋯)
“処置室”から冷気が白い煙となって下方に漏れ出し、ムータロを包み込む!
「ウウッッ! ゲホッ、ゲホッ!」
肺を凍らせるような冷たさに咳き込むムータロ!
「ふふ、ごめんね。裸のキミにはちょっと寒いかな❤︎」
キリエは、ムータロの拘束架を引いて室内に入る。すぐに背後で扉が閉まった。
“処置室”内は十五メートル四方ほどの広さだった。
黒いタイル張りの室内を白い蛍光魔力灯が明るく照らしている。
冷気に震えながらも、素早く観察するムータロ。
部屋の中央にある寝台──処置台──が目を引く。
材質は不明だが、奇妙な有機的質感を持った曲線的形状で、頭部、胴体、手足を支える部位がそれぞれ分離している。
あれに拘束されることまでは容易に想像がつく。問題はそのあとに何をされるのかだが⋯⋯
と、そこでムータロはあることに思い至る。
あの処置台に拘束するということは、一時的に今の拘束架の拘束を解くことになるはずだ。その時にこのエリニュスに一矢報いることができるのではないか?そしてあわよくば脱出することも。脳内で様々な反撃パターンのイメージを描くムータロ。
「処置台に移すよ。暴れないでね❤︎」
果たしてムータロの想定通り、キリエは彼の拘束架を解き始めた!
頭の拘束が外され、腕の拘束が外され、脚の拘束が外され、胴体の拘束が外され⋯⋯
(よし、今だ!)
ムータロは全身全霊の力を込め、キリエの顔面めがけてジャンピングアッパーカットを繰り出した!
ガキィッ!
手応えあり!
……否、よく見よ、ムータロの拳はキリエの顔面を捉える寸前で彼女の右手に受け止められている。無念!
「あーあ、悪い子だ❤︎」
おそらく受刑者のこうした行動には慣れているだろう。キリエは余裕の微笑だ。
そして掴んだ右手を振ってムータロの体を黒タイルの床に叩きつけた!
ドゴォ!
「ウゴァッッ!ガハッ!ゴハッ!」
叩きつけの衝撃で呼吸ができずうずくまるムータロ!
キリエは悶絶するムータロの首根っこを掴んで持ち上げると、手際よく処置台に拘束していく。
ムータロの両手首、両足首、両肩、両腿の付け根、胴体、口、それぞれが処置台から伸びる拘束帯で捕縛されていく!
あっという間に処置台への拘束が完了した。
処置台の拘束は拘束架以上にタイトで、ムータロがいくら力を込めても文字通りビクともしなかった。
(く、くそっ。なんだ、この拘束の硬さは⋯⋯まったく動けない⋯⋯!)
キリエは処置台に拘束されたムータロの頭の所に立ち、彼の目を真上から覗き込んだ。
そして口を開く。
「いよいよ始まるよ。怖い?」
ムータロはまだダメージから回復しきっていなかったが、それでもキリエを睨みつけた。
本音を言えば怖くてたまらない。何をされるかもわからない。だが気持ちで負けたら終わりだ。
「ふふっ、気骨があっていいね。でもそれがどのくらい持つのかな⋯⋯❤︎」
キリエはそう言うと、処置室の隅へと歩いて行った。
そして、白いシーツの被せられた車輪付き台を押して戻って来た。
先ほどと同じように、ムータロの頭の所に立ち、真上から見下ろす。
キリエが唐突にこう質問した。
「ねえ、ムータロくん。猛獣の武器ってなんだと思う?」
(猛獣の武器? いったい、なんの話をしている⋯⋯?)
ムータロはキリエの言葉の意味を察しかねる。
「私はこれから7日間、キミの処刑を担当するよね? それってつまり、私はキミを”七日のあいだ管理”しなくちゃいけないってことでしょう。さっきみたく猛獣のように暴れるキミを管理しやすくするには、どうすればいいかな?」
キリエはムータロの頭部拘束部を操作する。すると、ムータロの首の角度が正面から右に回り始めた。
ムータロの視界に先ほどキリエが押してきた車輪付き台が入る。
「これを見て❤︎」
キリエが車輪付き台を覆っていた白いシーツを外した。
そこに現れたシルバー製の道具類を見て、ムータロは青ざめる。
サイズや形状の違う何本ものの注射器、大小諸々の鋏、鑷子、鉗子類。メス。
用途不明の、内側にブレードのついたリング型器具。
薬液の入ったいくつかの瓶。
ガーゼや包帯、黒いゴムのキャップのようなもの。
その他、なんと形容して良いかもわからぬ器具の数々⋯⋯
(ま⋯⋯まさか⋯⋯!)
ここに至って、ムータロはキリエの言う”事前処置”が何たるかを察し、心底から恐怖した。
そして、先ほどキリエが言った“猛獣の武器”、それはすなわち⋯⋯
「鋭い牙と強靭な四肢。まずはそのへんだよね❤︎
背後で、十字マーク扉が重い音を立てて閉じた。
十字マーク扉の奥は、五十メートルほどの廊下になっていた。
キリエはムータロの拘束架を引いて奥へと進んでいく。
廊下の突き当たりはT字路になっており、そこを左に曲がった。
曲がった先は五十メートルほどの奥行きがあり、いくつかの金属扉が並んでいた。
そして、その中の一つの前でキリエは足を止めた。
「さ、ここが”処置室”だよ⋯⋯❤︎」
ムータロを見下ろして告げる。
白皙の頬に薄く朱が差し、グレーの瞳には隠しきれない嗜虐の喜びが浮かんでいる。
その様子はどことなく、麻酔をかけた哀れな芋虫を、二度と出られない巣穴に運び込む狩りバチを連想させた。
(いよいよか⋯⋯!)
ムータロの額を冷や汗が滑り落ちる。
唾を飲み込もうとしたが、緊張のあまり乾ききった喉に嫌な痛みが走る。
キリエが金属扉に手をかざすと、中央から割れて左右に開いた。
(プシュゥゥゥゥゥゥ⋯⋯)
“処置室”から冷気が白い煙となって下方に漏れ出し、ムータロを包み込む!
「ウウッッ! ゲホッ、ゲホッ!」
肺を凍らせるような冷たさに咳き込むムータロ!
「ふふ、ごめんね。裸のキミにはちょっと寒いかな❤︎」
キリエは、ムータロの拘束架を引いて室内に入る。すぐに背後で扉が閉まった。
“処置室”内は十五メートル四方ほどの広さだった。
黒いタイル張りの室内を白い蛍光魔力灯が明るく照らしている。
冷気に震えながらも、素早く観察するムータロ。
部屋の中央にある寝台──処置台──が目を引く。
材質は不明だが、奇妙な有機的質感を持った曲線的形状で、頭部、胴体、手足を支える部位がそれぞれ分離している。
あれに拘束されることまでは容易に想像がつく。問題はそのあとに何をされるのかだが⋯⋯
と、そこでムータロはあることに思い至る。
あの処置台に拘束するということは、一時的に今の拘束架の拘束を解くことになるはずだ。その時にこのエリニュスに一矢報いることができるのではないか?そしてあわよくば脱出することも。脳内で様々な反撃パターンのイメージを描くムータロ。
「処置台に移すよ。暴れないでね❤︎」
果たしてムータロの想定通り、キリエは彼の拘束架を解き始めた!
頭の拘束が外され、腕の拘束が外され、脚の拘束が外され、胴体の拘束が外され⋯⋯
(よし、今だ!)
ムータロは全身全霊の力を込め、キリエの顔面めがけてジャンピングアッパーカットを繰り出した!
ガキィッ!
手応えあり!
……否、よく見よ、ムータロの拳はキリエの顔面を捉える寸前で彼女の右手に受け止められている。無念!
「あーあ、悪い子だ❤︎」
おそらく受刑者のこうした行動には慣れているだろう。キリエは余裕の微笑だ。
そして掴んだ右手を振ってムータロの体を黒タイルの床に叩きつけた!
ドゴォ!
「ウゴァッッ!ガハッ!ゴハッ!」
叩きつけの衝撃で呼吸ができずうずくまるムータロ!
キリエは悶絶するムータロの首根っこを掴んで持ち上げると、手際よく処置台に拘束していく。
ムータロの両手首、両足首、両肩、両腿の付け根、胴体、口、それぞれが処置台から伸びる拘束帯で捕縛されていく!
あっという間に処置台への拘束が完了した。
処置台の拘束は拘束架以上にタイトで、ムータロがいくら力を込めても文字通りビクともしなかった。
(く、くそっ。なんだ、この拘束の硬さは⋯⋯まったく動けない⋯⋯!)
キリエは処置台に拘束されたムータロの頭の所に立ち、彼の目を真上から覗き込んだ。
そして口を開く。
「いよいよ始まるよ。怖い?」
ムータロはまだダメージから回復しきっていなかったが、それでもキリエを睨みつけた。
本音を言えば怖くてたまらない。何をされるかもわからない。だが気持ちで負けたら終わりだ。
「ふふっ、気骨があっていいね。でもそれがどのくらい持つのかな⋯⋯❤︎」
キリエはそう言うと、処置室の隅へと歩いて行った。
そして、白いシーツの被せられた車輪付き台を押して戻って来た。
先ほどと同じように、ムータロの頭の所に立ち、真上から見下ろす。
キリエが唐突にこう質問した。
「ねえ、ムータロくん。猛獣の武器ってなんだと思う?」
(猛獣の武器? いったい、なんの話をしている⋯⋯?)
ムータロはキリエの言葉の意味を察しかねる。
「私はこれから7日間、キミの処刑を担当するよね? それってつまり、私はキミを”七日のあいだ管理”しなくちゃいけないってことでしょう。さっきみたく猛獣のように暴れるキミを管理しやすくするには、どうすればいいかな?」
キリエはムータロの頭部拘束部を操作する。すると、ムータロの首の角度が正面から右に回り始めた。
ムータロの視界に先ほどキリエが押してきた車輪付き台が入る。
「これを見て❤︎」
キリエが車輪付き台を覆っていた白いシーツを外した。
そこに現れたシルバー製の道具類を見て、ムータロは青ざめる。
サイズや形状の違う何本ものの注射器、大小諸々の鋏、鑷子、鉗子類。メス。
用途不明の、内側にブレードのついたリング型器具。
薬液の入ったいくつかの瓶。
ガーゼや包帯、黒いゴムのキャップのようなもの。
その他、なんと形容して良いかもわからぬ器具の数々⋯⋯
(ま⋯⋯まさか⋯⋯!)
ここに至って、ムータロはキリエの言う”事前処置”が何たるかを察し、心底から恐怖した。
そして、先ほどキリエが言った“猛獣の武器”、それはすなわち⋯⋯
「鋭い牙と強靭な四肢。まずはそのへんだよね❤︎
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