処刑官キリエ

中田ムータ

文字の大きさ
上 下
4 / 30
第一部

Act.3 処置室

しおりを挟む
(ゴゴゴゴゴ⋯⋯ガシン⋯⋯!)

背後で、十字マーク扉が重い音を立てて閉じた。

十字マーク扉の奥は、五十メートルほどの廊下になっていた。
キリエはムータロの拘束架を引いて奥へと進んでいく。
廊下の突き当たりはT字路になっており、そこを左に曲がった。
曲がった先は五十メートルほどの奥行きがあり、いくつかの金属扉が並んでいた。
そして、その中の一つの前でキリエは足を止めた。

「さ、ここが”処置室”だよ⋯⋯❤︎」

ムータロを見下ろして告げる。
白皙の頬に薄く朱が差し、グレーの瞳には隠しきれない嗜虐の喜びが浮かんでいる。
その様子はどことなく、麻酔をかけた哀れな芋虫を、二度と出られない巣穴に運び込む狩りバチを連想させた。

(いよいよか⋯⋯!)

ムータロの額を冷や汗が滑り落ちる。
唾を飲み込もうとしたが、緊張のあまり乾ききった喉に嫌な痛みが走る。

キリエが金属扉に手をかざすと、中央から割れて左右に開いた。

(プシュゥゥゥゥゥゥ⋯⋯)

“処置室”から冷気が白い煙となって下方に漏れ出し、ムータロを包み込む!

「ウウッッ! ゲホッ、ゲホッ!」

肺を凍らせるような冷たさに咳き込むムータロ!

「ふふ、ごめんね。裸のキミにはちょっと寒いかな❤︎」

キリエは、ムータロの拘束架を引いて室内に入る。すぐに背後で扉が閉まった。

“処置室”内は十五メートル四方ほどの広さだった。
黒いタイル張りの室内を白い蛍光魔力灯が明るく照らしている。
冷気に震えながらも、素早く観察するムータロ。
部屋の中央にある寝台──処置台──が目を引く。
材質は不明だが、奇妙な有機的質感を持った曲線的形状で、頭部、胴体、手足を支える部位がそれぞれ分離している。
あれに拘束されることまでは容易に想像がつく。問題はそのあとに何をされるのかだが⋯⋯

と、そこでムータロはあることに思い至る。

あの処置台に拘束するということは、一時的に今の拘束架の拘束を解くことになるはずだ。その時にこのエリニュスに一矢報いることができるのではないか?そしてあわよくば脱出することも。脳内で様々な反撃パターンのイメージを描くムータロ。

「処置台に移すよ。暴れないでね❤︎」

果たしてムータロの想定通り、キリエは彼の拘束架を解き始めた!
頭の拘束が外され、腕の拘束が外され、脚の拘束が外され、胴体の拘束が外され⋯⋯

(よし、今だ!)

ムータロは全身全霊の力を込め、キリエの顔面めがけてジャンピングアッパーカットを繰り出した!

ガキィッ!

手応えあり!
……否、よく見よ、ムータロの拳はキリエの顔面を捉える寸前で彼女の右手に受け止められている。無念!

「あーあ、悪い子だ❤︎」

おそらく受刑者のこうした行動には慣れているだろう。キリエは余裕の微笑だ。
そして掴んだ右手を振ってムータロの体を黒タイルの床に叩きつけた!

ドゴォ!

「ウゴァッッ!ガハッ!ゴハッ!」

叩きつけの衝撃で呼吸ができずうずくまるムータロ!
キリエは悶絶するムータロの首根っこを掴んで持ち上げると、手際よく処置台に拘束していく。
ムータロの両手首、両足首、両肩、両腿の付け根、胴体、口、それぞれが処置台から伸びる拘束帯で捕縛されていく!
あっという間に処置台への拘束が完了した。

処置台の拘束は拘束架以上にタイトで、ムータロがいくら力を込めても文字通りビクともしなかった。

(く、くそっ。なんだ、この拘束の硬さは⋯⋯まったく動けない⋯⋯!)

キリエは処置台に拘束されたムータロの頭の所に立ち、彼の目を真上から覗き込んだ。
そして口を開く。

「いよいよ始まるよ。怖い?」

ムータロはまだダメージから回復しきっていなかったが、それでもキリエを睨みつけた。
本音を言えば怖くてたまらない。何をされるかもわからない。だが気持ちで負けたら終わりだ。

「ふふっ、気骨があっていいね。でもそれがどのくらい持つのかな⋯⋯❤︎」

キリエはそう言うと、処置室の隅へと歩いて行った。
そして、白いシーツの被せられた車輪付き台を押して戻って来た。
先ほどと同じように、ムータロの頭の所に立ち、真上から見下ろす。

キリエが唐突にこう質問した。

「ねえ、ムータロくん。猛獣の武器ってなんだと思う?」

(猛獣の武器? いったい、なんの話をしている⋯⋯?)
ムータロはキリエの言葉の意味を察しかねる。

「私はこれから7日間、キミの処刑を担当するよね? それってつまり、私はキミを”七日のあいだ管理”しなくちゃいけないってことでしょう。さっきみたく猛獣のように暴れるキミを管理しやすくするには、どうすればいいかな?」

キリエはムータロの頭部拘束部を操作する。すると、ムータロの首の角度が正面から右に回り始めた。
ムータロの視界に先ほどキリエが押してきた車輪付き台が入る。

「これを見て❤︎」

キリエが車輪付き台を覆っていた白いシーツを外した。
そこに現れたシルバー製の道具類を見て、ムータロは青ざめる。
サイズや形状の違う何本ものの注射器、大小諸々の鋏、鑷子、鉗子類。メス。
用途不明の、内側にブレードのついたリング型器具。
薬液の入ったいくつかの瓶。
ガーゼや包帯、黒いゴムのキャップのようなもの。
その他、なんと形容して良いかもわからぬ器具の数々⋯⋯

(ま⋯⋯まさか⋯⋯!)

ここに至って、ムータロはキリエの言う”事前処置”が何たるかを察し、心底から恐怖した。
そして、先ほどキリエが言った“猛獣の武器”、それはすなわち⋯⋯

「鋭い牙と強靭な四肢。まずはそのへんだよね❤︎
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

シチュボ(女性向け)

身喰らう白蛇
恋愛
自発さえしなければ好きに使用してください。 アドリブ、改変、なんでもOKです。 他人を害することだけはお止め下さい。 使用報告は無しで商用でも練習でもなんでもOKです。 Twitterやコメント欄等にリアクションあるとむせながら喜びます✌︎︎(´ °∀︎°`)✌︎︎ゲホゴホ

奇妙な日常

廣瀬純一
大衆娯楽
新婚夫婦の体が入れ替わる話

体育座りでスカートを汚してしまったあの日々

yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

男性向け(女声)シチュエーションボイス台本

しましまのしっぽ
恋愛
男性向け(女声)シチュエーションボイス台本です。 関西弁彼女の台本を標準語に変えたものもあります。ご了承ください ご自由にお使いください。 イラストはノーコピーライトガールさんからお借りしました

金眼のサクセサー[完結]

秋雨薫
ファンタジー
魔物の森に住む不死の青年とお城脱走が趣味のお転婆王女さまの出会いから始まる物語。 遥か昔、マカニシア大陸を混沌に陥れた魔獣リィスクレウムはとある英雄によって討伐された。 ――しかし、五百年後。 魔物の森で発見された人間の赤ん坊の右目は魔獣と同じ色だった―― 最悪の魔獣リィスクレウムの右目を持ち、不死の力を持ってしまい、村人から忌み子と呼ばれながら生きる青年リィと、好奇心旺盛のお転婆王女アメルシアことアメリーの出会いから、マカニシア大陸を大きく揺るがす事態が起きるーー!! リィは何故500年前に討伐されたはずのリィスクレウムの瞳を持っているのか。 マカニシア大陸に潜む500年前の秘密が明らかにーー ※流血や残酷なシーンがあります※

処理中です...