処刑官キリエ

中田ムータ

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第一部

Act.1 扉

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「さて、俺は上に戻るぜ。もう二度と会わねーだろうなぁ。あとは処刑官がお前を迎えに来る。せいぜい可愛がってもらいな」

そう言い残すと、ムータロを地下一階の拘留室から地下七階のここまで、移動式拘束架スパイダーを引いて連行してきた獄司は、もと来た扉の向こうへと去っていった。

ムータロが連行されて来たそこは廊下のような、部屋のような、どちらとも形容しがたい空間だった。広さはそれなりにあり、長辺十メートル、短辺五メートル、高さ五メートルといったところか。出入り口は二つ。入って来た扉と、その反対側にある十字の彫刻が施された大きな扉。床、壁、そして天井は、反射するほどに磨かれた白い石造りだ。天井に設置された白い蛍光魔力灯が明るく照らしている。

無音だ。内臓がじわりとするような緊張感。
ついにこの時が来たのだ。俺は処刑される。検察官も言っていた通り、楽に死ねる類の処刑ではないのだろう。
胸に去来する数々の思い。全てが終わったことへの開放感。闘いの道半ばで終わってしまうことへの無念。処刑への恐怖。仲間たちへの感謝。魂の存在、輪廻、カルマ、来世。自分はなぜこの世に生まれて来たのか⋯⋯。

数分経っただろうか。思考に沈んでいたムータロの耳が、十字マーク扉の向こうから近づいて来る足音を察知した。
硬い音質。おそらく金属製の細いヒール。処刑官は女か。これも検察官が言っていた通りだ。
だが、音と音の間隔がかなり長いのが気になる。普通に歩いているとすればかなり長い歩幅の持ち主ということになるが⋯⋯。

音は次第に大きくなり、やがて、十字マーク扉のすぐ向こうで止んだ。

ゴクリと唾を飲み込むムータロ。
いる。あの扉の向こうに。処刑官が。
高まる緊張。額を滑り落ちる汗。荒くなる鼻息。

(シュゴッ!)

扉の十字マークに沿って縦横の亀裂が入った。
四つに割れた扉が、それぞれ斜め上と斜め下にスライドして、重い音を立てながらゆっくり開いていく。

(ゴゴゴゴゴゴ⋯⋯ガシン)

扉が開ききった。
ムータロは刮目した。
扉の向こうには、微笑みを浮かべた一人のエリニュスの姿があった。
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