好き・嫌い?・大好きーイケメン同僚と甘い契約結婚ー

真夏の太陽

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1ーとりあえず僕とー

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地元北海道から東京に出て来て五年。
沢井美希は窮地に立たされていた。
やっと手に入れたデザイナーの職、会社も東京での暮らしも、何もかも手放し。
実家に帰って来いと言う父と、毎夜電話で壮絶なバトルを繰り広げていた。

美希の実家は、祖父の代から旅館を営んでいる。
元々は東京出身だった祖父は、若い時分板前をしており。
自分で店を持つ夢を持っていた。
当時は資金も少なく、東京での出店を諦めていた祖父は、友人に誘われ東京より安く店を構えられるということで、夢を叶えに北の大地、北海道に移住してきたのだ。
祖父は小さな日本料理屋から、一代で今の旅館を立ち上げた。
息子である美希の父は職人だった祖父と違い、ビジネスとして旅館を大きくし今では道内に三店舗の旅館の経営者である。
父親の隆二は今年で56歳になる。大学卒業と同時に、旅館に営業職で入社し、三年前祖父が脳梗塞を患ったのをきっかけに社長に就任。
たった7年で本店のほかに二店舗増やすという偉業を成し遂げた。
そんなやり手の父と話して、末でのんびり育った美希が敵うはずがない・・


「ねえ!その辛気臭い顔やめてよ。もう一週間もこの部屋の空気が淀んで仕方がないんだけど~」
事務服をここまで色っぽく着こなせる人間は、地球上で彼女しかいないのではないかと思うくらい、森田加奈は豊満ボディの持ち主である。
化粧は濃いが顔立ちも綺麗で明るい性格だ。
「寝不足なんだから耳元で怒鳴らないでよ・・それでなくても今週末締め切りのデザイン思いつかなくて死にそうなのに・・」
「あんた何枚か仕上がってたじゃない。結構デキ良かったと思うけど・・」
「メインの石が高過ぎて予算オーバーでボツ。最初に男が予算ハッキリ言わなかったから、こっちは婚約指輪ならって、それなりのデザイン送ったらその金額の半分まで落とせと返事が来た・・あの見栄張りバカ男殺していい?加奈?」
「ぶはっは!殺せ~呪い殺してやれ~結婚する奴はみんな死ねばいい」
今年で27になる加奈は見た目と違って奥手らしい、社内に好きな人がいのだが告白できずに片思い継続中だ。
友人や職場で寿退社する同僚には、もはや敵意しか持ってない。
「とりあえず。この企画書は週明けでも大丈夫よね?私少し屋上にでも行って頭冷やしてくる。今日中にはラフ画だけでも仕上げないと・・」
「美希・・実家帰らないとダメそう?私、この会社で本当に仲良くなったのあんただけで、いなくなったら寂しい・・」
「姉がさ、うちで働いてた板前さんと結婚したから、将来は二人が継ぐって話だったんだよ最初は。それが義兄の浮気で現在別居中!旅館の株主でもあったのと、子供たちの親権問題とか色々あって、いま揉めに揉めてる。父さんは義兄が他人になるなら旅館は譲れないって。甥っ子も姪っ子もまだ小さいし、姉さん三人目お腹の中にいるし、経営は無理だってことになって。そこで白羽の矢が私に飛んできた。毎晩、父とバトルってるけど、独身だから婿養子もらって旅館継げの一点張りで話にならない・・もう疲れたよ」
「何かあったら相談に乗るから、いつでも連絡して。私そろそろ業務に戻るね、じゃあ相葉さん!お邪魔しました」
加奈はデザイン室にいるもう一人のフタッフに声をかけ部屋を出て行った。

美希はしばらく屋上でデザインのイメージを考えながら、買ってきた缶コーヒーを飲んでいた。
昼休みも終わり、誰もいないこの静かな場所が好きで、よく来ていた。
「デザイナーなんかさ、替えはたくさんいるし、私が辞めても会社は困らない」
美希はこんなもんだと、半分は諦めたいた。
姉の心境や身重の体を考えると、自分がこっちでの生活を諦めさえすれば丸く治まる。
大きく伸びをして振り向く。と!!
同じ部署で同僚の相葉類が目の前に立っていた。
「とりあえず僕と結婚しとく?」
背が高い類が目の前に現れ、悲鳴を上げそうなほど驚いて。
「類~!!ビックリするから、その登場の仕方はビックリするって何度も言ってるよね?マジで突然現れるとビビるの!」
「僕さっきからいたよここに、美希が気が付いてなかっただけで」
「うるさい!私に口答えしないで、それでなくても毎日毎日!頭が痛いことばかりで疲れてるんだから、サッサと部屋戻って仕事しないと」

美希は類と二人だけの独立した部署『デザイン課』の部屋に戻ると、デスクに向かってダメ出しを食らった婚約指輪のデザインを書き始めた。
午後の三時になり、いつものように類が紅茶とお菓子を美希の机に持ってくる。
「ん~!ありがと~」
美希は色鉛筆をクルクル回しながら、何か重大なことを聞いたような気がしてさっきから引っかかっていた。
(さっき、なんの話ししてたんだっけ・・)
屋上で類が美希に言った言葉を思い出そうとしていた・・・・
(・・・・!!!!!!)
美希は椅子をすっ飛ばす勢いで立ち上がると、類に向かって叫んでいた。
「類ーーーー!!」
「あ~今頃?美希、鈍いよ、ハハ」
「あんたに言われたくない!」
「返事は?困ってるんでしょ?力になるよ」
美希は目眩がしてガックリと椅子に座り込んだ。


美希は自宅で、風呂上がり缶ビールを飲みながらデザインを考えていた。
だが昼間類に言われたことが頭の中をグルグルと駆け巡り、一向に仕事がはかどらない。
「何考えてるんだろ・・類って本当につかみどころがないって言うか、よくわからない」
結婚話を持ち出してきた類に、美希は心底驚いていた。
それと言うのも類は、美希が務めている会社の社長の息子だからだ。
三男とはいえ立派な御曹司?は、大袈裟だが、そこそこセレブには違いない。
学生の頃からの友人でもあり美希にとって、夢だったジュエリーデザイナーとして働くことができているのも、実は類が今のデザイン部を立ち上げたからで、決して美希の実力ではない。
今の職場は表立ってはブライダルをメインに、貸衣装や美容、イベント、芸能など多岐にわたって事業を展開している。
そもそも類と知り合ったのは。
女子大出身の美希が友人に誘われ、類の大学のインカレサークルに参加したのがきっかけだ。
その他大勢の中の一人としか意識したこともなく、実際に美希は類のことをほとんど知らなかった。
果たしてそんな類と、結婚など想像ですらあり得なかった。

美希は少しだがデザインを書き、今日は疲れ他のでベッドに潜り込もうとした。
そのとき。
スマホからメールの着信が鳴る。見ると類からでファイルが送られて来た。
[このデザインどうかな?]
とだけのコメント・・こうゆうところも類のよくわからない部分だ。
「何のデザインだって?」
パソコンを開き大きい画面でファイルを開けてみると。
「うわ!これって・・婚約指輪・・」
時計を見る。0時を回ったばかりだった。
しばらくスマホをいじっていたが、一つ息を吐くと電話をかけた。
「類?私、デッサン見た」
『どう思う?金額は少し上回るけどメインのダイヤだけは外せないから、飾りの石を一切使わず、台のプラチナをホワイトゴールドに変えて、飾り細工を施したデザインにしてみたんだ』
「いいと思う・・イメージがハートで、依頼主の要望にマッチしてる。あのデザインならラフな格好で着けてもオシャレだし、しまっておきがちな婚約指を普段使いにもできるのは素敵だと思う・・」
『じゃあこのデザインで先方に送ってみたら?』
「でも類のデザインだよ・・悪いよ」
『先方からOKが出たら、明日食事しない?今日の話したいんだけど』
「え?なんで?ええ?」
美希は焦っていた。まさか類が本気で自分と結婚を考えているとは思ってもいないし、美希にもそんな気は全くない。
『僕は本気だよ、美希を助けてあげるから話だけでもしない?』
「でも・・」
『ジュエリーデザイナーになる夢だって叶えてあげたでしょ?美希が実家を継ぎたくないなら協力してあげるって言ってるんだよ。夢を諦めるなんて勿体ない。明日付き合ってくれるよね?』
美希はドキッとした。
確かに流れからいったら類のコネで今の職に就いたようなものだ。
さすがに助けると言う類に対し、断るのも失礼だと思い。
「うん・・わかった明日話聞くよ・・」
類との通話を終え、ベッドに潜り込み複雑な気持ちで眠りについた。
(とりあえず明日、婚約指輪のOKが出ることを祈ろう・・)

類と美希は、海が見えるお洒落なレストランにいた。
美希は目の前に置かれた小さな箱を前に、嫌な汗が背中を伝うのを感じていた。
今日は類がデザインした例の婚約指輪が、先方からOKが出たので、製品にするまでの業務を美希一人でこなしていた。
普段なら類がやっている仕事だが、他にも抱えている仕事で類が出ていていなかったのだ。
朝からバタバタで、食事もろくに摂っていなかったため。
ここに着いた時、二人は黙々と食べることに集中していた。
デザートのコーヒーがテーブルに運ばれ、ようやく落ち着いた時。
類が婚約指輪をテーブルに置き、話を切り出した。
「昨日の返事聞かせて」
美希は指輪を見ながら、類の本気度に困り果てていた。
「返事って・・私まだ結婚とか考えてなかったし」
「じゃあ仕事辞めて実家継ぐの?」
「それは・・」
「お婿さんもらって結婚させられちゃうんでしょ?」
美希はそこで初めて類の目を見た。
(そうだ、実家に帰ったら私、誰とも知らない人と結婚して家継がされるんだ)
考えたら急に悲しくなってきて。潤んだ瞳で類が差し出した指輪に視線を落す。
その様子を見ていた類は。
「もし・・もし美希が僕との結婚に乗り気じゃないなら、期間限定でもいいよ」
美希はパッと視線を類に戻す。
「え?何それ?」
「言葉の通りだよ、二人で決めた期間だけの結婚。要は今の仕事続けながら、実家継がなくてもいいようになればいい訳でしょ?」
「でも、そんな事簡単にいきっこないよ、結婚って家族まで巻き込むんだよ」
「だからだよ、うちはブライダルを中心に事業展開してるけど、その中にホテル業務もあるのは知ってるでしょ?美希のお父さんには、僕と結婚する事で業務提携ができることをアピールするんだ。将来、甥っ子くんか姪っ子ちゃんが大人になって、後継に育つまでこちらでサポートするって話を持ちかけたらきっと、簡単に結婚の許可はもらえると思うよ」
美希は呆然として類の話を聞いていた。
(類ってこんな人だったっけ?この一年同じ課で働いてきたけど、私が見てきた類とは違う人みたい)
職場で美希はデザインだけしていればよかった。
類はそれを製品化するため何かと他の部署にも顔出すことが多く、下手すると全く合わない日も珍しくない。
「とりあえず一年間!契約終了後に離婚するかどうかは話し合って決めるってことでどお?」
類が畳みかけるように話し出す。
「一年・・」
「美希は今の仕事続けたいんでしょ?それを叶えられるのは僕しかいないと思うよ?それとも見合いしてお婿さんもらう方がいい?」
美希は指輪が入った箱に手を差し出していた。
それを見ていた類が、わずかに口の端を上げて笑ったのを、美希は知らなかった。
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