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ケイアポリス王国編

転生者の相棒は青ざめる

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sideアル『ガルラ村』

 馬車が見えた。

 税金を無駄に使われているような馬車が、何かに追い立てられるように、猛スピードで道を走っている。

「父さん」
「見えている、アシュレイは村長の家にいる。」
「呼んできます。」

 父との簡素な話を終え、私は木を降りて村長の家に行く。今の父との会話の中には実際のところ様々な意味が込められている。

 エルフはその性質上無口な者が多い、その理由として種族全体の知能が高い為にあまり多くを語ること無くとも会話や意思疎通が成立する為だ。

 例えば、先程の会話では

「父さん」
「見えている、馬車だ。王家の紋章、使者か?にしては急ぎすぎている。」
「ええ、使者ならば権威を強調するようにゆっくり来るはず。それが急いでいるということは」
「火急の要件、しかしそれならば王家の紋章をつけた馬車が来る必要は無い。ならば」
「何かに追われている、そういうことだよね。」
「ああ、そういうことだ。何に追われているかは、仮説の域を出ん、本人に確認した方が早いだろう」

「村のみんなに連絡をしてくる。」
「ああ、アシュレイも呼んでくれ。危険は無いと思うが、多分これはアイツ絡みだ。奴は村長の家にいる時間だ。」

 このぐらいのやり取りが、私と父の間では流れていた。それはともかく、この平和な村に、王族の紋章のついた馬車が来る。

 この時代の王家の紋章とは、昔ケイアポリス王国に存在したと言う『魔神具カルマ』が彫られたもので、大体は王族の所有物などにつけられる貴重なもので、王国の象徴だ。

 王族がこの村に来る、この村はなんの変哲も無い普通の村だ。アシュレイおじさんと弟子の私、そしてシルがこの辺りの魔物を狩り尽くして10年。

 この村周辺の生態系は大きく変化した。まずこの村周辺に跋扈していた大型モンスターは真っ先に狩り尽くされた。次に人間にとって特に有害とされる中型モンスターや、主食が人間の穀物や、また人間そのものな魔物も駆除される。

 次第にモンスター達はアシュレイを村周辺に存在する縄張りの長と認めて近づかなくなった。

 かくしてこの村は平和になった、少なくとも村から歩いて1時間圏内には運が良ければ子供でも倒せる雑魚モンスターしかいなくなり、もっと離れた場所でもせいぜいがC+程度のモンスターしか出現しなくなっている。

 なぜ、今この村に王族が来るのか。

 答えは正直、一つしか思い浮かばなかった。

 それと、何故か寒気が止まらないのは何故だろう?


◇◇◇◇
sideアシュレイ『ガルラ村』

「久しぶりですね、アシュレイ。アリアは元気?久しぶりに話を聞きたいわ。」

「こりゃ姫さま。こんな辺境にわざわざ足をお運びくださいまして。アリアは元気です、家に招待しましょうか?」

「いいのよ、私の事情を説明するから馬車に乗って。貴方も良ければどうぞ」

 素っ気なく、目の前の少女は俺の問いに対して答える。身長は高すぎでも低すぎでも無い、輝く金髪と青い瞳を持ったその女性は、「光姫アストルフェ」の名に恥じない美貌と叡智を兼ね備えた少女だ。

 レミーア・フォン・ケイアポリス、彼女は自分をそう名乗った。この少女を知ったのは、俺達がグループを解散して、このガルラ村に住み始めて数年が経った頃だ。

 王族にも関わらず産業開発に力を入れていたレミーアは、俺が目をつけていた冒険者達に片っ端から声をかけていき、人数こそ少ないながらも独立した兵団を作るまでに至っている。

 俺も、そんな1人に手紙で誘われたから良く覚えている。

「貴方の近所に住んでいるエルフの少年は元気か」

 とか

「貴方の近所に住んでいるアル...失礼、エルフの少年の好きなものはやっぱりいい香りのする花か」

 正直、変なことしか書いてなかったな。

 なんでそんなにアルのことが気になる?まぁまだ俺を取り込もうとしててその情報を集めてるのかも知れないな。

 俺が、姫さんから手紙を始めて貰った時の年齢は2歳、神童の名前を欲しいままにしており、そしてそれは、数年経った今も変わらず、いや歳を重ねるごとに増していた。

 この馬車は、アルから馬車が近づいて来ていると呼び出しがかかり、走っている途中で俺達の目の前に止まった。側には見張り番としてレミーアを護衛していた冒険者がついている。

 馬車に入った。村にある花とはまた少し違った、上品な匂いが花をくすぐる、 俺はアルと一緒に、目の前のレミーア姫の話を聞いていた。

「また、貴方の力を貸して欲しいのアシュレイ。」
「一体何が起きたってんですかい」
「クーデターよ、反乱、ね。」

  そう、なんでも無いように目の前の姫さんは言った。

 「国内に存在した貴族派閥の面々が起こした反乱、ケイアポリス王国には王派閥と貴族派閥があった。今回の反乱は貴族派閥のものね。王派閥の重鎮達が辺境に散っている隙の反乱、敵ながら天晴れだわ。」
 「で、あのいけすかねぇジジイやそのガキは」
 「あぁ、お父様やお兄様?全員死んだわよ、親戚もほとんど死んでるのは確認できたし、私が実質最後の王族になるかな?」

 肉親が死んだ、そんな話をしても姫さんの目に変化はない。

 これだ

 これだから貴族は嫌いだ。

 強くなった、誰よりも。強くなるために努力したし、小さい頃は王様になるだの、英雄になるだのを夢見て来た。

 だが無理だ

 こんな気持ち悪い奴らと毎日顔をつき合わせて生きていく自身は俺には無い。

 だがまぁ、そんな気色の悪い気配は姫さんに関してはかなり少ない方だし、姫さんが同情できないレベルであのクソ王とその息子は性質が悪かったので仕方ないかもしれないが。

「だから、私は独立した兵力を求めてるの。それも雑兵じゃない。精鋭を、貴方の人脈なら一個師団に相当する面子を揃えるのなんて楽でしょう?」
「断ったら?」
「わかるでしょう?私が何のために紋章付きの派手な馬車で来たと思う?」
「この村を人質にするつもりですかい」

 ガルラ村に向かって王族が逃げたことは、直に反乱軍に伝わるだろう。反乱軍は追ってくる筈だ。

 最後の王族、レミーアの命を求めて。

 そこに、村は関係無いとかの言い訳は通用しないだろう。国家の大事に比べれば、一つの村なぞどうでも良いだろうしな。

 「なら、1人紹介してー奴がいる」
 「あら、誰?ゲームで...失礼。この村のことはそれなりに調べてみたけど、貴方以外に強者は1人しかいない筈。それに加えて村の防衛もあるでしょ?流石にこの村の防衛戦力を根こそぎ奪う気は無いわ。」
 「どこまで知ってやがるんだよ」

 この村に公に認められている戦力は2つしか無い。

 まず俺、次にこの村唯一の魔法使いであるマルコスだ。

 だが違う、そんなレベルの話をしてるんじゃあ無い。

「紹介してぇのは、俺の息子だよ。」

 あれ、アル君。何故そんなに青い顔をしてるんだい?

 
 
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