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第2部 1章 もう一度あの世界へ

またあの世界へ

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 夢を見ているようだった。

 それは、今まで起きた

どんな夢よりも鮮やかで
どんな夢よりも強烈で
どんな夢よりも『夢』だった。



 

ピピピピッピピピピッ






 目覚ましにつけておいたタイマーの音で目覚める。窓の外から漏れ出る光が、暖かく、気持ち良かった。

  「僕」の部屋には必要最低限のものと、少量の本しか置かれていない。その人の部屋を見ればその性格や本質が見えるだなんてのたまっていた占い師がいたけど、僕の部屋なんか見ても多分何もわからないよな。

 部屋を出て、居間にあるにイス座る。そうすると叔父さんが作ってくれた朝食が置かれている。

 叔父さん、今日も仕事か。土曜日なのによくやるよね。

 この、都内にある簡素なアパートの一室で僕と叔父さんは暮らしていた。

 とは言っても、叔父は今大人気のスマホアプリの管理をしているため、中々家にいることは少ない。

 何もやることないや、テレビでもつけるか

「それでは、現在入った最新のニュースをお知らせします。2日前、不審者に腹部を刺され、意識不明の重体となった被害者の男性ですが、先程意識が回復したと、病院からの発表がありました。現在は療養のため入院しているということです。今回の事件で、警察は当時の状況などの不手際が原因での被害ということで責任問題などに発展する様子です。」

  このニュースも、テレビをつければ毎日のようにやってるな。余程報道することがないんだろうか?

「また、今回の事件で被害者を刺した男は、拘束された独房から逃走し現在行方がわからなくなっているという状況らしく、警察側は原因の解明に勤めております。」

  ピッ

 テレビを消した、既に時計も12時を指すごろだ。休日だからといって特に面白い番組がやっている訳もなかった。

 そもそも、僕はそこまでテレビが好きな訳でもない。

・・・・ 本でも買いに行こうかな?このままここにいても、無意に休日を過ごすことになりそうだし。

 その時、僕は本を買いに行こうと本気で思ったのか、それとも誰かに呼ばれたような気がしたから外に出たのか、その答えは、外に出ようと僕が決心した10分後に明らかとなる。







「やぁ」

 外に出ることを決心し、着替えた後に家のドアを開けたその瞬間、その男は現れた。

 その男は、金色の髪、緑色の瞳を持つ男だった。昨今外国人なんか見慣れたという人もいるだろうが、僕は少なくともこのアメリカンな外国人に見覚えはなかった。

「すいません、どちら様ですか?申し訳ありませんが、叔父は現在仕事で出かけているんです」

「あぁ、すまないね。君に逢いに来たんだ、松岡輝赤君。」

 そう言うと、その外国人はフランクな笑顔を見せてくれた。なんともその顔が自然すぎて、僕には逆に不自然に見えた。

「思い出さないな、魔王でもこの段階、否この段階より前には思い出したと言う風にフレイヤから言われていたのだが・・」

目の前で外国人がぶつくさ言ってるが、僕には何も聞こえない。

「すいません、一体僕になんの用ですが?」

 なんだろう、この外国人を見ていると何故かイライラしてくる。生理的嫌悪というものなのだろうか?普段人に対して嫌と感じることはないのだが、この外国人を見ていると、何故だか悪寒を感じる。そんな雰囲気をこの外国人は放っていた。

「あぁ、そうだね。それじゃあ、プランBだ。ちょっと失礼するよ、ハイッ」

 そう言うと、外国人は僕のおでこに向かって人差し指をピタリとつけた。

 えっ何この人!?新手の変態?

 若い男のおでこ触るのが好きな外国人なんているの?

 そうレッドは考えたものの、体が動かない。セメントに貼り付けられたようにピタリと、指先とおでこが動かないのだ。

 そして数秒後、レッドの顔付きは明らかに変化する。驚愕、驚きの表情から、まるで怪しげなものを見るかのように。

「なんでここにいるんですか、ウルフィアスさん・・」

「あ、思い出した?良かった。これで思い出さなければどうしようかと思ってたよ、上がってもいい?」

 外国人、変じてウルフィアスは、そう言うと軽くウィンクした。

 医者の神、ウルフィアス。人間としては、ライト王の知恵袋にして魔導局筆頭魔術師が、そこにいた。


◇◇◇◇

ウルフィアスside

 今、私は「彼」の家の前に立っている。理由?もう一度彼に世界に来てもらい、世界を救ってもらう為さ。

 だから、私はここに立っている。そうでなければ礼を欠いてしまう、魔王も、この松岡輝赤も、本来であれば死亡する存在だった2人は、フレイヤが与えた『チャンス』に従い、見事フレイヤの期待に応えた。

 やり通した者には、代価が支払われて然るべきなのだ。今回も、彼にとっても必要な代価を支払うことができそうなので、ほっとした。

 この条件なら、彼はやると言わざるを得ないだろう。

 少々残酷ではあるが。

 まぁ、彼が成功しようと失敗しようと、助けてあげるつもりはその通りなのだが。

 「彼」が来た方が、アヴァロムは面白くなりそうだしな。これは演劇のチケットのようなものだろう。

 僕にとって、彼やフレイヤは舞台の上で踊る役者でしかないのだから。

 ガチャリと、ドアが開いたと同時に、僕は輝赤くんに挨拶をする。
 
 予想通り、彼は記憶を無くしていた。怪訝そうな顔をしている、今にも警察に通報しそうだ。

 流石にちょっとそれはマズイかな?

 この世界からアヴァロムへと行く、神ならば簡単そうに見えるが、その条件は意外と厳しい。まるっきり違う場所へと行くのだから、まぁ厳しくなければいけないのは当然なのだが。

  記憶がなくなるのも、その一種の症状の1つだ。転移をした前後の記憶がなくなる場合もあるらしい。輝赤くんの場合がまさにそれだったのだろう。彼はアヴァロムに飛ばされた理由すらもわからずにこの世界に来てしまった。普通なら女神からの指示があってからこの世界に来るべきな筈なのに。

 まぁ、そんなことを考えている間に輝赤くんの僕を見る目がだんだん犯罪者を見るような目になって来たので、するべきことを済まそう。

 説明するのをすっかり忘れていたような気がするが、僕は医者だ。この世界の病気、死因の全てを克服した男でもある。場合によっては、意味に若干の差異はあるだろうが、「死」すらも僕は克服した。

 今回治すのは・・松岡輝赤くんの『記憶』だ。

 アヴァロムの記憶については、全てが破壊されてしまっていた。しかし、それは『消えてしまった』のではない。『思い出せなくなってしまった』だけなのである。事実、魔王も記憶は破壊されてしまっていたが、フレイヤとの再会、下手すれば再会前には自力での記憶の復元に成功していた。

 今回は、輝赤くんが自力で思い出さなかったので、仕方がないので記憶を治してあげる。

 僕は、指先から〇〇を伸ばして輝赤くんの脳まで到達させて、脳を弄り倒した。

〇〇?なんのことだかは教えないよ?

 さて、どうなることやら

「なんでここにいるんですか、ウルフィアスさん・・」

 次の瞬間にはそこには、いつも通り、というか先ほどと対して変わってないような気もしなくもないが、確かに僕のことを覚えている輝赤くんが戻ってきた。

お、良かった。思い出したようだね!

◇◇◇◇

松岡輝赤 (レッド)side

「うん、美味しい!いいね~まさか紅茶があるとは!君の叔父さんのセンスはとても良いようだね」

「ありがとうございます」

 とうとう居間の椅子に座って出したお茶を飲み始めていること人。一体全体何しにきたんだろう?

 僕も椅子に座って、要件が何かを待っているが、こんな話しかウルフィアスさんはしてくれない。

 一体なんだろう?

「美しく、シンプルな家具の配置。風水も良い。なるほど、叔父さんの性格が伺えるな。」

「そうですね、叔父さんは真面目な人です。ちょっと真面目すぎますけど」

「そうなのだろう?あぁ!是非お話をしてみたかった」

 と、こんな感じで、平行線だ。これじゃあよく家に遊びに来る近所の人と大差ないので、僕は本題に切り替えることにした。

 ちょっと言ってくれるのを待っているような気もしなくはないからね。

「で、結局ウルフィアスさんが家に来た理由って一体なんなんですか?まさかこっちに戻って来た僕の様子を見に来ただけなんて言いませんよね?」

 途端、ウルフィアスさんが少しだけ緊張の色を見せたのを、いつも鈍感だと言われている僕にしては珍しく見逃さなかった。

 瞬きをしたような時間の後には、すぐに元のウルフィアスさんに戻っていたのだが。

「そうかい、せっかちなんだな。輝赤くんは。・・・・アヴァロムに来てくれないか、もう一度」

「え?」

 また、戻る?あの世界に?

「また戻って、何をしろと?」

「詳しくはアヴァロムへ行ってから話すが、また闘ってもらうことになる」

「クロや、グリーン、イエローホワイトピンクがいます。戦闘に秀でていない僕が行っても仕方ないのでは?」

「いや、これは君にしかできないことなのだ。全ての神器の適合者は君だけなのだから。」

「それでも、お断りします。闘いは・・ごめんだ」

「・・そう言うと思っていたよ。」

 そう、闘いなんてものはごめんだ。あの世界でまた身を危険に晒す。人魔戦争の時のリアルな死の恐怖に身をかがめ、アイテールの戦いのように人を斬る?

もう2度と、あんな感触はごめんだ。



「代価は叔父さんの命でどうかな?」

「え・・・・」

「君の叔父は、今日から3日後に死亡する。私の世界の死の神からの宣告だ、間違いはない。我々だけが、その未来を回避できる」

「・・どんなことをしても、逃れられないんですか?」

「無理だな、アヴァロムと違い、この世界の死の運命は強烈すぎる。君と魔王の死の運命を変えるだけで、フレイヤが力を使い果たし、戦うのに支障をきたすレベルなんだ。代価は相当なものと見ていいだろう。」

 え?

たった3ヶ月だ、この世界に戻ってきて、僅か3ヶ月。そんな短い間であの世界に戻らなくてはならないなんて。

 恐怖もある、けど。





「わかりました、行きます。」

「・・すまないね、輝赤くん。」

「ウルフィアスさんが謝ることじゃないですよ、それに、僕は行くと言っただけです。戦うとは言ってません。叔父さんの命もかかってるんでしょう?なら、行きます」

 今も闘いは嫌いだ。人の血も、自分の血はもっと。

 でも、きっと、グリーンやクロなら。僕が戦う前に「勝ったぞ!」って、そう言ってくれるんじゃないかなと。

 そんな予感がした。

僕は、僕の部屋から一本の木刀を持って、ウルフィアスさんの前に立った。

「準備はいいかい?」

 いつもと変わらないウルフィアスさんの声に、僕は了承で答える。

 突如、またあの光が、僕の目の前に輝き始めた。
 

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