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10章 多重人格者の未来は
女神の後悔、医者の神
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2つの技のぶつかり合いは、文字通り神殿を完全崩壊にまで追い込んだ。
互角とも言える2人のぶつかり合いで、ギリオンの刃は欠けて輝赤の手から離れると、回転しながら神殿の床に突き刺さり、その光を絶やした。
輝赤本人の右鎧は半壊、衝撃により顔を覆っていたヘルムまでもが半壊すると言う有様だった。
しかしその衝撃の被害は、片方のみに落ちるものではなく、アイテールにも同様に届いていた。
貫手を放った右腕は服と共にボロボロになっており、彼本人も苦痛に顔を歪める
しかし、攻防は終わっていなかった。
輝赤は斜め横に一回転すると、使えなくなった武器と両腕に代わり、口で宙に浮いていたツヴァイハンダーを噛んだのだ
その回転の威力のままアイテールに斬撃を加えんと、口で剣を振り下ろす
「その執念には恐れ入った、しかし私には水晶がある! 」
そう、背中に本命として残しておいたあの水晶を自らの守りとして使ったのだ。
透明な球体は死角から飛び出た後、輝赤の一撃を真正面から受け止めた。
この一撃の余波で、床に入っていたヒビは決定的なものとなり、あたりにヒビが広がり始める。木屑がボロボロとあたり一面に落ち始め、神殿を支える柱が折れた。
そして、アイテールにとっても予想外なことが起こる。
水晶にヒビが入ったのだ、アイテール愛用の水晶は、ツヴァイハンダーの刃と引き換えに重大な亀裂を入れ、その虹色の輝きを失くした。
ツヴァイハンダーと水晶は、持ち主から大きく離れた場所に刺さり、ただの剣と割れた水晶にその色と形を戻した。
「私の権威の象徴を、まさか捨て身で破壊しに来るとはな」
「貴方も立っているので精一杯な筈だ、もういい加減に.....」
「ぬかせ、自分の鎧を見ろ。もう鎧を治す魔力すら残っていないではないか、神器とて魔力の詰まった入れ物にすぎん。創りものと私、2連戦、いやそれ以外にも戦って来てるな?それを繰り広げて来ているのだ。限界により近いのはお前だろう」
「なら、最後までやるしかないんですね」
「元より私はそのつもりだ、甘い考えは捨ててくれ」
2人は再度ぶつかり合おうとした、その時ーーーー
神殿の床に穴が空いた、その下には、あの見慣れた街並みと城
「えっ王都ーーどうして?!」
「ちぃっ! 神殿の持つ自己防衛機能か!よりによって王都に落ちるとはな」
神殿の自己防衛機能ーー神殿に入る不埒者を追い出すための装置である、この神殿が建ってからほとんど使われていない仕様だ。
しかしその仕様は、近年アイテール達の手によって破壊されていた。
この激闘のの余波により、その破壊されていた装置が再び起動を果たした。
あまり余力の残っていない2人に、そこから逃れる術はない。大人しく上空2千メートルはあるであろう宙から、2人は真っ逆さまに落ちていった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
フレイヤは1人、崩れゆく神殿と共にこの事件の顛末を見守っていた。
アイテールは人間体としての全力を出して松岡輝赤と戦った、彼は最早私と戦うだけの余力はない。
勝ちは決まった。だがその変わりに、神殿を失うことになってしまった。
思い出の神殿を
フレイヤの目には、崩れかけの椅子や、机や、彼とアイテールの戦いは消えていた。変わりにあったのは、まだ美しく、太陽に照らされ、今よりも圧倒的に明るかった神殿ーーーー
それに集まった7人の男女達、中には樹木のような生物や、まるでライオンのような鬣を持つ偉丈夫。影のような存在に犬を形だったような存在など、どれも一癖も二癖もあるような連中がいた。
そんな連中が、神殿の椅子に座り込み、話をしている様は、遥か昔の話。
勇者や、魔王など、その時には存在しない。
誠に人が生まれてすぐのような、そんな時間の話だ。
人が弱肉強食の理において、最弱の部類を持っていた時代。
そんな時期に、人でないものが人に興味を持ち、人の中に人を超えるものが出現し、この集会の仲間入りを果たした。否仲間を作ったと言うべきか
そこに種族間の諍いも何もなかった。それはまるで、奇跡のような出来事であった。
そしてそれから月日は流れ、数々の戦歴をうちたてた彼らは伝説となり、そして神話となった
ーーそれに彼らが気づいたのは随分と先の事であったが。
「ウルフィアス」
彼女は後ろをも振り向かず、そんな言葉を口走っていた。
懐かしい友の名前を思い出すように
「ん?呼んだ?」
タイミングは彼女が彼を呼んだのと全く同じタイミングだった。
そこに出て来たのは、ローブを被った30代前半の、中年間際の壮年の男
王国第2王子、ライト王子の腹心である、あのウルフィアスであった。
この男もまた、11人の柱の1人であった。特化した職業は医者、「完璧な人間を作る」のが目標であったが、今は休業中である。
「いや~そうそうたるメンバーの中で私を先に呼んでくれるとは光栄だね!でなんか用?」
「まさか呼んだらすぐに現れるとは思ってもいませんでした」
「あ~そうだろ?会ったのも魔王の肉体を作った時だから、ほんの少し前だしな。あのアホ王子の整理が色々終わったのでな、抜け出して来た。」
「この神殿、治せませんか?貴方なら可能では」
「...確かに私は医者だ、ありとあらゆるものを治してやりたいのは山々だ。だがこの神殿には、あらゆる同士達の技術の粋が入っている。........不可能だよ、それに近いものを再現するのは可能だがね」
笑いながら話をしながらも、既にこの神殿の様子を察していたウルフィアスは、はっきりとその提案を蹴った。
死にかけている者なら治せよう
死んだ人間も治そう、私の力ならば十分に可能なはずだ。
だが、人の記憶は、思い出は治せない。それが友の大事な記憶とあらば尚更だった。
「じゃあ、そうして下さい」
「........わかった」
そう言うと、フレイヤは神殿から消え去る。この物語の顛末を見届ける為だろう。
ウルフィアスは1人残された、無口な女だ。
だが守りたい気持ちもわからなくはない、最早これだけなのだ。昔の自分たちを繋ぐものは
今は仲違いしてしまった我々の
後日、とある場所にて神殿が目撃されるようになる
その神殿はまるで昨日建てたばかりのように神聖で、見たこともない装飾品や、絶えることのない火が灯っており、やがてそこに司祭が手入れをするようになり、やがて冒険者の憩いの場所になることになる。
その神殿は、強者どもの夢の場所。
互角とも言える2人のぶつかり合いで、ギリオンの刃は欠けて輝赤の手から離れると、回転しながら神殿の床に突き刺さり、その光を絶やした。
輝赤本人の右鎧は半壊、衝撃により顔を覆っていたヘルムまでもが半壊すると言う有様だった。
しかしその衝撃の被害は、片方のみに落ちるものではなく、アイテールにも同様に届いていた。
貫手を放った右腕は服と共にボロボロになっており、彼本人も苦痛に顔を歪める
しかし、攻防は終わっていなかった。
輝赤は斜め横に一回転すると、使えなくなった武器と両腕に代わり、口で宙に浮いていたツヴァイハンダーを噛んだのだ
その回転の威力のままアイテールに斬撃を加えんと、口で剣を振り下ろす
「その執念には恐れ入った、しかし私には水晶がある! 」
そう、背中に本命として残しておいたあの水晶を自らの守りとして使ったのだ。
透明な球体は死角から飛び出た後、輝赤の一撃を真正面から受け止めた。
この一撃の余波で、床に入っていたヒビは決定的なものとなり、あたりにヒビが広がり始める。木屑がボロボロとあたり一面に落ち始め、神殿を支える柱が折れた。
そして、アイテールにとっても予想外なことが起こる。
水晶にヒビが入ったのだ、アイテール愛用の水晶は、ツヴァイハンダーの刃と引き換えに重大な亀裂を入れ、その虹色の輝きを失くした。
ツヴァイハンダーと水晶は、持ち主から大きく離れた場所に刺さり、ただの剣と割れた水晶にその色と形を戻した。
「私の権威の象徴を、まさか捨て身で破壊しに来るとはな」
「貴方も立っているので精一杯な筈だ、もういい加減に.....」
「ぬかせ、自分の鎧を見ろ。もう鎧を治す魔力すら残っていないではないか、神器とて魔力の詰まった入れ物にすぎん。創りものと私、2連戦、いやそれ以外にも戦って来てるな?それを繰り広げて来ているのだ。限界により近いのはお前だろう」
「なら、最後までやるしかないんですね」
「元より私はそのつもりだ、甘い考えは捨ててくれ」
2人は再度ぶつかり合おうとした、その時ーーーー
神殿の床に穴が空いた、その下には、あの見慣れた街並みと城
「えっ王都ーーどうして?!」
「ちぃっ! 神殿の持つ自己防衛機能か!よりによって王都に落ちるとはな」
神殿の自己防衛機能ーー神殿に入る不埒者を追い出すための装置である、この神殿が建ってからほとんど使われていない仕様だ。
しかしその仕様は、近年アイテール達の手によって破壊されていた。
この激闘のの余波により、その破壊されていた装置が再び起動を果たした。
あまり余力の残っていない2人に、そこから逃れる術はない。大人しく上空2千メートルはあるであろう宙から、2人は真っ逆さまに落ちていった。
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フレイヤは1人、崩れゆく神殿と共にこの事件の顛末を見守っていた。
アイテールは人間体としての全力を出して松岡輝赤と戦った、彼は最早私と戦うだけの余力はない。
勝ちは決まった。だがその変わりに、神殿を失うことになってしまった。
思い出の神殿を
フレイヤの目には、崩れかけの椅子や、机や、彼とアイテールの戦いは消えていた。変わりにあったのは、まだ美しく、太陽に照らされ、今よりも圧倒的に明るかった神殿ーーーー
それに集まった7人の男女達、中には樹木のような生物や、まるでライオンのような鬣を持つ偉丈夫。影のような存在に犬を形だったような存在など、どれも一癖も二癖もあるような連中がいた。
そんな連中が、神殿の椅子に座り込み、話をしている様は、遥か昔の話。
勇者や、魔王など、その時には存在しない。
誠に人が生まれてすぐのような、そんな時間の話だ。
人が弱肉強食の理において、最弱の部類を持っていた時代。
そんな時期に、人でないものが人に興味を持ち、人の中に人を超えるものが出現し、この集会の仲間入りを果たした。否仲間を作ったと言うべきか
そこに種族間の諍いも何もなかった。それはまるで、奇跡のような出来事であった。
そしてそれから月日は流れ、数々の戦歴をうちたてた彼らは伝説となり、そして神話となった
ーーそれに彼らが気づいたのは随分と先の事であったが。
「ウルフィアス」
彼女は後ろをも振り向かず、そんな言葉を口走っていた。
懐かしい友の名前を思い出すように
「ん?呼んだ?」
タイミングは彼女が彼を呼んだのと全く同じタイミングだった。
そこに出て来たのは、ローブを被った30代前半の、中年間際の壮年の男
王国第2王子、ライト王子の腹心である、あのウルフィアスであった。
この男もまた、11人の柱の1人であった。特化した職業は医者、「完璧な人間を作る」のが目標であったが、今は休業中である。
「いや~そうそうたるメンバーの中で私を先に呼んでくれるとは光栄だね!でなんか用?」
「まさか呼んだらすぐに現れるとは思ってもいませんでした」
「あ~そうだろ?会ったのも魔王の肉体を作った時だから、ほんの少し前だしな。あのアホ王子の整理が色々終わったのでな、抜け出して来た。」
「この神殿、治せませんか?貴方なら可能では」
「...確かに私は医者だ、ありとあらゆるものを治してやりたいのは山々だ。だがこの神殿には、あらゆる同士達の技術の粋が入っている。........不可能だよ、それに近いものを再現するのは可能だがね」
笑いながら話をしながらも、既にこの神殿の様子を察していたウルフィアスは、はっきりとその提案を蹴った。
死にかけている者なら治せよう
死んだ人間も治そう、私の力ならば十分に可能なはずだ。
だが、人の記憶は、思い出は治せない。それが友の大事な記憶とあらば尚更だった。
「じゃあ、そうして下さい」
「........わかった」
そう言うと、フレイヤは神殿から消え去る。この物語の顛末を見届ける為だろう。
ウルフィアスは1人残された、無口な女だ。
だが守りたい気持ちもわからなくはない、最早これだけなのだ。昔の自分たちを繋ぐものは
今は仲違いしてしまった我々の
後日、とある場所にて神殿が目撃されるようになる
その神殿はまるで昨日建てたばかりのように神聖で、見たこともない装飾品や、絶えることのない火が灯っており、やがてそこに司祭が手入れをするようになり、やがて冒険者の憩いの場所になることになる。
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