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9章神と人

古戦場は再度揺れる

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これは、松岡輝赤が王都に突入する、ほんの少し前の話である。

「突撃」

アスカモーの低い声が戦場一帯に広がると同時に、各所魔王軍の雄叫びが木霊する。

魔王様が説得にあたってくれたのか、それとも自発的な行動かは不明だが、魔王軍の総数は5万にまで膨れ上がっていた。

おまけにアスカモーの周りには、魔王軍配下の最強集団「黒の軍勢」がいる。魔王がアスカモーにつくようにと指示を出していたのだ。

人魔戦争があった場所、アイテールが復活したこの場所からは、天使が驚くほど大量に出現している。

その総数、既に50万を超えているのか否か

「魔王様のお言葉通りなら、アイテールが復活した地下には、天使たちを生み出す魔法陣が設置されているとか。そこを破壊することが我々の仕事ですね」

再度、ウーフィルが現状の任務を確認する。

あぁ、とアスカモーは答えるが、この戦い、少数精鋭で穴の中には入る予定でいた。

現状天使たちは穴から出てくることはなく、穴を守るために残されているであろう天使たちのみである。

なら、魔王軍全体には天使たちがこれ以上出現することを防ぐために、この場に待機してもらう予定でいた。

全体の指揮はメデューサ

突入するのは
アスカモー
ウォーカー
ウーフィル
ビネル
ギールだ

「それにしても、どーやってこの下に降りるのですか?」

ウーフィルの疑問も最もといえば最もである。何故なら、アイテールが開けた穴は完全なる穴ぐらだ。下は見えない、リスキーにもほどがある賭けだが、飛び込む他ないだろう

それが魔王に託された指示ならば

「~飛び込むとか言うんじゃないですよね?皆様、ここは私の能力にお任せぇ下さい!悪魔道」

ギールが回転しながら、マントの下からゾワゾワと、影が延び始め、幹部達の目の前に螺旋階段が出現する。

「では~これに是非乗ってもらってうぐっっっ!!ウ、ウォーカー様、できるならば貴方はサイゴニウグヘェぅぅ!アスカモー様...重い...」

「ブンバレギール、オドゴノミゼドゴロダゾ」
「ギール...強くなったんだね」

ウォーカーとビネルがからかうようにそう呟く

なんの遠慮もなく螺旋階段を降りきりる頃には、ギールは真っ白に燃え尽きていた。

「ふふ...やりきった...これが魔の森で手に入れた私の新しい力...これで...オレは魔王に...」

「しなびた干物みたいな奴は放っておいて行くぞ」
「ハッ、それにしてもここは...血の匂いしか致しませんな...」
「あぁ...まるで先に誰か戦闘をしていたかのような...」

そんな訳がない、とアスカモーは頭を振る

ここは、側から見ればただの穴ぐら、厳重に守られてるのに、よく見れば気づく人間はいるかもだが、人間達は今天使達に襲われている。あの穴がある周辺に、既に生命体は消えていた。

ここから天使が生まれることを知っているのはほんの一握りの生命だけなはずなのだ。

そんなことを知っている人間がいるはずがないーー

そうは言っても、辺りに濃厚な血臭がするのは変わらないし、穴ぐらの底の先にあった道で、1人の老人が戦っているのを彼らが目にするのは変わらないのだが。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「誰だ!!」

先代勇者は、スラリと愛剣を抜いて後ろに構える。

後ろには魔族

何故、ここに魔族がーーーーー

ここには天使達しかおらず、魔族なぞほとんどいない、無論、魔獣が自然に沸くというのはあるだろうが、そのようなことは天使が許さない、全て刈り取られてしまっている。

「魔王軍第7位、アスカモーというものだ」
「......カイセイだ、この辺りで猟師をしている。」

名前を名乗られたから、とっさにこちらも名乗ってしまった。しかし魔族と人間は相入れない存在、魔族と人間があったら即殺し合い

それが、この世界の常識である。それは今も同じである、そう勇者は決めつけていた。

「何か用か、魔族...」

「よし、私はウーフィルと言うものだ。ではカイセイ殿、ここまでの穴ぐらの情報が欲しい、知っていることがあれば教えてくれないか?」

狼男のような魔族が、アスカモーと名乗った鬼に変わり訪ねてきた。

というか、ん?

「......戦闘をする意思がないのか?貴様達」

「......いや、何故なんの恨みもない奴といきなり戦わなくてはならないのだ」
「いや、私は人間なのだが...」
「当たり前だろ、馬鹿にしてるのかお前は」

んん?なんかおかしいな

この場にいる魔族の誰もが、こちらに敵意を向けてこない。

なんなら後ろの機械族のような男と、ダークエルフは、干からびた男を弄んでいる。

「やーいやーい」
「ちょっ...ウォーカー様、ビネル、やめっ...ちょ...アーーーーーーッ」

............なんだこの空気

1人だけ真面目にしている自分が馬鹿らしいほどの雰囲気だ。

「貴様達...何故そんなにも警戒心が薄い?!」
「なんでって...そりゃあ、魔王様人間になってたし...」

アスカモーとして名乗った鬼は、とんでもないことを言い始めた。

よりによって魔王が人間などと

「あーそれに、人間の商人とか友達だし、人間は交渉相手という印象しかないな。弱い存在だとは思ってるけど」

んんんんんんんん?!


帝国の祖となった勇者

そんな男がここまで絶句する。

そのようなことは、生前にもなかったことだろう。



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