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魔王と多重人格者、相対ス

皆を癒すのはピンクの仕事です

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暗い、ただ暗い雰囲気が、連合軍の雰囲気を支配していた。帝国の将軍の戦死、右陣の王子及び神器使いの拿捕、援軍として期待されていた戦士ギルド及び魔導ギルドの面々が、突如として現れた一本の弓で部隊にかなりの損壊を与えただけではなく、メンバーを守る為に弓の攻撃を防いだ魔導ギルドマスター及び戦士ギルドマスターの戦死。部隊の指揮を預けられるものがいなくなってしまった。それに今現在も、小規模ではあるが、ゾンビなどの進行は進んでいる。それも数が多いため、処理に苦労している。中には不覚にもやられてしまう兵士たちがいた。

ガウェイン王は、これに対し新たに全軍の再編成にかかる。中央を引き続き王が前に出張り、右陣をルーカンに一任、左陣をグリーンの軍に合わせて戦士ギルド、魔導ギルドの面々に任せるという異例の陣を取った。

グリーンの陣に関しては、当初完全なる部外者と言うことで将軍及び騎士達からの不満もあっただろう。これを機会に手柄をという貴族達もいたはずだ。

しかし、誰も異論を挟むものはいなかった。グリーンが指揮を王国の将に一任していたのは知っていたし、何よりグリーンが行った戦果を重々承知しているためである。

全ての陣地の中で唯一左陣を総崩れにしたその実力を疑うものは誰もいなかった。撤退戦の時や、2軍として行軍に参加していた時に、クロが土木作業に積極的に参加したことも、王国、帝国軍の心境を良くする一抹として役立ったようだ。

ジャン=ギルドバスターの糧食運搬も完了。糧食を捨てて進行速度を速めるというガウェイン王の目論見は、結果として半端外れることになったわけではあるが、それでも8万人(減少している)を越える糧食を準備することができたジャンの手腕は凄まじいものだった。

こうして外部の活躍もあり、魔王軍との戦いはなんとか4分6分程度の戦力差で1日を終えることができたのであった。

しかし、兵士達の士気の比率は、4対6程度ではおさまらなかった。右陣のものは大将をむざむざ捕らえられ、残った魔族に蹂躙されながらも耐え凌いだ。中央に関しては、ガウェイン王が建て直したとはいえ、大将が目の前で殺されているのだ。士気の低下は避けられないだろう。

こればかりはどうしようもない。現状自分たちは負けている。ここで負ければ、次は国の自分の親、友人、大切なものが奪われる。侵略者と戦う騎士達の心境は、暗闇に閉ざされていた

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
『ウーフィル、ここは任せよ、貴様は魔王様に左陣の崩壊をお知らせするのだ。』

『何をおっしゃられますか叔父上!ここを任されたのは私です!私が残ります』

ここは魔王軍左陣、あの忌まわしき神器使いがここに到着するまであとわずかといったところである。

私は大将として、最後まで人間どもと戦うまで残ろうとしていた。

我らには大義がある。人間に虐げられし獣人、エルフを解放するという大義が。そのために戦っているのだし、そのために死ぬなら悔いはない。

ーー我ら人狼族は、魔王様が台頭なされる前は1派閥として魔族領にて君臨していたが、父と、あとを継ぐはずだった私の兄が病で死亡、当時敵対していた魔族の侵攻のため一族は危機に立たされていた。私は叔父がいたため、叔父が一族の棟梁となるのかと思っていたのだが、叔父は私を推挙し、私が一族を率いることになった。自分には頭脳がない、だが、ウーフィルの頭脳なら、この一族の危機を救うことができる。と

私は皆の反対を押し切り、新しい魔王を頼ることにした。彼は言った

『この世界に足りないものはなんだと思う?』

『この世界を治めるに値する王、かと』

魔王は無表情で私を見た、その顔が少し悲しげに見えたのは、私だけなのであろうか。

その後私は必死で強くなろうと努力し、人狼族でもそれなりには強くなれたつもりだ。人狼族の奥義を扱うことができるものは一族の代々の棟梁でも数少ない。それを扱うことができたのも、一重に努力の賜物であった。

しかし、そんな私に対して、叔父上は逃げろと言う。人狼族の矜持も誇りも捨ててまで生きていたくはないと、そう訴えたが、叔父上にはそれが届かなかった

『お前はまだ若い、こういうのは、我々老人たちの仕事であろう?なぁに、お前が魔王様に命じられて開発していた秘密兵器もあるんだ、敵の大将首を取ってひょっこり帰ってきてやろう』

嘘だ、と彼は叫ぶも、叔父は振り返らない。私の奥義すらも効かない相手なのだ。しかもパンドラの箱から出てきた猛者達も一緒だという。いかに新兵器があっても無駄であろう。我々を逃がすために叔父上達は盾となろうとしているのだ。ウーフィルがほかの人狼達に連れ去られる前に最後に見たのは、叔父がテントから出て、狼に変化する瞬間だった。

そして現在、王の前に私はおめおめと生き恥を晒してここにいる。敗北の責任を取らされ、処断されてしまうことだってある。しかし魔王様の反応はとても淡白だった。

『無事で何よりだ、敵も引いていった。会議に入る。席につくがいい。』

私は無言で席に座る。他の幹部達も到着し、幹部達の会議が始まった。

明日からの陣形の整理などが目的である。

右陣は安定してきたのでアルフィィオス殿が一任され、中央は私。左陣に魔王様が出てくることとなった。

かくて明日の魔王軍の陣地は決まったのだがその前にひとりの報告が入った

「失礼いたします。左陣よりご報告にがりました』

あれぇ?!叔父上、なんで死んでないの?

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

『.........ということで、私からの報告を終わりにさせて頂きます。』

『やはり敵に回るか、あの男も。所詮は人間か、仕方がないことではあるが。』

魔王は幹部と共に人狼族の男の報告を受けていた。驚いたことは、ジャン=ギルドバスターが敵に回ったことではない。いずれは敵に回る存在だったのだ。

ーー友とは言え、譲れぬところもあるのだよ。ジャン。

また、ウーフィルの叔父を殺さなかったことでもない。ただの甘っちょろいやつ、そう片付けることもできた。まぁこの行動も魔王がそれを確信する要因の1つとなったのだが。

何より...あの神器使い、銃弾を盾で防御しようとしたと言ったか?あの、世界で初めての「銃」という武器に対して、それが危険なものと察して盾で防御したと。

あれはまだ実用段階には入っていない。大きすぎる音、暴発の可能性、実弾数の少なさ、コスト、命中精度、全てが弓に劣っている。

それでも銃だ、色々な場所を探して確信した。この世界で初めての、初めての筈の銃な筈なのだ。ジャンには確かに話した。だが無理だ。ヤツに教えたのは初期構想、我でさえ喉から手が出るほど欲しかった銃を構想するのに20数年、実際に作るところまで来るのに10数年かかったのだ。

それを判断した、「それが危険なもの」だと判断したのだまぁ咄嗟の判断や勘というものもあるだろう。だが、前回会った時の発言、ウーフィルの叔父をわざわざとどめを刺さずに制した甘さ。

俺と同じ境遇の奴がいるのか?!察していたところもあった。前の時点で、しかし前は確信まで至らなかった。しかし今は違う、我の聞き間違いなのかもしれない。勿論銃に対しても条件反射なのかもしれない、しかし我は、我にはそうとしか考えれなかった。

そして、今人間として!俺の前に立ち塞がっている。甘さ、様子見る限りまだこの世界に来て間ものであろう、なんの苦労もなしに。

我はこの世界に拒絶されていた。醜い体で生まれ、生きるかどうかの瀬戸際を何度も経験し、数え切れないほどの年数を費やしてきたというのに。

嫉妬か、これが嫉妬か。
我の夢にまで出てくる。そのものは、実は助けたいと、そう思っていた。この世界に同じ境遇として来て、しかしそれも最早ない。その圧倒的な力にものをいわせ、ここまできたのだろう。殺してくれよう、この世界のルールに則り、跡形もなく、希望もなくだ。

『マオウザマ...サイガイノジョキヨアリガタキシアワセ...コレヨリワレモセンセンニフッキイタシマス』

会議の途中だったか、我は怒りをこらえ、それに応える。

『嘘をつくな、霊峰の土砂災害をどれだけの間留めていたと思っているのだ、ウォーカーよ、お前のことを我は過大評価していない。後陣のギールと交代せよ、奴とともに糧食を守れ』

『ギョイ、モウジワゲアリマセヌ』

明日だ、全ては明日決まる。
空に光が広がっていた。その美しい光が彼には赤く、黒々としたものにしか見えない。


美しきものすら、我には見させてくれないのか、神よ

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

美しき光が、連合軍中を包んでいた。
その光は、傷を治す。大怪我がみるみると治っていく、怪我に呻き、心までもが病みきっていたもの達にとってその光は、天よりの恵みに他ならなかった。

士気は自然と高まり、彼らの目に希望の火が灯る

神が言っているのだ。倒せた、侵略者から守るのだと。

『いいのか?主人よ、これを皆の前でやらなくても』

それをしているのは、勿論ピンクだ。

神器を杖に変化させ、前にやった時よりも強い光を放ち続ける。強い光を、大きく、広く

『え?しらないの、どらごんさん。』

イヴァンからの......至極もっともな意見にピンクはあっけらかんとこう答えた

『ヒーローはね、正体がばれちゃったらいけないんだよ!』




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