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前章・九州大名決戦編
勝ったけど負けた
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「あーあ、勝ったけど負けたわ。勝ったのは兵の差だ」
やる気を失ったかのようにドレークは大の字で地面に寝っ転がった、彼の目の前には首を失ってなお立つ土居宗珊がいる。
「おい、その男より先に出るな。殺すぜ?」
ドレークは敗走した一条軍を追撃しようとするスペイン軍にそう指示を出す、宗珊の横を通ろうとする直前に発された殺気と声に反応しスペイン軍の兵士はその場を去っていく。
追撃したって無駄だ、土佐一条軍は統率がまるで取れていないが意思の統一は為されている。
彼らはもう安全な場所まで逃げおおせているだろう、安全な場所とはつまり毛利の本軍だ。
下手に追撃すれば反撃を喰らう、そんな簡単な理屈を一流の将たるドレークが理解していない筈も無い。
故に、この場は撤退なのだ。
と言うか、そんな理屈は抜きでもうドレークにやる気が無かったのもあるのだが。
「ガリレオがこれ以上指示を出さないんだ。このまま待機で良いんだろうさ」
本来、この場面であれば相手の体勢が整っていたとしてもドレークたちなら突破できたかも知れない。だがガリレオが突撃の指示を出さないと言うことは、この場面で突撃しないことそのものが最善手であると言うことに他ならない。
少なくともドレークはそう認識していた。
しかしこの場でガリレオがドレークに指示を出さないのにはもう一つある。
それはカトーの指示である、彼を入れた幹部たちにはある程度行動の制限をしないようガリレオに指示が入っていた。
特筆するべきは、そんな自由な彼ら幹部の性格、行動パターンを加味した指示を出すガリレオではあるのだが。
ガリレオはその年齢も相まって幹部の中で言えば新顔だ、だがこの航海の短い間でガリレオは幹部連中の性格を良く熟知していた。下手すれば本人よりも多くのことを知っていると言うのだから驚きである。
「なぁ、アンタさ。今だから思うが最初から死ぬ気だったんじゃあ無いか?」
そんなガリレオの思惑の外にいるドレークは問う、気高い死体に向けて。
彼は思い出していた、宗珊が戦った全ての記憶を。
宗珊は一歩も引いていなかった、最初から逃げる気など無かったのではないか?
そんな気持ちが離れなかった、そしてその問いは永久にわからないだろう。それがドレークに何とも言えないしこりのようなモヤモヤを残していた。
なんだその将は?
敵を殺し、味方を上手く使い、自分の為に兵を使う。
それが兵を動かすことだ、少なくともドレークはそう思っていた。
事実、それが正しかった。目の前にいる老人、自分には無い強さを持った男は死に、自分はこうして生き残っている。
それは、自分の方が優れているという証明に他ならないだか・・・・
「じゃあなんで、こんなに嬉しそうに死んでやがるんだ?」
ドレークは、目の前の宗珊の死体を見る。
死の間際まで、満ち足りた顔を見せた宗珊。
奴は一体何なんだ?
ドレークにとって戦いとは祭りだ、高揚の結晶。心湧き立つ者でしか無い。
だが・・・それは常に恐怖と隣合わせだ。
戦争とは、如何に恐怖と戦うかにかかっている。そう思っていたドレークにとって満ち足りたように死んでいた宗珊はまさに不自然なのだ。
「わかんねぇ...」
死体を前に、ドレークは呟く。
その問いの答えが見つかる日は、すぐ側に来ていた。
◇◇◇◇
車対人間、勝つのはどちらか?
そんな小学生の思考のような、それか1980年代のバラエティー企画のような戦いが目の前で起きていた。
「あぁぁぁぁ、逃げろおおおお!!」
「鬼じゃあ、悪鬼の化身じゃあ!!」
逃げ惑う秋月軍、立ち塞がるのはたった1人の大男だ。
2メートルを超す体躯、身を屈めていてそれという驚異的な肉体を持つその男は身長150センチ程度しか無い秋月軍の雑兵を蹴散らしていく。
それは、まさしく悪魔の所業だ。
「引け!引くのだ!」
秋月の将の1人が、雑兵たちを流しながらも声を張り上げる。それに反応したのだろう。大男は動き出す。
男は優れた将だった、若いながらも秋月を守ろうと尽力した。
故にだろうか、彼は兵を守ろうとしてしまったのだ。
「く、来るな!」
大男は動く、秋月の若き将を殺す為に。
彼は1つだけ自分に課していた、馬に乗っている、豪華な鎧をつけた将を殺せば敵は混乱すると。
大男の武器が迫る、彼の武器はまるで鉄の壁のような大剣だった。
その攻撃は、10数人の敵を蹴散らした攻撃、それは1人の雑兵の手によって止められる。
刀と、大剣がぶつかる。ここで一つ注目したいのはそれぞれの獲物の大きさである。1人は壁のような、人の大きさの如き大剣を振るっていたのに対し雑兵のような男の獲物はごく普通の刀であった。
にも関わらず両者は拮抗している。
そのあまりの不可思議さに、大男も、側で見ていた秋月の将も首を傾げていた。
「俺の一撃・・・止められる男がおるとは、世界とはほんに広かところなのだのぅ!」
秋月の将は、この男を知っていた。
それどころか、この男は軍法会議にすら出ていた。
つまり、この男はかなりの上位者ということになる。
そんな人間が、何故このような雑兵の格好を?
「来まっちょる、俺が所詮巧名餓鬼じゃからよ。俺は兄者のようにはなれんしなる気も無か、好き勝手に飛んだり跳ねたりするだけよ」
若き将の前に立ち、そう言う雑兵は朗らかな笑顔で前を向いた。
思い出した、この男は...
「島津軍大将・・・・島津家久殿?」
答えは、返って来なかった。
やる気を失ったかのようにドレークは大の字で地面に寝っ転がった、彼の目の前には首を失ってなお立つ土居宗珊がいる。
「おい、その男より先に出るな。殺すぜ?」
ドレークは敗走した一条軍を追撃しようとするスペイン軍にそう指示を出す、宗珊の横を通ろうとする直前に発された殺気と声に反応しスペイン軍の兵士はその場を去っていく。
追撃したって無駄だ、土佐一条軍は統率がまるで取れていないが意思の統一は為されている。
彼らはもう安全な場所まで逃げおおせているだろう、安全な場所とはつまり毛利の本軍だ。
下手に追撃すれば反撃を喰らう、そんな簡単な理屈を一流の将たるドレークが理解していない筈も無い。
故に、この場は撤退なのだ。
と言うか、そんな理屈は抜きでもうドレークにやる気が無かったのもあるのだが。
「ガリレオがこれ以上指示を出さないんだ。このまま待機で良いんだろうさ」
本来、この場面であれば相手の体勢が整っていたとしてもドレークたちなら突破できたかも知れない。だがガリレオが突撃の指示を出さないと言うことは、この場面で突撃しないことそのものが最善手であると言うことに他ならない。
少なくともドレークはそう認識していた。
しかしこの場でガリレオがドレークに指示を出さないのにはもう一つある。
それはカトーの指示である、彼を入れた幹部たちにはある程度行動の制限をしないようガリレオに指示が入っていた。
特筆するべきは、そんな自由な彼ら幹部の性格、行動パターンを加味した指示を出すガリレオではあるのだが。
ガリレオはその年齢も相まって幹部の中で言えば新顔だ、だがこの航海の短い間でガリレオは幹部連中の性格を良く熟知していた。下手すれば本人よりも多くのことを知っていると言うのだから驚きである。
「なぁ、アンタさ。今だから思うが最初から死ぬ気だったんじゃあ無いか?」
そんなガリレオの思惑の外にいるドレークは問う、気高い死体に向けて。
彼は思い出していた、宗珊が戦った全ての記憶を。
宗珊は一歩も引いていなかった、最初から逃げる気など無かったのではないか?
そんな気持ちが離れなかった、そしてその問いは永久にわからないだろう。それがドレークに何とも言えないしこりのようなモヤモヤを残していた。
なんだその将は?
敵を殺し、味方を上手く使い、自分の為に兵を使う。
それが兵を動かすことだ、少なくともドレークはそう思っていた。
事実、それが正しかった。目の前にいる老人、自分には無い強さを持った男は死に、自分はこうして生き残っている。
それは、自分の方が優れているという証明に他ならないだか・・・・
「じゃあなんで、こんなに嬉しそうに死んでやがるんだ?」
ドレークは、目の前の宗珊の死体を見る。
死の間際まで、満ち足りた顔を見せた宗珊。
奴は一体何なんだ?
ドレークにとって戦いとは祭りだ、高揚の結晶。心湧き立つ者でしか無い。
だが・・・それは常に恐怖と隣合わせだ。
戦争とは、如何に恐怖と戦うかにかかっている。そう思っていたドレークにとって満ち足りたように死んでいた宗珊はまさに不自然なのだ。
「わかんねぇ...」
死体を前に、ドレークは呟く。
その問いの答えが見つかる日は、すぐ側に来ていた。
◇◇◇◇
車対人間、勝つのはどちらか?
そんな小学生の思考のような、それか1980年代のバラエティー企画のような戦いが目の前で起きていた。
「あぁぁぁぁ、逃げろおおおお!!」
「鬼じゃあ、悪鬼の化身じゃあ!!」
逃げ惑う秋月軍、立ち塞がるのはたった1人の大男だ。
2メートルを超す体躯、身を屈めていてそれという驚異的な肉体を持つその男は身長150センチ程度しか無い秋月軍の雑兵を蹴散らしていく。
それは、まさしく悪魔の所業だ。
「引け!引くのだ!」
秋月の将の1人が、雑兵たちを流しながらも声を張り上げる。それに反応したのだろう。大男は動き出す。
男は優れた将だった、若いながらも秋月を守ろうと尽力した。
故にだろうか、彼は兵を守ろうとしてしまったのだ。
「く、来るな!」
大男は動く、秋月の若き将を殺す為に。
彼は1つだけ自分に課していた、馬に乗っている、豪華な鎧をつけた将を殺せば敵は混乱すると。
大男の武器が迫る、彼の武器はまるで鉄の壁のような大剣だった。
その攻撃は、10数人の敵を蹴散らした攻撃、それは1人の雑兵の手によって止められる。
刀と、大剣がぶつかる。ここで一つ注目したいのはそれぞれの獲物の大きさである。1人は壁のような、人の大きさの如き大剣を振るっていたのに対し雑兵のような男の獲物はごく普通の刀であった。
にも関わらず両者は拮抗している。
そのあまりの不可思議さに、大男も、側で見ていた秋月の将も首を傾げていた。
「俺の一撃・・・止められる男がおるとは、世界とはほんに広かところなのだのぅ!」
秋月の将は、この男を知っていた。
それどころか、この男は軍法会議にすら出ていた。
つまり、この男はかなりの上位者ということになる。
そんな人間が、何故このような雑兵の格好を?
「来まっちょる、俺が所詮巧名餓鬼じゃからよ。俺は兄者のようにはなれんしなる気も無か、好き勝手に飛んだり跳ねたりするだけよ」
若き将の前に立ち、そう言う雑兵は朗らかな笑顔で前を向いた。
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「島津軍大将・・・・島津家久殿?」
答えは、返って来なかった。
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