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記憶編

そしてまた戦が始まる

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 「どうしても、出ねばならぬか?」

 「断ることは不可能だろうの」

 目の前には例の通り手紙が広げられている、私と隠居はその内容の不味さに顔を顰めた。

 「北条と戦か、何が起きてるんだ一体」

 北条とは戦じゃなくて同盟するんじゃ無かったっけ?この時代は仲が悪いのかね。

 「まぁ織田が片付いたからの、宿敵北条に眼が向かうのは当然と言えるだろうな」

 あ、これもしかして私のせい?後でハンゾーに聞いてやっとわかったことなんだが、史実での織田と今川の戦いは今川が完敗したらしい。今川義元はこの時期かなり厳しかったようだ、内部でも内乱が起きてその対応に追われたりしている。そして北条ではそんな兄義元を苦しめていた北条氏綱が死ぬ。

 後を継いだのは北条氏康、なんかこっちは聞いたことある気がするな。知らんけど。

 まぁ、要するに織田との小競り合いで殆ど消耗しなかったから三河の国人領主連れてこっち来いとそういう訳らしい。

 この頃今川と北条って戦してるんだな、知らなかったと言ったら隠居に頭をしばかれた。ごめんなさい。

 まぁ、連れて行くと言っても三河の国人領主って言ったってやる気無いだろ、今川の領土争いなんかさ。と言うことで全体で見て出せる人数は4000ぐらいだな、それぐらいで許して貰おう。

 「ご隠居様、兵を率いて頂いても宜しいか?」

 「いや、補佐ならなんとか出来るだろうが・・・・大将はお主で無ければいかんだろうな」

 「えぇ・・・・」

 私は、チラリと夕を見る、お腹もかなり大きくなって来た。医者が言うには来月には産まれると言う。

 ここで私が戦に出れば、私は妻の出産に立ち会えないダメ夫になるんだぞ!?

 嫌に決まってるだろうが!!!

 「気持ちはわかる、だがなお前が城に残ってできることなど無い。大人しく家臣としての勤めを果たしに行くぞ」

 「そうですよ、輝宗様はどうせ役に立たないんですから」

 「事実だけど言い方酷く無い?いやまぁ行くけどさぁ・・・・」

 んー行きたくない、行きたくないなぁ。

 「「行きなさい」」

 行きます、と言うか行くしか選択肢が無い。兄からの命令じゃあ逆らう余地など最初から無いのだ。

 「そうと決まれば、準備をせねばならんか。」

 「糧食、武器な準備か、それと長槍の初実戦投入だの」

 「長槍か、先日あった賊討伐に使用されたと聞きますが使えましたかな?」

 「いや、賊討伐は森などで行う。集団で効果を発揮する長槍部隊はその真価を発揮出来るとは言えん故使わなかった」

 「成る程、そうでしたか」

 確かに、木の多い山中での戦いにおいて長槍は真価を発揮できないか。木に当たったりして得物が長いと使い辛いだろうしな。やはりそう言うことを考えられる隠居は凄い、もっとこき使おう。

 「使ったのは威嚇だけだな、大層驚いていたな。あの長さでは近づくこともままならんからの。」

 さて、長槍は平野での戦で真価を発揮するのかな?

 「あと折角だ、兵糧は多めに買っておこう。三河の者たちの分や今川に献上する分だ」

 「フム、銭がかなりかかるぞ、おまけに今商人はこちらに来ていない。と言うことは他領から商人を呼ぶしか無い、吹っかけられるだろうな、戦の気配がするだろうし」

 「まぁ、この前売った石鹸の銭がある。それを全部使おう」

 やれやれ、戦のせいで相変わらずうちは貧乏だ。

 史実では第二次河東一乱と呼ばれる戦いが、始まろうとしていた。


◇◇◇◇


 「ではな、夕。体には気をつけよ」

 「はい」

 「本来ならこんなところまで見送りに来る必要も無いのだが・・」

 「はい」

 胸が痛む、ここまで来るのも大変だったろうに門の前まで夕が見送りに来てくれた。

 そんなできた嫁を、しかも身重のを置いて私は戦に行かなければならない。

 嫌だわぁ、戦国時代って辛いわ。

 あのクソ兄め、軍の派遣だけならば隠居で良いじゃん!

 なんで輝宗もちゃんと来てねって念押しされてるの!?意味わかんない!

 「子供は男の子でも女の子でも良い、家の事などは考えなくて良いのだ。元気で産んでくれれば良いのだからな」

 「はい、ですが男の子が産まれるような気がします。」

  そう言いながら夕は優しげに腹をさする、この時代の女は男の子を産みたがるからな。と言うかそうせいと望まれていると言うのが正しい。

 別に私はどっちでも良い。

 「名を考えた、男の子ならば龍臣丸、女の子ならば絹だ」

 「まぁ、良い名ですこと」

  今川の嫡男の幼名は龍王丸だった、兄義元は違うが兄とその正室に産まれた子供の名前はきっとそうなるだろう。

 私の子供の仕事は、龍の臣下としてその身を捧げる子だ。ずば抜けて有能である必要は無い。ただこうして普通に生きて欲しい。

 私の血が入ってるなら普通の息子が産まれるだろうが・・・・

 夕の血が多すぎるのも困りようだな、あまり活発では困る。夕は妊娠してからは城に篭りきりになったがそれまではほぼ毎日外に出ていた。

 ま、今後は子もできたし大人しくなるだろう。

 「龍臣丸、龍臣丸」

 そう言いながら夕は腹をさすっている、女の子だったらどうするんだ?女の子でも良いと思うんだが・・・・

 「輝宗様」

 「ん?」

 「この子を、立派に産んで見せます。ですから輝宗様はこの子に恥じぬ武士もののふでいて下さいませ」

 「そうだな」

 立派な武士?今の私からは程遠い存在だ、人間とは数奇なもので転生してやっと結婚し子供もできるという変な奴もいる。

 ま、子に恥じぬ親か。気張らねばならないだろう。

 「約束しよう、この子に恥じぬ親になると」

 そう言うと、夕は御武運を、そう言い笑った。

 「そろそろ行くぞ」

 「はい、ご隠居様」

 フル装備の隠居か鼻息荒く馬に乗っている、私もに乗り夕に背中を向ける。

 「ではな」

 それだけ言って去った、後ろで夕と老侍女が頭を下げているのが見える。









 あ~~~~~~行きたくねぇなぁ!!!!!!!!

 

 
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