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奥州編

奥州筆頭ってギャグじゃ無いんだ

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奥州、正確には奥羽だが、そこは雪の壁が道を阻む極寒の土地だ。

 そこに住む者たちは皆が助け合い、厳しい自然と向き合って生きていた。

 農業とかかあまり盛んなイメージが無い、雪とかがえぐい印象しか無いな。狩猟とか盛んなのかな?

ちなみに地理関係の話になるが、主に出羽や陸奥と考えてくれれば良い。難しかったら福島とか山形より北って認識で良いぞ、私もそう覚えているからな。

 あんまり馴染みが無い言葉だが、奥羽列藩同盟とかで思い出せると思う。

 歴史の授業で習ったろう、幕末、明治政府に対抗して奥羽の藩同士が手を組み起こしたこの同盟は、明治政府にかなりの衝撃を与えた。

 会津の白虎隊とかもその関連だな、まぁこの世界でそんなことが起こるかどうかは知らないが。

 「ご隠居様、雪が降ってますよ!」

「あぁ、積もれば身動きが取れなくなる。早く伊達殿のところに行ければ良いな。」

「左様ですな、あと1日2日で着くとお藤殿の書いた地図にも書いてありまする。」

 はしゃぐ幸村に対して、勤めて冷静に私も答える。

 さて、史実はともかく、これから我々が向かう伊達領はこの奥州の中で覇権を握っている。

 当主は伊達左京大夫輝宗だてさきょうだゆうてるむね、伊達と言えば伊達政宗!と言う印象だが、この世界では伊達輝宗がまだまだ当主だ。

 むしろ政宗ってまだ生まれたてだよな、その辺はそんなに詳しく聞いてないから知らない。

 伊達輝宗、史実でのイメージは教育熱心なパパゴンといった印象だった筈だ。東北は関東や関西とは違い、下克上と呼べるものがそんなに起きていなかった。

 大名同士の小競り合いはあったようだが大きく勢力図が変動するといった風でも無く、豊臣秀吉が東北に目を向けた瞬間サクッと降伏した印象が強い。

 輝宗はそんな東北の大名の異端の大名だ、領地を広げようと各地で戦いを繰り広げた。その体制は息子の政宗により過激な感じで受け継がれる。

 ちなみに史実での彼の最後だが、政宗のせいで恨みを買って降伏してきた相手に〇されると言う悲劇的な末路を迎えている。

 ちなみに輝宗死亡説には色々諸説あり、政宗が父を謀殺したとか、味方に撃ち殺されたとか色々ある。

 これは前世の友人の言葉だが、輝宗死亡の理由を簡単に説明すると全部政宗のせいだ。

 酷い言い様だと思う、だが内情を知れば理解して貰える筈だ。

 先ほども言った通り、奥州は戦国時代らしい戦国時代にはなっていなかった、下克上もそんなに大規模なことにはなっていない。現在の地位を守ることに固執していたであろう奥州の家の者たちにとって伊達輝宗と言う男はとんだ異端者であっただろう。

 そして、政宗の外交政策は今まで父輝宗がとってきた外交政策をより、と言うよりは急激に変化させてしまう。

 まぁ先ほども言った通りより過激な感じになったんだな、政宗はそう考えると本気で奥州を獲ることを考えていたのかも知れない。

 輝宗はそんな中で政宗の起こした戦乱の余波に巻き込まれて死んだ。

 可愛そうに...

 ちなみにこの世界の伊達輝宗は史実とはかなり違う、奥州の雄と呼ばれているその腕前は伊達では無い。

 22で家督を継いで以降、最上を屈服させ、大崎氏等をぶっ潰してその勢力をどんどん広げている。

 すごい手腕だ、もしかしたら伊達輝宗って転生者かも知れないな。

 雪を手で払いながらそんなことを考える。

 目の前は完全なる雪景色だ、あたり一面が雪で真っ白に染まり、馬も少し歩きづらそうにしている。

  「美しい川ですね~」

「慶次、この川の名はなんと言うのだ?」

 幸村が川の美しさに感嘆している、私から見ても綺麗だ。

 美しい、真白い雪が川に映え、我々の目を楽しませてくれる。

 雪化粧と言う奴だな。

 雪化粧...

 雪化粧...

ん?

「慶次、あれはなんだ?」

「誰かが溺れておりますな。」

 川を眺めていると、誰かが溺れているような気がして慶次に聞いてみたら、本当に人が溺れてるようだ。

 良かった、刀を幸村に渡したのが無駄にならなそうだ。

「ご隠居様!?」

 慶次と幸村の悲鳴に似たような声が聞こえる、そりゃそうだ護衛対象が川に飛び込んだからな。

 クロールで川をずんずん進んで行く、寒い!

 寒中水泳ができる歳じゃ無いんだよなぁ...

 ちなみに服は脱いで来た、ふんどし一丁という奴だな。見た目は悪いが仕方がない、この時代の服は水を吸いやすくて川なんかに入ったらすぐに重くなってしまう。

 この時代の泳法だが、武技として泳法があるという噂が存在するがいずれも弱小勢力だ。

 泳ぐことができ無いものがいるのは当たり前であり、泳げたとしてもその泳ぎはとても遅いものであっただろう。

 日本泳法という言葉を知っているだろうか、古式泳術や水術とも呼ばれている。

 察してると思うがその泳ぎ方、くっそ遅いぞ!

 私のクロールの方がまだ早いわ!

 「輝宗様ーー!?」

 遠くからそんな声が聞こえる、ん?おかしいな。

 慶次も幸村も私の本名では無くご隠居様と呼ぶ、にも関わらず私の名前を呼んだ。おかしいなぁ。

 まぁそんなことを深く考える余裕は無い、私は溺れて沈みそうな者の足首を捕まえると、流れの急な川の反対を目指して泳ぎ始める。

 恐らく子供だろう、水面から出る際に顔を確認した。

 ほんの2.3歳では無いか、そんな者が何故こんなところに?

 川岸に近づく、子供は気絶しているようだ、暴れられればたまったものでは無いからそこは不幸中の幸いという奴だな。

 川岸の直前で、誰かに手を掴まれ、私は川べりへと引っぱられていった。

 小さい手だ、

 「ハァ、ハァ、まいったね。息子を視察に誘ったらいつのまにか川に落ちてると来たもんだ。」

 その男は、蛇のような男だった。

 華奢で、体の節々は枯れ木のように痩せ細り、刀を握ることすら覚束なさそうな程弱々しい体をしている。

 身長も150はいって無いだろう、小さい。

 だが、手を握られた感触は力強く、その眼は生気に溢れており、目は隈で彩られていた。

 その顔は兄義元を彷彿させる、そんな気がした。

「殿!」

 そう言われ、その古木のような男の周りに男の家臣が駆け寄る。

「騒ぐな、鬱陶しい。」

「殿?」

 殿、そう呼ばれている?この男が?

「旅の者か?名は?」

 そう呼ばれ、ふとどう言おうか迷う。

 自分は恐らくこの男よりも上位者だろう、当然だ、今川は天下に名を轟かせる大大名の一族の者だ。

 それより地位が高いものなどそれこそ朝廷ぐらいしか居ない、だが供回りもいない以上ここにいるのは1人のただの爺に過ぎない。

 ならば、答えるべきであろう。

 何よりずぶ濡れで寒いからな、早く焚き火に当たりたい。

「今川輝宗、ただの隠居だ。」

 瞬間、男の眼の色が変わる。はて、この男を見ていると何故か心がざわつくような感覚に襲われる。

 具体的に言えば記憶に靄がかかったようなそんな感じだ。

 当然私はこんな顔の男は知らない、そもそもここに来るの自体初めてだ。

 だが、私は彼に会ったことがある。

 そう確信したのは、彼の返事からだった。

「やっぱりか!クロール、その雰囲気!顔は違くても変わらないね!桃ちゃん!」

  大桃蓮おおももれん、通称桃ちゃん。

 私の、本名である。

 「・・・・誰だ?」

私が訝しむようにそう返す、一見嫌味なその言葉を意に介することも無く男は応えた。

「ハンゾーだよ!忘れちゃったのかい、桃ちゃん!」

 ハンゾー、私の前世の友人。

 その男は、いつも通りの笑顔で私を迎えてくれていた。



 ◇◇◇◇



「ぶぇーっくしょい!」

「ぶぇーっくしょい!」

 手をかざし、震える手を慰めるように擦る。目の前を見るとハンゾーも同じ行動をしていた。ちょっと笑えるな。

 ここはハンゾー、いや伊達輝宗が普段生活している城の一室だ。簡素ではあるものの風情があるよな。

 和室大好き。

 ここには後から追いついて来た幸村、慶次、ハンゾー側には私が助けた童とすごい美少年がいる。

 童は、恐らく伊達政宗だろう、その側に控えてるってことは片倉小十郎?

 熱い展開だ、後で話しかけてみよう。

 「でだ、桃ちゃん」

 「ん?」

 ハンゾーがこちらを見た、私とハンゾーの目が会う。次の瞬間、ハンゾーはその厳つい顔のまま、私に抱きついて来た。

「良かったよ~この世界で再開できて~」

「おい、くっつくな!」

 そういやコイツ抱きつくの好きだったな!

 だが私には聞きたい疑問が沢山ある、とはいえ当分は離してくれなさそうだな。

「桃ちゃん桃ちゃん!」

「はいはい」

「良かったよ~会えて!このまま東北の地に骨を埋めなきゃいけないかと思ってたよ!」

「ハンゾー、実はな」

「何?」

「私はお前に会っていると思ってたんだ、忍びの男に会ってな。そいつは何故か私を酷く恨んでいた。私は、お前に恨まれているんじゃ無いかと思ってたんだ?」

「それ、本物の服部半蔵だよ?」

「え?」

 そなの?いやそうか。

 あの忍者は、前世のハンゾーと顔は似ていたが言動はまるで似ていなかった。

 なんで今まで勘違いしてたんだろう?

「はぁ....松平元康の件なら、僕にも情報入ってるし。桃ちゃんってそういうとこあるよね。どこか抜けてると言うか。」

「す、すまん。」

「まぁいいや、旅をしてるんでしょ?もうすぐ雪も降って良い景色だ。色々案内させてもらうよ。」

 そう言うと、伊達輝宗、いやハンゾーはにこやかに笑った。

 その顔は、前世とはまるで違う。

 少しふくよかで、お人好しな印象のあるこの歴史オタクは、この厳しい戦国史においてどんな苦労を経て来たのだろうか、

 私にはわからない、だがここでなぁなぁにしても良い問題では無い筈だ。

「ハンゾー」

「なんだい?」

「1つ、謝りたいことがある。」

「良いよ。」

 ハンゾーは笑顔だ、だが部屋の温度が数度下がった気がした。

 少し凍ったような雰囲気が私の肌を刺す、だが口を止める訳にはいかない。

「あの...火事の件だ。」
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