王族なんてお断りです!!

紗砂

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本編

フレイ

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私は、エリスのことが好きだった。
いや、今も好きだ。
それは、子供の時のことが原因だったと思う。

私とエリス、ラルフは三公の子供ということで小さな頃からよく一緒に居ることが多かったのだが、ある日お茶会へと私とエリスが参加することになった時だ。
その頃の私は公爵家の人間としての振る舞い方というものが分からず、狼狽えてばかりで受け答えもままならなかった。
だからだろう。
茶会に参加していた一人が私のことを侮辱した。


「だって、あいつ何も出来ないじゃん。
こーしゃく家の子とか言ったって名ばかりだし?」


などと。
その言葉に、私は何も言えなかった。
確かに、自分が何も出来ないと思ってしまったから。
だが、エリスは違った。
エリスは笑顔でその者に近付いて行くと、そのまま平手打ちをしたのだ。


「フレイを侮辱するなら、まずは自らの行動を考えてはいかが?
フレイが何も出来ない?
名ばかり?
ふざけないでください!
フレイは、公爵家の人間として、王を支えるために頑張って勉強も、武芸もしています!
そんなフレイを侮辱する権利はあなたにはない!」


エリスは、認めてくれたのだ。
何も出来ない、そう思っていた私のことを。
ただの幼馴染という考えから変わっていったのは、その頃からだったと思う。


「フレイ、どうしますか?
お父様達にこのことを言えば……」


エリスが、私の方をみてそう口にした瞬間、私を侮辱した者が顔を青くした。
それが不味いことだと分かっているのだろう。


「いや、いい。
エリス、私のために怒ってくれてありがとう」

「大切な幼馴染が侮辱されたのですから当然です」


エリスはそう言って、少し照れたように顔を背けた。
なんとなく、エリスが私にどうするのか、と聞いたのは私に対する印象を良くしようと思ってのことだったのではないかと思う。
エリスはああいった場で、私が父上を頼るようなことはないと知っていたからな。
ありえない話でもない。

その件から少し経った時のことだった。
エリスに、婚約者が出来たと知らされた。
すぐに確認しに行きたかったのだが、それは叶わず、結局、私がエリスに会えたのは、エリスの婚約を知ってから1ヶ月程経った後だった。


「エリス!
婚約したと聞いた。
本当なのか?」

「フレイ、お久しぶりです。
婚約の件でしたら事実です。
お相手の方とは一度会っただけですが……王族の方ですもの。
仕方ありません」


その、仕方ないは何に向けたものだったのだろうか。
王族からの婚約は断れないという意味なのだろうか。
それとも、王族だから、一度しか会えなくても……という意味なのか。

いや、それよりもだ。
今、エリスは私に様をつけたのは何故だ?


「エリス……?」

「丁度いい機会だったと思います。
いくら幼馴染だからと言っても婚約者でもありませんのにずっとフレイと呼び続ける訳にはいきませんてしたから」


エリスの突き放すような言葉に、私はかなりのダメージを受けた。
そして、その時ようやく気付いた。
私は、エリスのことが好きなのだと。
エリスの婚約者となり、エリスの傍にいたかったのだと。
だが、もうそれは叶わない。


「そ、うか。
エリス、お前が王妃になると言うのならば、私は父上のあとを継ぎ、宰相として支えよう」


エリスと共になることはない、そうは分かっていた。
だからこそ、私は、少なくともエリスの傍にいる道を選んだ。
出来るのならば、今まで関わってこなかった王子が良き人格者であることを願って。


「はい。
フレイ様が、そうお決めになったのなら、私は応援いたします」

「……あぁ。
私も、応援している」

「ありがとうございます、フレイ様」


最後に、エリスが眩しい程の笑みを浮かべた。
本来ならば、自分のものにしたかったそれを、王子が取った。
それが、悔しくて、苦しかった。
胸の奥が締め付けられるような感覚に耐えながら、私はエリスに向かって微笑んだ。


だが、限界は思ったよりも早く訪れた。
それは、私が王子の学友に選ばれてすぐのことだった。


「フレイ、お前は確かエリスの幼馴染だったな」

「はい、そうですが」


王子からいきなりその話題を振られた時、エリスの幼馴染という理由で色々とエリスについて聞かれるのかと思った。
だからこそ、自分の想いをバレないようにしなければと身構えていたのだが、王子はあろうことか私に言ったのだ。


「ならば、エリスの相手は任せる。
私は行くところがあるからな。
あのような奴に会っている時間はないのだ」


と。
私は、王子の予定を把握していた。
そのため、この後の予定はエリスとのお茶、となっていることも知っている。
にも関わらず、行くところがある?
そのうえ、あのような奴とまで言ったのだ。
ここで内心を隠し、了承した私を褒めて欲しいくらいだ。

と、それよりもだ。
これはどういうことだ?
王家の方がエリスとの婚約を望んでおきながらこの王子の対応とは。
いや、違うな。
私も薄々気付いていたのだ。
王子がバカであり、エリスへの想いがないことに。


「くそっ……!」


何故、こんな奴にエリスを渡さなければいけない。
エリスが何故、ここまで邪険にされなければいけない。


「フレイ様?
どうかしたのですか?
酷い顔ですよ。
殿下の学友となられたのですから、気を抜かないでください。
その代わり、私で良ければいくらでも話を聞きますから」


私に声をかけてきたのはエリスだった。
エリスは、昔よりも綺麗になっていた。
思わず、見とれてしまう程に。


「いや、いい。
その、だな……王子は今、王宮にいない。
急用が出来てしまったみたいでな……。
エリスに会うのを楽しみにして……」

「フレイ様、大丈夫です。
殿下は、他の令嬢の元へ向かわれたのでしょう?
殿下のお気持ちが、私に向いていないことくらい、理解しておりますもの」


エリスは、少しさみしげに口にした。
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