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本編
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「殿下、お待たせ致しました。こちらが、チーズのタルトです」
「あぁ、ありがとう」
私が殿下にタルトとお茶を出すと、殿下は優しく微笑みました。
つられて私も微笑むと、なぜか顔を赤くさせました。
どうかしたのでしょうか?
私が声を掛けようとすると、その前に殿下がケーキを口にしました。
「……ん?
下がクッキーになっているのか……美味いな」
「それは良かったです」
私も1口食べてみると、レモン風味のチーズにサクサクとしたクッキーの食感がたまりません。
ですが、少々レモンの風味が強い気がします。
もう少し改善が必要でしょう。
「このタルトとかいうものは、他に取り扱っていないのか?」
「本店以外では扱ってはいませんでしたが、カルナーク公の協力でこちらへ移すことになりましたのでもう少しすれば種類も増えると思います。
好評なようでしたら本店以外でも取り扱いを始めようと思っています」
殿下はタルトが相当気に入られたようですね。
タルトはカットする際に下のクッキー生地が割れてしまうことがあるので本店以外では取り扱っては来ませんでした。
ですが、本店の移動を機に、増やしてみるのもいいかもしれません。
「本店の移動、か……。場所は既に決めたのか?」
「いえ、これから決めようかと思っています。
この店も手狭なようですからもう少し広い店を探そうかと」
「そうか……。ならば、今から行くか?
もちろん、エリスさえ良ければだがな」
殿下の誘いはとても魅力的です。
何度も足を運ぶよりも一度で済ませられた方が私としても有難いですから。
ですが、さすがにそこまでして頂く訳にはいきません。
「ありがとうございます、後日責任者を交えて決めようと思いますので、今回はお気持ちだけ受け取っておきます」
殿下を煩わせるわけにはいきませんので、妥当な理由をつけてお断りします。
「そうか……。いや、考えてみれば当然のことだからな。
私の方こそ、無理を言って悪かった」
「い、いえ! 無理だなんてそんな……。
やはり、いくつかに絞っておきたいので一緒に行っていただけませんか?」
その位でしたらあまり時間もかからないでしょうし、大丈夫でしょう。
そんな甘い考えで私は殿下にお願いしました。
早速、移動しようと思ったその時でした。
ニールが慌てて部屋に入ってきました。
「オーナー! 至急確認していただきたいことが……! エールの本店からです!」
その言葉に、私は溜息を吐きました。
ニールが私のことをオーナーと呼ぶ時は、会頭の私以外に出来ない案件が回ってきたときです。
つまり、それほどまでに重大な何かがエールの本店て怒ったということ。
「殿下、申し訳ございません。少々、席を外させていただきます」
「あぁ。エリスが終わるまでここで待たせてもらおう」
私は殿下を置いて部屋から出ると、近くに居た者へ殿下にお茶とケーキを運ぶように告げ、別室へと向かいます。
そこで、知らされたのは問題としか言えないことでした。
本店から送られてきたのはたった一文でした。
『エールにて、反乱の兆しあり』
と。決して冗談では済まされない内容です。
反乱が起きてしまえば、私の両親も巻き込まれることになるのですから。
「困ったことに、その文は真実なようです。
何やら、またあの王子が仕出かしたそうでして……。
エリス様を慕っていた町民や、領地の方々が揃って武器をとったようです。
フォーリア家の方々は止めるどころか国を潰す勢いで進行しているとのことです」
どうやら、また、あのバカ王子のせいだったようです。
全く、今度は一体何をしたというのでしょうか?
私があの国を離れてからまだ二週間も経っていないにも関わらずこれとは……呆れてものも言えません。
ですが、お母様とお父様まで一体何をしているのでしょうか。
「一体、あの方は何をしたのですか……?」
「それが、ですね……。
一体どういった神経をしているのか、あのバカ二人が本店で身分を盾に好き勝手していたようでして……」
昔の王子であればともかく、今の王子でしたら確実にやるでしょうね。
おかしいことではありません。
私も何度も注意したのですが……やはり聞いてはいただけなかったようですね。
「その騒ぎをききつけ出てきたあちらの責任者に向かって禁句を口にしたようなのです」
「禁句、ですか……?」
「はい。
……えーと、その、『光栄に思え!私の可愛いラミアが望んでいるのだ。この店を私が買い取ろう!お前達もどこぞの馬の骨に雇われるより次期国王である私に雇われたほうが嬉しいだろう』と」
あまりのバカさ加減に思わず頭がフリーズしてしまいました。
これはいけませんね。
ですが、確かにそれは禁句です。
本店の責任者は私への忠誠心がとても高い人物ですから。
私を見下す発言をした時点で終わっています。
それにです。
次期国王とは……本当になれるとでも思っているのでしょうか?
「それにより、あちらの責任者がエリス様とあのバカとの婚約破棄の話を皆様に聞こえるような声で口にした後、逆ギレしたバカと女のせいで重症を負うこととなりました。
その件で怒り狂った公爵家の方々が武器をとり、エリス様を慕っていた方々と、フィーリン商会のお客様方が武器をとり今に至ります」
今、何と言ったのでしょうか?
あのバカが、私の大切な者を傷つけたと、そう言ったのでしょうか?
だとするのであれば……私はあの二人を許しません。
あの方達は、私だけでなく、フィーリア商会そのものを敵に回したのです。
「ニール、私も動きます。
ニールには、アリスの治療の方をお願いします。
その際、お父様に手紙を渡してください」
責任者であるアリスの治療が優先です。
あとは向こうの王族に抗議の文と、取引の打ち切りについての話を付けましょう。
支店は残しておくつもりだったのですが、またこのようなことがあってはいけません。
そうですね、バカ王子は廃嫡して辺境にでも送っていただきましょうか。
ラミアさんについては修道院送りでいいでしょう。
まぁ、どちらにせよ白い目で見られることになると思いますが。
「では、私はこれで……」
「待ってください、ニール。
あなたにはもう一つお願いしたいことがあります。
噂を二つ、流してください。
一つは、私とバカ王子の婚約破棄について。
『フォーリア家の令嬢と王子の婚約破棄は、王子が男爵令嬢に惚れ込み冤罪を着せられたらしい』
とでも。
もう一つは、先程の本店で起こったことを。
『冤罪で婚約破棄をした王子がフォーリア家の令嬢(フィーリア商会会頭)を侮辱したうえ、従業員に大怪我を負わせたらしい』、とでも。
お願いできますか?」
「はい。すぐに広めてみせます」
ニールはニヤリと笑ってから部屋を出ていきました。
一人になった部屋で私は考えます。
アリスに手を出したのです。
この程度で済ませるはずがありません。
「さて……では始めるとしましょうか。
バカ王子の断罪を」
「あぁ、ありがとう」
私が殿下にタルトとお茶を出すと、殿下は優しく微笑みました。
つられて私も微笑むと、なぜか顔を赤くさせました。
どうかしたのでしょうか?
私が声を掛けようとすると、その前に殿下がケーキを口にしました。
「……ん?
下がクッキーになっているのか……美味いな」
「それは良かったです」
私も1口食べてみると、レモン風味のチーズにサクサクとしたクッキーの食感がたまりません。
ですが、少々レモンの風味が強い気がします。
もう少し改善が必要でしょう。
「このタルトとかいうものは、他に取り扱っていないのか?」
「本店以外では扱ってはいませんでしたが、カルナーク公の協力でこちらへ移すことになりましたのでもう少しすれば種類も増えると思います。
好評なようでしたら本店以外でも取り扱いを始めようと思っています」
殿下はタルトが相当気に入られたようですね。
タルトはカットする際に下のクッキー生地が割れてしまうことがあるので本店以外では取り扱っては来ませんでした。
ですが、本店の移動を機に、増やしてみるのもいいかもしれません。
「本店の移動、か……。場所は既に決めたのか?」
「いえ、これから決めようかと思っています。
この店も手狭なようですからもう少し広い店を探そうかと」
「そうか……。ならば、今から行くか?
もちろん、エリスさえ良ければだがな」
殿下の誘いはとても魅力的です。
何度も足を運ぶよりも一度で済ませられた方が私としても有難いですから。
ですが、さすがにそこまでして頂く訳にはいきません。
「ありがとうございます、後日責任者を交えて決めようと思いますので、今回はお気持ちだけ受け取っておきます」
殿下を煩わせるわけにはいきませんので、妥当な理由をつけてお断りします。
「そうか……。いや、考えてみれば当然のことだからな。
私の方こそ、無理を言って悪かった」
「い、いえ! 無理だなんてそんな……。
やはり、いくつかに絞っておきたいので一緒に行っていただけませんか?」
その位でしたらあまり時間もかからないでしょうし、大丈夫でしょう。
そんな甘い考えで私は殿下にお願いしました。
早速、移動しようと思ったその時でした。
ニールが慌てて部屋に入ってきました。
「オーナー! 至急確認していただきたいことが……! エールの本店からです!」
その言葉に、私は溜息を吐きました。
ニールが私のことをオーナーと呼ぶ時は、会頭の私以外に出来ない案件が回ってきたときです。
つまり、それほどまでに重大な何かがエールの本店て怒ったということ。
「殿下、申し訳ございません。少々、席を外させていただきます」
「あぁ。エリスが終わるまでここで待たせてもらおう」
私は殿下を置いて部屋から出ると、近くに居た者へ殿下にお茶とケーキを運ぶように告げ、別室へと向かいます。
そこで、知らされたのは問題としか言えないことでした。
本店から送られてきたのはたった一文でした。
『エールにて、反乱の兆しあり』
と。決して冗談では済まされない内容です。
反乱が起きてしまえば、私の両親も巻き込まれることになるのですから。
「困ったことに、その文は真実なようです。
何やら、またあの王子が仕出かしたそうでして……。
エリス様を慕っていた町民や、領地の方々が揃って武器をとったようです。
フォーリア家の方々は止めるどころか国を潰す勢いで進行しているとのことです」
どうやら、また、あのバカ王子のせいだったようです。
全く、今度は一体何をしたというのでしょうか?
私があの国を離れてからまだ二週間も経っていないにも関わらずこれとは……呆れてものも言えません。
ですが、お母様とお父様まで一体何をしているのでしょうか。
「一体、あの方は何をしたのですか……?」
「それが、ですね……。
一体どういった神経をしているのか、あのバカ二人が本店で身分を盾に好き勝手していたようでして……」
昔の王子であればともかく、今の王子でしたら確実にやるでしょうね。
おかしいことではありません。
私も何度も注意したのですが……やはり聞いてはいただけなかったようですね。
「その騒ぎをききつけ出てきたあちらの責任者に向かって禁句を口にしたようなのです」
「禁句、ですか……?」
「はい。
……えーと、その、『光栄に思え!私の可愛いラミアが望んでいるのだ。この店を私が買い取ろう!お前達もどこぞの馬の骨に雇われるより次期国王である私に雇われたほうが嬉しいだろう』と」
あまりのバカさ加減に思わず頭がフリーズしてしまいました。
これはいけませんね。
ですが、確かにそれは禁句です。
本店の責任者は私への忠誠心がとても高い人物ですから。
私を見下す発言をした時点で終わっています。
それにです。
次期国王とは……本当になれるとでも思っているのでしょうか?
「それにより、あちらの責任者がエリス様とあのバカとの婚約破棄の話を皆様に聞こえるような声で口にした後、逆ギレしたバカと女のせいで重症を負うこととなりました。
その件で怒り狂った公爵家の方々が武器をとり、エリス様を慕っていた方々と、フィーリン商会のお客様方が武器をとり今に至ります」
今、何と言ったのでしょうか?
あのバカが、私の大切な者を傷つけたと、そう言ったのでしょうか?
だとするのであれば……私はあの二人を許しません。
あの方達は、私だけでなく、フィーリア商会そのものを敵に回したのです。
「ニール、私も動きます。
ニールには、アリスの治療の方をお願いします。
その際、お父様に手紙を渡してください」
責任者であるアリスの治療が優先です。
あとは向こうの王族に抗議の文と、取引の打ち切りについての話を付けましょう。
支店は残しておくつもりだったのですが、またこのようなことがあってはいけません。
そうですね、バカ王子は廃嫡して辺境にでも送っていただきましょうか。
ラミアさんについては修道院送りでいいでしょう。
まぁ、どちらにせよ白い目で見られることになると思いますが。
「では、私はこれで……」
「待ってください、ニール。
あなたにはもう一つお願いしたいことがあります。
噂を二つ、流してください。
一つは、私とバカ王子の婚約破棄について。
『フォーリア家の令嬢と王子の婚約破棄は、王子が男爵令嬢に惚れ込み冤罪を着せられたらしい』
とでも。
もう一つは、先程の本店で起こったことを。
『冤罪で婚約破棄をした王子がフォーリア家の令嬢(フィーリア商会会頭)を侮辱したうえ、従業員に大怪我を負わせたらしい』、とでも。
お願いできますか?」
「はい。すぐに広めてみせます」
ニールはニヤリと笑ってから部屋を出ていきました。
一人になった部屋で私は考えます。
アリスに手を出したのです。
この程度で済ませるはずがありません。
「さて……では始めるとしましょうか。
バカ王子の断罪を」
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