3 / 70
本編
???
しおりを挟む
私は、今回の夜会もまた憂鬱な気分で参加していた。
それも、どうせいつもと同じように私の身分を目当てに令嬢達が群がり、その対処に追われると思っていたからだ。
どの令嬢も、私の身分しか見ていない。
それなのに丁寧に対処しなければならないなど……。
ただ面倒なだけだ。
「あ、そうだ殿下。
僕、今回の夜会でエスコートする人がいるのでしばらく離れます」
「……意外だな。
お前にエスコートする相手がいたのか」
「えぇ、まあ。
公爵家の人間ですが」
私の側近の一人でもあるルアンは令嬢に対して良い感情を持っていないらしく、言い寄られても冷たく突き放していた。
そんなルアンがエスコートなどとは……。
一体どんな風の吹き回しだろうか。
いや、家の事情かもしれないが。
それにしてはルアンの表情が穏やかではあるが。
「ルアン、その人って綺麗?」
「綺麗な人だよ。
真っ直ぐで、強くて、誇り高い人だ。
本来は僕がエスコートするような人じゃないんだけど今回は少し問題があってね」
ルアンはその女性に惚れているのだろうか。
いつもよりも柔らかな笑みを浮かべた。
ルアンにそこまで言わせるその人物に会ってみたい、そんな思いからか今回の夜会は少しだけ楽しみに思えてきた。
だが、問題とは一体なんなのか。
気になるところではあるが、私が聞いていいことでもないだろう。
「僕としては、あの人と殿下が婚約を結んでくれたらと思いますが」
「……おい待て。
なぜそこに私が出てくる。
ルアンお前、その女性に惚れているのではないのか?」
「まさか、そんなあの人に惚れるなんて……。
僕はただ尊敬しているだけですよ。
それに、あの人の相手は並大抵の人では釣り合いませんから。
殿下もきっとあの人を見ればわかりますよ」
その言葉は本心ではないように感じた。
特に理由はない、ただの勘ではあるが。
だが、並大抵の人では釣り合わない、か。
ルアンにそう言わせる令嬢とは……。
そして夜会の日、ルアンと踊る令嬢を見て、今までに感じたことのない想いを私は抱いた。
「……カイン、あの令嬢は?」
「少なくとも、国内の人間じゃないね。
あんな令嬢がいたら噂にならないわけがない。
あの様子から見るとルアンのエスコートの相手みたいだけど」
「ルアンの相手、か……」
ルアンと共に踊る彼女はとても美しかった。
女神、そう思う程に。
ダンスが終わったと思えば、私は自然と彼女の方へと近寄っていた。
だが、私がダンスへと誘う前にカインが誘ってしまった。
思わず舌打ちをしたくなったが、彼女に聞こえるかもしれないと思いとどまった。
それから、カインと彼女が軽く会話をしてから踊り始めた。
その頃には私のもとへ、ルアンがやってきていた。
「ルアン、彼女は誰だ?
お前とはどんな関係だ?」
「あの人は、エリス・フォーリア。
どこかの王子のせいで王族嫌いになりかけている、僕の従姉です」
「なっ……。
王族嫌いだと……?」
「はい。
あんなことがあれば誰だって嫌いになると思いますけど」
暗い笑みを浮かべるルアンを見て、ゾッとする。
ルアンがこういう笑みを浮かべる時は、決まって何かが起こる。
一体、彼女に何があったというのか。
それなりに原因があったと思うのだが。
「……理由はエリスから聞いてください。
それなりに仲良くなれば答えてくれると思いますよ」
「あぁ、そうさせてもらおう」
彼女が何をされたのかは分からないが、少なくとも、彼女を傷つけたその王族は許せないと思う。
フォーリア家といえば、隣国か。
エールの王子とは再従兄弟ではあるが……。
あれはバカだったからな。
次に会うことがあれば……。
そんなことを考えつつ、私はカインと踊り終わった彼女をダンスに誘った。
それも、どうせいつもと同じように私の身分を目当てに令嬢達が群がり、その対処に追われると思っていたからだ。
どの令嬢も、私の身分しか見ていない。
それなのに丁寧に対処しなければならないなど……。
ただ面倒なだけだ。
「あ、そうだ殿下。
僕、今回の夜会でエスコートする人がいるのでしばらく離れます」
「……意外だな。
お前にエスコートする相手がいたのか」
「えぇ、まあ。
公爵家の人間ですが」
私の側近の一人でもあるルアンは令嬢に対して良い感情を持っていないらしく、言い寄られても冷たく突き放していた。
そんなルアンがエスコートなどとは……。
一体どんな風の吹き回しだろうか。
いや、家の事情かもしれないが。
それにしてはルアンの表情が穏やかではあるが。
「ルアン、その人って綺麗?」
「綺麗な人だよ。
真っ直ぐで、強くて、誇り高い人だ。
本来は僕がエスコートするような人じゃないんだけど今回は少し問題があってね」
ルアンはその女性に惚れているのだろうか。
いつもよりも柔らかな笑みを浮かべた。
ルアンにそこまで言わせるその人物に会ってみたい、そんな思いからか今回の夜会は少しだけ楽しみに思えてきた。
だが、問題とは一体なんなのか。
気になるところではあるが、私が聞いていいことでもないだろう。
「僕としては、あの人と殿下が婚約を結んでくれたらと思いますが」
「……おい待て。
なぜそこに私が出てくる。
ルアンお前、その女性に惚れているのではないのか?」
「まさか、そんなあの人に惚れるなんて……。
僕はただ尊敬しているだけですよ。
それに、あの人の相手は並大抵の人では釣り合いませんから。
殿下もきっとあの人を見ればわかりますよ」
その言葉は本心ではないように感じた。
特に理由はない、ただの勘ではあるが。
だが、並大抵の人では釣り合わない、か。
ルアンにそう言わせる令嬢とは……。
そして夜会の日、ルアンと踊る令嬢を見て、今までに感じたことのない想いを私は抱いた。
「……カイン、あの令嬢は?」
「少なくとも、国内の人間じゃないね。
あんな令嬢がいたら噂にならないわけがない。
あの様子から見るとルアンのエスコートの相手みたいだけど」
「ルアンの相手、か……」
ルアンと共に踊る彼女はとても美しかった。
女神、そう思う程に。
ダンスが終わったと思えば、私は自然と彼女の方へと近寄っていた。
だが、私がダンスへと誘う前にカインが誘ってしまった。
思わず舌打ちをしたくなったが、彼女に聞こえるかもしれないと思いとどまった。
それから、カインと彼女が軽く会話をしてから踊り始めた。
その頃には私のもとへ、ルアンがやってきていた。
「ルアン、彼女は誰だ?
お前とはどんな関係だ?」
「あの人は、エリス・フォーリア。
どこかの王子のせいで王族嫌いになりかけている、僕の従姉です」
「なっ……。
王族嫌いだと……?」
「はい。
あんなことがあれば誰だって嫌いになると思いますけど」
暗い笑みを浮かべるルアンを見て、ゾッとする。
ルアンがこういう笑みを浮かべる時は、決まって何かが起こる。
一体、彼女に何があったというのか。
それなりに原因があったと思うのだが。
「……理由はエリスから聞いてください。
それなりに仲良くなれば答えてくれると思いますよ」
「あぁ、そうさせてもらおう」
彼女が何をされたのかは分からないが、少なくとも、彼女を傷つけたその王族は許せないと思う。
フォーリア家といえば、隣国か。
エールの王子とは再従兄弟ではあるが……。
あれはバカだったからな。
次に会うことがあれば……。
そんなことを考えつつ、私はカインと踊り終わった彼女をダンスに誘った。
1
お気に入りに追加
4,314
あなたにおすすめの小説
公爵令嬢アナスタシアの華麗なる鉄槌
招杜羅147
ファンタジー
「婚約は破棄だ!」
毒殺容疑の冤罪で、婚約者の手によって投獄された公爵令嬢・アナスタシア。
彼女は獄中死し、それによって3年前に巻き戻る。
そして…。
【完結】愛され令嬢は、死に戻りに気付かない
かまり
恋愛
公爵令嬢エレナは、婚約者の王子と聖女に嵌められて処刑され、死に戻るが、
それを夢だと思い込んだエレナは考えなしに2度目を始めてしまう。
しかし、なぜかループ前とは違うことが起きるため、エレナはやはり夢だったと確信していたが、
結局2度目も王子と聖女に嵌められる最後を迎えてしまった。
3度目の死に戻りでエレナは聖女に勝てるのか?
聖女と婚約しようとした王子の目に、涙が見えた気がしたのはなぜなのか?
そもそも、なぜ死に戻ることになったのか?
そして、エレナを助けたいと思っているのは誰なのか…
色んな謎に包まれながらも、王子と幸せになるために諦めない、
そんなエレナの逆転勝利物語。
婚約破棄されたのですが、どうやら真実を知らなかったのは私だけのようです
kosaka
恋愛
公爵令嬢、エルメア・サーラントは転生者である。
そしてこの世界は彼女の知る恋愛小説の世界だった。
恋愛小説内では国名しか出てこない国の公爵令嬢となった彼女は、学園の卒業パーティーで婚約者、アルベルト王太子殿下から婚約破棄を言い渡される。
それは彼女が想像していた通りの、王道の「婚約破棄」展開だった。
彼女はすべてを受け入れ、国を去る為行動を開始する。
彼女の知る恋愛小説の主人公たちが集まる国に行く為に。
しかし彼女の思い通りに事は運ばず……。
お姫様は死に、魔女様は目覚めた
悠十
恋愛
とある大国に、小さいけれど豊かな国の姫君が側妃として嫁いだ。
しかし、離宮に案内されるも、離宮には侍女も衛兵も居ない。ベルを鳴らしても、人を呼んでも誰も来ず、姫君は長旅の疲れから眠り込んでしまう。
そして、深夜、姫君は目覚め、体の不調を感じた。そのまま気を失い、三度目覚め、三度気を失い、そして……
「あ、あれ? えっ、なんで私、前の体に戻ってるわけ?」
姫君だった少女は、前世の魔女の体に魂が戻ってきていた。
「えっ、まさか、あのまま死んだ⁉」
魔女は慌てて遠見の水晶を覗き込む。自分の――姫君の体は、嫁いだ大国はいったいどうなっているのか知るために……
【完結】ああ……婚約破棄なんて計画するんじゃなかった
岡崎 剛柔
恋愛
【あらすじ】
「シンシア・バートン。今日この場を借りてお前に告げる。お前との婚約は破棄だ。もちろん異論は認めない。お前はそれほどの重罪を犯したのだから」
シンシア・バートンは、父親が勝手に決めた伯爵令息のアール・ホリックに公衆の面前で婚約破棄される。
そしてシンシアが平然としていると、そこにシンシアの実妹であるソフィアが現れた。
アールはシンシアと婚約破棄した理由として、シンシアが婚約していながら別の男と逢瀬をしていたのが理由だと大広間に集まっていた貴族たちに説明した。
それだけではない。
アールはシンシアが不貞を働いていたことを証明する証人を呼んだり、そんなシンシアに嫌気が差してソフィアと新たに婚約することを宣言するなど好き勝手なことを始めた。
だが、一方の婚約破棄をされたシンシアは動じなかった。
そう、シンシアは驚きも悲しみもせずにまったく平然としていた。
なぜなら、この婚約破棄の騒動の裏には……。
婚約解消? 私、王女なんですけど良いのですか?
マルローネ
恋愛
ファリス・カリストロは王女殿下であり、西方地方を管理する公爵家の子息と婚約していた。
しかし、公爵令息は隣国の幼馴染と結婚する為に、王女との婚約解消を申し出たのだ。
ファリスは悲しんだが、隣国との関係強化は重要だということで、認められた。
しかし、元婚約者の公爵令息は隣国の幼馴染に騙されており……。
関係強化どころか自国に被害を出しかねない公爵令息は王家に助けを求めるも、逆に制裁を下されることになる。
ファリスについても、他国の幼馴染王子と再会し、関係性を強化していく。皮肉なことに公爵令息とは違って幸せを掴んでいくのだった。
婚約破棄のお返しはお礼の手紙で
ルー
恋愛
十五歳の時から婚約していた婚約者の隣国の王子パトリクスに謂れのない罪で突然婚約破棄されてしまったレイナ(侯爵令嬢)は後日国に戻った後パトリクスにあててえ手紙を書く。
その手紙を読んだ王子は酷く後悔することになる。
その婚約破棄喜んで
空月 若葉
恋愛
婚約者のエスコートなしに卒業パーティーにいる私は不思議がられていた。けれどなんとなく気がついている人もこの中に何人かは居るだろう。
そして、私も知っている。これから私がどうなるのか。私の婚約者がどこにいるのか。知っているのはそれだけじゃないわ。私、知っているの。この世界の秘密を、ね。
注意…主人公がちょっと怖いかも(笑)
4話で完結します。短いです。の割に詰め込んだので、かなりめちゃくちゃで読みにくいかもしれません。もし改善できるところを見つけてくださった方がいれば、教えていただけると嬉しいです。
完結後、番外編を付け足しました。
カクヨムにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる