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魔族襲来

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「話は分かった。
だが…我がヘルナス家には何の得もない」


きた。
俺はこの台詞をずっと待っていたのだ。
ついニヤけてしまいそうになる顔を引き締めると俺は落ち着きを取り戻してからゆっくりと口を開いた。


「それは本心でしょうか?
少なくとも、僕にはそうは思えませんが」

「……ほぅ?」


レクトの父…ヘルナス公は興味深そうに笑みを浮かべた。
だが、その俺を見つめる視線には俺を試しているような、そんな様子が伺える。

俺はチラッと隣に座るレクトを見ると完全にリラックス状態であった。
それを見る限りでは断るなどという考えは無いのが分かる。
つまり、ヘルナス公は本当に俺を試しているのだろう。
そして、レクトは俺がヘルナス公に認められると信じている。
そんなところだろうか。

ならば、ここで間違える訳にはいかない。
いや、間違えることは出来ない。

俺はそれを理解すると、決して良くはない頭を必死に回転させる。
だがそこは転生者。
面接には馴れていたこともあり、すぐに言葉を選ぶことが出来た。


「ヘルナス商会は他の商会との繋がりがあまり無いとお聞きしました。
僕とリュークはトリッド商会に良くしてもらっています」

「……あのトリッド商会にか」


俺はヘルナス公との協力を取り付けるために次々に手札をきっていく。


「えぇ、それともう1つ。
こちらをどうぞ」


俺は予め作っておいたキィの果実のタルトを2つ出した。


「……これは?」

「僕がキィの果実を使用し作ったタルトです」


ヘルナス公とメルアがそれぞれタルトを1口だけ口に運ぶ。
そして、驚いたように目を見開いた。


「これは……!!」

「美味しいです……!
このようなもの、食べた事がありません…!」


どうやれお気に召してくれたらしい。
上手く行きそうである、そう思い俺は薄く微笑んだ。


「このレシピをヘルナス商会に差し上げましょう。
これでどうでしょうか?」

「……それでは了承は出来んな」

「そうでしょうね。
ですからこちらも少しだけ卑怯な手を使わさせていただきました」


そう言って出したのは録音水晶だった。
俺は魔力を流すと録音したものを再生した。
すると、最初の挨拶から全ての会話が流れた。


「魔族に襲われた後、これが明るみに出れば……ヘルナス家はどうなるのでしょうか?
僕は平民で、子供なのでよく分かりませんが……。
知っていたのにも関わらず、何も行動しなかったと糾弾……というようにはなるのではないでしょうか?」


それはもう満面の笑みをで堂々と告げてやった。
それにはさすがの公爵も笑いを堪えることは出来なかったようだ。


「ふっ…ふはははっ!!
面白い。
この私を脅迫するか!
公爵たる私を脅迫しようとは……その意味が分かっているのか?」


かなり濃密な殺気を放たれる。
一瞬恐怖を覚えたもののすぐに落ち着いた。
隣のリュークが笑ったからだ。
そんなリュークに俺も微笑む。


「カイを害するのならば……俺は許さない。
カイに手を出す前に殺してやる」

「リューク!!
やめろ。
大丈夫だ、俺を信じろ」

「……わかった。
悪い、取り乱した……」


焦った……。
マジで焦った。
いや、だってリュークの目、本気だったし!!
あぁ、俺の目が悪かった。
この狸ジジイ……レクトの親父よりよほどレクトのほうが怖い。
下手に怖がるとリュークが暴走するな……。
これからは気を付けるか……。


「リュークが申し訳ありません。
ですが、そちらの殺気が原因ですので今回は見逃していただきたい。
先ほどの話ですが……あなたに僕を害することは出来ない……。
僕にはアイギスがいますし、先ほどの事でお分かりいただけたとは思いますが、リュークは僕を害するものすべてを敵とみなすでしょう。
そうなれば……下手をすればこの国が滅びかねませんよ?
僕としても、そのような国に所属するつもりはありませんので。
何より、僕とリュークを相手にし、勝てるおつもりですか?

……守護神と転生神、リュークは僕が誰のものか、ということで口撃をしてくるほどですが」

「ふっ…はははっ!!
いいだろう、気に入った。

……それに、既に気付いておるのだろう?」

「えぇ、僕を試していた、というのは理解しておりますが」

「中々のキレ者だとは思っていたが……まさか、狸でもあったとはな」

「褒め言葉として受け取っておきましょう。
僕が思うに、あなたもかなりの狸であると思いますが」


俺とヘルナス公は握手を交わした。


「え……?
え、演技だったのか!?
しかもカイはそっち側!?」

「……よし、リューク。
それは後で、な?」


その後、ヘルナス公は突如話題を変更した。


「いつになれば、その仮面を外す気かな?」


仮面、というのはきっとこの話し方のことだろう。
これはまぁ、もう良いだろう。
そう思い、俺は仮面を脱ぎ捨てた。


「んじゃ、普通に喋らせて貰うぜ」

「薄々気付いてはいたが……そうも変わるのか」

「おう、まぁな」


思わず苦笑をもらしたヘルナス公に俺はいつも通りの笑みを浮かべた。
すると、リュークがほっとした様に呟く。


「カイが治った……」

「おい、待て。
流石にその言い方酷くねぇか?」


流石にそれは無いだろう。
俺が治ったって何だよ。
そんなに敬語を使う俺は変だったのかよ。

……いや、分かっている。

絶対に変だったな。
特にリュークから見ると有り得ないものを見るようなもんだっただろうな。


「とはいえ…明後日か…。
時間が無いな…」

「あぁ。
だが…国としても動いているだろ?」

「いや、少なくとも私は聞いた事がないな」

「…なっ……嘘だろ!?」


公爵家が知らないとなると……国も知らないのだろう。

ならば、何故そんな情報をリヴィアが握っている?
王都のギルドマスターだからといえど流石にそれは……。
他の支部からの情報だったとしても、だ。
リヴィアは国王に伝えなければならないはず。
なのに、何故……?

そこから導き出されるのは、リヴィアが裏で魔族と繋がっているという可能性。

そこで俺はもう1つの可能性に気付く。
どこかで情報が止められている可能性だ。
勇者、守護者、加護。
その事は1部の者しか知らないのだ。
そう、国王に話しても信じられなかったという可能性もある。

だが、とはいってもリヴィアの疑いが晴れたわけでもない。
そうなると俺達の行動は自然と制限されてしまう。


「……リューク、リヴィアを信じるか?」


リュークの勘は当たる。
リュークが嫌いな奴のうち、嫌な感じがすると言った奴に関して全員が何かしらの悪意があった。
だからこそ、ここでリュークに訪ねたのだ。


「んー……大丈夫だぞ」

「そうか」


今は、という事は完全には信用出来るわけではない。
ならば、今回はどうするべきだろうか?
思い切って行動する?
それとも、裏から手を回す?
いや、どちらもリスクが高すぎる。

思い切って行動してしまえばもしもリヴィアが裏切った時に俺達は手札を失うことになるかもしれない。
…いや、必ずと言っていいほどに、失うことになるだろう。

だが、だからと言って裏から手を回すには時間が圧倒的に足りなかった。


「あ、あの!
わ、私の家にも連絡してみますっ!」

「リナの?」

「は、はい…」


リナの家って ……何かあるのだろうか?
だとしたら是非ともお願いしたいのだが。


「リナの家は子爵なのよ。
ルーベル子爵は奇策な方よ。
あと、私も連絡してみるわ」


何故だろうか?
気さくと言ったはずだよな?
イントネーションが違う気がしたんだが……。
きっと気の所為だよな?
っていうか、リナは子爵家の生まれだったのか。
苗字がなかったからてっきりいいとこの商家の娘かと思っていたんだが。
まぁ、その辺りは色々と事情があるのだろう。

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