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学園

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俺は、久しぶりに、筋肉痛に悩まされながら学園へと登校した。

これも全てリヴィアのせいだ。
そう、俺はあれから結局リヴィアに捕まって、倒れるまで手合わせをしていた……いや、

だが、考えてみて欲しい。
目が覚めたばかりの怪我人にそこまでやらせる奴がどこにいるだろうか。
(ギルドにいる)


「カイ、大丈夫か?」

「あんま動きたくねぇだけだから問題ない。
けど、全身筋肉痛のせいで痛ぇ……」


ケラケラと笑うリュークに俺は恨みがましそうに睨みつけると焦ったように
「悪ぃ悪ぃ」と口にした。
そんなリュークに俺は、まぁ、リュークだしな……ということで終わらせることにしておいた。


「あ…カイ、おはよう」

「おはようっす!」

「おはようございます」

「おう、おはよ」

「おはよう」


俺達は教室に入り次第挨拶をすると席に着く。


「カイ、大丈夫なのか?」


意外にも俺に声をかけてきたのはレクトールだった。
あまりの意外さに俺は思わず目を見開いてしまうほどだ。
だってあのレクトールだぞ?


「……おい、その反応は…」

「いや、意外だったから」

「……済まなかった」


それは謝罪であった。
レクトールが、だ。
俺もそうだが、何よりカリンの方が驚いているような気がする。
やはりレクトールは変わったのだろう。
あの実習が原因なのだろうか?


「で、体は大丈夫なのか?」

「あー…大丈夫っていやぁ、大丈夫だな……。
ただ……」

「ただ…?」


俺は心配そうなレクトールに今の状態を告げた。


「リヴィアのせいで全身筋肉痛が……」

「筋肉痛!?
オークとの戦いの傷はどうしたんだ!?」

「いや、もうとっくに治ってるけど」


オーク戦での傷は全てリナが癒してくれた。
そのおかげで傷による痛みは無かった。

……あくまで傷による痛みは、だが。


「なぁ、レクトール」

「レクトでいい」

「なら、レクト。
お前は怪我とか無かったのか?」

「……あぁ。
私は、お前からの風の報せを受けてからすぐに戻ったからな」


俺は意外だと思いつつも皆無事だった様で安心した。
まぁ、本人は大変不本意そうだが。

今更だが、よく勝てたよなぁ、などと思っているとレクトがムッとしたような声を出した。


「……おい、聞いているのか?」


その声により現実に戻された俺は悪い、と謝ってからレクトの話を聞いた。


「はぁ……明日から、闘技大会の個人と団体両方の申請が始まるだろう。
どうせまだ決めていないなら、と思ってな。
団体の人数は3人だからな」

「マジか……。
ティード」


ティードに恨みがましい視線を向けた。
何も聞いていない、と。
ついでに俺とリュークは一緒に組むとして残りもう一人をどうするか。


「申し訳ないっす!
自分はカリンとリナと組んだっす!」


どうやら俺とリュークは残ったらしかった。
そして、平民ということもあり、貴族が多いこのクラスでは俺たち二人はチームを組みにくい。


「リューク」

「……俺も今知った」


それはそうだろうな。
どうせリュークの事だ。
聞いていたとしても忘れているだろうしな。


「レクトは1人なのか?」


俺とリュークの2人は組むのが決まっていたので残りは1人なのだ。
ここでレクトが2人以上であれば組めない。


「……あぁ」


レクトは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべてはいたものの肯定を返した。
一応、リュークの了解もとってから俺たちのグループのメンバーが決まった。
俺とリュークとレクト。
俺は守護者、リュークは勇者、レクトは魔導師。
……火力がやべぇな。
守りは俺がいるからな。
ってか、前衛は俺とリュークでレクトが後衛だろ?
……バランスもいいな。


「あ、そうだ。
レクト、俺今回完全守護にまわるつもりだから」

「は!?
手を抜くのか!?」

「違ぇよ!!
何で守護にまわると手を抜くことになるんだよ……!?
俺はもともと防御専門だぞ!?」


俺は守護者だ。
なのに、何故手を抜くなんて言葉が出てくるのか。
いや、まぁ…??付きだけど。


「……そういえばそうだったな」


こいつ、俺の職業忘れてやがった。
ってか、俺ですらレクトの職業覚えてんのにレクトが忘れるって……。


「……仕方ないだろう。
お前の職業に冒険者があったことが印象的だったんだ…!!」


言い訳じゃねぇか。
そうも思ったが心優しい俺は言わない事にしておいてやる。
感謝して欲しいものだ全く……。


「ってか、やっぱレクトって変わったよなぁ…。
最初会った時なんて、俺らが平民ってことで突っかかってきたってのに……」


相変わらず空気の読めない奴でリュークは頬杖をつきながらそんな事を口にした。


「それはっ!!
……いや、済まなかった…」

「んー、いや気にしてねぇけどさ…。
なんか、今の方がいいと思うぜ!!

そのなんていうか、偉そうだけど偉そうじゃない?」

「……リューク、お前はもう少し言葉を選べ。
本当の事だからって言っていいことと悪い事があるんだ。
ほら、レクトだってあんな複雑そうな……」


俺はレクトを指さした。
当のレクトはブルブルと肩を震わせ当然叫び始めた。


「失礼なのはどっちだ!
お前は私をフォローしたいのか落としたいのかどっちなんだ!?」


レクトは俺とリュークの頭を掴むと段々と力を加えていく。
だが、俺もリュークも耐性だけ飛び抜けていることもありそんなに痛みは感じない。
だが、いつまでたってもレクトは手を離すつもりはないらしくどんどんと力を加えていく。


「……いってぇぇぇぇ!?
ってか、いつまで掴んでんだよ!?
俺はカイみたいに頑丈じゃないんだからな!?」

「いや、俺みたいにってなんだよ!?
俺だってそんな頑丈な訳じゃない……よな?」


俺は自分の耐性の値を思い出して疑問を浮かべた。
そんな俺にレクトとリュークは揃って口にした。


「「知るか(知らねぇよ)!!」」


と。
何故かレクトだけは肩を上下させていてキツそうだったがまぁ、レクトの事なので気にしないことにしておく。

ようやくレクトは俺たちから手を離すと盛大な溜息を吐いた。


「…はぁ、本当にお前達は面白い」


レクトはフッと笑みを浮かべると時間を確認してから席に着く。

そんなレクトに俺もリュークも…いや、俺達だけではない。
クラス全体が感じた。

人が変わったと。
まるで、憑き物が落ちたみたいに良い奴になっていると。
今の状態のレクトであれば、家だって継げるだろうと思う程に変わっている。

レクトは元々顔も整っていたし、職業は魔導師、勉強だってそこそこ出来る。
それに加え、家柄もかなりいい。
女子からすれば性格さえ目を瞑ればこれ以上ない好物件だっただろう。
そう、性格さえ、目を瞑れば…だが……。

そして今、性格も難無しになった以上、これ以上ない好物件だろう。
俺等みたいな辺境の農民とは違って。

多少、妬む気持ちが無いわけではないがそれでも今のレクトを怨むようなつもりはない。
基本、良い奴みたいだしな。


「さて、それにしても…闘技大会か。
楽しみだな……」


俺は密かに先の闘技大会のことを考えながら笑みを浮かべながら授業が開始した。
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