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学園

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全員が教室に揃い、教師が入ってきたところで先程までザワついていた教室がシンと静まり返る。


「よし、全員揃っているな? まずは、入学おめでとう。
私はこのクラスの担任となったヘリクト・シーレンだ。
では、カリン・エンデールから自己紹介を初めてくれ」


カリンからとなったのは席が1番前だったからということと貴族だったから、その2つが理由だろう。


「カリン・エンデールよ。
職業は炎の魔術師だけど、一応、風も使えるわ。よろしく」


炎の魔術師という事は火属性が一番得意なのだろう。
……いや、火と風の組み合わせが得意なのだろうか?


「あ、えっと……。ミンファ、です。
職業は、その解呪士です…。
あ、足でまといにならないように頑張ります…!
よろしくお願いします」


ミンファと名乗った子はおどおどしているもののこのクラスという事はかなりの実力者なのだろう。
……とはいえ、職業はどう言えばいいだろうか?
俺はまだしも……。リュークが、な。


「なぁ、リューク。職業は秘密って事にしとこうぜ。
それか、戦闘職って事で。流石に俺も言うのは躊躇うしな……」

「あー、そうだな。
どうせ言っても信じてもらえねぇだろうしな……」


直前で相談をしておく事に成功したのでそれは良好と言えるだろう。


「ティードっす! 職業は盗賊っす!
魔法はあんま得意じゃないっすけど…よろしくっす!」


ティードは盗賊か。……道化師かと思っていたのだが。
どうやら推測が外れたらしい。


「俺はリュークだ。
あー、職業は秘密で。
魔法は多分、大概のものは使える…はずだ。
よろしく頼む」

「おい、職業が秘密とはどういうことだ?
余程自分の職業に自信がないのか?」


この声は聞いたことのある声だった。
……レクトール・ヘルナスだ。
だが、俺もリュークも気にすることなく先に進む。


「俺はカイだ。俺も職業は訳あって話せない。
だが、魔法は独学だから期待しないでくれ。宜しく頼む」

「お前もか。どうせ下級職なのだろう?」


レクトールは馬鹿にした様な笑を浮かべるが俺は涼しい顔でただ一言口にした。


「想像に任せるぜ」


それ以外に言いようが無かったのもあるが。
……俺の職業は??だし、リュークは勇者だ。
そして、何よりリヴィアと神官からパーティメンバー以外には言うなと口止めされてるいるのだ。
だからこそ、言いたくても言った後のことを考えると怖くて口に出来ない。


「ナイロです。
僕の職業はー、結界師でぇ、中でも強化系が得意かな。
よろしくぅ」


先程までのピリピリとした空気が壊れた瞬間だった。
ナイロののびのび…のほほんとした声により一気に気が抜けた。


「レイアだ。職業は剣士。よろしく頼む」

「リナです。えっと……職業は回復術士です。
それ以外は上手く発動しない事が多いですがよろしくお願いします」


回復術士。その言葉にレクトールがピクリと眉を動かした。
回復術士はレアと聞いていたためまさかこんなにも早く回復術士と会えるとは俺も思っていなかったが。










「よし、全員終わったな。
リュークとカイの職業についてはギルドと教会から連絡が入っているからいいだろう。
そうだな、リュークについては戦闘職の上位、カイについては……盾職の上位だと思っていればいいだろう」


先生は俺の職業だけ迷ったように感じた。
もしや??まで伝えられているのだろうか?
それとも冒険者というところだろうか?……まぁ、いいだろう。


「次に、四グループを作ってくれ。
出来るだけ前衛、後衛バランス良く組んでくれ。
そのグループでこれから迷宮攻略なんかをするからな。
グループが出来たらリーダーを決め私のところに来い。
いいな?」


先生はそれだけ言うと前の椅子に座りこんだ。
それを合図に全員が立ち上がり、声をかけ始める。
取り敢えず、俺とリュークは最初に2人で組んでおく。


「カイ、残りの三人はどうする?」

「レクトール以外なら俺はいいぞ。リュークは?」

「俺もあいつ以外ならいいな」


……結果、決まらない。俺もリュークも知り合いと言える者があまりいないのが原因だ。

そこに話しかけてきたのはカリンだった。
リナは回復術士ということもあってか他の奴らに囲まれている。


「二人とも、まだ組んでいないなら私達と組まない?
私達、というのは私とリナの二人よ。
どう?
悪い話じゃないと思うのだけど……」


俺はうーん、と唸ってからリュークに丸投げすることにした。


「どうする、リューク?」

「俺はいいけど……カイは?」


リュークがいいのであれば俺には問題ないのでOKをだす。


「リュークがいいなら問題ない」

「じゃあ、成立ね」


カリンはふふっと笑うとリナを呼びにかけて行った。
さて、問題はあと一人だ。
誰にするか……。


「カイ、リューク、連れてきたわよ」

「あ、えっと……。よろしくお願いします」


リナは少し疲れたような表情だったもののぺこりと笑顔で頭を下げる。
俺とリュークはそれに、よろしく、と軽く会釈を返し残りの1人を誰にするかの討論を始めた。


「そうね……カイは盾職で、リュークは戦闘職だったわよね?
……実際、どの程度の職業なのかしら?」

「あー……誰にも言うなよ?」


パーティを組むのならば問題ない。
だが、一応口止めをしておく。


「言わないわよ。自己紹介の時に秘密だって言うくらいだもの。
余程知られたくないものなのでしょう?」


少しだけ機嫌を損ねたようでぶっきらぼうな言い方だった。


「あぁ、悪いな。だが、リュークの職業は後にしてくれ。
バレたらヤバいからな」

「……そんなに隠すような職業なのかしら?」

「……後で話す。カイのもある意味問題なんだけどな。てか、俺よりカイのほうがおかしいんだよな」

「うっせ」


リュークは苦笑するが俺のは別に?さえ言わなければ問題ない。


「それはまた後でな。俺の職業は守護者と冒険者だ。
盾職が主だが一応、冒険者もあるからある程度なら戦えるぞ」

「……守護者って、盾職の最上位職じゃないの」

「守護者……。
守護者でしたら勇者様のパーティメンバーに入るかもしれない程の職業じゃないですか……」


勇者のパーティメンバーという部分で俺とリュークは目を逸らす。
……その勇者がここにいて、しかも俺は既にパーティメンバーになっているなどと言えるはずがない。


「……まぁ、そんな事より、リュークの職業は戦闘職の上位だ。
魔法も使えるようになるだろうから前衛も後衛も出来るようになると思うぞ」

「……カイ、ハードル上げないで欲しいんだが」

「本当のことだろ」

「いや、物凄くハードル上げられてる気がする」


暫くの間無言になるがすぐに話を戻した。


「……で、誰にする?」


……まぁ、つまりはリュークをスルーしたのだ。


「そうね……解呪士の子かティードはどうかしら?」

「解呪士か……。
……なぁ、解呪って光系統だったよな?」

「えぇ、そうね」

「……おい、カイ。まさか……」


さすがリューク。
俺と長年いただけあって俺の思考回路は分かっているらしい。
だが、それで止める俺じゃない。


「んじゃ、解呪はリュークに任せよう。
リュークは光の適正も持ってるからな」

「無理があるぞ!? 俺はまだ光の魔法は使った事ないんだからな!?」

「……いざとなれば俺がクソジジイに頼むか、リュークが女神に頼めばいいだろ」

「……それもそうだな」


クソジジイなら調子者だから簡単に解呪してくれるだろうしな。
女神はリュークに対しては甘いから頼まれれば簡単に解呪する。
……チョロいな神。


「じゃあ、ティードに声掛けてみるか」

「えぇ、そうね」


……俺とカリンを含め、誰も動こうとはしなかった。
お前が行け、という視線を投げかけるが誰も動かない。
……仕方ない。

俺は渋々ティードの元へ行って声をかける。


「ティード、お前一人か?」

「当たり前っす!」

「………そうか。じゃあな」


……俺は結局、声をかけただけで戻ってきたのだった。


「ティード、一人だって言ってたぞ」

「……カイ、あなた何しに行ったのよ」


ジト目のカリンに俺は胸を張って答えてやる。


「声掛けてきた」

「………馬鹿じゃないの? 何で誘ってこないのよ!」


普通に怒られた。……だが、仕方ないだろう。
何か誘うのは嫌だったのだから。


「……ちょっと行ってきますね」


俺達を見ていたリナが苦笑してティードのとこへ行った。
少し話してからティードを連れて戻ってきた。


「パーティ、入ってくれるそうです」

「よろしくっす!」


……うん、まぁ…なんというかチグハグなメンバーだ。
農民の子供に商人の子供に貴族の子供。なんというバランス。
ちなみに、あとからきいた話だがティードは商人の子供ではなく、冒険者の子供だったらしい。
……まぁ、チグハグなのには変わりないが。


「で、リーダーはどうするんだ?」

「リュークと俺は平民だしな」

「あら、私も嫌よ」

「自分も無理っす」

「私も無理ですね」


……決まんねぇぇぇ!!このパーティ、全く決まんねぇ!
ってか、普通は貴族がリーダーやるだろ!
……どうせなら勇者であるリュークにやらせるか?


「カイ、あなたさっき平民だからと言ったけれど…この学園では身分は関係ないでしょう?」

「……そうだな。じゃあ、俺はリュークを推薦しよう」

「……おい。俺はカイを推薦するぞ」

「自分もカイを推薦するっす!」

「私もそれがいいと思うわ」

「私もそれでいいと思います」


……なんだろうか、この押し付けられた感じは。
大体、リーダーはリュークがやるべきだろうに。


「……リューク」

「ん? あぁ、俺が行って来るからカイはそこに居てくれ」


リュークはそのまま笑顔で先生に報告しに行った。だが、俺は聞いてしまった。
リーダーは誰かと先生が聞いたときに俺の名前を出したのを。


「先生! リーダーは俺じゃなくてリュー……」

「変更は認めん」

「いや、間違……」

「変更は認めん」

「先……」

「変更は認めん」

「……はい」


え……俺、押し付けられたんだけど?
しかも変更は認めんって……!
先生もリュークの職業知ってるんならリュークをリーダーにさせるべきだろう!


「決まった班は別室で話し合いにする。
部屋については私のところへ来た者に伝える」

「カイ、部屋が1Aって書いてある部屋だってさ。
そこが俺達のグループの部屋になるから必要な物があれば申請書を出せってよ。
中は自由に使っていいらしいぜ」


その部屋には防音の結界を張る魔道具があるので他のグループに漏れる心配はないらしい。
……すごい待遇だ。すべてこんな部屋が用意されているのだろうか。
だとしたらすごいが……。

取り敢えず俺等は部屋に移動するとステータスの公開から始めたのだった。
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