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裏切り

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俺は、いつだったかのジジイの言葉を思い出していた。

『お主はいずれ選択を迫られるじゃろう……。
友か、世界か、自身か、どの選択を選ぼうとお主の勝手じゃ』


という、言葉を。
あれは、確かオークの集団の討伐の時だっただろうか。

それが今は、懐かしい。
あの頃の俺はまだ全然ガキで、簡単な選択しかしてこなかった。
それに、あの頃は何も知らずにリュークとバカみてぇに笑いあってた。

今なら分かる。
あの時のジジイの言葉の意味が。
俺なら救えるかもしれねぇっていったことが。
多分、冬夜を救うことは俺にしか出来ねぇからな。

友か、世界か、自身か、か。
ようやくその意味がわかった。
冬夜を下手に救えば邪神が出てきて世界を滅ぼすだろう。
そして、冬夜を助けなければ、それを幸いとしやはり邪神が世界を滅ぼし冬夜は消えてしまうのだろう。
……世界を選ぶのならば、邪神ごと冬夜を殺すことになる。

もしくは、冬夜から俺に移らせ、俺自身が死ぬか。

ってところだろうな。
あのジジイが考えるとしたら。

生憎、俺はその4択のうちのどれでもねぇ、第5の選択をする。
冬夜を生きさせ、俺も死なずに邪神をどうにかするって方法をな。


「カイ、もう……心配したのよ?
1年も手紙を寄越さないだなんて……。
魔界を滅ぼしちゃうところだったじゃない」


サラリと隣で怖いことを普通にいいのけるお袋に正直苦笑しか出来ないのだが。

……俺のお袋ってこんな怖いっけ?
ってか、手紙と魔界の比率おかしくね?
俺のせいで魔界滅びるの?
ってか、そんなことやるか、普通!?

……俺の両親は普通じゃねぇな。
絶てぇ何かしらやるな。


「そうだぞ、カイ。
お前がもう少し遅ければ……」


滅ぼす気だったな。


「拷問にかけるところだったぞ、あの魔族。
多分だがな、ノリで神級の魔法打ちまくってたな」

「うぉぉぉぉぉ!!
俺間に合って良かったぁぁぁぁ!!」


思っていたよりもヤバかった。
あのお袋の魔法見たからかリアルにやりそうなんだよな。
しかも、ノリでってとこが妙に、な……。


「カイったら、久しぶりに家族と会ったのが嬉しいのかしら?
ふふっ、まだまだ子供ねぇ」

「チゲェェェ!!
お袋や親父が色々とやらかしそうで怖ぇんだよ!!
こんの加減知らずが!!」

「まぁまぁ……そんなこと言って。
可愛いわねぇ」


……ダメだ。
通じねぇ。
なんなんだよマジで。
変なフィルターでもかかってんのか!?
めっちゃ勘違いされてんだけど!?
俺の話絶対聞いてねぇだろ!?


「カイ、たまには正直に言った方がいいぞ?」

「……新手の精神攻撃か!?
話通じねぇの地味に辛いんだが!?」

「まぁ!!
辛いだなんて……どこか悪いのかしら!?」

「早く治さないといけないな!」


話が通じなすぎてマジで泣きそうなんだが。
話通じねぇのが辛いって言ってんのになにこの大人共……。
『辛い』の部分しか聞いてねぇじゃねぇかよ!!
ってか、なんで聞かなくていい部分は聞いてんだよ!?


「……はぁ、お袋、親父そろそろ村に帰んねぇか?」

「そうねぇ……そろそろ帰りましょうか」

「あぁ、そうだな。
久しぶりの家族3人での夕飯だ」


……何故か親父の言葉に棘を感じたがきっと気の所為だろう。
ははは、まさか親父がそんなこと言うわけねぇよな。
俺のせいで魔界を滅ぼしそうになる奴にそんなこと言われるわけがねぇよなぁ……?


「食材は色々と確保出来たことだしね」


……食材、というのはまさかお袋の傍らに積み上がっている魔物の山のことだろうか?

……わざわざ魔界まで食料確保を目的に来るやつは初めてなんだが?
そんなこと考える馬鹿が近くにいたとは……。


「……お袋、魔力どんだけ残ってる?」

「んー、そうねぇ……上級10発は軽くいけるかしら?」


……かなり残ってんな。
ってか、そんなに魔力持ってたのかよ!?
俺より絶てぇ強ぇだろ!?
下手すれば勇者であるリュークよりも余程強ぇぞ!?
冬夜の方が強いとは思うが……。


「あー、んじゃ今から陣描くから魔力込めて欲しんだけど。
そうすりゃあ、あとは俺が飛べばいいし」

「えぇ、分かったわ」


お袋と親父が魔物達をマジックバックに入れていく中、俺は黙示録から籠の魔法を探し出す。

籠があればあとは俺が持って飛ぶだけでいいからな。
転移の方が手間はかからないが魔力の消費がヤバいんだよなぁ……。
もうちょい弄ればどうにかいけるとは思うが。


「よし、出来た。
お袋、頼む」

「……はい、終了」


お袋が魔力を流し込むと、陣はグルグルと周りだし次第に土の籠を作り出す。
ちゃんと持ちやすいように取っ手もついている。
思いのほか便利だな。

俺は翼を出すと、お袋と親父に籠の中に入るようにいい、取っ手部分を持つとバサりと飛び立った。


「わぁ……綺麗ね。
それにしても、カイの翼はどうなっているのかしら?」

「思っていたよりも速いな。

翼は家に帰った後、ゆっくり見せてもらえばいいさ」


……え?
俺が翼見せんのは確定してんの?
俺の意思どこいった?


「そうね。
色々と試してみたいことがあったのよね。
楽しみだわ」


ゾクリと寒気が走ったのだが……何故だろうか。
お袋に実験動物として見られている気がしてくるんだが?
マジで怖い。


「そう言えば……カイ。
お前可愛い彼女を連れてきたじゃないか」


可愛い彼女、というところで思わずむせた。
きっと……というか、確実にカリンのことだろうしな。
……クソっ、思い出したらカリンに会いたくなってきた。
……急ぐか。


「まさか、あのカイが貴族の娘を連れてくるとはなぁ……」

「そうね。
ワンピースを着て赤面してた頃とは……」

「何言ってやがる!?
着せたのはお袋だろうがっ!?」


お袋は確実に俺の心を抉りに来ていると思う。
絶対狙っているな。
のほほん、としているよいにみえて偶にそんなことしてくるから嫌なんだよなぁ……。
まぁ、そんなとこがお袋らしいっちゃあらしいが。


「ったく……そろそろ着くぞ」

「あら、もう?」

「速いな……」


お袋は少し名残惜しそうに、親父は驚いたように言葉を零した。
それもそのはず。
俺はここまで加速もかけて飛ばしてきたからな。
籠のほうにはちゃんとアイギスを展開させ風の抵抗を感じさせないようにしていた。

魔族になった俺とお袋達とじゃ耐久にもかなり差が出るからな。
元々守護者??だし。
つうか、マジで??とかいつになったら取れんだ?

俺は村の上空まで来ると加速を解除し、ゆっくりと下に下ろしていく。
10メートル辺りのところでアイギスも解除すると、ゆっくりと籠を地面に置き、俺は音もなく地上に降りた。
そして、翼を仕舞うと籠を解除する。


「カイっ!!」

「うぉっ……カリン……か?
さっきぶりだな」


いきなり飛びついてきたのはカリンだった。
彼女から香る甘い香りに一瞬固まったものの、その小さな体を優しく抱きしめる。


「えぇ……でも、何でここに?」

「あー……それはまた後でな」


彼女は腕の中から俺を見上げるように見つめてくる。
その赤いルビーのような綺麗な瞳に俺の姿が映ると彼女を独占したような気になってくる。


「あらあら、熱いわねぇ~」

「我が息子ながら中々に……」

「なっ……うっせぇ!!
カリン、行くぞ」

「あっ……え、えぇ」


俺が手を離すとカリンは名残惜しそうな声を漏らした。
そんな声を隠すように俺の言葉に頷いたカリンの頬は少し赤らんでいた。

…….ヤベぇ、マジで可愛い。
カリンが可愛すぎてヤバイんだが。
何だこの可愛い生物。
今すぐにでも俺のものにしてぇ。

……まぁ、やらねぇけど。
そんなことしたら、今のカリンじゃあ押しつぶされるからな。
それが分かってんのにやるわけがねぇ。


「……カイ、リューク達は」

「リュークの家、だろ?」

「えぇ」


流石に話さなきゃいけねぇことがあるからな。
……ってか、忘れてたがフェイルはどこにいるんだ?


「リュークのとこに行く前に探すか……」

「探すって……誰を?」

「フェイル。
魔王の弟っていやぁ分かるか?」

「えぇ……ここに来ているの?」


そのカリンの声には不信感も感じられた。
俺は感じた事をスルーし、無駄に明るく振舞った。


「おう。
危なかったから連れてきた」

「……後でちゃんと話してもらうわよ」

「あぁ、分かってるさ」


もう、カリンには隠しごとはしねぇって誓ったからな。
まぁ、転生のことは聞かれない限り答えるつもりはないが。
それくらいは別に良いだろう。


「おっ……」

「っ……カイ!!
よくも俺を……」

「フェイル、ちょっと話がある。
来てくれ」

「お前はいつもそうだな……。
さっさと行くぞ」

「おう」


フェイルとも仲良くなったものだと思う。
まぁ、冬夜のこともあったからだろうが。


まぁ、取り敢えずはアレだ。
さっさとリュークのとこに行こう。
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