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パーティー2

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「何とか間に合ったな……」

「えぇ、本当に……」


それなりに体力があって良かった。

……それにしても本当にギリギリだった。
入口のところで2人に渡すものを預けるのも焦って手間取ってしまったし。


「紫月!」

「咲夜!」


私は紫月を見つけると、走り出しそうになるのを堪え、笑顔で名を呼んだ。
……いや、たまに令嬢って事を忘れるんだよね。
でも、この頃は素を出すことも少なくなったし多少はマシになった……と、思いたい。


「紫月、おめでとうございます!
ついでに奏橙も」

「ありがとうございます、咲夜」

「僕はついでなんだ……」


笑顔の紫月に苦笑する奏橙。
やはり奏橙に紫月は勿体無い気がしてならないけど。
というか、この腹黒男のどこがいいのか……。
友人天也のために私を売った恨みはまだ忘れてはいない。


「奏橙、咲夜はそういう奴だ。
そこも可愛いだろ?」


天也が奏橙に慰めるような言葉をかける。
……ように見せかけた自慢のように聞こえる。

私は私で天也に可愛いと言われたことで照れて顔が赤くなっていく。


「いや、わかってるけど……。
僕には2人が上手くいっているのが意外なくらいなんだけど……」

「っ……奏橙には関係ないでしょう!」


思わず反応してしまったのは私の方だ。
やられた感が半端ない……。
そんな私に天也と奏橙が笑う。
……今度絶対にやり返す!!


「結構可愛いぞ」

「なっ……天也!?」


自分でも感じられる程に頬が熱を持つ。
きっと、天也達から見れば赤くなっているのだろう。
それもこれも全部天也のせいだ……。
あんな事を言うから。


「な?」

「あの咲夜がねぇ……?」

「ふふっ、可愛いですよ、咲夜」

「からかわないでくださいっ!」


そして、奏橙が不信げに視線を向けてくるが正直やめてほしい。

……何だろうか、まるでその、演じているんだろう的な冷たい視線は。
失礼な奴め。

私が平静を装うのがどんなに大変か知らないくせに。
こうなったら今度奏橙がいない間に紫月に奏橙の黒歴史を色々と教えてやる。


「そろそろ挨拶があるから。
天也、悠人先輩に気を付けてね。
咲夜は黒羽凛に。
じゃあ、また後で」

「えぇ、奏橙、紫月、改めて婚約おめでとうございます。
奏橙、心遣いありがとうございます。
ですが、お兄様はあちらを潰すつもりですので問題ありませんわ」

「と、いうことだ。
今回は多分、俺の方には来ない……はずだ」

「……程々にね」


……奏橙は私があの兄を止められるとでも思っているのだろうか。
さすがの私でも無理がある。
あの兄は暴走したら止められないと分かっているし。

その後、奏橙と紫月の挨拶が終わり、曲が流れ始める。
紫月が恥ずかしそうにほんのりと顔を赤くしていたが、そんなところも綺麗だと感じた。

1曲めは奏橙と紫月の2人だけで踊り、それが終わるとまた、曲が流れる。
その曲に乗り、天也は私に手を差し出した。


「咲夜、俺と踊ってくれるか?」

「えぇ、喜んで」


私は笑顔で天也の手を取ると、ダンスホールへと入っていく。

ゆったりとした曲であまりダンスが得意ではない私にも踊りやすい。

ターンを決める事に、ダンスホールの光でキラキラと輝く軽く結っただけの髪と淡い蒼のドレスの裾がふわりと揺れる。

そんな彼女をリードする蒼い瞳を愛おしげに見つめる漆黒の男。
黒光りするその髪は彼をより引き立たせていた。

そして、何より彼女に合わせたであろう事がわかる青の耳飾りに2人の色を使ったブレスレット。
そしてそれは彼女の方も同じだった。


『絵になる2人だ』


それが2人を見た者達の思ったことだった。
踊っている者達も、2人が横を通る度に思わず視線を向ける。
容姿もさることながら、その1つ1つの動きが洗練されているように美しかった。

更に、優しく微笑み、愛おしげに相手を見つめるその視線に羨望の念を送っていた。
2人のオーラに圧倒されていた人達のことを知らぬ当事者の2人はただ、静かに微笑む。
それが、更に人の視線を集めるのだと知らぬままに。


「……天也、かなりの視線を感じるのですが…」

「……奇遇だな。
俺もそう思っていた」

「……何故こんな視線が?」

「……さぁな」


決して2人がわざと視線を集めたわけではないのだ。
……あくまでも、自然と集まってしまっただけだ。
視線を集めた理由を、天野家と海野家の子だから、という理由で半ば強引に納得すると、視線など気にせずに踊り続ける。

因みにその場にいた咲夜のファンクラブの者達は固まっていた。


「あぁ……なんて素敵なんでしょう…」

「わ、私……ここで死んでもいいですわ……」

「咲夜先輩……綺麗……」


などという事態になっていた。
後日、ファンクラブ内でツーショット写真が高値で取引されていたのは言うまでもない。
そして、更にファンクラブの会員数が増えたという……。



私と天也は曲が終わると、名残惜しさを残しながらダンスホールから離れた。
壁際に行くと、ようやく視線が少しずつ離れていく。

その、いつもとは比にならない程の息苦しさに私は溜息を吐いた。


「咲夜、大丈夫か?」

「……えぇ、少し疲れただけですもの。
やはり、人目を集めるのは苦手ですわ……」

「それが生徒会長をやっていた奴の言う事か……」


呆れた口調の天也だったが、その視線は、労るような優しいものだった。
そんな天也に愛おしさが込み上げてくる。


「咲夜先輩」

「あら……勇璃君、久しぶりですわね」

「はい、お久しぶりです!」


元気で可愛らしいな勇璃君を見ていると忘れるがこれでも私のファンクラブの会長である。
可愛い後輩なのに……!!

「あの……黒羽凛さんの事なんですけど……。
先輩が次に帰国するまでにはどうにかしておきますね!」

「……程々にしておいてくださいね?」

「……はい!」


少し間があった気もするが……気の所為にしておこう。
……色々と危険そうだし。
気苦労をこれ以上増やしたくないし。


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