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デート?
しおりを挟む今日は天也と約束していたデートの日だ。
まだ付き合ってはいないけど。
そのせいか朝から私は浮かれていた。
「清水、ほ、本当にこれでいいのかしら…?」
私は先程から清水の選んでくれた服を着て鏡の前で見ていた。
「お嬢様の可愛らしさが十二分に発揮されているかと思います!」
「……そ、そう?
天也も可愛いと言ってくださるかしら……」
「お嬢様でしたら大丈夫です!」
清水がそう言ってくれるのなら大丈夫な気がしてくる。
私は深呼吸を何回かしたあと、清水に車を出してもらい予定時間よりも少し早くに待ち合わせ場所に到着した。
時間を見ると7時30分……まだあと30分もある。
「……まだ、時間がありますわね」
そうは呟いたもののする事もないので取り敢えず座っている事にした。
残り30分、暇だなぁ……などと思いつつも楽しんでいる私がいる事に驚く。
「咲夜」
「……った、天也……おはようございます」
「あぁ、おはよう」
天也は私を見るとフッと微笑んだ。
私はそんな天也の顔にやられてしまいそうになる。
分かっていてやっているのだとしたら脅威的だ。
「早くありませんの?」
「咲夜も同じだろう……。
まだ30分もあるぞ?」
それは、確かにそうだが。
「まぁ、咲夜に会いたかったからな」
「……そうですか」
私は少しだけムッとした様に口にしたがすぐに笑みを浮かべ立ち上がった。
「悪いな。
遅くなったが…その服、似合ってる。
可愛いと思うぞ」
少しだけ顔を赤く染めたながらも口にした天也の言葉に私まで顔を赤くさせられそうになる。
「……ありがとうございます」
私は、あまりの恥ずかしさについ俯いてしまうがそれでも天也は嬉しそうに目を細めた。
「咲夜、今は素でいいんだぞ?」
「そう、だね。
じゃあ、お言葉に甘えて…」
「あぁ、行くぞ」
「うん」
私は天也が差し出してきた手を取ると歩き出した。
前回はまだ恋愛感情なんていうものを理解していなかったこともあり全く緊張などしなかったのだが今は理解してしまったせいか緊張で押し潰されそうになる。
こうして、天也と2人で歩いている、それだけなのに恥ずかしくなってくるのはデートという特別な時間だからだろうか?
「咲夜、さっきから俯いてるが……どうかしたか?」
心配そうに見つめてくる天也に私はしまったと思いバッと顔をあげ、おずおずと理由を口にした。
「……別に。
ただ、今回は少し緊張するなって思っただけ。
前回は全然気になんなかったのにね」
「っ……俺は前回の時も緊張したんだぞ?」
天也の意外な言葉に私は戸惑う。
そして口にしたのが……。
「それは……まぁ、ごめん……?」
「何で疑問形なんだよ…」
天也にツッコまれ、ついつい笑ってしまうと天也も私につられて笑っていた。
私は幸福感をおぼえながら遊園地へと向かうのだった。
「それにしても……咲夜が遊園地へ行きたいなんて意外だったな…」
「……本当は何処でも良かったんだけどね」
私は天也に聞こえない程度の声で呟いた。
確かに天也の言う通り、私は遊園地にはあまり興味はない。
…んまぁ、楽しいとは思うかもしれないが。
そんな中、私が天也を誘った理由はただ1つ。
デートをしたかっただけだ。
そんなこと、天也に言える訳もなく……。
デートならばやっぱり天也を振り回してやろうと選んだのが遊園地だっただけだ。
「私だって偶にはそういうところに行きたいと思うし…」
だって、前に清水にデートスポットとか聞いたら遊園地や水族館って言ってたし…。
それに、確かに前世でもデートスポットとして聞いた事あったし……。
客船の下から魚が見れたので水族館は今回やめておいた。
その結果が遊園地なのだ。
「……私にとっては天也こそ意外だったけど。
まさか付き合ってくれるとは思って無かったからね」
天也は遊園地では断るかな、と少し心配していたのだ。
まぁ、杞憂に終わったが。
「俺は咲夜とならどこにでも行くさ」
「っ……だから!
そういうのはズルいって…」
突然そんな事を言われるとこっちが恥ずかしさのせいで死ぬ。
ただでさえ恥ずかしいってのに……。
まぁ、最初よりは幾分マシになった方だと考えよう。
「俺は咲夜のいうズルい事に何年も耐えてきたんだがな……」
「うっ……仕方ないじゃん。
気付かなかったんだもん…」
確かに気付きそうなところは幾つもあった……ような気もするがあの時の私は乙女ゲームという事で私に恋愛フラグなんて立たないと思っていたのだ。
しかも容姿も頭も人並み以下しかない私の事を誰が好きになると思うだろうか?
しかも、攻略対象の天野天也だ。
絶対に無い。
普通、攻略対象者ならヒロインである愛音を好きになるだろう!
という思いもあったせいだと思う。
それとあれだね、私の死亡フラグも気になってたし。
それらが重なってなければ私だって気付いた……はず!
……気付いた、よね?
「あぁ、でも鈍感って調べてきた時は驚いたな」
私はその時の事を思い出して顔を背けた。
あの時は何を言っていたのか意味が分からなかったのだ。
今はそんな事はないと言える。
「まぁ、そういうとこも可愛いと思うが…」
「だ・か・ら!!
そういう事は言わないでってば…!」
そういいつつも私の表情は明るかった。
それはそうだろう。
好きな人に可愛いと言われて嬉しくない者なんていないだろう。
「パートナーを申し込んだ時点で気付くと思ってたんだが…俺がパートナーを頼んだ時どう思ってたんだ…」
私はその時のことを思い出し、正直に口にした。
「……頼める友人がいないんだなぁって。
それと、他の令嬢から逃げるためには立場的に私が丁度良かったのかなぁ…って思ってたよ」
「それであの目か!?」
あの目、とはきっと可哀想なものを見るような目のことだろう。
私は何も言えずに視線を逸らした。
「俺にだって友人くらい1人や2人いるぞ」
「…それでも少ないと思うけど」
「なら、咲夜は何人いるんだ?」
「…7、8人くらい?」
私と天也は無言になった。
自分で口にしておきながら友人の少なさに傷ついているのだ。
まぁ、あまり気にしない……わけがない。
大いに気にする。
「……忘れるか」
「…そうだね」
私と天也は即刻記憶から消し去った。
友人は量より質だよね!
…はぁ。
遊園地に着き、チケットを買うと中に入る。
「咲夜、どれから乗る?」
「うーん……どうしよっか?
天也って絶叫系大丈夫だっけ?」
「あぁ、大丈夫だ」
「じゃあ、絶叫系行く?」
「いいぞ」
と、いう事で、だ。
私達はジェットコースターに乗っていた。
上まで来るとこの辺の景色が見渡せる。
だが、流石に少しだけ肌寒いと感じながらも私達は落ちていくのだった。
「咲夜、行きたいところがあるんだがいいか?」
「勿論。
行こ、天也」
私が笑いかけると天也もフッと笑った。
その表情に少しドキッときたのは内緒だ。
「……って、お、お化け屋敷…」
私は少しだけ顔を引き攣らせていた。
当たり前だろう。
私はそういったものが苦手なのだから。
「あ…こういうのは苦手か?」
当たり前だ。
私はホラー系が大の苦手だ。
だが、子犬のような目をしている天也に誰が言えるだろうか?
「そ、そんな事ないよ。
行こ」
その結果…私は自らお化け屋敷の中へと入ることになった。
「……咲夜」
「……ありがと」
中に入ると、私が物音に敏感になっている事が分かったのだろう。
天也が手を差し出してきた。
私はビクビクしながらもその天也の手を握る。
少しひんやりとした空気の部屋という事と苦手なお化け屋敷の中だという事もあり、いつもよりも天也が頼もしく感じる。
そんな時だった。
壁の向こうからドンドンと叩くような音が聞こえてきた。
「ひゃっ!」
その音に敏感に反応した私は咄嗟に天也に抱きついてしまったのだ。
「さ、咲夜!?」
天也の慌てた声すらも届かなくなるほどに私は怯えていた。
私はブルブルと小刻みに震えていたのだが、ポンと私の頭に天也の大きくて暖かな手がのった。
「咲夜、大丈夫か?」
私は天也の優しい声にコクリと無言で頷くと今更ながら抱きついていた事に気づきバッと手を離した。
そんな私にククッと面白そうに天也は笑うと先程よりもしっかりと私の手を握って歩き出す。
そこに天也なりの気遣いを感じ、嬉しく思うのだった。
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