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夜会
しおりを挟む「愛音、弟さんは何処にいるかわかりますの?」
「えっと…多分部活だから…」
つまりは学校か。
「清水、お願いしますわ」
「承知いたしました、お嬢様」
さすが清水。
高校の名前を聞かずに出すと言う事は調べていたのだろう。
愛音から弟さんの写真と名前を聞き出した。
名前は黒崎魁斗と言うらしい。
その姿は愛音と似ていた。
違うところは愛音よりも目がキリッとしているところだろうか?
「お嬢様、ご到着致しました」
……周りの生徒から注目を浴びているのは車がリムジンと言う事と制服、そして清水のせいだろう。
「えぇ、ありがとう。
愛音と天也はここにいて」
ここにいて貰う理由は弟さんを驚かせるため。
……このくらいは、いいよね?
「グラウンドは……」
「あちらです」
私は大人しく清水に言われた通りの道を行く。
清水に私の前を歩くようにいったがやんわりと断られてしまった。
……解せぬ。
「ここですわね」
グラウンドに着くとサッカー部がすでに活動を初めていた。
その中に、愛音の弟さんもいた。
多少の申し訳なさを感じながらも、私は近くにいたサッカー部らしき生徒に声をかけた。
「申し訳ございませんが、黒崎魁斗さんはいらっしゃるでしょうか?」
「あぁ……。
呼ぶ?」
「お願いしますわ」
「了解。
ちょっと待っててくれ」
そう言うと、ベンチに座っていた彼は立ち上がり、声を出した。
「魁斗!
ちょっと来い!」
「え……はい!」
弟さんはメンバーに悪い、と謝ると走ってきた。
直に見るとやはり愛音によく似ていると思う。
「先輩、どうかしたんですか?」
「おう。
この人がお前に用があるんだと。
ったく……こんな可愛い彼女がいるとはなぁ……」
「ありがとうございます。
それと、彼女ではありませんわ。
……海斗さん、初めまして。
私は海野咲夜と申します。
黒崎愛音のクラスメイトですわ」
「姉さんの……?
どおりでその制服、見たことがあるわけだよ。
……で、そんなお嬢様が何の用…?」
残念ながら警戒されてしまったようだ。
……どうすれば警戒が解けるのだろうか?
まぁ、別に警戒は解かなくてもいいか。
押し通してしまえ。
「黒崎魁斗さん、あなたの時間をくださいませんか」
ちなみに拒否権はない。
まだそれは言わないけどね?
自分から来てもらいたいし。
「……は?」
「このままでは愛音が恥をかくことになってしまいますの。
ですから、あなたの時間をくださいませんか?
……私は愛音の友人としてそれだけはどうにかして回避したいのです。
そのためにはあなたの協力が必要ですから」
私は真っ直ぐに彼の目を見つめる。
愛音のためであれば私は全力を尽くす。
その意志が伝わったのか彼は先輩に早退の相談を始めた。
「先輩、すいません…」
それを見ていた清水が私に耳打ちしてくる。
この高校、楽都高校はうちの高校と練習試合をしたことがないと。
「……光隆桜学園と、こちらのサッカー部の練習試合をしてみたくはありませんか?
一泊二日でいいのであれば合同強化合宿というのも企画致しますが…。
勿論、費用は全てこちらが受け持ちます」
私の私財は案外あるのだ。
…何故なら、私は元庶民。
毎月貰うお小遣いの額が怖くてそこから毎月三千円抜いて使っていたのだ。
そして使わない分は全て貯金。
そんなこんなで今、私の貯金は100万を軽く超えていた。
それと、私の家は客船会社とはいえ別荘は持っている。
その別荘のところには広い芝生がある。
そこにサッカーゴールを置けばいいだけだ。
「マジか!?
分かった。
魁斗、許す。
行ってこい」
「え…あ、ありがとうございます…」
複雑そうだが気にしないことにしよう。
清水は私に従うかのように連絡先を渡していた。
「清水、それは私の連絡先ですわね?」
「いえ、自宅です」
「清水!
すぐに回収しなさい!
お兄様にバレたら殺されますわよ!?
なんて危険物を渡しているのですか!」
清水は慌てて連絡先を書いた紙を回収すると申し訳ございませんと頭を下げていた。
「え?何?
俺、危険物渡されたの?」
と、呆然としている。
…あの兄にバレると思うと、ね?
清水は今度こそ、私の連絡先を渡す。
それを確認してから急いで車に向かった。
「はっ!?
リ、リムジン!?」
「いいから乗れ!」
私は黒崎魁斗を押し、車に乗せると私も乗り、扉をしめた。
素が出てしまったのはご愛嬌ということでスルー。
清水はすぐに運転席に戻ると車を出した。
「うわっ……マジで俺、リムジンに乗ってる……。
って…そうだ!
姉さん!
これ、どういう事!?」
「魁斗、パーティーで私のパートナーになって欲しいの!」
「愛音、それでは誤解されてしまいますわ。
この車に乗った時点でもう拒否権はございませんもの」
私はそう、ニッコリと微笑んだ。
まぁ、乗る前から無かったんだけどね?
あそこで断っていたら清水が強制的に運んでいた。
それに、天也は面白そうに笑い、愛音は苦笑した。
「さて、次の店で愛音のものも揃えますわよ」
「え!?
いや、それは悪いです!」
「えっと……海野さん、だっけ?
何で姉さんのためにそんな事までするのさ?」
姉が騙されていると感じたのか不審感丸出しで訪ねてくる。
……本当に兄がこの場にいなくて良かったと思う。
兄がいたら絶対愛音の弟は殺されていただろうし。
「咲夜で結構ですわ。
……私はそこにいるバカのせいで同性の友人は愛音が初めてなんですの。
だから、だと思いますわ」
「本当に素直じゃないな。
咲夜は自分が友人と認めた奴に対しては優しいからな。
愛音のことは親友だと思っている、というのもあるだろうが基本、身内には甘いぞ」
笑って言った天也を私は睨みつけるが意味深に微笑まれただけだった。
……納得いかない。
…まぁ、確かに友人には甘いかもしれないし、愛音のことは親友だと思っているけどさ。
「咲夜……ありがとうございます!
私も親友だと思ってます!!」
いきなり抱きついてきた愛音を引き離すと仕切り直すように咳払いをした。
「……とにかく!!
天也、愛音の弟さんの事頼みますわ」
「あぁ、任せろ」
「…何か嫌な予感しかしない…!!
…あ、僕の事は魁斗でいいよ」
なら、遠慮なくそう呼ばせてもらうとしよう。
魁斗、ね。
「お嬢様」
清水が扉を開け、出るように促す。
私達はそれに従い車から降りると店の中に入っていった。
「「「「いらっしゃいませ」」」」
「パーティー用の全身コーデで頼む。
俺は上着だけ頼む」
「かしこまりました」
「こちらにどうぞ」
天也と魁斗は案内店員さんに案内されて行った。
「私達2人のパーティー用のコーデをお願い致します」
「かしこまりました」
私達が店員さんに着いていくとすぐに試着が始まった。
「……青の耳飾りと黒の耳飾りを1つずつ用意してくださるかしら?」
「かしこまりました。
デザインはどういたしますか?」
「両方ともシンプルなものでお願いしますわ」
「かしこまりました」
店員さんの1人が出ていった。
多分、私の頼んだ耳飾りを探しに行ったのだろう。
「私は黒の耳飾りに合わせたものでお願いします」
「かしこまりました。
では、こちらはいかがでしょうか?」
そして持ってきたのは白いドレスだった。
……水色でもいいだろうに何故これを選ぶのか……。
まぁ、いいか。
「それにしますわ」
「ヒールはいかが致しますか?」
「普段よりも少しだけ低めのものにしてくださるかしら」
そして、持ってこられたドレスと靴を履く。
そして、薄く化粧をし蒼の耳飾りをした。
これで私の方は終了だ。
「えっ……こんないい物は……」
「海野様」
「構いませんわ」
私の許可を得たためか次々と色々なものを持っていくようになった。
……さて、愛音はどうなるのか。
そしてそれから30分くらいしたあと、愛音が出てきた。
「あ……咲夜……ど、どうですか……?」
「……随分と変わったりましたわね。
とても綺麗ですわ。
さぁ、行きますわよ」
「あ、はい!
咲夜も綺麗ですよ!」
「…そう?
ありがとう」
少しだけ自信がついた気がした。
支払いを全て済ませると次の目的地へと向かう。
その前に……。
「咲夜……いつもより綺麗だ」
「…そう。
ありがとうございます。
それと、今のうちに渡しておきますわ」
私は先程購入したばかりの耳飾りを天也に渡した。
私もちゃんと、蒼い耳飾りを付けている。
「…これ……。
いいのか?」
「……他に誰に渡せと?
それとも、受け取れないとでも?」
「いや、礼を言う」
天也は本当に嬉しそうに耳飾りを付けた。
それを見て私は薄く微笑む。
今日のお礼なので気にしないで欲しい。
「ちょ、ちょっと待ってくれ!
ウチはこんなもの買える金なんて」
「全て私の支払いですから心配ありませんわ。
それよりも、スタジオを借りていますから練習致しますわよ」
魁斗の話を聞かずに車でスタジオまで移動する。
残りの時間は2時間半、結構使ってしまった。
だが、スタジオから学園まではかなり近いからその点は安心出来る。
スタジオに着くと清水が受付をし、すぐに通される。
そして曲を流しダンスの練習を始めた。
「魁斗、私に任せてください。
大丈夫ですわ。
最初はステップだけを意識してくださいまし」
「わ、分かった…」
「愛音、俺がリードするから大丈夫だ。
そろそろ馴れてきただろう?」
「うっ……」
それぞれ相手をリードしつつゆったりとステップを踏む。
…魁斗は時々私の足を踏んでは謝罪したり表情を歪めたりとしていたが、その度に笑顔を保てと私は注意をし続け最後の辺りは何があろうと笑顔を保てるようになっていた。
「お時間です」
その清水の声で私達はピタリと動きを止め素早く撤収した。
……今日だけで結構小遣い使ったな……。
まぁ、そんな使い道なかったしいいけどさ。
「咲夜、行くぞ」
天也は学園で車を降りた後、優しく微笑んだ。
私も微笑み手を取った。
「あ、えっと……ね、姉さん…」
「あ、ありがとう…」
2人は少し恥ずかしそうにしていたが、魁斗は予想に反ししっかりとエスコートをやり遂げた。
「……今更なのですが…。
光隆会を理由に休めたんじゃありませんの?」
「……あ」
「……失念していた…」
「……何それ?」
……まぁ、ここまで来たらいいか。
会長の話が終わると、少ししてから曲が流れ始めた。
そして、天也が私に対して跪き手を差し出した。
「咲夜、俺と始めのダンスを踊ってくれないか?」
「喜んで」
私は天也の手を取ると天也は立ち上がりそのまま私達はダンスの中へと入っていく。
「……咲夜、耳飾りをくれたという事は……」
「えぇ、今日のお礼ですわ。
ありがとうございます、天也」
曲が終わろうとしていた時だった。
入口の扉が突然、バンッと勢いよく開いた。
「許さない!
咲夜から離れろ害虫が!!
何僕の可愛い可愛い咲夜に手を出してるのかな?
咲夜とダンスを踊るなんて……誰が許したのかな?」
そう笑う兄はどうやら本気で怒っているようだった。
笑顔でいながらも恐怖を感じるなんて兄以外では出来ないだろうなぁ……。
「悠人先輩!?」
その声は明来先輩のものだった。
というか兄は何故ここに入れたのだろうか?
高等部の者がもつ証が無ければ入れないと思うのだが。
証を持つもののパートナーは別としても、だが。
とにかく、兄はここに入れないはずなのだが。
私はとりあえず、兄を放り出し騒ぎの中心から愛音と魁斗のいるところへ戻ると、今度は魁斗と共にダンスを踊り始める。
そして、天也は愛音と共にゆったりと踊り始めた。
今夜だけは天也の告白を頭の隅に置き、楽しんでもいいだろう。
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