脇役だったはずですが何故か溺愛?されてます!

紗砂

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文化祭当日

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今まで色々とあったが…。
ようやく文化祭当日がやってきた。

本当に今まで大変だった。
兄が乱入してきて男子を根絶するとかいいだしたり。

殺虫剤をもってきて害虫は駆除するとかいいだしたり。

兄のせいで服のサイズを見ている時に他の服まで着ることになったり。

クラスで必要な物を買い出しに行く時なんて咲夜にそんな事させられないとか言って邪魔してきたり。

廊下に出ると決まって兄が立っていたり。

…………あれ?
全部兄の事だ。
まぁ、いつも通りとも言えるが。

ホール担当の私、愛音、天也、奏橙の4人はそれぞれ燕尾服とメイド服に身を包んでいた。
私や愛音は燕尾服だからまだいい。
……だが、天也と奏橙はメイド服。

その異風景に思わず吹き出してしまう。
勿論、カメラには収めた。


「…咲夜、案外似合っているな」

「天也も、ちゃ、ちゃんと似合って…いますわ…よ…ふふっ……」

「笑うな!!
俺だって恥ずかしいんだからな!?」


なんて事もあり、何故かそのままクラス内での撮影会に発展した。
ちなみにメニューには何故か
『着せ替え 1着につき 1000円』
と書かれていた。

……ちなみに、その着せ替えはホール係のみだそうだ。

模擬店が始まると真っ先に兄が入ってきた。
そんな兄を見たクラスメイト達は呆れたような、つかれたような表情をした。
今までうちの兄が申し訳ありません……。


「いらっしゃいませ。
お席にご案内…」

「……あぁぁぁぁぁ!!
可愛い!
可憐!
カッコイイ!!
咲夜が天使から女神になった!!
咲夜ならどんな咲夜でも愛せる!!」


……私を含めたこの場にいる者は皆一様にため息をついた。
すなわち、また病気が始まった、と。

その言葉通り、兄は私なら何でもいいのだろう。
色々と複雑ではあるが。


「咲夜ちゃん、ごめんね。
悠人は止められ無かったよ……」

「朝霧先輩、無茶な事をお願いしてしまい申し訳ありません…」


朝霧先輩のボロボロになり疲れ果てた姿を見ると文句など言えなくなる。
……というよりも申し訳なくなってくる。

うちの兄が迷惑をかけているなぁ…と思う瞬間であった。

席に案内をし注文をとろうとすると兄の視線が一点を見つめていた。
『着せ替え 1着につき1000円』
とかかれた場所を、だ。
嫌な予感しかしない。

兄は私の予想に反し、バッと立ち上がり


「また後で来るよ」


と言って模擬店をあとにした。
朝霧先輩も兄と一緒に出ていった。


「……悠人が暴走してるから止めないとか……。
咲夜ちゃん、また後でね」


暴走しそう、ではなく暴走してると言われたのは気になったが知らないフリをすることにした。
朝霧先輩は重々しく溜息をついてから兄の後を追っていった。


「うーん……お客さんあんまり来ないね」


奏橙は残念そうに呟いた後、奥から看板とチラシを出してきた。
そして、看板を天也にチラシを私に押し付けて行ってらっしゃい、と笑顔で廊下に放り出した。


「……私達に、この格好で校内を回れと……?」

「………ここにいる方が注目されないか?」

「………後で絶対やり返してやる」

「素が出てるぞ。
だが、協力はしよう」


と、いう事で私達はこの服のまま校内を回る事になった。
途中、電話で……。


『あ、2人で自由に回っていいよ。
ついでだし好きな模擬店でも回ってきなよ』


と奏橙に言われた。
そのため1度教室に戻り財布を持ってきた。


「咲夜、どこに行く?」

「…ケーキ」


確か2年の出し物であったはず。
甘い物、食べたいなぁ…。


「咲夜らしい。
行くか」

「チラシが…」

「半分持つ」

「あ、ありがとう…ございますわ…」


くっ……少しだけカッコイイとか思ったじゃないか。

まぁ…偶には悪くない、か。
愛音には悪いけどね。


「えーと?
ケーキは…上か。
行くぞ、咲夜」

「えぇ」

「……やはりこの服、動きずらいな…」


今更そんな事をいう天也に女子の苦労がやっと分かったか、なんて思いつつも微笑ましく感じる。


「ここですわね。
天也、行きましょう!」


私はケーキを目の前にして少しだけ浮かれていた。
そんな私を見てか、天也は楽しそうに笑っている。


「何を笑っているんですの!」

「悪い、咲夜が可愛かったからつい、な」


誰が子供っぽいだ!
天也の方が余程子供っぽいだろうが!!
私は子供っぽくなんてない!!


「私は紅茶とショートケーキにいたしますわ。
天也はどうしますの?」

「そう、だな…。
俺はアップルティーと果物のタルトにするか…」


2人でそれぞれ別のものを頼むと席でゆっくりすることにした。

だが、他の席の人からの視線が痛い。
……ちょっとというか、かなり恥ずかしい。


「あ、あの!
さ、咲夜様…ですよね…?」

「そうですが…」


何か女生徒に話かけられた。
隣をチラッと見ると天也も同じように話しかけられていた。


……男子に。


まぁ、元々の見た目が綺麗だから女装してもそんな違和感ないんだよね。
……声以外は。


「キャー!!
わ、私、咲夜様の大・大・大ファンなんです!!
天使様に会えるだなんて!!」


……あぁ、狂信者(兄)の同類でしたか。

っていうか、天使様って誰?
あのって何?
私有名人なの?
あと、私のどこにファンになる要素があるんだ?
理解できない。

まぁ、どうせだしチラシを渡しておくとするか。


「ありがとうございます。
よろしければ、1ー3で行っている喫茶店にいらしてくださいませ。
私はホールと広報担当なので是非、ご友人とご一緒に来てください。
お待ちしておりますわ」

「は、はいぃぃぃぃ!!
絶対行きます!!」


私はあくまでも笑顔でチラシを渡すとさらに黄色い悲鳴をあげてどこかに行った。
……なんだったのだろうか?


「おっ…海野、来てたのか」

「桜丘先輩、お邪魔していますわ」

「咲夜、コイツらどうにかしてくれ!!」


……天也は暫く放っておこう。
まぁ、何とかなるでしょう。
女子の扱いは慣れてきたみたいだしね。


「3組はコスプレ喫茶だったか。
…それでその格好なのか。
いつもとは雰囲気が違うがそれはそれでいいと思うぞ?」

「ありがとうございます。
先輩もその衣装、お似合いです」


先輩は制服ではなくウェイターの衣装を来ていた。
きっちりとして硬い雰囲気になっているが先輩持ち前の明るさでそこまで気にならない。


「咲夜!
頼む!
どうにかしてくれ…!!」

「……柚子と抹茶のマカロンで手を打ちますわ」

「分かった!
好きなだけ買ってやる!!
だから……」


お、ラッキー。
べつに買ってくれなくてもちゃんと助けるつもりだったよ?
ただ、やる気の違いというだけで。
あと、見ていて楽しめたからいいや。
動画、撮っておきたかった気もするけどさすがにそれは我慢我慢……。


「皆様、申し訳ありませんが私の友人が困っているようなので少しだけ離れてくださいませんか?
あと…同性の方に言いよるのはどうかと思いますわよ…」


後で一緒に回らないか、なんて誘いがあったようなので言い難いがちゃんと言うようにした。


「はっ!?
男!?」

「有り得ねぇ…!!
こんな…こんな事って…」

「咲夜様…カッコイイ……」

「咲夜ちゃんマジ天使…」

「……はっ!!
男って事はまさか天使の…!?」

「「「「………害虫を駆除しろ!」」」」


…おぅふ……。
兄の病気はここまで感染するものなのか。
あと何で途中から私の事になってるの?
それと害虫って……。
天也っていつもそう言われてないか?
忘れがちだけどこれでも天也は大手財閥の跡取りだっていうのに。


「咲夜……お前の狂信者増えてないか?」

「…お兄様の病気が感染した結果ですわ」

「……少し急ぐぞ。
ここから逃げたい」

「…そう、ですわね……」


ケーキは凄く美味しかった。
セットでついてきた紅茶の風味も柔らかくて美味しかった。
今度は愛音と紫月と来たいなぁ。
天也の頼んだ果物のタルトもひと口もらったのだがそれぞれの果物が絶妙なバランスをとっていて美味しかった。


「美味かったな」

「えぇ。
また、明日にでも今度は愛音と紫月を誘って行ってみたいくらいですわ」


天也は自然と微笑んでいた。
その表情を見て私はほんの少しだけ食い意地をはったみたいで恥ずかしいなどと思ってしまい俯いた。


「……今度は天也の番ですわ。
私の行きたいところは行きましたし次は天也の行きたいところへ行きましょう?」

「俺はいい。
咲夜とまわれればそれだけで十分だ」


……天也のセリフは私以外が聞いたらきっと告白なんかに聞こえるものだった。
私だから良かったものの……これが他の令嬢だったら絶対に勘違いされていたと思う。
注告をした方がいいかと思ったものの天也を見るとほんのりと顔を赤く染めていたのできっと自分で気付いたのだろうと思い注告はしないことにした。


「……とりあえず、広場に向かいませんか?
広場でしたら人もいるでしょうから宣伝にもいいと思いますの」

「あ、あぁ…そうだな……」


天也は少し狼狽えていたがさすがというべきかすぐに落ち着いたようだった。

広場は校内よりも人数が多いと感じる。
そんな中、意を決して私達は宣伝を始めた。


「1ー3、コスプレ喫茶!
場所は校内、1階の西棟だ!
食べ歩き用のパンケーキなども販売している」


天也が声を張り上げる中、私は周りにいた人に笑顔でチラシを配っていた。


「どうぞ。
ご友人とご一緒にいらしてください」

「アレンジメニューなども販売しているので楽しめると思いますわ」

「色々な衣装も揃えていますから衣装の変更も可能ですわ」


などと色々変えつつチラシを配っていく。
そんな事をしてるとあっという間に私の手元からチラシが無くなり、そのため教室へと戻る事にした。


「あ、咲夜先輩!
こんにちは!」


やってきたのはファンクラブの会長だという勇璃君だった。
勇璃君の友人だろうかもう一人、隣に男の子がいた。


「こんにちは。
楽しんでくれているようで良かったですわ」

「はい!
咲夜先輩のクラスに行く途中だったんです」

「そうだったのですね。
でしたら丁度良かったです。
私達も戻る途中だったんですの。
よろしければご一緒しませんか?」

「お願いします!」


この前にあったときよりも元気に感じた。
この前はテスト前だったからだろうか?

今更気付いたのだが、勇璃君の友人らしき人物は光隆会メンバーで私に次いで会長を務めている子だ。


「お久しぶりですわ。
深藍みらん君、光隆会の仕事はもう慣れましたか?」

「深藍、元気にしてたか?」

「海野会長、天野副会長、お久しぶりです。
仕事の方は初等部と同じ事が多いので大分慣れましたが、初等部の頃よりも大変に感じます……」


そう、私が初等部、中等部の頃に兄に次いで会長をやったように深藍君も私の後を次いで会長の職についてきたのだ。


「私も天也ももう会長ではありませんわ……。
ですから名前で呼んでください」

「大丈夫です。
咲夜先輩は来年には会長になってると思いますから」


深藍君のその根拠はどこから来るのだろうか?
私は会長なんてやるつもりはないんだけどな。
今回は絶対やらない。


「ここが3組の模擬店だ」


…今更だが、深藍君もよく天也のこの格好を見て何も言わないよね。
私なら絶対驚く。
そして絶対笑う。
そんな自信があった。


「勇璃君、深藍君、どうぞ」

「あ、ありがとうございます…!」

「ありがとうございます、先輩」


深藍君は私の呼び方を先輩に直してくれたようだ。
私は片付けを天也に任せ2人を席に案内し注文をとった。

2人共クレープのイチゴを選んでいた。
仲が良いだけではなく好みも合うのだろう。


「天也、咲夜お疲れ様。
僕達は休憩の時間十分にとったから2人ももう休憩してもいいよ」


……いや、今戻ったばっかりだし。

奏橙は笑みを浮かべているが今日はいつにもまして黒く感じた。
何か企みがあるのだろう。

結局最後は、クラスメイトに


「海野さんがいるとあの先輩が来るから…」


なんて言われた。
奏橙に限っては……。


「悠人先輩が来たらそれこそ大変だからね。
それと……悠人先輩が来たら咲夜が着せ替え人形になるよ?」


と言われ、私は急いで着替えて天也を連れて休憩に入ることとなった。

まぁ、最初だけでもちゃんとした仕事が(少しは)出来たしいつもよりはいいかな。
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