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「ルーディア!」

「……カーフィス?」


私が、陛下の部屋を出て自室へと戻ると、途中でカーフィスに呼び止められた。
訓練終わりだったのか、汗をかいているのがわかった。


「ちょっと待って。
動かないで」

『水よ、洗い流せ』


カーフィスを水で洗い流してから、話を聞く。


「お、サンキュー!
ルーディア、今日時間は?
あるなら、ちょっと狩りにでも行こうぜ」


まさかの狩りの誘いだった。
普通であれば行っただろう。
だが、回復術師である私がそう簡単に出られるはずがない。


「……さすがはバカーフィス。
私が行けるとでも?
無理に決まってるでしょ」

「バカーフィス言うな!
ちゃんと許可は取ったからな!?」


意外だった。
まさか、許可が降りるとは。


「建前としては、今度の大会のため、連携を確認したいってことで。
まぁ、時間はかかったけど案外簡単におりたぞ」


今回はそれほどまでに勝ちたいらしい。
それだけの何かがあるというのか。
今まで以上に力が入っている気がするのだ。


「で、どうすんだよ」

「決まってるでしょ!
30分後に部屋まで来てくれる?
それまでに準備しとくから」

「ん、了解!」

「ちなみに、何を狩りに行く予定?」

「決まってるだろ。
ワイバーンの群れ」


やっぱり、カーフィスはバカーフィスだった。
2人でワイバーンの群れとは。
まぁ、シヴァもいるし、今はアルテミスもいるから大丈夫だろうけど。
群れだと少し心配ではある。


「んじゃ、待ってる」

「うん。
じゃあ、また後で」





そして1時間後、私とカーフィスは全力で逃げていた。


「この……バカーフィス!
何がワイバーンの群れなの!?
これのどこがワイバーンなのか教えてくれないかな!?」

「知るかぁぁぁぁぁ!!
ワイバーンって聞いてたんだよ!
まさか、地竜の群れだとは思うか!」


ワイバーンの群れならばなんとかできる。
だが、地竜となると話は別だ。
ワイバーンと地竜の決定的な差は、魔法を使えることと何よりその硬い鱗だ。
その鱗のせいで攻撃が通らず、倒すことが難しい。
これが火竜ならばまだ、シヴァでゴリ押しすればなんとかなったかもしれないが。


グルォォォォォォ!!


「まずい、追いつかれる!」

「俺がくいとめる!」

「了解!」


地竜が怒り狂った様子で体当たりをしてくるが、それをカーフィスが受け流す。
カーフィスはバカだが、剣の腕は相変わらず良いのだ。


「ぐっ……」


カーフィスが苦しそうな声を漏らす。
地竜の攻撃力はそれだけ重かったのだろう。


【聖なる光よ。
我が声を聞き届け、いかなる攻撃も通さぬ加護を!】


私は防御結界を貼ると、すぐさま他の魔法の詠唱へと移る。


「シヴァ、いくよ。
カーフィス、時間をかせいで!」

【あぁ、承知した】

「おう!」

『水の子たる我が命じる!
抽出せよ!』


シヴァの協力のもと、地竜に含まれる水を抜く。
その瞬間、カーフィスが一気に距離を詰め、切り捨てた。

地竜は岩で出来ている。
それ故に、こうして水を全て抜いてしまえば……。


「簡単に風化する」


風化してしまえば、あとはカーフィスがなんとかしてくれる。
とはいっても、これで終わりではないけれど。


「……おっし、んじゃ残りの地竜も狩るぞ!
ルーディア!」


カーフィスが笑顔で告げたその言葉に、分かってはいたものの気が遠くなる。

私は、まだ後ろに続いている地竜の群れの数を見て……。


「ふ、ふふっ……。
えぇ、やってやろうじゃないの!
風化させてあげるから、まとめてかかってきなさい!」


ヤケになって叫んだ。
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