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そんな、長い長い夢が終わると私はいつの間にか外の世界へと戻ってきていた。

…私がカーフィスを専属に指名してから2年間…カーフィスはずっと私を守り続けてくれていた。
あの誓いの通りに。

だが、それももうすぐ終わってしまうかもしれない。
そう思うと少し悲しみと寂しさに襲われる。

私は今年で15歳、本来ならば婚約を交わす歳なのだ。
そのため、私が契約を交わす日も近いだろうと予測出来る。

あの、研究者として1人で生きていくと言っていたライ先輩でさえ17で契約を交わしたと言っていた。
それでも粘った方なのだと言う。
他の先輩は皆、15で契約を交わし、18くらいで結婚をしているのだ。
私にもそろそろそんな話は来るのだろう。


「ルーディア、お疲れ。
あんま、シヴァに変わんなよ」

「えぇ…それよりも、カーフィス、腕を出してください。
…はぁ、またこんなに傷を負って…」


私は溜息をつくとカーフィスを治すために詠唱を始めた。


『この者の傷を癒せ』


私の場合だとこれで大抵の傷が治る。
傷の部分を病に変えれば病気も治せるのでかなり便利だ。
とはいえ、これは略式になっているので難易度は高いのだが。


「…ねぇ、私もあんな風に結界とかはったり、治したり出来る?」

「修行を積まなければいけないけどね」

「なら、私やりたい!
回復術師になりたい!」

「…そう。
じゃあ、一緒に王都に行こうか。
そこで回復術師になって皆を助ける仕事をするの」

「うん!」


こうして、新たな回復術師の卵が増えたのだった。




その次の日、誰にもバレないようにアルトとユリアに接触した私は近くの森に入っていた。
周りに誰もいない事を確認してから私は2人に問いただす。


「アルト、ユリア…あなた達の目的は何ですか?
私を無きものにすることではありませんよね?
ならば、ラナのような回復術師を消す事ですか?」


私の突き放す様な口調に2人はショックよりも驚き、戸惑い、恐怖が勝っているように見えた。



「ルーディア様……」

「知って、いらしたのですか?」

「私は聖属性も使えますから」


2人は魔族だった。
多分、かなりの身分を持つ魔族からの命令なのだろう。


「……最初は、ルーディア様の暗殺が僕達の任務でした。
ですが僕達は初日の夜、任務を放棄致しました」

「ルーディア様…私達の主となってはくれませんか?
それが無理だと仰るのであれば、私達をルーディア様の手で…!!」


……一体私に何をさせようと言うのだろうか。
ユリアの中での私のイメージはそんなイメージなのか?
っていうか、アルト……初日に裏切ったって!!


「……はぁ……。
アルト、あなたはどうするのですか?」

「僕もユリアと同じように考えています」


ここにも馬鹿がいた。
……なぜ私の周りにはカーフィスを初めとした馬鹿が集まるのだろうか?
全くもって謎である。

いや、まぁカーフィスとは違う種類の馬鹿なんだけどさ。


「私、ルーディアはこの者達を我が騎士とし、この命尽きるその時まで信じ抜くと我が母にして偉大なる神、エンディールとその第5子、シヴァに誓いましょう」

「ルーディア、様……?」

「何故……」

「早くしなさい。
カーフィスが来る前に済ませたいから」

「は、はい!
私、ユリアはルーディア様の騎士とし最後まで守り抜く事を誓います」

「僕、アルトは最後までルーディア様の騎士として守り抜く事を誓います」


またいつぞやのようにそれぞれの魔力が指輪の様にまとわりついた。


「さて、戻りましょうか」

「はい!」

「承知致しました」


私の専属は一気に2人増え、3人となった。
ただし、魔族の方が多いが。
そして全員馬鹿だけど。


「ルーディア!
1人で出歩くのは止めろ!」

「カーフィス…1人で出歩いてなどいませんが?」

「……今度からは俺も連れていけ!」

「……はぁ…善処します」


善処なので別に連れていかなくても大丈夫だ。
それに…忘れてたら仕方ないよねぇ?


「さて…治療を始めましょうか」


そして私は今日も仕事に取り掛かる。
回復術師の1人としての姿を演じながら。

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