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私とカーフィスはアルトやユリアにも手伝ってもらいながら適正検査用の水晶と治療用のブースを用意した。

私は今のところは治療用ブースで回復術師としての仕事を行うが回復術師の子が出た場合と、こちらが終わった場合には向こうの適正検査用のブースへと移動をすることとなっている。

そして、私に着くのは勿論、専属となっているカーフィスと私の護衛となっているユリアだ。
アルトは適正検査用のブースにいる。
それは、もしものときのための伝令役としての役目も兼ねてのことだったので渋々ながらも納得はしてくれたようだった。


「ユリア、お願いします」

「はい、分かりました」


私はユリアに声をかけるとまず、1人目の患者を中に入れてもらった。
そしてその、記念すべきと言っていいのかは分からないが…まぁ、とにかく1人目の患者は私のお父さんであった。


「…お父さん、どこか怪我でもした?
それとも病気?」

「あー…怪我だ。
ちょっとヘマをやらかしてな……」


私はお父さんが差し出して来た方の腕を捲り上げるとそこには痛々しい傷がある。

この様子からすると怪我をして1週間もたっていないだろうことが伺えた。


『我、ここに願い奉る。
この者の傷を癒したまえ』


王宮で教えられる回復魔法……の、短縮系を口にすると淡い、白銀の光がお父さんを包み込んだ。

人には個人の魔力があり、その色は人それぞれだ。
カーフィスは赤、私は白銀、アルトは青だったはずだ。

その光が収まると、もう既にお父さんの腕にあった傷は綺麗に消えていた。


「ありがとう、ルーディア」

「もう…これからは気を付けてよ?」


お父さんが相手だからか自然と素で接していた私は中を確認する様に覗いてきたユリアに気付き、慌てて言葉遣いて佇まいを直した。


「ユリア、次を」

「はい」


そのやり取りが何十と続いた時、アルトが私を呼びに治療用ブースへときた。
それは、私が聞きたくはない結果を示していて思わず顔を顰めてしまった。


「ルーディア様、回復術師の適正を持つ者が現れましたのでご報告へとお伺いいたしました」


そのお堅い言葉に私は内心、ウンザリしながらも新たな仲間を思い浮かべる。
今回の子は変人でなければいいが……。


「分かりました…。
今、行きます」


患者さんに向かって軽く頭を下げると私は治療ブースから適正検査のブースへと向かった。
そこでは、少し、怖がっている様子の少女をユリアを含めた大人達が囲んでいた。


「何事です。
その様に怖がらせて何をしようとしているのですか」


私は少女を大人達の輪から救い出すと大人達に睨みをきかせた。
そして、少女を安心させるように背中をポンポンと軽く叩いた。
すると、少しは安心してくれたのかスっと力が抜けていくのを感じた。


「ルーディア様…申しわけありません!
そのようなつもりはなかったのですが……」

「その子が回復術師の様でしたのでその確認をと思い……」

「ユリア、あなたはカーフィスを呼んで来てください」

「はい…」


落ち込んだ様子のユリアに対し、もう1人の私についてきた騎士は反省の色すら見えることがなく、それがさらに私をイラつかせた。


「あの…私は…」

「あぁ…あなたですか。
あなた、先程この子の適正を確認すると、そう仰いましたか?」

「は、はい」

「巫山戯るのもいい加減にしなさい。
新たな回復術師についての判断は同じ回復術師である、私に委ねられています。
それを、あなたが代行する?

…舐めないでください。
大体、あなたでは回復術師の適正は分からないでしょう。
それをしようとした…という事は余程の馬鹿であるか、この子を害そうとしたかのどちらかです。
どちらにせよ、その様な人物を私の傍に置いておく事はできませんし、出来たとしてもするつもりはありません」

「っつう訳で、今すぐ帰れって訳にもいかねぇからな。
とりあえず、謹慎しててもらうぞ。
そこの2人、こいつを見張っておけ」


カーフィスに指名された2人の騎士は黙って頷くとその馬鹿な騎士を連れていった。
カーフィスは一瞬だけ、私に笑顔を向けるといつものように私の護衛として後に控えた。


「さっきはごめんなさい。
怖がらせてしまって…。
私は、ルーディア。
あなたは?」

「……ラナ」

「そう、いい名前ね。
ラナ、ご両親は何処にいるの?」

「……今は、孤児院で暮らしてる…から…」


きっと、その言葉からするに先の戦争で亡くなってしまったのだろう。
だとすれば、救えなかった私の責任だ。
回復術師として救えなかった私の……。

いや、今は考えるのをやめておこう。


「将来、どんな仕事をやりたい!
なんていう夢はある?」

「……誰かを守る仕事。
もう、失くしたくない、から…」


しっかりとした意思が込められているその声に私は目を細め、ラナの頭を撫でた。


「そう……回復術師にはなりたい?」

「……守れる?」

「守る…というよりも助けるほうかな。
傷ついた人達を癒すのが私の仕事なの。
…気になる?」

「うん」


私の時は何も言われずに…家族にも何も言えずに連れてかれたから…。
それだけは嫌だった。
あの時、私にはカーフィスが付いてきてきてくれたからまだ良かったがそうでなければ不安で押しつぶされてしまっただろう。
だからこそ、私は選択肢をあげたかった。
ラナが選択しないというのなら…私はここにいるもの全員の記憶を消し去ろう。
そして、ラナの希望を叶えてあげよう。


「孤児院の人は何処にいるの?」

「……あそこ」


ラナが指を指した方向には神官の様な格好をしたいかにも先生という感じの人がいた。
私はその人へと近寄ると回復術師モードになった。


「初めまして、ルーディアと申します。
明日、治療の様子を見たいそうなので今日は私のところで泊まってもらってもよろしいでしょうか?」

「……回復術師様…ラナは、何かしたのでしょうか?」

「いえ、その様な事はありません。
……そう、ですね。
私はラナの傍を離れることが出来ませんから詳しい話はカーフィスに頼みます。
誠意を見せるべきなのでしょうが…申しわけありません」

「………いえ、回復術師様が頭を下げることでは…」


歯切れの悪い言葉ではあったが私は了承を得たとカーフィスに後を頼んでラナを連れて家に戻った。


「お父さん、お母さん」

「ルーディア…おかえり」

「おかえりなさい、ルーディア」

「ただいま」


久しぶりのこのやり取りにほんわかとした気分になる。


「ルーディア、その子は?」

「ラナって言うの。
私と同じなんだ…」


と言うと、2人も分かってくれたようでハッと息を飲んだ。


「そうか…。
私はルーディアの父だ。
お父さんでいいぞ」

「あらあら…あなたがお父さんなら私はお母さんね」


2人共…乗りすぎじゃないだろうか?
まぁ、いいか。


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