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しおりを挟む門に着くと、やはりと言うべきかお父様がかなり怒っているように見えた。
お兄様はそう怒ってもいないようだった。
「ルーナ!
何故ここに来た!
危険なことくらいわかるだろう!」
「やっぱ、来ると思ってたぜ。
ルーナ、カイン、上に行くぞ」
「ヴォル!」
お父様と比べ、お兄様は私やカインを戦力として数えているようだった。
……多分、お父様にとって私が月持ちだとしても娘である以上守る対象なのだろう。
そんなお父様だから私は月もちでありながらも自由に生きてこられたのだ。
「親父、ルーナは守られるだけじゃねぇ。
そろそろ認めてやれよ」
「……お父様、私は月持ちです。
私なら、犠牲者を減らすことも出来るかもしれないのです!
そうとわかっていながら黙っていることなどできると思いますか!
私だって、公爵家の一員なのです!」
私はここでお父様に認められなくても行くだろう。
だが、それではダメなのだ。
お父様に、私が戦えるということを分かってもらわなければならないのだ。
「ルーナ、わかっているのか。
ここでお前の魔法を使うということは教会にバレるということだ。
その覚悟があるのか」
「えぇ、勿論です。
教会にばれたところで問題ありませんわ。
今の私なら、そう簡単に洗脳なんてされませんもの」
「……大人しく、守られてくれるつもりはないのだな」
「申し訳ありません、お父様」
お父様はどこか寂し気に瞳を揺らす。
それでも私は揺るがない。
自分の身が危険にさらされようと関係ない。
民を守るために戦う。
それが公爵家の娘として生まれた私の責務だから。
「……ヴォル、お前はルーナを守れ」
「おう!
ルーナ、行くぞ!」
「はい!
お父様、ありがとうございます」
お父様は苦々しい表情をしていたものの、認めてくれた。
私は、お父様に認めてくれたことを嬉しく思いつつ、気持ちを引き締めた。
私は失敗するわけにはいかないのだ。
ここで私が失敗すれば犠牲者が出るのだから。
「ルーナ、やれるな?」
「はい、お兄様。
私はもう、暴走させて周りを傷つけることを怖がっていた私ではありませんもの」
私の緊張が伝わったのか、心配そうに見ていたカインが私の手を握った。
その行動に驚きつつもカインの温もりに心が落ち着く気がした。
『我、月の力を借り受けし巫女なりゆる者。
我が声を聞き届けよ』
竜を倒すために必要なもの。
それは、貫通力。
竜の皮膚はとにかく硬い。
だからこそ、その硬い皮膚を貫くだけの貫通力が必要となる。
『存在さえも許されぬそれは、海面に浮かぶ掬えぬ月。
見上げて瞠れ。
世界に触れることもなく、独り終われ』
私が詠唱する度に、月のような金色の光が私から漏れだし、強くなる。
そして、その度に体から力が抜けていくような感覚に襲われる。
それと同時にわかってしまう。
『足りない』ことを。
そんな私を、カインとお兄様は不安そうに見ていた。
その不安をぬぐうように私は笑みを浮かべて見せる。
「ヴォル、これは正常なのか!?」
「……分からない。
ルーナがまともに月魔法を使うのは、初めてだからな」
カインよりもお兄様が落ち着いているのは、ただ、初めて見るその光景に圧倒されていただけだった。
私が今まで使ってきた月魔法を知っているからこその反応。
その異様すぎる姿にお兄様はただ圧倒されていたのだ。
『真実を虚構へ、虚構を真実へと塗り替えろ』
最後の言葉を口にした時、ドッと力が抜けていった。
同時に、何か別の力が私の中を支配する。
その気持ちの悪い感覚に、私は理解した。
私の魔力が足りなかったことを。
そしてそれを補うため、私の時間を使ったことを。
何より……。
【月魔法の代償を】
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