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勇者と魔王の村作り3

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「行っちゃったのです……」

 去っていくガンドの背中を見ながらアリスがぼそりと呟いた。

「あいつにしか頼めない事だ。それよりも、アリスはクレアの面倒を見ててくれ」

「ルシア様はどうするのですか?」

 可愛らしく小首をかしげるアリスの頭を撫でながら、ルシアはにこりと笑って見せる。

「整地する前に、家をどこに立てるか考えなくちゃな」

「わかったのです。任せてください」

 そう言うとアリスはとてとてと耳を揺らしながら、クレアの寝ている家の方まで歩いて行った。

「さて……」

 ルシアの方もアリスとガンドが積み上げてくれた丸太に腰掛けて、地面へ簡易的な見取り図を書いていく。

「何にしても……戦いに巻き込まれる気がするな……」

 言いながら、ルシアは見取り図の中に村を囲う水路を書いていく。

「もし、攻められた場合に……」

 かつて魔王城を設計したときのように、ルシアは真剣な表情で地面へと書きこんでいく。ふと、書きこんでいる途中で気がつき、顔を上げた。

「やはり……紙は必要だな」

 書いたものを保存ができないと困ると思いつつも、地面へ更に書き足していく。

「羊皮紙は……大量に使うとなると高いか……」

 地面へと書き込みを止めることなく、他の事を考える。更に、他にも考えなければいけない事は沢山あった。

「あの勇者にもちゃんと色々覚えてもらわないとな……それに色々な材料が足りない……」

 もはや自分の周りに書き込めるスペースがなくなってきたので、ルシアは移動してまだ使われていない地面に今度は書き始める。

「石、岩、レンガ……石灰……木の加工……そうなると道具も……」

 ぶつぶつと呟きながら、今後も必要になりそうなものを書きだしていく。

「いや、ちょっと待て……もし攻められた場合の自給自足も……」

 再び、先ほどまで書きこんでいた場所に戻って一部を消して書きなおす。そんな作業を繰り返していくルシアの背中に近寄ってくる影。

「ルシアー、帰りましたよー」

「ユノか」

 ユノが返ってきたことに対して大して驚きもせずに、ルシアは続きを書き込んでいく。どうしようもなく、色々なものが足りないことに気がついていく。

「ルシア、とりあえずご飯にしませんか?」

「後で……いや、そうするか」

 地面に書いていたものを覚えるように一度見直してから、ルシアはユノの方へと振り返った。

「じゃあ、みんなで食べましょうか」

 ユノにそう言われて空を見上げれば、日は傾きかけていた。どうやら、ずいぶん長いこと考え込んでいたようだ。

「そうだな」

 アリスとクレアがいる方へと歩いていくユノの後を追ってルシアもついて歩きはじめる。

「主様ーっ! あ・る・じ・さ・まあぁぁぁぁぁ!」

「うぐぅ……」

 家が近づいてきた瞬間に、家からものすごいスピードで突進してくる影を見つけたが頭が反応しても体が反応せずに押し倒されてしまった。

「いててて……」

「主様、主様ー」

「何すんだクレアアアァァァァァ!」

 地面に転がりぶつけた頭をさすりつつも、自分の上からどかないクレアに向けてルシアは怒鳴る。

「だ、大丈夫なのですかルシア様っ!」

 どうやら、急に飛び出して困惑していたアリスも家の中から出てきて駆けよってくる。

「わらわは大活躍だったであろ?」

「それとこれとは別問題だっ!」

「あわわわわ……お二人とも落ち着いてくださいなのです……」

 ルシアとクレアのやりとりに二人を見ながらアリスがあたふたとして、その光景をユノは笑って見ているだけだった。

「それでも……ありがとな」

 仕方なく、ルシアはクレアの頭を撫でる。あの時、クレアがいなければルシアはガンドを助けることができなかっただろう。

 少し硬い狐耳をゆっくりと撫でながら、ルシアは感謝の言葉をクレアに伝える。

「あ~う~わらわはわらわは幸せ者なのじゃ」

 呆けたクレアの頭から手をどけ、その体を退かしルシアは立ち上がった。

「飯を食べようか……」

 そう言いながら、家の奥に見慣れないものを見かけてルシアは言葉を止める。

 家の奥に見える馬車のようなものの荷台には、布が覆いかぶさっており何が入っているかはわからないが色々なものが積んでありそうだと言うことだけはわかった。

「なんだ……あんなに沢山何を積んできた……」

「えーっと、色々買ってきましたよ?」

「その色々が気になるんだが……後にしよう」

 めんどくさくなってそう告げた。

 ユノが食事の準備をしている間に、家の中に積んであった木の枝をどける。一部を料理用のたき火に渡しておいてルシアとクレアとアリスの三人は家の周りを片づけていた。

「荷物が全然ないな……」

「このあたりの草は燃やしてないので抜かないとなのです……」

「わらわは肉体労働派ではなく頭脳労働派なんじゃが……」

 ルシアは荷物の整理をしつつ、二人は草を抜いている。

 しばらくして、夕食ができるころには家の周りには草がなくなっていた。

「じゃあ、食べましょうか」

 四人で集まって、食事を始める。

「今日はスープとパンか」

 ユノが作る料理はルシアにとってもおいしいもので、食が進んでいく。アリスもだいぶお腹がすいていたようで、無言になりながらすごい勢いで食べていた。

「わらわはもうちっと肉があると嬉しいのじゃが……」

 そうは言いながらもクレアも食事の手が止まることはない。

「そう言えば、だいぶ綺麗になりましたね」

「まあ、アリスとガンドのお陰か」

 流石に自分でやったとは言えずにルシアは食べながらユノに答える。

「ここからですね、がんばりましょうルシア」

「わらわも手伝いますぞ、主様っ!」

「ちゃんとした家が作りたいな……」

 贅沢を言っている場合ではないのだが、雨風をしっかりとしのげる場所は欲しい。

「家作りなんてやったことないからな……」

 そう言いながらも頭の中を整理して、家作りに使えそうな知識をルシアは片っ端から引きづり出してくる。

 何はともあれ、いつまでもしっかりとした家が一軒もないのは流石にまずい。

「明日、ユノは石灰を買ってきてくれ……」

「わかりました」

「アリスは近くの火山まで行って火山灰を。場所は後で確認する」

「わかったのです」

「クレアはこの村の排水をつなぐ道を魔法で作ってくれ」

「わかりましたわらわの主様」

 一先ずの指示だしを終えて、ルシアは次に自分が何をするべきなのかを考える。

「俺は街に行って建築系の書物を読みあさってくるか……」

「そう言うことでしたら、ベルディアさんのところに行けば見せてもらえると思います」

 ユノの言葉に頷いて、明日からの予定を組み上げていく。

「できれば、10日くらいで完成させたいものだな」

 それは難しいかと思い、ルシアは頭を振る。このまま、しばらくの間あの家で過ごすのも考えものだと思いつつも、とりあえずの知識がなければ話にならないだろう。

「それに……」

 農作物を育てる畑を作るにも時間はかかりそうだと思いながら、なんとかなる方法を頭の中でルシアは考える。

 夕食を全て平らげて、落ちていく夕日を寝ながらルシアは目を閉じた。
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