【完結】殿下、お守りしたいだけなので二度目の溺愛は所望しません!

前澤のーん

文字の大きさ
上 下
76 / 82
第五章 ずっとお守りします

愛しています3

しおりを挟む

「もう一回聞きたいなぁ。感動して泣いちゃった。ほら、あれ。何度死んでも俺のことを愛し……んっ」

 さらに追い打ちをかけてくるクレイセント様の口を手で塞いだ。全身が真っ赤に染まっている私を愉しそうに見下ろしている。
 シエルお兄様がすでに失神していたのはそういうことだったのか。

「く、クレイセント様なんて大嫌いです!!」

 そう叫んだが、あとの祭りのようだった。いまさら何を言っても意味はないだろう。
 呆れた陛下が「これ以上はお前たちで好きにしろ」とルノ様を抱えて立ち去っていく。アルフェント兄様はシエル兄様を抱えて死んだ顔をしながら離れていった。

「あり得ないっ! だ、騙すなんてっ!」
「仕方ないでしょう。そうしないと証拠を得られないんだから」
「うぅ、それはそうですけど……」
「ふふ、公開告白なんてしたからこれで逃げれなくなるね?」

(これもすべて計算通りということか)

 やはりクレイセント様には敵いそうにもない。頭を抱えていると、そっと私の手に触れたのに顔を上げる。

「リゼには申し訳ないことをしたと思ってるんだよ。止めたかったけど、そうすると不自然だし……」

 さすがに反省もしているのかクレイセント様が眉を寄せて頭を下げた。そんな彼にぐっと口を噤む。

(はぁ、これだけですべてを許してしまいそうになるなんて私も大概だな)

 これも計算なのか、それとも本当なのか。考えても無駄なことだと、大きくため息をついてからクレイセント様を見つめた。

「もういいです。あなたがいれば私はそれでいいのですから」

 気恥しい。きょとんと私を見つめ返す彼に、さすがに目線を合わせづらくなってきて顔を背ける。
少ししてから楽しそうに笑う声が聞こえたので、『こっちは真剣なのに!』と腹立たしくなって正面を向き直した。

「うん。俺も」

 けれどそこには嬉しそうに頬を染めて笑うクレイセント様がいる。そっと私の耳に触れて……。

『生まれ変わっても何度でも君を愛するよ』

 なんてことを耳元でサラッと囁いてくるから頭から蒸気が上がった気がする。また本当に嬉しそうに笑うから、もうなんでもよくなる。

(クレイセント様が嬉しいのならいいか)

 すべてを失った場所。辛く苦しい場所は、いまは花々に囲まれて明るい日差しと木々の爽やかな香りに包まれている。そんな場所で互いに言葉なく抱き合った。


 ◇◇◇


 シエルお兄様が頭を悩ませている。うぅんと力を振り絞っている。

「シエル、やっぱり治らない?」
「そうですね。毎日治療を施せば薄くはなるかと思いますが、完璧になくなるとまでは……」
「そう」

 クレイセント様の問いかけに、申し訳なさそうに頭を下げる。ベッドで横になるルノ様の右手。そこには痛々しい傷跡がついていた。

(美しい花の模様だったのだが……)

「おい、シエル。お前、次期大聖職者だろうが。なんとかしろよ」
「な、なんとかと言われましても。僕だってなんとかしたい気持ちは山々なんですよ!」

 アルフェント兄様がシエルお兄様に詰め寄った。さすがのシエルお兄様も負けじと言い返している。

「ルノ……」

 アルフェント兄様の影から顔を出したアランがルノ様に声をかけた。

「アラン、気にしないで。ルノ、この模様も好きだから」
「でもっ……!」
「みんなを守るためについたもの。だからこれを見る度に誇らしくなるわ」

(強く気丈だな。さすが陛下の娘だ)

 笑うルノ様とは反対にアランの表情は曇っていく。

「……ルノのばか。嫌いです」
「なっ! なんで!?」

 そのまま、ふいっと背中を背けたアランにルノ様が不服そうに口を尖らせた。ルノ様からは見えないだろうが、アランの瞳が後悔と悲しみに濡れている。アルフェント兄様がわざと彼の髪の毛をぐしゃぐしゃと撫でて、顔を見えなくさせた。
 ラルディーニ侯爵家らしい責任感の強い子供だ。ルノ様に傷を残したことは一生彼の中で自責として残るだろう。

(あーあ。これはまた拗れそうだな)

 なんというか。成長した彼らのこの先が目に浮かぶ。ルノ様よりもアランの方がどこぞのひねくれに似ているような。
 そんなことを軽く思ってしまえば、じっとりとした慣れた視線を横から感じたので考えることをやめる。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

平凡令嬢の婚活事情〜あの人だけは、絶対ナイから!〜

本見りん
恋愛
「……だから、ミランダは無理だって!!」  王立学園に通う、ミランダ シュミット伯爵令嬢17歳。  偶然通りかかった学園の裏庭でミランダ本人がここにいるとも知らず噂しているのはこの学園の貴族令息たち。  ……彼らは、決して『高嶺の花ミランダ』として噂している訳ではない。  それは、ミランダが『平凡令嬢』だから。  いつからか『平凡令嬢』と噂されるようになっていたミランダ。『絶賛婚約者募集中』の彼女にはかなり不利な状況。  チラリと向こうを見てみれば、1人の女子生徒に3人の男子学生が。あちらも良くない噂の方々。  ……ミランダは、『あの人達だけはナイ!』と思っていだのだが……。 3万字少しの短編です。『完結保証』『ハッピーエンド』です!

歴史から消された皇女〜2人の皇女の願いが叶うまで終われない〜

珠宮さくら
恋愛
ファバン大国の皇女として生まれた娘がいた。 1人は生まれる前から期待され、生まれた後も皇女として周りの思惑の中で過ごすことになり、もう1人は皇女として認められることなく、街で暮らしていた。 彼女たちの運命は、生まれる前から人々の祈りと感謝と願いによって縛られていたが、彼らの願いよりも、もっと強い願いをかけていたのは、その2人の皇女たちだった。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

【完結】あわよくば好きになって欲しい(短編集)

野村にれ
恋愛
番(つがい)の物語。 ※短編集となります。時代背景や国が違うこともあります。 ※定期的に番(つがい)の話を書きたくなるのですが、 どうしても溺愛ハッピーエンドにはならないことが多いです。

妹の身代わり人生です。愛してくれた辺境伯の腕の中さえ妹のものになるようです。

桗梛葉 (たなは)
恋愛
タイトルを変更しました。 ※※※※※※※※※※※※※ 双子として生まれたエレナとエレン。 かつては忌み子とされていた双子も何代か前の王によって、そういった扱いは禁止されたはずだった。 だけどいつの時代でも古い因習に囚われてしまう人達がいる。 エレナにとって不幸だったのはそれが実の両親だったということだった。 両親は妹のエレンだけを我が子(長女)として溺愛し、エレナは家族とさえ認められない日々を過ごしていた。 そんな中でエレンのミスによって辺境伯カナトス卿の令息リオネルがケガを負ってしまう。 療養期間の1年間、娘を差し出すよう求めてくるカナトス卿へ両親が差し出したのは、エレンではなくエレナだった。 エレンのフリをして初恋の相手のリオネルの元に向かうエレナは、そんな中でリオネルから優しさをむけてもらえる。 だが、その優しささえも本当はエレンへ向けられたものなのだ。 自分がニセモノだと知っている。 だから、この1年限りの恋をしよう。 そう心に決めてエレナは1年を過ごし始める。 ※※※※※※※※※※※※※ 異世界として、その世界特有の法や産物、鉱物、身分制度がある前提で書いています。 現実と違うな、という場面も多いと思います(すみません💦) ファンタジーという事でゆるくとらえて頂けると助かります💦

人質王女の婚約者生活(仮)〜「君を愛することはない」と言われたのでひとときの自由を満喫していたら、皇太子殿下との秘密ができました〜

清川和泉
恋愛
幼い頃に半ば騙し討ちの形で人質としてブラウ帝国に連れて来られた、隣国ユーリ王国の王女クレア。 クレアは皇女宮で毎日皇女らに下女として過ごすように強要されていたが、ある日属国で暮らしていた皇太子であるアーサーから「彼から愛されないこと」を条件に婚約を申し込まれる。 (過去に、婚約するはずの女性がいたと聞いたことはあるけれど…) そう考えたクレアは、彼らの仲が公になるまでの繋ぎの婚約者を演じることにした。 移住先では夢のような好待遇、自由な時間をもつことができ、仮初めの婚約者生活を満喫する。 また、ある出来事がきっかけでクレア自身に秘められた力が解放され、それはアーサーとクレアの二人だけの秘密に。行動を共にすることも増え徐々にアーサーとの距離も縮まっていく。 「俺は君を愛する資格を得たい」 (皇太子殿下には想い人がいたのでは。もしかして、私を愛せないのは別のことが理由だった…?) これは、不遇な人質王女のクレアが不思議な力で周囲の人々を幸せにし、クレア自身も幸せになっていく物語。

番から逃げる事にしました

みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。 前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。 彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。 ❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。 ❋独自設定有りです。 ❋他視点の話もあります。 ❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

処理中です...