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第五章 ずっとお守りします
愛しています3
しおりを挟む「もう一回聞きたいなぁ。感動して泣いちゃった。ほら、あれ。何度死んでも俺のことを愛し……んっ」
さらに追い打ちをかけてくるクレイセント様の口を手で塞いだ。全身が真っ赤に染まっている私を愉しそうに見下ろしている。
シエルお兄様がすでに失神していたのはそういうことだったのか。
「く、クレイセント様なんて大嫌いです!!」
そう叫んだが、あとの祭りのようだった。いまさら何を言っても意味はないだろう。
呆れた陛下が「これ以上はお前たちで好きにしろ」とルノ様を抱えて立ち去っていく。アルフェント兄様はシエル兄様を抱えて死んだ顔をしながら離れていった。
「あり得ないっ! だ、騙すなんてっ!」
「仕方ないでしょう。そうしないと証拠を得られないんだから」
「うぅ、それはそうですけど……」
「ふふ、公開告白なんてしたからこれで逃げれなくなるね?」
(これもすべて計算通りということか)
やはりクレイセント様には敵いそうにもない。頭を抱えていると、そっと私の手に触れたのに顔を上げる。
「リゼには申し訳ないことをしたと思ってるんだよ。止めたかったけど、そうすると不自然だし……」
さすがに反省もしているのかクレイセント様が眉を寄せて頭を下げた。そんな彼にぐっと口を噤む。
(はぁ、これだけですべてを許してしまいそうになるなんて私も大概だな)
これも計算なのか、それとも本当なのか。考えても無駄なことだと、大きくため息をついてからクレイセント様を見つめた。
「もういいです。あなたがいれば私はそれでいいのですから」
気恥しい。きょとんと私を見つめ返す彼に、さすがに目線を合わせづらくなってきて顔を背ける。
少ししてから楽しそうに笑う声が聞こえたので、『こっちは真剣なのに!』と腹立たしくなって正面を向き直した。
「うん。俺も」
けれどそこには嬉しそうに頬を染めて笑うクレイセント様がいる。そっと私の耳に触れて……。
『生まれ変わっても何度でも君を愛するよ』
なんてことを耳元でサラッと囁いてくるから頭から蒸気が上がった気がする。また本当に嬉しそうに笑うから、もうなんでもよくなる。
(クレイセント様が嬉しいのならいいか)
すべてを失った場所。辛く苦しい場所は、いまは花々に囲まれて明るい日差しと木々の爽やかな香りに包まれている。そんな場所で互いに言葉なく抱き合った。
◇◇◇
シエルお兄様が頭を悩ませている。うぅんと力を振り絞っている。
「シエル、やっぱり治らない?」
「そうですね。毎日治療を施せば薄くはなるかと思いますが、完璧になくなるとまでは……」
「そう」
クレイセント様の問いかけに、申し訳なさそうに頭を下げる。ベッドで横になるルノ様の右手。そこには痛々しい傷跡がついていた。
(美しい花の模様だったのだが……)
「おい、シエル。お前、次期大聖職者だろうが。なんとかしろよ」
「な、なんとかと言われましても。僕だってなんとかしたい気持ちは山々なんですよ!」
アルフェント兄様がシエルお兄様に詰め寄った。さすがのシエルお兄様も負けじと言い返している。
「ルノ……」
アルフェント兄様の影から顔を出したアランがルノ様に声をかけた。
「アラン、気にしないで。ルノ、この模様も好きだから」
「でもっ……!」
「みんなを守るためについたもの。だからこれを見る度に誇らしくなるわ」
(強く気丈だな。さすが陛下の娘だ)
笑うルノ様とは反対にアランの表情は曇っていく。
「……ルノのばか。嫌いです」
「なっ! なんで!?」
そのまま、ふいっと背中を背けたアランにルノ様が不服そうに口を尖らせた。ルノ様からは見えないだろうが、アランの瞳が後悔と悲しみに濡れている。アルフェント兄様がわざと彼の髪の毛をぐしゃぐしゃと撫でて、顔を見えなくさせた。
ラルディーニ侯爵家らしい責任感の強い子供だ。ルノ様に傷を残したことは一生彼の中で自責として残るだろう。
(あーあ。これはまた拗れそうだな)
なんというか。成長した彼らのこの先が目に浮かぶ。ルノ様よりもアランの方がどこぞのひねくれに似ているような。
そんなことを軽く思ってしまえば、じっとりとした慣れた視線を横から感じたので考えることをやめる。
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