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第一章女騎士とショタ殿下
求愛されましても……3
しおりを挟む「それと一生傍でお仕えしますから、ご安心ください」
ゆっくりと起き上がって殿下の前で片膝をつき左胸に手を当てて深く頭を下げる。
「つがいではありませんが。騎士として生涯を殿下に捧げると誓います」
(必ず。それは一生変わることはない)
改めて心でそう誓っていると妙に彼が静かなことに気がつく。はて?と顔を上げると、彼が口を真一文字にして怒りのオーラを放っていた。なぜだ。
「アメルってほんとに空気読むって知らないよね」
「あっ、で、殿下! なぜ怒って……って、待ってください。一人で行動しては危険です!!」
「知らない!」
頬をこれでもかと膨らませて走って逃げていく殿下を追いかける。最近の殿下の行動や思考は読みづらくて困る。
(まぁ、前よりも子供らしくなったのは良いことなのか)
笑いながら追いかけるとさらに怒るから機嫌を直すのに時間がかかった。
でも、それもそれで楽しくていい。そんな楽しい日々が続いていくものだと、このときは単純に思っていた――……。
「アメル、何か欲しいものはある?」
「欲しいものですか?」
「うん」
(うーん、またよからぬことを考えているような)
にこにこと笑って見上げてくるから、嫌な予感しかしない。
「殿下、それの見返りは何かあり……」
「結婚して」
「……」
やっぱりか。もはや頭を抱えることが日常茶飯事になってきた。芽をしっかりと摘んだと思ったのだが、あれから殿下は『結婚』をさらに要求してくるようになってしまった。殿下は少々、いやかなり諦めが悪い。
「分かりました。では殿下、欲しいものを申し上げますね」
「うん」
にっこりと笑みを返した私に、キラキラと瞳を輝かせてくる。胸が痛いが、何度でも生えてくる草は何度でも摘み取らねばならない。
「帝都の北の森の湖にあると言われている璃宝石が欲しいです」
「璃宝石……?」
「はい。湖の中の石が結晶化したものらしいですよ。殿下と同じ瞳の色をしているとか」
「そうなんだ。そんな石があるんだ」
「はい。まぁ、幻と言われてるので無理だと……」
「わかった! それを見つければいいんだね!」
(えっとー……)
絶対に見つけられないと思ったから言ったわけであって。
「見つけたら約束守ってね! 必ずだから!」
天使のような笑顔で私にぶんぶんと手を振って、いまから始まる座学の部屋へと入っていく。
騎士らしく姿勢と表情を崩さず扉が閉まったのを確認して……。
(あーーーー!!)
しゃがみこんで頭を抱えてしまった。額から汗がダラダラと流れている。なんだ、いまの子供というのは、こんなにも押しが強いのか。
「まずい。このままでは年増な女が美麗少年皇子をたらし込んだヤバい奴になる」
(そうなったら皇帝陛下に殺される!!)
ギロチンの下に首を差し込む自分の姿が思い浮かんでぞっと全身の血の気が引いていく。
「懐かれているのは本当だったんだな。妹よ」
「げっ!?」
ポンっと私の肩を叩いてきたのはゴリラの片割れ、いや片割れではない。ただのゴリラの兄様。
「なんというか……」
『犯罪になる前に諦めさせろよ』といった遠い目をしてくる。そうでなければ……と首を切るような仕草付きで。
分かっている。それは私もめちゃくちゃに分かっているのだ。
「父様からの伝言だ。『由緒正しいラルディーニ侯爵家の黒歴史にだけにはなるな』とのことだ。黒皇子で黒歴史……ぷくく」
「面白くない! こっちはなんとかしようと毎日奮闘しているんです!」
「なら、さっさと諦めさせろよ」
「それができたらどれだけ楽か! あぁ、陛下の耳にまで入ったら終わる……騎士としての人生が終わる!」
「人としても終わるかもな」
冗談ではないと睨みつけると「おぉ、怖っ」と楽しそうにおどけている。
「っと、そんなことを話している場合ではなかった」
「……なんですか」
周りに使用人たちがいるのを目だけ動かして確認してから、こっそりと私を手招きして人がいない廊下へ誘導してくる。
(ほかのものに聞かれてはまずいものか?)
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