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番外編
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「こんにちは。君がツェイちゃん?」
リンドワールへ発つ日。たくさんの荷物を抱えた使用人たちとテオドールが来るのを屋敷の前で待っていれば、目の前に現れた男性。
右側だけ伸ばした金色の髪に翠色の瞳。華々しい顔だけれど、ふわりと笑う顔が近寄りやすい印象を与えている。黒のローブを羽織っていることから黒魔術師なのだろう。女性の使用人たちが顔を真っ赤にさせてざわめき立っている。
(わぁ、これまたすごく格好いい方)
ツーツェイが見蕩れていれば、また笑ってからすっと髪の毛を掬われる。
「あ、え、えっと……」
「綺麗な髪だけれど、向こうについたら隠してもらうね」
「あ……え……ッ!?」
その髪に流れるように口付けを落とされて、ツーツェイは持っていた鞄をどさりと地面に落とした。
(ぎやーー!! ここ、ここここにも王子様が!)
口をパクパクとさせているとまた手が伸びてきて、身体が硬直したとき……。
「なにしてるの?」
――――バチィ!!
「ッ!」
その黒魔術師の伸びた手の先に作られる透明の壁。その壁に手が弾かれて離れる。
「あー、早いご帰宅で……。もう少し王宮にいるかと思ったんですけど」
「こうなると思ったからすぐに戻ってきた」
「はぁ~、信用ないなぁ。本当だったらこんな面倒な警備引き受けないんですよ。感謝してほしいくらいなんですけど」
「だったら引き受けなきゃよかっただろう?」
飄々と言葉を返す黒魔術師に、珍しくテオドールが苛立っているのにツーツェイがあわあわと二人を交互に見る。それに気がついた黒魔術師がまた笑う。
「あぁ、ごめんね。俺はライト・ナレード。黒魔術師です。君の警備にあたることになったから、よろしくね」
「あっ、よ、よろしくお願いします」
「うん、よろしく~」
ヒラヒラと手を振るのにまたテオドールが睨みつけている。ツーツェイはその名前に聞き覚えがあった。
(ナレード……まさか公爵家の方!?)
「あ……あの……」
「ん? あぁ、大丈夫、大丈夫。俺は次男だから気にしないで。家督は兄が継ぐ予定だし」
だとしても緊張するとツーツェイが少しぎこちなくしていれば、ふふっと話しやすいように笑う。緊張を解すためにわざとかもしれないと思えば、悪い人ではないのかとも感じる。
「あ~、こうなるから軽くみられるように髪伸ばしてたのになぁ」
「……なにかあったの?」
「脳筋馬鹿騎士の兄に切られたんですよ。剣でばっさりね。お前の髪は癪に障るだって~」
「それはわからないでもないかも……」
「えぇ、ひどっ! テオドール様も最近俺に容赦なくないですか?」
テオドールが冷たく返すのに慌てていたけれど、なんとも面白い掛け合いだったのでツーツェイも自然と笑ってしまう。
(テオドール様の新しい一面が見れてよかったわ)
そう微笑みながら馬車に乗り込んだ。
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