上 下
68 / 80

68.最終話

しおりを挟む




 朝食を終えて玄関先で魔術省に向かうテオドールを見送るとき、玄関の棚に積み重なった手紙にテオドールが首を傾げる。

「ツェイ、それは?」
「あぁ、お父様からのお手紙です。毎朝大量に届くのでここに置いてもらってるんです」
「そ、そっか……」

 テオドールはいつも朝早い時間に仕事に向かうので初めて見るものだった。その量の多さと謎の圧に手紙から少し離れる。

「なんて書いてあるの?」
「うーん、早く国に遊びに来いとか、ご飯を食べようとか、お出かけしようとか?」
「そ、そっか……」
「国へ遊びに行くときの道中は警備していただけるらしいので、一度は行こうかと思ってはいるんですけど……」

 ちらりとテオドールを見てからすぐに視線を逸らす。ツーツェイが国へ遊びに行くのを躊躇っていたのには理由がある。

(せっかく想いが通じたのに、離れるのが嫌だなんて……)

 両親よりも恋人を優先してしまっていることに『ごめんなさい。お父様、お母様』とこっそり心の中で謝る。そんなツーツェイにテオドールがふっと笑う。

「警備……僕じゃだめなのかな? 一応、これでも高位白魔術師の中で一番だと言われてるんだけど」
「ッ! 一緒に行っていただけるんですか?」
「うん、もちろん」

 テオドールについて来てと言えなかったのには、彼が国へ行って嫌な記憶が戻ってこないかが心配だった。

「いまは帝国民だけど、故郷には変わらないから。それに……」
「それに?」

 ツーツェイがきょとんとすれば、少しだけ恥ずかしがるように目線を逸らしてから、また顔を見つめる。

「ツェイがいるならどこでも嬉しいから」

 にっこりと嬉しそうに笑う。そんなテオドールにぽぅと見蕩れていたけれど、はっとする。声を出せなかったときから玄関先の棚に置きっぱなしにしてあったメモ帳とペンを慌てて取り出した。

「ここにそれを書いてもらってもいいですか!?」
「え? うん?」

 ツーツェイの慌てぶりに不思議そうにしつつも、ペンを手に取り走らせてメモ帳に書く。

『ツェイがいるならどこでも』

 テオドールの綺麗な文字で書かれたメモにツーツェイの瞳が輝く。

(やった、これで脳内で保存しなくてもいつでも見れるわ)

 嬉しそうに紙を眺めるツーツェイに理由がわかったのかテオドールも可笑しそうに笑う。そのあとおもむろにポケットから紙を取り出したのに、なんだろうとツーツェイが覗き込む。

(これは……)

 それは以前に『あなたは綺麗です』と記して渡した紙。

「僕もとってあるんだ」

 恥ずかしそうに笑ってからツーツェイの頭を撫でる。その撫でていた手を離して、また先程のメモにペンを走らせる。

『ツェイ、愛してる。永遠に』

 さらにそう書かれたメモ。ふわりと笑って、メモ紙を台紙から切り離して手に渡してくれるのにツーツェイの瞳が歪む。

 瞳から溢れる涙を拭って笑顔を返せば嬉しそうにテオドールが笑う。そんなテオドールが持っている紙をゆっくりと手に取る。

『私も永遠に愛しています』

 ゆっくりと付け加えれば、テオドールの瞳が開かれてからすぐに弧を描いた。

 そっと抱きあう身体。互いの体温が溶け合うように温かく包まれていく。


(愛されるというのはとても幸せなのね、それに……)


 ――――この人を愛せてよかった。


 心の中で微笑みながら、薔薇のように紅く染まる頬に優しく口付けを落とした。



―――――END―――――

しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます

おぜいくと
恋愛
「あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます。さようなら」 そう書き残してエアリーはいなくなった…… 緑豊かな高原地帯にあるデニスミール王国の王子ロイスは、来月にエアリーと結婚式を挙げる予定だった。エアリーは隣国アーランドの王女で、元々は政略結婚が目的で引き合わされたのだが、誰にでも平等に接するエアリーの姿勢や穢れを知らない澄んだ目に俺は惹かれた。俺はエアリーに素直な気持ちを伝え、王家に代々伝わる指輪を渡した。エアリーはとても喜んでくれた。俺は早めにエアリーを呼び寄せた。デニスミールでの暮らしに慣れてほしかったからだ。初めは人見知りを発揮していたエアリーだったが、次第に打ち解けていった。 そう思っていたのに。 エアリーは突然姿を消した。俺が渡した指輪を置いて…… ※ストーリーは、ロイスとエアリーそれぞれの視点で交互に進みます。

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない

文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。 使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。 優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。 婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。 「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。 優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。 父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。 嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの? 優月は父親をも信頼できなくなる。 婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

貴妃エレーナ

無味無臭(不定期更新)
恋愛
「君は、私のことを恨んでいるか?」 後宮で暮らして数十年の月日が流れたある日のこと。国王ローレンスから突然そう聞かれた貴妃エレーナは戸惑ったように答えた。 「急に、どうされたのですか?」 「…分かるだろう、はぐらかさないでくれ。」 「恨んでなどいませんよ。あれは遠い昔のことですから。」 そう言われて、私は今まで蓋をしていた記憶を辿った。 どうやら彼は、若かりし頃に私とあの人の仲を引き裂いてしまったことを今も悔やんでいるらしい。 けれど、もう安心してほしい。 私は既に、今世ではあの人と縁がなかったんだと諦めている。 だから… 「陛下…!大変です、内乱が…」 え…? ーーーーーーーーーーーーー ここは、どこ? さっきまで内乱が… 「エレーナ?」 陛下…? でも若いわ。 バッと自分の顔を触る。 するとそこにはハリもあってモチモチとした、まるで若い頃の私の肌があった。 懐かしい空間と若い肌…まさか私、昔の時代に戻ったの?!

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

本日、私の大好きな幼馴染が大切な姉と結婚式を挙げます

結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
本日、私は大切な人達を2人同時に失います <子供の頃から大好きだった幼馴染が恋する女性は私の5歳年上の姉でした。> 両親を亡くし、私を養ってくれた大切な姉に幸せになって貰いたい・・・そう願っていたのに姉は結婚を約束していた彼を事故で失ってしまった。悲しみに打ちひしがれる姉に寄り添う私の大好きな幼馴染。彼は決して私に振り向いてくれる事は無い。だから私は彼と姉が結ばれる事を願い、ついに2人は恋人同士になり、本日姉と幼馴染は結婚する。そしてそれは私が大切な2人を同時に失う日でもあった―。 ※ 本編完結済。他視点での話、継続中。 ※ 「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています ※ 河口直人偏から少し大人向けの内容になります

【完結】消された第二王女は隣国の王妃に熱望される

風子
恋愛
ブルボマーナ国の第二王女アリアンは絶世の美女だった。 しかし側妃の娘だと嫌われて、正妃とその娘の第一王女から虐げられていた。 そんな時、隣国から王太子がやって来た。 王太子ヴィルドルフは、アリアンの美しさに一目惚れをしてしまう。 すぐに婚約を結び、結婚の準備を進める為に帰国したヴィルドルフに、突然の婚約解消の連絡が入る。 アリアンが王宮を追放され、修道院に送られたと知らされた。 そして、新しい婚約者に第一王女のローズが決まったと聞かされるのである。 アリアンを諦めきれないヴィルドルフは、お忍びでアリアンを探しにブルボマーナに乗り込んだ。 そしてある夜、2人は運命の再会を果たすのである。

処理中です...