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68.最終話
しおりを挟む朝食を終えて玄関先で魔術省に向かうテオドールを見送るとき、玄関の棚に積み重なった手紙にテオドールが首を傾げる。
「ツェイ、それは?」
「あぁ、お父様からのお手紙です。毎朝大量に届くのでここに置いてもらってるんです」
「そ、そっか……」
テオドールはいつも朝早い時間に仕事に向かうので初めて見るものだった。その量の多さと謎の圧に手紙から少し離れる。
「なんて書いてあるの?」
「うーん、早く国に遊びに来いとか、ご飯を食べようとか、お出かけしようとか?」
「そ、そっか……」
「国へ遊びに行くときの道中は警備していただけるらしいので、一度は行こうかと思ってはいるんですけど……」
ちらりとテオドールを見てからすぐに視線を逸らす。ツーツェイが国へ遊びに行くのを躊躇っていたのには理由がある。
(せっかく想いが通じたのに、離れるのが嫌だなんて……)
両親よりも恋人を優先してしまっていることに『ごめんなさい。お父様、お母様』とこっそり心の中で謝る。そんなツーツェイにテオドールがふっと笑う。
「警備……僕じゃだめなのかな? 一応、これでも高位白魔術師の中で一番だと言われてるんだけど」
「ッ! 一緒に行っていただけるんですか?」
「うん、もちろん」
テオドールについて来てと言えなかったのには、彼が国へ行って嫌な記憶が戻ってこないかが心配だった。
「いまは帝国民だけど、故郷には変わらないから。それに……」
「それに?」
ツーツェイがきょとんとすれば、少しだけ恥ずかしがるように目線を逸らしてから、また顔を見つめる。
「ツェイがいるならどこでも嬉しいから」
にっこりと嬉しそうに笑う。そんなテオドールにぽぅと見蕩れていたけれど、はっとする。声を出せなかったときから玄関先の棚に置きっぱなしにしてあったメモ帳とペンを慌てて取り出した。
「ここにそれを書いてもらってもいいですか!?」
「え? うん?」
ツーツェイの慌てぶりに不思議そうにしつつも、ペンを手に取り走らせてメモ帳に書く。
『ツェイがいるならどこでも』
テオドールの綺麗な文字で書かれたメモにツーツェイの瞳が輝く。
(やった、これで脳内で保存しなくてもいつでも見れるわ)
嬉しそうに紙を眺めるツーツェイに理由がわかったのかテオドールも可笑しそうに笑う。そのあとおもむろにポケットから紙を取り出したのに、なんだろうとツーツェイが覗き込む。
(これは……)
それは以前に『あなたは綺麗です』と記して渡した紙。
「僕もとってあるんだ」
恥ずかしそうに笑ってからツーツェイの頭を撫でる。その撫でていた手を離して、また先程のメモにペンを走らせる。
『ツェイ、愛してる。永遠に』
さらにそう書かれたメモ。ふわりと笑って、メモ紙を台紙から切り離して手に渡してくれるのにツーツェイの瞳が歪む。
瞳から溢れる涙を拭って笑顔を返せば嬉しそうにテオドールが笑う。そんなテオドールが持っている紙をゆっくりと手に取る。
『私も永遠に愛しています』
ゆっくりと付け加えれば、テオドールの瞳が開かれてからすぐに弧を描いた。
そっと抱きあう身体。互いの体温が溶け合うように温かく包まれていく。
(愛されるというのはとても幸せなのね、それに……)
――――この人を愛せてよかった。
心の中で微笑みながら、薔薇のように紅く染まる頬に優しく口付けを落とした。
―――――END―――――
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