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『ふふ、元に戻ったね』

 恥ずかしそうにだけど楽しそうに笑うテオドール。また心臓がバクバクと音を立ててうるさい。

『……前は声を出さなかったから苦しかったでしょ。ごめんね』
『あ……よ、よくわかりません。初めてだったので……』
『うん。これからは出していいから』

 合図するようにそっと頬に触れる大きな手。また触れ合う唇にツェイは瞳を閉じた。


『ふ……んっ……ふぁ……っん』

(気持ちいい)

 互いの絡む舌に、その快感に酔う。柔らかく温かい。深く絡めば解かれて、また絡んでを繰り返す。
 部屋に絡む唾液の水音が響いて恥ずかしいけれど、それすらも快感を呼ぶ媚薬のように甘く頭を溶かしていく。

『ん……んん……ふっ……っぁ……』

 絡み合ったどちらのものか分からない唾液が溢れて口の端からベッドに落ちて濡らしていく。恥ずかしく手で拭いてしまおうとすれば、その手を掴まれて止められる。

『っん』

 唇が少し離れてから、唾液が垂れる顎先を舐め取られる。掴まれた手にキスを落とされて上目で見つめられると、また心臓が跳ねた。

(う……あ……こ、これは……絶対にするよね!?)

 ツーツェイがはっと気づいたとき、ゆっくりとベッドに押し倒される。ふわりと羽毛布団に沈み込む身体。つぅと指先が太ももを這ってその脚先を持ち上げられる。

『ッん……そ、そんなとこ汚っ……』
『ツェイの体に汚いところなんてないよ』

 ツーツェイの足の甲に優しく唇を落とす。そんなテオドールに『本物の王子様みたい』とぼんやり考えてしまって、また顔が赤らんでいく。

(心臓が止まりそう……でも大丈夫! 準備は出来てますから!!)

 ぎゅっと目を瞑って覚悟を決める。するりと薄い寝間着の上から撫でる指にビクビクと震えていると……。

『え?』

 ピタリと止まってしまう指先。なぜと思って目を開ければ、布団に身体を包まれる。

『えっと……』
『今日は遅いから寝ようか』

 またぽかーんと口を開いてしまったけれど、テオドールはそれを無視するようにそのままぎゅっと布団に包まれた上からツーツェイを抱き締める。しかも蝋燭の火を消されて、瞳を閉じてしまってる。

(え……ええ? お、終わり!?)

 しゅんと残念に思ってしまったことに恥ずかしさが襲ってくる。たしかに言われてみれば日付も変わっていた。身体を気遣ってくれたのかもしれないのに残念に思った自身が恥ずかしくて顔が火照ってくる。

(さすがテオドール様は優しいなぁ。まぁ、今日はキスできたからいいか)

 『次こそは!』とここでもポジティブ思考なツーツェイは切り替えて熟睡したのだった。


 ――――けど! なのに!!

 ダンッと音を立てて机にまた小麦粉の袋を置いて粉を出す。『まだ終わりじゃなかったのか』と使用人たちが冷凍庫の空きスペースを確認し始めている。

(あれからキスしかしてもらってないんだけど!? たしかにキスだけでも嬉しいんだけど……けど!!)

 その日から早一ヶ月。テオドールは口付けはするものの、そのままいつも布団に巻き巻きとツーツェイをくるんで抱き締めて寝てしまう。

「限界よ、もう限界!!」

 ――――ダンッ!!

「ひぃ!?」

 強く殴りつけるように生地を叩く。それにビクリと使用人たちが跳ね上がる。

(毎回あんなえっちぃキスしてくるくせに!! 生殺し状態だっての!)

 ――――ダンッ!!

(許さないっ! 絶対するんだから!!)

 ――――ダンッ!!

 何度も強く生地を叩くツーツェイ。なんとも処女らしからぬ勢いだったけれど、毎回寸止め状態を繰り返され限界だった。そう強く決意して、また生地を叩いたのだった。



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