上 下
52 / 80

52

しおりを挟む
 

(お、おお王宮、これが大帝国の王宮!)

 馬車の窓から外を見れば、立派な王宮が目の前にそびえ立っている。石造りの大きな門の中へ入ると広大な庭園があり、その美しさにまたツーツェイは震える。そんなツーツェイを心配そうに見つめるテオドールにぎこちない笑顔を返す。

「ごめんね、ツェイ。僕のせいで……」

 ボードを鞄から取り出して『そんなことはありませんよ』と書くとテオドールは少しだけ頬を緩ませた。ペンを持つツーツェイの手に重なる大きな手。顔を上げれば表情を歪ませている。

「ツェイ……僕は……全てを陛下に伝えるつもりだ」
「ッ……」
「もしかすると……そうなったら……」

 テオドールが伝えようとしていることはわかっている。自身が敵国であったリンドワール国の生まれであること。全てを隠してこの帝国で生きていたこと。

 微かに震える手に自身の手をそっと重ねる。

 ――――『私も共にいきます』

 そう心の中で伝える。心の中で囁いた言葉だったけれど、伝わったようにテオドールが『ありがとう、ツェイ』と微笑んだ。


◇◇◇


 執事に通された謁見の間で頭を下げて待っていたが『頭をあげろ』という声が聞こえる。

(ど、どわぁっ!? めっちゃ綺麗な人たち!!)

 その声に頭をあげれば、赤い絨毯の先にある金の装飾のされた椅子に座る藍色の髪に金色の瞳の四十代くらいの男性。皇族が着る厳格な服装をしていることから皇帝陛下なのだとすぐに気がつく。
 それに皇帝陛下の横に立つツーツェイと同い年くらいの美青年。容姿が陛下にそっくりなので皇太子殿下なのだろう。

(め、め、目に焼き付けなければ! これは滅多にお目にかかれるレベルじゃないわ!!)

 目を見開いて二人を交互に見て脳内で何度も記憶する。隣にいるテオドールが少し複雑そうに、珍しくツーツェイを睨んでいたのに気がついて、慌てて瞳を戻した。

「テオドール」
「はっ」
「いきなり辞職願を出して、勝手に行動し、事を荒立てたことはわかっているか」
「はい。それは自覚しております」

 椅子に座りながら足を組んで見下ろす皇帝陛下に頭を深く下げる。

「罪は私だけにあります。それに私はずっと身分を偽っておりました」
「ほう。身分とは?」
「私はリンドワールの生まれでございます、陛下。それを隠し生きてまいりました。この罪は全て私にあります」

 しんと場が静まりかえる。この謁見の間にいるのは、皇帝陛下とテオドール、ツーツェイ、それと皇太子殿下のみだ。

「ですので父と母は……」

 ――――バンッ!!

 そのとき扉が開かれて入ってきたのはモーガンとセリニア。使用人たちが止めていたのを振り切ってきたのだろう。扉の隙間から見えた廊下にいる使用人たちの顔は青ざめていた。

「お父様、お母様っ、なぜっ……」

 いきなり現れた二人に慌てるテオドールの隣に立つ。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【R18】私は婚約者のことが大嫌い

みっきー・るー
恋愛
侯爵令嬢エティカ=ロクスは、王太子オブリヴィオ=ハイデの婚約者である。 彼には意中の相手が別にいて、不貞を続ける傍ら、性欲を晴らすために婚約者であるエティカを抱き続ける。 次第に心が悲鳴を上げはじめ、エティカは執事アネシス=ベルに、私の汚れた身体を、手と口を使い清めてくれるよう頼む。 そんな日々を続けていたある日、オブリヴィオの不貞を目の当たりにしたエティカだったが、その後も彼はエティカを変わらず抱いた。 ※R18回は※マーク付けます。 ※二人の男と致している描写があります。 ※ほんのり血の描写があります。 ※思い付きで書いたので、設定がゆるいです。

王女の朝の身支度

sleepingangel02
恋愛
政略結婚で愛のない夫婦。夫の国王は,何人もの側室がいて,王女はないがしろ。それどころか,王女担当まで用意する始末。さて,その行方は?

【R18】貴方の想いなど知りません

大城いぬこ
恋愛
初夜の夜、彼から言われたことは忘れない。貴方が義務を果たさないなら勝手に果たすまでよ。 外伝始めました。

お飾りの侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
今宵もあの方は帰ってきてくださらない… フリーアイコン あままつ様のを使用させて頂いています。

公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-

猫まんじゅう
恋愛
 そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。  無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。  筈だったのです······が? ◆◇◆  「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」  拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?  「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」  溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない? ◆◇◆ 安心保障のR15設定。 描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。 ゆるゆる設定のコメディ要素あり。 つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。 ※妊娠に関する内容を含みます。 【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】 こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)

旦那様の様子がおかしいのでそろそろ離婚を切り出されるみたいです。

バナナマヨネーズ
恋愛
 とある王国の北部を治める公爵夫婦は、すべての領民に愛されていた。  しかし、公爵夫人である、ギネヴィアは、旦那様であるアルトラーディの様子がおかしいことに気が付く。  最近、旦那様の様子がおかしい気がする……。  わたしの顔を見て、何か言いたそうにするけれど、結局何も言わない旦那様。  旦那様と結婚して十年の月日が経過したわ。  当時、十歳になったばかりの幼い旦那様と、見た目十歳くらいのわたし。  とある事情で荒れ果てた北部を治めることとなった旦那様を支える為、結婚と同時に北部へ住処を移した。    それから十年。  なるほど、とうとうその時が来たのね。  大丈夫よ。旦那様。ちゃんと離婚してあげますから、安心してください。  一人の女性を心から愛する旦那様(超絶妻ラブ)と幼い旦那様を立派な紳士へと育て上げた一人の女性(合法ロリ)の二人が紡ぐ、勘違いから始まり、運命的な恋に気が付き、真実の愛に至るまでの物語。 全36話

皇太子夫妻の歪んだ結婚 

夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。 その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。 本編完結してます。 番外編を更新中です。

【完結】聖女の手を取り婚約者が消えて二年。私は別の人の妻になっていた。

文月ゆうり
恋愛
レティシアナは姫だ。 父王に一番愛される姫。 ゆえに妬まれることが多く、それを憂いた父王により早くに婚約を結ぶことになった。 優しく、頼れる婚約者はレティシアナの英雄だ。 しかし、彼は居なくなった。 聖女と呼ばれる少女と一緒に、行方を眩ませたのだ。 そして、二年後。 レティシアナは、大国の王の妻となっていた。 ※主人公は、戦えるような存在ではありません。戦えて、強い主人公が好きな方には合わない可能性があります。 小説家になろうにも投稿しています。 エールありがとうございます!

処理中です...