上 下
49 / 80

49

しおりを挟む
 

 ツーツェイは城下を走った。けれどテオドールがどこにいるのか分からない。

「っ!!」

 地面にあった石につまづいて転んでしまう。衝撃で手から離れて落ちる手紙。地面に擦りむいた手を伸ばしてその手紙を掴む。

(……あの女性のところにいるのに違いないわ)

 テオドールのあの恐怖に満ちた表情。いつだってそれを引き起こしていたのはあの貴族の女性、エリオットと会ったときだった。それにテオドールを悩ませて苦しませているのもあのエリオットだと思う。

 だとしたらこの手紙を書いたのもなにかしらの理由でそう書かざるを得なかったのではないかとも思う。手に握られた手紙を強く掴めばぐしゃりと皺が寄る。

(許さない……絶対にあの女を許さない)

 深い憎しみの憎悪がツーツェイを包み込む。そっと手を合わせて目を瞑った。力を込めるように。

「居場所を教えて」

 そう囁けば手の先から伸びる光の線。こんなことまで出来てしまうのかとツーツェイは自身の力に恐ろしくなったけれど、恐ろしさを感じている暇はないと立ち上がる。
 周りの人々の雰囲気は変わらないので、どうやらその光の線はツーツェイにしか見えないようだった。

 その線をたどっていけば大きな屋敷に辿り着く。その屋敷の門の前には門番が立っていて警戒していたけれど『止まれ』とツーツェイが願えば、セオドア侯爵邸の使用人たちと同様に固まった。
  
 屋敷に入っても使用人たちを同じように止める。そうしてある部屋の扉の前で途切れる光の線。その扉を開こうとしたとき中から話し声が聞こえる。


「これで手を出さないと約束してもらえるんですよね」

 テオドールの声。その声に扉を開けずに耳を当てて会話を聞く。ツーツェイはなにが行われているかを知りたかった。それにテオドールがあんな手紙を書いた理由も。

「あぁ、もちろんよ。あの王女殿下には手を出さないわ」

(王女殿下?)

「ツーツェイ・リンドワール、ふふ、我が国に連れて帰りたいけれどあなたの願いなら仕方ないわね」
「……あなたのような人に利用されるだけですから」
「ふふ、言うようになったじゃない」

(ツーツェイ・リンドワール……)

 自身の名前のあとにつく国名。それが意味することはツーツェイにはわかった。

 それになんとなく気づいてはいた。

 夢の中の女性、それに書斎にあった歴史書の写真の女性。髪色と瞳の色が自分と一緒だったこと。耳につく金木犀の髪飾り。それを掬うのを一瞬悩むようにテオドールが指を止めたこと。

(やっぱり……私はリンドワール国の王女だったのね)

 『愛してるわ、ツェイ』とそう何度も夢の中で涙を流していた美しい女性。あの女性は母親だったのかと胸が苦しくなる。


「脱ぎなさい。その帝国の犬の格好は虫唾が走るわ」

 はっとツーツェイの意識が戻る。その言葉にテオドールが自身のために身を差し出しているのだとわかる。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【R18】私は婚約者のことが大嫌い

みっきー・るー
恋愛
侯爵令嬢エティカ=ロクスは、王太子オブリヴィオ=ハイデの婚約者である。 彼には意中の相手が別にいて、不貞を続ける傍ら、性欲を晴らすために婚約者であるエティカを抱き続ける。 次第に心が悲鳴を上げはじめ、エティカは執事アネシス=ベルに、私の汚れた身体を、手と口を使い清めてくれるよう頼む。 そんな日々を続けていたある日、オブリヴィオの不貞を目の当たりにしたエティカだったが、その後も彼はエティカを変わらず抱いた。 ※R18回は※マーク付けます。 ※二人の男と致している描写があります。 ※ほんのり血の描写があります。 ※思い付きで書いたので、設定がゆるいです。

王女の朝の身支度

sleepingangel02
恋愛
政略結婚で愛のない夫婦。夫の国王は,何人もの側室がいて,王女はないがしろ。それどころか,王女担当まで用意する始末。さて,その行方は?

【R18】貴方の想いなど知りません

大城いぬこ
恋愛
初夜の夜、彼から言われたことは忘れない。貴方が義務を果たさないなら勝手に果たすまでよ。 外伝始めました。

公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-

猫まんじゅう
恋愛
 そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。  無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。  筈だったのです······が? ◆◇◆  「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」  拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?  「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」  溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない? ◆◇◆ 安心保障のR15設定。 描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。 ゆるゆる設定のコメディ要素あり。 つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。 ※妊娠に関する内容を含みます。 【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】 こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)

お飾りの侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
今宵もあの方は帰ってきてくださらない… フリーアイコン あままつ様のを使用させて頂いています。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

【R18】初夜を迎えたら、夫のことを嫌いになりました

みっきー・るー
恋愛
公爵令嬢のペレーネは、婚約者のいるアーファに恋をしていた。 彼は急死した父に代わり伯爵位を継いで間もなく、ある理由から経済的な支援をしてくれる先を探している最中だった。 弱みに付け入る形で、強引にアーファとの婚姻を成立させたペレーネだったが、待ち望んでいた初夜の際、唐突に彼のことを嫌いだと思う。 ペレーネは離縁して欲しいと伝えるが、アーファは離縁しないと憤り、さらには妻として子を生すことを求めた。 ・Rシーンには※をつけます。描写が軽い場合はつけません。 ・淡々と距離を縮めるようなお話です。 表紙絵は、あきら2号さまに依頼して描いて頂きました。

【完結】鳥籠の妻と変態鬼畜紳士な夫

Ringo
恋愛
夫が好きで好きで好きすぎる妻。 生まれた時から傍にいた夫が妻の生きる世界の全てで、夫なしの人生など考えただけで絶望レベル。 行動の全てを報告させ把握していないと不安になり、少しでも女の気配を感じれば嫉妬に狂う。 そしてそんな妻を愛してやまない夫。 束縛されること、嫉妬されることにこれ以上にない愛情を感じる変態。 自身も嫉妬深く、妻を家に閉じ込め家族以外との接触や交流を遮断。 時に激しい妄想に駆られて俺様キャラが降臨し、妻を言葉と行為で追い込む鬼畜でもある。 そんなメンヘラ妻と変態鬼畜紳士夫が織り成す日常をご覧あれ。 ୨୧┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈୨୧ ※現代もの ※R18内容濃いめ(作者調べ) ※ガッツリ行為エピソード多め ※上記が苦手な方はご遠慮ください 完結まで執筆済み

処理中です...