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42 テオドールside⑤
しおりを挟む「美しいでしょう? まだ手をつけてないのよ」
「ほほう、エリオットにしては大切にしているじゃないか?」
「こんな上玉、なかなかめぐりあえないもの。どうせならその時は華々しく男女で愉しむのがいいでしょう」
「おぉ、さすが兵士たちの望むものがわかっているな」
腰に回る太いごつごつとした手にぞっとする。気がつけば何人もの兵士たちが部屋の中を取り囲んでいる。自分がこの兵士たちの慰みもののために連れてこられたのだとすぐにわかった。
(嫌だ……嫌だ!!)
「あなたたち、この子が暴れないように押さえていなさい」
逃げようともがくけれど、何人もの男に身体を押さえられて身動きがとれない。服を引きちぎられて赤く跡がつく身体が晒される。それを見て満足気に微笑むエリオットと醜い男。
「ふっ、まずは俺たちから愉しむかな」
その手がゆっくり伸びてくる……。
(……やめろ……触るな……やめろ!)
――――嫌だ!!
そう心の中で強く叫べば、押さえ込まれた指先から微かに放たれる光の粒。その指先を見てテオドールははっとする。
魔術書に書かれた魔唱。それを必死に思い出す。
「なんだ?」
テオドールが言語でない言葉を発し始めたのに男が首を傾げたとき……。
――――バァン!!
「っぐぁ!?」
眩い光とともに、押さえていた兵士たちを弾く強い力。あまりの強い力に吹き飛ばされて、みな身体を壁に打ち付けて倒れ込んでいく。
(なにが起きて……)
その光景に目を開いて呆然と見ていれば、手から光の粒が床に落ちていく。
(まさか……)
「これが白魔術……」
「うぐ……なにを……」
壁に身体を打ち付けられて苦しそうに悶えている男やエリオット、兵士たちが床を這いながらこちらに近づいてくる。
(早く逃げなければ)
そう直感で思って、露になった身体を隠すために白いシーツと歴史書だけを掴んで身を包んでから部屋を飛び出した。
屋敷にいた兵士たちになにごとかと捕まえられそうになったが、白魔術の透明の壁を作って動きを封じる。
(遠くに、どこか遠くに逃げなければ……)
朽ち果てた戦場をひたすらに走った。夜だったおかげか戦いはなく、静かだった。目につく開けた街跡ではなく、人気がない静かな暗い森に入る。木々が生い茂る森の中、どこに向かえばいいかわからなかったけれど必死に走った。
「ッ!?」
木の幹に足を引っ掛けて転んでしまう。痛みに膝を見れば擦り切れて血が足を伝っている。ふと周りを見れば木々しかなく、街並みもみえなくなっていた。
この森の中なら誰にも襲われないと安心感からふっと息を吐いて木に寄りかかる。
(さっきの力……)
手を開けば、先程のような光はない。その力を確かめるように血が流れる膝に翳して、そっと魔唱を唱える。
「わぁ……」
指から光の粒が放たれて塞がっていく膝の傷。それに足についた赤い痕も綺麗に消えていく。
(あの汚らしい痕が消えた)
元の綺麗な肌に戻ったのにテオドールの瞳から涙があふれた。身体を包むようにその光を放っていると……。
――――ガサッ!!
「ッ!?」
木々が揺れる音にびくりと身体が揺れて顔を上げる。見つかったのかと身体がガタガタと震えて収まらない。
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