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41 テオドールside④

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 そんな日々が続いていたとき、なぜか戦場の最前にエリオットとともに連れていかれた。国境付近の街。建物のどれもが崩れ落ちていて、戦いのあとが生々しく残っている。
 いまは恐ろしく静かだが、遠くで倒れている多くの兵士の亡骸を見て足がすくんだ。

(なぜエリオットは僕をこんな所に……)

「ちくしょう!! まったく使えないじゃないか!」

 そう不思議に思っていれば道の片隅で本を地面に投げつけているリンドワールの兵士がいる。

「帝国の魔術師から奪った魔術書なのに、なんにもつかえやしない!」

 どうやら隣国である帝国の魔術書が手に入ったようだった。けれどその内容通りにしても上手く術が発動できないらしい。魔術というのは、どうやら伝え手がいなければ使えないようだ。
 悔しそうに魔術書を投げ捨てたのに隣に立つエリオットが怪訝そうに眺めている。

「やだわぁ、うるさいわね。それに帝国の力に縋るなんてみっともないわ」

 ふんっと鼻息を漏らして投げ捨てられた魔術書を足で踏みつけるのに周りの兵士たちが『その通りだ』と歓声があがる。その歓声に嬉しそうにエリオットの口の端があがる。

「我が国には聖なる力を持つ王族がいるのに……」

 『もう行くわよ』と声をかけられて先に歩き出していく。

(くだらない……)

 そうテオドールは心の中で罵った。聖なる力があるのなら、なぜこの国では子供が売られるのだと。歴史書には帝国は恐ろしい国だと書かれていたが、本当にそうなのだろうかとも思う。
 実際に目で見ていないものを信じることに疲れていたのかもしれない。希望や望みを持つことは無駄だと感じていた。

 騒がしい雑踏の中で目に入る汚れた魔術書。それをこっそりと拾って服の中にしまいこんだ。


 まだ使われているという少しだけ前線から離れた兵士が使う宿舎。そこで今日は泊まるらしい。その部屋で一人になったとき、服の中から取り出して開いた例の魔術書。

「うぅ、目が回る……」

 たしかに魔術書の中身は不可思議なものばかりでまったく理解ができなかった。どれも大まかなことしか書かれていない。あえて他国に魔術のことを知られないように詳しいことは口で伝達しているのかもしれない。

「やっぱり使えないか……」

 ふうと息を吐く。そんな上手くいくものかと思ってはいた。

(この跡が綺麗に消せればと思ったんだけど)

 そっと触れる赤い跡。気持ち悪く触れた指先が冷たくなる。『消えろ』と何度も爪を立てて願うけれど深く傷が入るだけ。
 ポケットに入っていた歴史書を開いてまた写真を眺める。こんな醜い戦場の前線でも写真に映る王女殿下の微笑みは美しいものだった。


「部屋に……」

 そのときノックがされ、使用人に扉の外から声をかけられる。現実に引き戻されるように歴史書を静かに閉じてポケットに戻し、重く立ち上がった。

「おぉ、これが例のやつか」

 呼ばれた部屋に入れば大柄な兵士の男にテオドールは見下ろされる。横で微笑むエリオット。

(なぜ部屋に兵士の男が……)

 エリオットは美しい男しか部屋に入れなかった。そのエリオットがこのような醜い男を部屋に入れている。ということは……。

「ッ!?」
「おっと、逃げるんじゃない」

 この先に行われるおぞましいことを悟って、部屋から出ようとしたけれどその男に手を掴まれて持ち上げられる。荒い男の息が頬にかかって全身から汗が吹き出る。
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