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『あの気持ち悪い女性はなんなのですか!?』
あの後、テオドールはすぐに仕事に戻ってしまって話もまともに出来なかった。そのため夜遅くに屋敷に帰ってきたテオドールを問い詰める。
部屋で白のローブを脱いで片付けるテオドールの前でボードを掲げて仁王立ちする。
「ツェイ、今日は遅くなるから先に寝ていいと言ったのに」
『嫌です』
プレートの定例文を出せばテオドールがちらりと横目で見てから、すぐに目線を逸らして小さくため息をついた。
「昔の知り合いだよ。ツェイが気にすることじゃない」
(知り合いだとしても、あんなに失礼なことを言うなんて!!)
あの女性はテオドールのことを罵り、身体も勝手に触った。あの光景を思い出すと怒りが込み上げてくる。それにあのときのテオドールの恐怖の現れ。よほど嫌な人に違いないと苛立ってもくる。
「ふふ、ツェイはまるで猫のようだね。毛が逆だってる」
ふわりと浮く髪の毛を手櫛で整えてくれる。長い指の隙間から流れ落ちる橙色の細い髪。あまりに繊細に、壊れやすいものであるかのように優しく触れられてツーツェイは恥ずかしくなる。身体に直接触れたわけではないのにと。
(はっ! だめだめ、絆されないんだから!!)
『話を逸らさないでください! 私は怒ってます!』
その長い指先から逃げるように離れてからまたボードを胸に抱える。
「うん。僕のために怒ってくれてるんでしょう? 嬉しい、ありがとう」
宥めるように笑うテオドールに怒りの気持ちが揺らいでしまう。それにテオドールの様子から、話をするつもりがないのが伝わってくる。
(無理に聞いても嫌な思いをさせるだけかもしれない)
そう思えば、結局それ以上はペンが走らず、仕方なくボードを持つ手を下に降ろした。
「ツェイ、先に眠てて。まだ仕事が残ってるんだ」
『じゃあここで……』と伝えるようにツーツェイが部屋にある机を見ると首を横に振られる。
「ここで仕事したらツェイが寝れないでしょ?」
『大丈夫です』
「ううん、だめ。言うこと聞かないとまた持ち上げて無理やりベッドに運ぶよ」
(う……)
それはそれで良いかもと思ってしまうのにツーツェイは顔を赤らめる。だけれど仕事の邪魔になってはさすがに駄目かと、大人しく頷いてベッドに向かう。
じっと不服そうにテオドールを見つめれば『横にならないとだめ』と注意されて、また渋々ベッドに横になった。
また髪先を柔らかく触れる長い指。髪を梳かれる心地良さと昼間に沢山歩いて疲れていたせいかすぐに眠気がやってくる。
(もっとお話したかったのに……)
それに優しく上から笑うテオドールの瞳が緩く弧を描いていて美しい。ツーツェイはそんなテオドールをもう少し見たかったけれど重い瞼が落ちる。
「お休み、ツェイ」
そっと持ち上げた髪先に唇を寄せたのに本当に童話の王子様みたいだと微睡む思考で思ったあと意識が深く落ちていった――……。
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