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しおりを挟む「魔術省で見かけたときは一瞬だったから分からなかったけれど、その銀髪に美しい顔ですぐに思い出したわ」
「っ、おやめください……」
「あら、わたくしに指図するつもり?」
扇子で顔を持ち上げながら近くに寄り、下から見上げる。白の軍服の肩から降りる金の飾緒に触れたのに、さらに顔を青冷めさせたテオドールの額から汗が流れる。
「まさかこの帝国で高位白魔術師になっているだなんて……どうりで見つからないわけね」
その飾緒を遊ぶように指先で触ってから手を離せば軽く落ちていく。離した手が流れるようにテオドールの腰に伸びて絡む。
「あのときのように可愛がってあげるわよ?」
「ッ……」
「ふふ、お前はやっぱり才能があるのね。帝国内でも貴族の相手をしているという噂があるそうじゃない」
(なっ……この人なにを……)
「あぁ……それとも男の味を覚えたのかしら?」
――――パン!!
「ッ!?」
テオドールの腰に絡む手をツーツェイが強く弾いて離れさせる。これ以上触らせないようにテオドールの身体に張り付いた。
『テオドール様に触るな!!』
ボードにガリガリと力強く書いて目の前に掲げると、それを見て女性の瞳が大きく震えて開かれる。またガリガリと文章を追記していく。
『ド変態!! 離れろ!』
「なっ!?」
片手でテオドールの身体に張り付きながら、空いた手でボードを掴んで女性の目の前に出す。ギッと強く睨みつければ、その女性の顔が怒ったようにみるみると赤くなっていく。
(テオドール様に変なこと言って! 許さないんだから!!)
「ツェイ! だめだ!!」
守るように身体にぎゅーと抱きつけば、テオドールがはっと意識を取り戻したようにすぐに白のローブの中にツーツェイを隠してしまう。
(んぐ!? な、なんで、まだ言ってやりたいことがたくさんあるのに!)
じたばたと暴れて出てこようとするツーツェイを力強く抱きしめて抑える。猫をあやすように頭を抱えて抑え込まれて、『ふー、ふー』と戦闘態勢のツーツェイの荒い鼻息だけが中から漏れる。
「こ、この生意気な小娘を早くわたくしに渡しなさい!!」
(望むところよ!!)
また出ようともがくけれど、まったく力を緩めてもらえず出ていけない。
「……もうおやめください。これ以上、騒ぎを大きくしてはあなたが危ないのでは?」
「ッ!?」
テオドールが周りを見渡すように顔を動かせば、周囲にはなにごとかと見物人が集まってきている。使用人の若い男が『ここは引いた方がいいかと』と耳元で伝えれば、悔しそうに持っていた扇子を自らの手に強く叩いた。
「ふっ、まぁいいわ。今日はここまでにしてあげる」
ふんっと荒い鼻息を吐いてから、寄せていた眉を戻して笑みを浮かべる。
「また会いに来るわ。お前はわたくしのものですからね」
(なんですって!? 二度と会いに来るな!!)
少しだけ開いた白のローブの隙間から女性を睨めば、その視線がツーツェイに向いて忌々しそうに見つめる。けれどなにかに気がついたように、僅かに開かれた瞳。
(なに……あっ!)
疑問に思っていると、すぐにテオドールに隙間を閉じられて視界が暗くなり女性の姿が見えなくなった。
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