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しおりを挟む「ふふ、可愛い。口が尖ってる」
「ッ!!」
だけどその抵抗もあっさりと崩れ落ちてしまうもんだからたまったものじゃない。可愛いと言われて緩む口を必死に抑えて、むにむにしつつ頑張って尖らせる。
そんなツーツェイに笑いながら、けれど申し訳なさそうにテオドールが口を開いた。
「ツェイ、お詫びにっていったらあれだけど……今度、お昼休憩にお出かけしようか?」
(テオドール様とお出かけ!!)
ぱぁっと顔を綻ばせてしまったのに、またテオドールが笑う。もはや口はにっこにこに笑ってしまってる。
聞けば、会議が早く終わる日があるらしい。そのあとの昼休憩の時間は少し長めにとれるらしい。
高位白魔術師であるテオドールはいつも忙しかった。だからか休みもなく彼と出かける機会はなかった。
『どこに行きますか?』
『パン屋さんに行きたいです!』
『可愛いお店ありました! 気になります!』
『美味しいご飯屋さんをこの間見つけました!』
そんなテオドールと出かけられるという高揚感に、高速でレバーを横にスライドして消して書いてを繰り返す。
その姿にまたテオドールが可笑しそうに笑うものだから、はっと意識を取り戻したツーツェイの頬が赤らむ。
(は、はしゃぎすぎてしまった!! 恥ずかしい!)
慌ててボードを置いて赤らむ顔を手で隠す。するとテオドールがそのボードのペンをとってなにかを書いている。ツーツェイがなんだろうと手を離して覗き込めば……。
『ツェイがいるならどこでもいいよ』
綺麗な文字で書かれた一文。
顔を上げれば、テオドールが少し頬を赤らめて柔らかく微笑む。
どくどくと全身に熱い血液が流れるように音を立てて騒がしい。
(あぁ、残酷な人……)
そうツーツェイは思う。
この男は美しい薔薇のようだ。触れてほしそうに美しく花を咲かせるのに、触れれば鋭く甘い棘が柔らかな肌に刺さる。
「ツェイ?」
不思議そうに首を傾げたテオドールにツーツェイは笑顔を浮かべる。
『私もテオドール様がいればどこでも』
その下にそう書き記せば、またテオドールの頬が薔薇のように赤く染まった。
◇◇◇
「や、やっぱりあの女、婚約者だったの…」
「うそでしょう……私たちの最後の希望が……」
魔術省の裏庭のベンチ。ちょこんと座るツーツェイに女性魔術師たちが苦々しい目で睨んで横切っていく。その視線も気にもとめず、ツーツェイの顔は満面の笑顔だった。
この間は門前払いだった門番も『どうぞ、ツーツェイ様』と今回は申し訳なさそうな笑顔を浮かべつつ、中に入れてくれた。
(ふふん、私はテオドール様の婚約者だもの!)
女性魔術師たちを牽制するように胸を張れば『むかつく!』『馬鹿女!』と誰もが捨て台詞を吐きながら離れていった。ポジティブ思考のツーツェイにはそんな悪口はあまり効果はない。
(ふふん! むかつくのは仕方ないわ、私は婚約者だもの!)
またにこにこと笑顔を浮かべてしまう。
「ごめんね、遅くなった」
(うっ、眩しい!!)
笑っていると遠くから走ってくるテオドールに目がチカチカする。銀色の髪が靡いて太陽の日差しで輝いてる。この間からテオドールの周りがキラキラと輝いてるのはなぜだろうと少しだけ首を傾けた。
「ん? なにかあった?」
『大丈夫です、なんにもありません』
「そっか、じゃあ行こう」
すっと差し出される手。意味がわからずツーツェイがその手をじっと見つめてしまえばテオドールが恥ずかしそうに目線を逸らす。
「はぐれたら危ないでしょ」
そう小さく呟いて、大きな手がツーツェイの手を包む。
(そっか、はぐれたらたしかに危ないものね!)
そう簡単にまた結論付けて、その手をぎゅっと強く握ればテオドールの手が微かに震えた。なんでだろうと顔をあげると、複雑そうに眉を少し曲げたので不思議に思う。
「はぁ……まぁいっか」
目を丸くして見つめるツーツェイに息を吐いたあと、曲げられた眉が戻っていつもの笑顔に変わる。『行こう』と笑いかけるテオドールにツーツェイも笑顔を返した。
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