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26 ルイside②
しおりを挟む「だが憎しみからはなにも生まれない。過去は過去だろう」
「あ……」
「昔はそれがわからず苦労したが……いまはわかる」
揺れていた瞳が大きく開かれる。その瞳を無視して少しだけ解けた指先を眺める。
「お前にも受け入れてくれる人ができたと思ったんだがな」
その指先から視線を逸らしてからベンチに残されたプレートに視線を移す。『ごめんなさい』と書かれたページが開いている。
「……あれは訳ありだろう」
「っ……」
「強い力を持ったお前がわからないわけがない。それにセオドア侯爵が受け入れたのもなにかある」
門の前で立ち尽くして頭を下げていた少女。その少女の違和感をルイは一瞬で感じ取った。あの小さな身体から発せられる強くおぞましい力。
「テオドール、お前も気がついているんだろう」
「それは……」
「あれをどうするつもりだ」
「どうするもなにも……」
「……ふっ、まさかあれに情が湧いたか」
「ッ!」
蔑むように笑ったルイを強く睨みつけるテオドール。
「それともなんだ、あれが祖国の誇りだから捨てられないか」
睨みつけていた瞳が驚くようにまた大きく開かれる。その瞳に口の端をあげて笑う。
「どうするかはお前の自由だが、あれを殺すときは手伝うぞ」
――――バリッ!!
その瞬間、地面から伸びる鋭く先端が尖る透明の壁。それをルイが瞬時に避けて、魔唱を唱え雷の剣をつき刺せば割れることがなく突き刺さった。突き刺さった剣を強く弾き返され、またすぐに避けるが頬が切れて赤い血が流れる。
(避けきれなかったか。久しぶりに自分の血を見たな)
恐ろしいほど冷たい目をして睨みつけてくるテオドールに『やはりこいつとだけはやり合いたくない』と改めて感じる。
「テオドール、俺を殺す気か」
「そう仕向けたのはルイじゃないか」
「俺とお前が死ぬのは帝国にとって痛手しかない。やめろ」
何個も地面に描かれていく魔術陣。その魔術陣から同じように鋭い壁がルイを突き刺そうと上空に伸びる。
(はぁ、普段怒らないやつが怒ると面倒だ)
だから他人の恋路には立ち入りたくないのだと、テオドールが出す魔術を避けて剣を突き刺し壁を壊しながらため息をつく。
その騒ぎに魔術師たちがなにごとかと群がってきた。遠くの方で上官が『お前たちなにをしている!?』と顔を真っ赤にさせて怒り狂っている。
それを見て、雷の剣を消せば透明の壁も音を立てて崩れ落ち光の粒となって消えていった。
光の粒の中で睨みつけてくるテオドールに、またゆっくりと口を開く。
「そこまで怒れる感情があるのなら答えはわかっているだろう」
「ッ! なにを……」
「なにもできやしないのならお前の優しさは酷だ。捨てろ」
またはっと瞳を開いだが、なにも言い返せないのか口を噤んで強く握りこんだ拳を震わせている。それは魔唱も魔術陣も出さないのを示している。おそらくわざと煽ったことをわかったのだろう。もう攻撃することはないなとテオドールに背中を向けた。
(ここまで煽ったのだから少しはわかるか……いや、だがテオドールのことだ)
すんなり行くとは限らない。
外面はいいが、内面はなかなかに拗らせているのもルイはわかっていた。
「あの少女次第だな……」
ふっと笑えば、目の前にいた上官の顔がみるみると赤みを増していく。『お前はなにを楽しそうにしている!? また始末書を書いてもらうからな!』と上官がさらに怒り狂った。
ひと睨みすれば顔を青ざめさせたが高位黒魔術師の上官であるということから、さすがに折れられなかったのか大量の始末書用の空白の紙がルイの高位黒魔術師室に置かれた。
テオドールの方には始末書が置かれていないのは日頃の行いのせいなのかと不服に思う。
(だから他人の恋路はめんどくさい)
そう苛立ちながらその始末書を手に取り、ペンを走らせたのだった。
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