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25 ルイside①

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「どうしよう……ツェイに嫌われたかもしれない」
「はぁ、どうしてそうなった」

 ルイは裏庭に二人を飛ばしたあと、その二人がどうなったかなど気になりもしなかった。だが、裏庭に通じる外の回廊をたまたま歩いていればベンチで項垂れるテオドールに気がついた。
 顔色がかなり悪いものだったので、さすがになにかあったのかと思い、近寄れば『ツェイに嫌われた……』と呟いている。どうやら体調以外の問題もあるようだった。

(他人の恋路はめんどくさい)

 関わりたくないとテオドールの前をなにごともなかったかのように通り過ぎようとすれば腕を強く掴まれた。『離せ』とルイが拒否をしたが……。

『ここまで事を大きくした君には責任はないのか』

 そう珍しく恐ろしい笑顔を浮かべたテオドールに渋々、隣に腰掛けることになった。たしかにあのあとから女性魔術師たちの悲痛な泣き声と嗚咽が魔術省に響き渡っている。

 婚約者ということをあの場で言ったことは間違いだったことは確かかもしれないと思う。その後悔は女性魔術師たちやテオドールへの謝罪の念からではなく……。

(うるさくて仕事にならない)

 単純にその理由だった。とりあえず早々にこの男の悩みを聞くだけ聞いて仕事に戻ろうと息を吐く。

「なにがあった」

(今回は聞いてほしそうだから大丈夫だろう)

 他人の心の中にまで入るつもりはない。前にテオドールが女性に触れられただけで顔を青くさせたときも、その理由に触れてほしくなさそうなことがすぐにわかった。

「……僕は弱い」
「あぁ……」

 テオドールはこの帝国内の高位白魔術師の中で一番の実力者だった。戦場でもこの男がいなければかなり危なかったことが多々ある。その男が自らを弱いと罵るのは、内面的なところのことを言ってるのだろう。

 それに……。

「国は内密にしているが、隣国のリンドワールから視察の貴族が来ている。そのことに関連しているのか」
「ッ……」

(聞いてほしいなら、この際すべて聞いてやる)

「先王では恐怖政治だったらしいが、いまの国王に変わってからは内部も良くなっているらしい」
「そうだね……」
「それを鑑みたうえでの皇帝陛下の判断だろう。交流を再開する糸口を探しているのかもしれない」

 その事実は先程知ったことだった。高位魔術師たちにも内密にされていたこと。
 二十年前の隣国リンドワールとの大戦。いまは協和条約を結び終戦しているが、いまだに互いの国境では小さな争いはたえない。人の憎しみというのは簡単に消えるものではない。

(だからこそ交流も慎重に始めていきたいという考えから、ごく一部にしか知らされていないのだろうな)

 また面倒事が増えそうだとルイが息を吐けば、テオドールの肩がビクリと震える。

「どうした?」
「いや……」

 言葉を濁しつつ、指先を絡める。長い付き合いから、この男がなにかを考えているときの癖のようなものだと知っていた。

「ルイは憎んでる?」
「は?」

 辛く苦しそうに発せられた言葉。この癖のあとに発せられるのは本当に聞きたいことや伝えたいことだというのも知っている。

(憎んでいるか、か……)

 大戦時、敵国であったリンドワールの兵士に両親を殺された経験のことを言ってるんだろう。テオドールはこの過去について、いままで触れたことはなかった。ルイの『触れてほしくない』部分であることを分かっていたからだと思う。

 それを初めて触れた。自身も触れてほしくないことがある上で聞いてきたこと。それをはぐらかすことは無駄なことだと、ゆっくりと口を開いた。

「憎んでいないと言ったら嘘になるな」

 その回答にまた身体が震えて瞳が揺れる。その表情からは深い絶望を感じる。

(まったく、こいつも大概に早とちりなやつだな)

  そんなテオドールにはぁとまたため息をついて、言葉を付け加える。

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