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しおりを挟む「ちゃんと持っててよね、落としたら殴るから」
休日、街に出かけたミーシャとその母親であるシュナウザー伯爵夫人が購入した大量の服の箱を持たされる。いつものごとく重い荷物を抱えて震える手をツーツェイは堪えながら笑顔で頷いた。
「お母様っ、次はあの宝石店を見ましょう!!」
「ふふ、ミーシャ焦らなくてもたくさん買ってあげるわぁ」
フリフリなドレスを身に纏っているせいか、少し狭めの道が二人でほぼ埋められている。そこにいる平民たちが無言で道を開けるのは、その豪華な格好からシュナウザー伯爵家の者であると分かっているのだろう。
(さすがどこまでも平民を蔑ろにしてお金を使いまくるシュナウザー伯爵家の方々! その傲慢なお姿、惚れ惚れします!)
心の中でその貫き通された悪さに拍手を送る。
「早く行きましょ! 楽しみ……きゃっ!?」
――――ドンッ!!
そのときミーシャの身体にぶつかる人。ミーシャが周りを見ずに母親を見ながら宝石店に向かおうと走り出したため、向かいにいた老夫婦に気づかずにぶつかってしまったようだ。老夫婦のご婦人の方がよろめいて地面に腰をついている。
「セリニア! 大丈夫かい?」
「……ええ、大丈夫よ。ごめんなさい」
一般の身なりをしていることから平民なのだろうか。そんな老夫婦にミーシャが震えている。
(あ……これは少しまずいかも……)
ツーツェイがそう思ったときには遅かった。
「ちょっとあんたたち! わたくしにぶつかっておいてなんにも謝罪はないわけ!?」
怒りに震えたミーシャが老夫婦の前で仁王立ちする。その鬼のような形相に老夫婦たちが驚いて目を丸くしている。
「申し訳ない。前を見てなかったようで……」
「はぁ!? そんな謝罪で許すわけないでしょう!」
(うーん。前を見てなかったのはお嬢様の方では?)
そう冷静に頭の中で思うけれど、怒りの頂点に達してしまったミーシャになにを言っても聞く耳を持たないことだけはわかっている。
「たかが平民がわたくしの娘になんて失礼なの!? 地面に頭をつけて謝りなさい!!」
もちろん母親であるシュナウザー伯爵夫人も同じ。ここでも周りにいる人々が『またか』と慣れたように目線を逸らして離れていく。へたに助けてしまっては自分がさらに酷い目にあうからだ。
老夫婦が困ったような表情を浮かべている。それにご婦人の方は足を擦りむいてしまったようで膝から血を流している。確実にこちらが悪いのに弱者である老人たちに頭を下げさせようとしているというあまりに惨い光景だ。
(仕方ないわね……)
ツーツェイは息を吐いてから、すっと老夫婦の前に出る。ミーシャとシュナウザー伯爵夫人に跪いて、メモ帳を取り出しペンを走らせた。
『どうかお許しください』
そう頭上でメモ帳を掲げながら砂利の地面に額をつける。その姿に二人が怒鳴っていたのをやめたあと、少ししてからクスクスと可笑しそうに笑う。
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