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しおりを挟む――――バサバサッ!!
「これ洗っておいてくれる? とびっきりに綺麗にしておいてよね」
橙色の髪の毛の少女が床を濡れた雑巾で拭いていれば、頭の上から落とされる大量のドレス。周りにいた他の使用人たちが『またか』といった表情を浮かべたが、助けることはなく目線だけを逸らしている。
ドレスを頭に被りながら少女がゆっくりと顔をあげると、太い縦巻きロールの髪に、真っ赤な口紅を塗った女の子が口をにやつかせながら笑っている。
幼い顔立ちに似合わない髪型に厚化粧。そんな女の子に口元が緩んでしまわないように少女はきゅっと力を込めた。
本来であれば、すぐに返事をして頭を下げるところだったが、その少女は薄汚いメイド服のポケットから分厚い皺のよったメモ帳を取り出して挟んであったペンを動かす。
書き終わってから、すっとその女の子に差し出して……。
『わかりました。お嬢様』
そう書かれたメモ帳を手に持ち深々と頭を下げた。
◇◇◇
――――バシャバシャ……。
(むむっ、なかなかにこの汚れはしぶとい!)
屋敷の外にある洗濯場。そこで先程のドレスを洗剤が入った水につけて洗う。
――――バシャバシャ……。
(むむむっ、これはもしや墨では? お嬢様はお昼にイカ墨パスタでも食べたのかしら?)
なかなか落ちない汚れを不思議に思いつつ首を傾げた。
本当はさきほどの女の子が嫌がらせのために、わざと黒インクをドレスに零しただけだった。
(燃えるわ。こんなにも落ちない汚れは初めてよ。使用人生活十六年目の私、ツーツェイにできないことはないわ! 絶対に落としてみせる!)
けれど、このツーツェイという少女にとっては対抗心を掻き立てられる最高の汚れだった。
声は出さず、不敵に笑みを浮かべたツーツェイに周りの使用人たちが『きっと腹を立てているのだろう』と同情の目をする。しかし、誰も手は差し伸べず離れていった。
(ふぅっ! ピッカピカね!!)
数時間後、あらゆる手をつかって新品同様に綺麗になったドレス。そんなドレスをお天道様の下の物干し竿に掲げたツーツェイは満面の笑みで見上げる。
メモ帳を出してカリカリと文字を書いて、書き終えたそれを近くで同じように洗濯物を干していた使用人に差し出した。
『乾いたらアイロン掛け担当にお渡しください』
使用人は少し驚いた顔をしつつ、そう書かれたメモ帳を読んでから頷いた。
「あの子、ほんとに喋らないんですね」
「ええ。理由はわからないけど昔からよ」
「うわぁ、不気味ですね……」
後ろで使用人たちにヒソヒソと話されている。聞きなれた自らへの噂話。だけれどツーツェイはもはやなにも感じなかった。
(あの子は新人か。お嬢様のターゲットにならないといいけど。あっ、でもお嬢様の永久ターゲットは私だから大丈夫か!)
『てへっ!』と心の中で突っ込みを入れる。自らへの突っ込みに普通の人であれば赤面してしまうことだったが、長年誰とも軽快な会話のキャチボールをしたことがなかったツーツェイにとっては恥ずかしさは欠片もなかった。
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